第３１３話 ９３カ国目 マラウィ 「ニイカ国立公園で年越し・・・。」  ビール片手にニイカ国立公園で年越し。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜マラウィ １９９７／１ マラウィ出国までの走行距離 約８３６３８ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
マラウィ走行 １９９６／１２／〜１９９７／１／１３ 走行距離 約１０４２ｋｍ  |
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翌朝１２月２６日、目を覚ますとマラウィ湖の東の方角から日が昇る所だった。気持ちの良い朝だ。昨夜もとても美しい月明かりだった。やはり自然に囲まれて過ごす毎日は気持ちがいい。 マラウイ湖畔沿いは、湖の方からやってくる涼しい夜風のお陰で、日中とは比べられないくらい寝心地も良かった。西アフリカのあの焼け石のような赤土の上での野宿を思い浮かべると、ここマラウィは天国にも思えてくる。
マラウィ マラウィ湖畔で美しい夜明けを見た。  卵焼きを作り、パン、コーヒーなどを腹に入れて７時に走り始める。出発からわずか８ｋｍ走ると、リビングストニアと言う村までの長い上り坂が始まり、ここからはダート道にと変わる。この道が悪路で急勾配。パワフルなグウィドでさえも時々自転車を降りて押すほどだった。これには二人共閉口。日陰で自転車を止めてはマンゴーやビスケットを食べ、休憩を挟みながら、写真を撮りながら走った。
マラウィ とにかくダートの急勾配。 
マラウィ ハードなダートを走る剥げ頭のグウィド。  辛い上りだが、眼下には真っ青なマラウィ湖の眺望が広がっていた。湖岸線が北側に気持ち良く長く延びている。 「いやーすごいなー。」 時々二人で立ち止まっては写真を撮り、そしてまた坂を上った。
マラウィ うっすらと向こうにマラウィ湖が見えている。  目的のリビングストニア近辺にやってきたのは上り始めてから４時間後。村人が、 「近くにきれいな滝があるぞ。」 そう教えてくれたので、道路脇から少し入りその滝を見に行った。
マラウィ 緑の森から流れ落ちる滝があった。 
マラウィ 長い峠を上って涼しい気候になった。 
マラウィ 手の平を太陽に・・・向ける私。  我々がやって来たリビングストニアは、あの有名なイギリスの宣教師＆探険家、リビングストンがやって来た村。標高が高く、マラリアを避けるためにここに滞在したと言われている。村の名の由来も彼の名前からきているそうだ。 マラウィから急坂を４時間も上ったので、我々はすでに標高２０００ｍまで上って来ていた。涼しい快適な気温に澄んだ空気、高原の香りを満喫できる素晴らしい土地だ。木々の緑、サラサラと風に揺れるユーカリの葉。思わずゆっくりしたくなるような所で、リビングストンが蚊を避けここまでやって来て、ゆっくり過ごした理由が本当によく分かるような気がした。 急坂ダートを１７ｋｍも走ったので、我々は「今日はここで走行打ち切り」ということに決めた。結局この日は午後の２時までの走行だった。村ではツーリストの間でも有名な、ストーニハウスという宿に投宿することにした。
マラウィ リビングストニアの村では、ストーニハウスという宿に投宿した。  遅い昼食を済ませると、グウィドはバテたのか、そのままベッドにダウン。私は静かな村を少し歩いた。宿ではオランダ人やニュージーランドの旅行者がいて、旅の話に花が咲いた。 翌日１２月２７日。気持ちの良い、まるで山小屋のような雰囲気のストーニハウス。各国の旅行者にさよならを言って、我々は８時に出発した。田舎のせいか、道沿いに行き先の標識もないので、村人に、 「ルンピの村はあっち？」 などとメインルートを聞きながら走って行った。
マラウィ 途中の小さな商店で休んでいく。 
マラウィ 木陰で体を休める自転車野郎たち・・・の図。  昨日ゆっくりと体を休めたせいか、グウィドはいつになく速く、あっという間に私の遥か前方に進んで行ってしまった。こんな悪路では彼の乗っているマウンテンバイクが威力を発揮する。 途中に木陰を見つけてはクッキーを食べ、マンゴーにかじりついた。休憩を取りながらコンスタントに距離を稼いでいく。 「アズングー！バイバイ。」（白人、バイバイのような意。） 道路脇からは子供たちがそれは楽しそうに手を振ってくれている。 急勾配の坂道を私はヒーヒーと言いながら走り続け、午後５時前にルンピと言う村に入り、そこから舗装路に変わった。とりあえずこのルンピの町の宿に１泊する事にする。 私自身行く予定ではなかったニイカ国立公園へ、グウィドの希望で行く事になり、公園内のキャンプ場でニューイヤーを迎えようということになった。ニイカ国立公園に何があるのかは分からない。