第３１１話 ９２カ国目 タンザニア 「グウィドとの出会い・・・。」  スイスの自転車野郎グウィドと１ヵ月の間一緒に走る事になった。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜タンザニア １９９６／１２ タンザニア出国までの走行距離 約９２５９６ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
タンザニア走行 １９９６／１１／２９〜１９９６／１２／２２ 走行距離 約１５４８ｋｍ  |
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ここのところの厳しいアップダウンが祟ったのかもしれない。疲れ切っていたので、イリンガの宿ではとにかくよく眠った。蚊が多く、夜中に一度起きたが、モスキートネットを広げると再び寝入ってしまった。夕食もとらずに午後の５時から延々と眠り続けると言う一夜を過ごした。 ゆっくりと睡眠をとったイリンガの町を抜け、南に向け走り始める。ところがちょっとの坂でも、走っていたら珍しく筋肉痛。なぜかパワーのない私。慢性的な旅疲れというものなのかもしれない。 朝から元気がいいのは、中国製の自転車に乗って颯爽と駆けて行く地元の村人たちだった。私の姿を見た男たちは、 「ウォーウォー」 とか、 「ワオー」 と、ちょっとプッツンしている感じでゆっくり走る私を励まして？くれた。彼らの自転車の荷台を見れば、５０リットル以上の水が入るポリタンクを載せている。生活用水を運んでいるのだろうと思った。しかし、この近辺でわざわざ遠くまで水汲みに行くというのもおかしな話だ。標高は１７００メートル。ナイロビ並の標高で雨も多そうだし、水に不自由することはないはず。坂道を上りながら、 「いったいあの中味は何だろう、どうして彼らはあんなにも陽気なんだろう。」 そう不思議に思っていると、走行途中で彼らの運んでいたポリタンクに何か詰めている現場に出くわした。私の姿を見た男たちが、 「こっちに来いよ。」 と言ってくれている。 「よし、顔を出していこう。」 タンクに入れている液体を見ると、白く濁っている。その周囲を蜂が飛んでいたので、水ではないことはわかった。
タンザニア 大きなタンクに何かの液体を入れていた。いったいこれは何だ？  「これ何ですか。」 と聞くと、 「バンブージュースだ。」 と男は言った。イリンガの町では作られておらず、生産中止と言われて飲めなかった噂のバンブー酒だ。アルコールが少し入っているらしい。察するに、今朝方の元気な男たちはこれを飲みながら走っていたのだろう。どうりで皆陽気な訳だ。 「まあ飲め飲め。」 その場で男たちに勧められたので、私も飲んでみることにした。甘みあり酸味ありでこれがなかなかうまい。文字通りジュース感覚。筍から作られるという「バンブージュース」。その名に納得した。 昼はここのところ病み付きとなっているオクラスープを自炊。その後夕方まで走る。 途中の小さな村で今夜の食材にと牛肉を２５０グラム購入した。ここで再び地元の人々に捕まってしまい、バンブージュースを飲まされてしまった。１リットルで４０円位。この量はとても一度では飲み切れないので、ボトルに入れてテイクアウトした。
タンザニア 途中の村で地元の酔っ払いに捕まり一杯飲まされる。ここでバンブージュースをテイクアウト。  西アフリカでは黍酒を飲んだ。キリマンジャロ裾野ではバナナを加工して作った酒を飲んだ。イリンガではバンブージュースを飲もうと思っていたが、飲めなかった。がっかりしていたが、こんな田舎で無事に？飲めた。嬉しい。黍にバナナに筍。それぞれ飲んでみたが、やはり西アフリカの黍酒が一番いいかな、などと思った。 この日は久々にブッシュにテントを張って静かな夜を迎えた。ここで飲むバンブージュースもなかなかの味。そんな私の所に、どこからか地元の子供たちがやって来て、自炊風景を不思議そうに伺っていた。