グウィドは動物を期待しているらしい。いそうな雰囲気ではないのだが・・・。宿を決めた我々は翌日の準備に取り掛かった。３、４泊の予定で再びこのルンピに戻ってくるので、荷物をかなり減らす事ができる。 「フフフ・・・。これでグウィドを巻き返してやろう。」 と私は張り切って準備をした。 翌日１２月２８日。朝８時頃、グウィドが朝食の材料の買い出しに行って帰ってきていた。宿の外の道路沿いにベンチを持ち出して、日に当たりながらヨーグルトやパンなどを食べる。そしてニイカ国立公園に向け最後の買出しをした。自転車野郎二人、４日分の食糧なので結構の量になってしまった。マラウィの大きな町には、たいがいPTC（ピープルツーリストセンター）と呼ばれる便利で品数も豊富なスーパーがある。なぜこんなへんてこりんな名前なのかは知らないが、我々にとってこのＰＴＣは重宝。とても貴重な、便利な存在だった。 買い出しも終え、いよいよニイカ国立公園へ出発。グウィドは、 「たくさんの動物が見れるぞ。」 と浮かれている。 最初は平坦路が続いた。しかしボコボコ道で、更に奥地に進んでいくと勾配が増し、結構厳しい走りとなった。途中の小さな集落の店に寄り、冷えていないコカコーラなどを飲んでは休憩し、また走る。
マラウィ 途中の小さな集落で休憩しながら走った。 
マラウィ 木陰で休むグウィドと子供たち。  黙々とひたすら走り続け、まともな昼を食べたのは午後の３時過ぎだった。このとき食べたのは、イギリスでよく食べていた懐かしいハインツのビーンズ缶詰。 昼を食べて再びダートを走り始めると、グウィドのアルミキャリアを留めている部分のネジが破損。 「あーあ。」 と私は言ったが、どうってことはない。彼はちゃんと予備を持っていた。これで素早く修復させてしまった。その後もしんどい上りは長々続いた。 小さな集落をいくつか越え、やっとニイカ国立公園のゲートに到着。ここには入場料を徴収するオフィスがあった。ここにいた女性にお願いして、ゲート横でキャンプさせてもらう事にした。
マラウィ 国立公園横のゲート周辺は、まるでキャンプ場のようだった。  近くに商店があり、料理長の私が自炊を始めると、グウィドはビールを買ってきてくれた。一杯飲みながら夕食の仕度。 「ここからたくさん動物が見れるのか？」 国立公園らしいが、私には動物がいる！というような野性の感は働かなかった。
マラウィ ゲート近くでキャンプした我々。  翌朝１２月２９日。パンに蜂蜜を付け、卵焼きを食べて出発。公園内にあるチェリンダキャンプ場までは１本道。同じ道を再び戻って来なければならない、と言うのは余りいい気持ちではないが、今回はグウィドと楽しく走ろうと思っていた。 「帰り道は下りだし。まあまあ、グウィドと走ろう。」 そのグウィドは、 「縞馬をたくさん見るんだ。」 と張り切っている。 公園内に入ると、すぐに急勾配のアップダウン。目的地のチェリンダキャンプ場へ向け、じわり、じわりと上り坂が続いた。ニイカ国立公園に入ったと言うのに、これといって変化も無ければ動物たちの姿も見当たらない。標高は１６００ｍから２０００ｍへとどんどん上がっていく。 「退屈そうだなあ。動物も出やしない。こんな道が延々と続くのか。何でこんな所が国立公園なんだ？」 私はそんな事を思いながらペダルを踏んでいた。私は荷物を減らしたので、グウィドに追い付いて速く走れる、と思っていたが、グウィドは相変わらず速い。余裕で追い付けるだろうと思っていたが、実は彼も大量に荷物を減らしていた。 「ちっくしょう。私はのろまの亀のままか・・・。」 つい競争心を燃やしてしまうのだった。 何ｋｍ走っただろうか。ある程度の所まで標高が上がると、周囲の景色が一転した。 「ひゃ〜こりゃいいなあ〜。」 それはまるで、北欧のノルウェーかスコットランドのよう。広大な緑の庭園が目の前に現われた感じだった。緑の草の絨毯、そこに点在する灰色の岩石。それが一面にあるではないか。
マラウィ 北欧、スコットランドで見たような景色が広がっていた。 
マラウィ ふと目にとまった小さな可愛い花？こんな植物見たことない。  怪しい雲が近付き、小雨が降ってきた。しかし再び晴れたので、景色の良さそうな所でパスタを自炊する。標高が高く、気温が低いので、つい大食いになってしまうのであった。同じマラウィ国内だが、湖畔とはまったく違う風景だった。
マラウィ 美しい高原で休憩。こういう所にくるといつも、「どうして相手がこんなハゲ頭のスイス野郎なのか・・・」と思ってしまう。 
マラウィ 標高が上がり、次第に変わっていく風景がきれいだった。  周囲の風景は刻々と変化し、今まであった木々はほとんど目にしなくなった。その代わりにシダ科の植物が大半となった。これが辺り一面に敷き詰められた光景は、まさに緑の絨毯が敷き詰められたようだった。
マラウィ 辺り一面緑の絨毯を敷き詰めたようだった。  私は、まさかこんな素晴らしい風景に巡り会えるとはこれっぽちも想像していなかったので、感動してしまった。ところが一方のグウィドは動物を一匹も見れないので、的が外れたと言った顔をしている。彼は本当に野性動物たちに期待していたようだった。 ニイカ国立公園は標高２０００ｍ一帯に広がっている。風景的には「アフリカ」というよりは「北欧」にいる感じがする。国立公園に指定された理由にも頷ける。 チェリンダという小さな集落にはキャンプ場があり、我々はそこに滞在することにした。松林を抜け、あと数ｋｍでキャンプ場に着くという所で大雨に降られ、びしょ濡れ。それでもやっとチェリンダキャンプ場に着いた。ここで年越しをすることになる。 「びしょ濡れで動物も見れなかったけど、まあ、とにかく美しい所にやって来たんだ。」 最初は気がすすまなかった私も、来てよかったと胸を撫で下ろした。逆にグウィドはちょっとふさぎ気味だった。 チェリンダには国立公園で働く人のための集落があり、そこには一軒の店があって、一通り食糧は手に入った。ビールが売られていたので私は大喜び。 ずぶ濡れのまま見晴らしの良い所にテントを設営し、着替えた後に自炊を始める。飯を炊いてしょうゆ味の野菜炒めとご飯にビール。ニイカ国立公園到着を二人して祝った。 ちょっとしたハイキングや、乗馬、それにマス釣りなどを楽しめると言うこの近辺。我々が滞在中に、イギリスの若い連中や、家族連れが来て楽しんでいた。 朝６時起床。外はもう明るい。昨日の雨の中の暗い風景とは違い、キャンプ場から眺める目の前の光景に息を呑んだ。広大な緑の絨毯がどこまでも伸び、本当に美しくて心が和む。イギリスの家族連れがこんな辺鄙な所に来るというのも納得が行く。新婚旅行でハワイに行くのもいいが、東アフリカの高原で、静かにロマンチックに過ごすと言うのも結構いいものかもしれない。そんな事を考えてしまうのだった。
マラウィ キャンプ場の目の前には広大な緑の絨毯が敷き詰められていた。 
マラウィ なんと気持ちが良い朝だろうか。 
マラウィ 撮る前に帽子をかぶってもらうべきだったか。 
マラウィ キャンプ場の様子。場所が確保できなかったので、ここで朝食。 
マラウィ びしょ濡れの洗濯物を乾かす自転車野郎の図。  卵焼きなどを作って朝食とした後、英国人ファミリーのいた木陰にテントを移動する。これでやっとテーブルと椅子を確保。キャンプにはやはり椅子と机が欲しい。キャンプ場は晴れたり曇ったり、小雨が降ったりで本当にあのノルウェーのよう。グウィドは憂鬱な様子。この日１日はのんびりと過ごした。 翌日は９６年の最後、１２月３１日。朝食を食べるとグウィドは公園周囲をちょっと歩いて回ると言った。私は自転車で一人出掛けることにし、３時間ほどかけトレッキングのコースを走った。 緑の絨毯は一面芝生のようだが、良く見ると３、４０ｃｍのシダのような植物が生えていた。とにかく３６０度が緑なので、私はしばし立ち止まっては、 「ふー」 っと、ぐるり見回しては写真を撮ったりした。
マラウィ まるでスコットランド・・・。 
マラウィ どこまでも続いていた緑。 
マラウィ 美しい緑の絨毯。シダ科の植物が一面にあった。 
マラウィ チェリンダ周囲を散策。 
マラウィ チェリンダ周囲を散策。 
マラウィ チェリンダ周囲を散策。 
マラウィ 近くで見るとまた違って見えてくる。 
マラウィ 広い緑の高原で。  散策を終えてキャンプ場に戻り、自炊の準備を開始。昨年は確かポルトガルのキャンプ場にいた。今年は東アフリカのマラウィ。 「いったい来年はどこだろうか。もう日本に帰国しているだろうか。」 ９６年は辛くもあり楽しくもあった、「アフリカ走行の年」として幕を閉じることになった。 夕刻に買い込んだビールの数は二人で８本。マラウィのビールは１本３００ｃｃくらいなので、実際には一人当たり大瓶ビール２本と言う計算になるだろうか。ビールはあったが、結構冷え込んだので思ったより飲むペースはゆっくりだった。焚き火をして、小さな年越しパーティーを行う。我々が飯を食べていると、レソト出身の青年がルンピから夜遅くにやって来た。彼と３人で飯を分け合い、火を囲んだ。
マラウィ １９９６年の年越しの図。その１ 
マラウィ １９９６年の年越しの図。その２
マラウィ １９９６年の年越しの図。その３ 
マラウィ １９９６年の年越しの図。その４  １９９６年・・・。また年が明けようととしている。 「あと一年少しすれば自分の旅も終わってしまうのか。本当に終わるのか・・・。」 日本も恋しいが、旅が終わってしまうのも寂しいような・・・複雑な心境で年を越したのだった。
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