タンザニア 地元の子供たちは不思議そうに私の様子を伺っていた。  翌日１２月１８日。昨夜やってきた少年のうちの一人が今朝もテントのところに顔を出してくれた。おやじさんと畑仕事へ行く途中らしく、笑顔で手を振ってくれた。 走りだしてしばらくすると、植林したであろう松林が目に入った。以前の暑かった土地とは別世界。道の両端を囲むように松林があり、美しい。松独特のほのかな香りが漂い、日本を思い出してしまう。この近辺の標高は１５００ｍ以上はある。今までの疲れも筋肉痛も忘れさせてくれる気候がここにある。
タンザニア 爽やかな気持ちの良い風景が広がっていた。 
タンザニア アップダウンは多いが、気温が下がってくれたので助かった。 
タンザニア 雲もすぐ手に届きそう・・・。 
タンザニア 高原のような土地をひたすら走った。 
タンザニア 可愛らしい家も見えた。  地図に載っている町は実際に存在せず、結局出発から５０ｋｍ走った地点で昼飯にありつくことができた。小さなレストランでご飯に肉汁ソース、野菜のおひたし、それに串肉。いずれの品もおいしかった。ここで「次の町情報」を少し仕入れ、出発。相変わらずのフレンドリーさはこの近辺も変わらない。子供たちは本当にかわいい。庭先からは、 「ムズングヤー」 と駆け寄ってきたりする。 午後、通り掛かりの小さな村で野菜を購入。そこの人達がまた楽しい。みんな陽気で笑いが絶えない。どうもおかしいと思ったら例のバンブージュース片手だった。 「この野菜は多すぎるから半分にして安く売ってくれないかな。」 そう聞いてみたが、 「このくらいは食べなさい。」 と、結局値切れず、私の負け。愉快な村人と記念写真を撮った。
タンザニア ピンクのシャツのおばさんはバンブージュース片手だった。 
タンザニア 今夜の食材はこの葉っぱ。ちょっと量は多いが。ほうれん草みたいなものらしい。  その後も少し走ってテントを張った。テントにはいつものように地元の少年がやってきた。放牧の仕事が終わり、帰宅がてらの訪問らしかった。
タンザニア 地元の少年がテントに立ち寄ってくれた。仕事の帰りらしい。  １２月１９日。テントを畳んで出発は８時。ここのところ標高の高い所を走っているので涼しくていい。朝も気持ち良く走り始めることができる。 午前中は活気がありゴミゴミした町、マクンバコに立ち寄ってみた。ここで食パン、マーガリンなどを買い、再び走り始める。この日午前１１時頃に、その辺の野原で軽くパンにマーガリンを塗って食べた。少しのスタミナ補給をして、再び走り出す。 どのくらい走っただろうか。後方から、 「ハロー。」 と一人のサイクリストが声を掛けてきた。スイス出身と言う彼の名はグウィド・ハエレール（２８歳）。東アフリカはエリトリアから南アフリカのヨハネスブルグまで自転車で走る予定だと言う。スイスの自転車野郎とは旅行中に何人も出会っており、 「また、スイス自転車野郎だあ。」 などと思いながら、しばらく彼と話をした。彼も典型的な旅好きスイス人。中南米、アジアなどに行った事があると言い、気は合いそうだった。 イガワという小さな村の安食堂に入り、彼と昼飯を食べながら旅談。そして、お互いのこれからのルートを話し合う。マラウィからジンバブエまではだいたい似たようなルート。途中までペアランしようという事で決まった。 イガワの町で水だけもらい、その後は時々会話を交わしながら、夕方まで走り続けた。 「今夜はどこかにテントを張ろう。」 そう言いながら、二人キョロキョロしながらキャンプ地を探していると突然雨が降り出した。私は気持ちよくこのスコールをシャワー代わりにして走っていた。しかし、グウィドはこの雨で後に風邪をひくことになってしまった。 夕刻５時。適当なキャンプ地を見つけたので、それぞれテントを張って自炊を開始した。
タンザニア こんな空き地にグウィドと野宿。  夕食は簡単なスパゲティ。これを一緒に食べる。やはり野宿は一人より二人が楽しい。月明かりをおかずにして、今までの旅の行程などを語り合った。同じような手段で旅をしており、似たもの同士といった感じだった。マラウィ南部までの２４日間、距離にして約１１４７ｋｍをこのグウィドとペアランすることになった。 翌朝１２月２０日。バナナやマンゴーなどで朝食。この朝食はグウィドの手作りで、フルーツをぶつ切りにしたものだった。これを腹に詰め込んで、朝８時に気持ち良く出発した。
タンザニア 野宿した朝。フルーツサラダを腹に入れて出発。  一緒に走り出したのは良かったが、この日も彼のペースが速いのには参ってしまった。トライアスロンもフルマラソンをもこなすグウィド。私の自転車より重量も軽いとあって、すっかり足を引っ張る形になってしまった。グウィドは短期のツーリングなのでアルミニウム製のフレームを使っている。軽やかにグイグイと距離を伸ばすので、必死に走らないと、すぐにその差が開いてしまう。差が開くまいと、私も必死にペダルを踏んだ。 最初の村では腹持ちのよいチャパティを食べた。グウィドはそれに蜂蜜を付け、バナナを挟んで食べる。いかにもスイスらしいデザート風の食べ方。もしこのとき私の手元に納豆があったら、私はチャパティの納豆巻きを作って食べていたのに違いない。食べ終えてから自転車のパンクを修理し、ついでにタイヤも交換して、走り始める事にした。 長いアップヒルも確実にグイグイと走る彼のパワフルな走行にとても付いて行けずに、私はずるずると後方へと遅れていった。グイドはかなり先で、いつも私が到着するのを待っていてくれ、私が追い付くと再び走り出す、そんな走行が多かった。 マラウィ国境にも近いウヨレと言う町に到着した。スイス出身のグウィドならば、まともな高めのホテル泊まりかもしれない、とも思ったが、彼も安宿大歓迎の自転車野郎。 「安いのに泊まろうな。」 と言う事で、いつもと変わらない、「汚なーい、安ーい」の一人２００円の宿に投宿することになった。
タンザニア ウヨレのオンボロの安宿。一人一部屋。それぞれ２００円。  到着してすぐに近くの屋台に二人で出向き、「フライドポテト卵焼き」をむさぼるように食べた。変な料理だが、これはフライドボテトをフライパンに載せ、その中に卵を流し込むと言うへんてこりんな料理。フィッシュ＆チップスではなく、エッグ＆チップスと言った感じの料理。タンザニアの田舎では、こうしたメニューが多かった。 飯を食べると、グウィドは近くの床屋に出掛けて行った。しばらくして帰って来たかと思ったら、彼は剥げ頭になっていた。 「この方がさっぱり。髪を洗わずに済む。気持ちいいぞ。」 価格は日本円で６０円程だと喜んでいた。 晩飯は近くのレストランで肉汁のソースがかかったご飯。食事をしながら明日からのマラウィの予定ルートについて話したりした。グウィドが今まで走ってきたエリトリアやエチオピアなどの体験談もしてくれ、私の行かなかった地域の話の経験談を聞く事ができた。 「・・・って訳で、エチオピアはもう最悪だったんだ。」 翌日１２月２１日。一昨日の雨が祟ったのか、昨夜からグウィドの体調が優れないらしい。 「もう一泊ここでゆっくりしたら治ると思う。」 「それじゃあ、今日は走らずに、ここで休息日としよう。」 旅は道ずれ。私も休息をとった。 物理療法を仕事としている彼は、真面目顔で自分の脈搏数を数え始めると、 「んー。ちょっと多い。いつもは４２だが、４６もある。」 私は旅に出て、脈搏数など測ったことはなかった。自分の脈拍数をきちんと管理するあたりもスイスの自転車野郎ならでは。 午前８時、昨日行ったレストランに再び出向き、朝食を食べる。グウィドは体調が悪いとは思えないほどの食欲で、大きなチャパティを３枚も平らげた。彼も大食いだった・・・。 「これなら明日は大丈夫だろう。」 帰宅して、私は時間があったので洗濯を始めた。するとホテルの男がやって来て、 「あーあー。そうじゃないだろう？そんなんじゃきれいにならないよ。」 そう言って手洗い洗濯の手解きを受けた。 翌日１２月２２日、午前８時。グウィドの体調も復活した様子なので、今日は走行開始。すっかり馴染みとなったレストランへチャパティを食べに行く。マンゴーにバナナなどのフルーツサラダも食べ、元気が出た感じだ。 「さあ、出発しよう。」
タンザニア グウィドの具合も良くなった。今日はマラウィ目指して出発だ。  走り始めると、早速上り坂が始まった。昨日まで体調が悪かったとは思えないくらいグウィドは速く走った。私のペースには合わせず、グイグイと先に行ってしまった。いつものように、私はついていくのに必死。前方で待っていたグウィドが言う。 「少し休もうか？」 気を使ってくれる。しかし、私も意地っ張りなので、 「いやいや、全然オッケー。大丈夫、大丈夫。」 遅れる私に気を使うグウィド。意地を張る私。奇妙な自転車野郎の組み合わせだが、このかけ引きがなかなか面白かった。彼も写真は好きで、一眼レフを持ち歩き、交換レンズも持っており、パチパチやりながらアップダウン走行を続けた。
タンザニア 霧の立ち込める山間部を走った。 
タンザニア 軽快に坂を下っていくグウィドを連写。 
タンザニア 軽快に坂を下っていくグウィドを連写。 
タンザニア シンプルな装備がいかにもスイス人らしい。 軽快に走っていたのは良かった。しかし坂道を下っている途中、グウィドが自分の自転車の前輪のリムの破損に気がついた。 「これは大変だな。」 私が南米ペルー走行の時にやった破損と似ていた。心配だったがまだ重度ではないようなので、何ｋｍかは余裕で走れそうだった。とりあえず少し気遣いながら走行を続行する。
タンザニア グウィドがリムの具合を見ている最中に、地元の子供がやって来た。カメラを向けると、なぜか片足を上げる子が多い。  トゥクユと言う名の村で昼食を食べる。寂れたレストランでご飯とビーンズ（豆）、それにコカコーラを２本。こんな昼食を二人して食べた。 タンザニアとマラウィの国境近辺はアップダウンだらけで、くたくたの走行が続いた。しかしトゥクユ以降はマラウィ湖畔沿いに向け長い下り。 「ようやくアップダウンからも開放されるなあ・・・。」 そう思いながら走っていると、長い下りは終わろうとしていた。そのとき、前方を走っていたグウィドが突然道路脇で自転車を止め、バックをゴソゴソとやり始めた。どうしたのか。パスポートでも探しているのかなと私は思った。 「な、ない…。たぶんウヨレの宿に忘れた…。ウォーターフィルターがない。」 あの宿のドアの真後ろに引っ掛けて、忘れ物がないか部屋を確認したとき、ドアの裏側までは気が回らなかったらしい。 「どっかでバスを停めてもう一度戻るよ。」 「いや、きっと高い、いいフィルターならもうないんじゃないかな？」 そう言うと、 「忘れた場所がはっきりしているから大丈夫だ。」 そう言ってグウィドは今朝出発したウヨレに戻る事になった。ある程度まで下ったとき、偶然、南アフリカから車でやって来たと言う旅行者が彼を拾ってくれる事になり、グウィドはウヨレへ戻ることになった。別れ際に、 「ヨシ、それじゃまた明日な。マラウィの最初の町、カロンガの一番大きいキャンプ場で待っててくれ。」 我々は、明日、再びマラウィのカロンガで再会する事になった。 その後私は一人マラウィ国境へと向かった。９２５７７ｋｍ地点。タンザニアの出国手続きは１分程で終わった。いよいよ９３ケ国目のマラウィ入国。楽しみな国だ。
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