第３１０話　９２カ国目　タンザニア 「恐怖のミクミナショナルパーク・・・。」 ミクミ国立公園に突入。 果たして野生動物たちに出会えるのか。 ▼ アラスカ出発　１９９２／４／１〜タンザニア　１９９６／１２ タンザニア出国までの走行距離　約９２５９６ｋｍ ▼ アフリカ走行　１９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離　約２２１０７ｋｍ ▼ タンザニア走行　１９９６／１１／２９〜１９９６／１２／２２ 走行距離　約１５４８ｋｍ

１２月１３日。近くのショップでミネラルウォーターを買い、路上の店で昼用の野菜などを購入して走り出す。 「今日もまた暑いな・・・。」 酷暑の中を黙々と走ると言うのは、西アフリカとさほど変わらない。西も東もアフリカはやはり大変な走行だ。 　ようやく昼の時間になったので、涼しそうな木陰を見つけ、そこで野菜炒めを作って食べたりした。 ▼ 　タンザニア　走り出すと、今日もまた暑かった。適当な日陰を見つけて野菜炒めを食べたりした。 　昼過ぎも酷暑の中をひたすらペダルし、午後３時にミクミ国立公園と言う、動物のいる公園を通る事になった。看板には「動物危険」とデカデカとあるが、そんなに多くの動物に出会えれば嬉しいと思っていた。私の走るこの国道は国立公園を縦断している。 ▼ 　タンザニア　「この先５０ｋｍは危険。ワイルドアニマル出没注意。」そんなにたくさん出没すれば良いが。 　５０ｋｍ続くとあったこのミクミ国立公園。まさかとは思ったが、意外にも多くの動物たちが次々に姿を現した。自転車に乗って走りながら数々の動物たちを見れるので、ケニアのマサイマラ保護区のサファリツアーよりも感動は大きい。 　公園内に入ると、道沿いからは象や猿の姿が現われた。その後も次々に動物たちは現れ、至近距離で見ることができた。私は時間の事も忘れ、すっかり興奮してパチパチと写真を撮り続けていた。 ▼ 　タンザニア　道沿いにいるのは象と猿だ。 ▼ 　タンザニア　いたる所に象などの姿を見る事ができた。 ▼ 　タンザニア　飛脚号と象。 　象の他に、バッファローの群れもいた。 「あんなのに突っ込まれたらつぶれてしまいそうだ。」 そう思いながらも、ゆっくりとシャッターを押した。 ▼ 　タンザニア　バッファローの姿もあった。 ▼ 　タンザニア　象とバッファロー。 ▼ 　タンザニア　飛脚号とバッファロー。 　しばらく走るとキリンの姿も。野性のキリンはいつも私を不思議そうに見ていた。 ▼ 　タンザニア　キリンの姿が目に入った。 　自転車はエンジン音を出さないせいか、動物たちにも気づかれずに結構近づく事ができた。でも親子連れの象などに出会うと、親が子供を守るためにこちらに突進してくるのではないかと、少し恐ろしくもあった。 ▼ 　タンザニア　のどかそうに夕刻の草原を親子で散歩していた。 ▼ 　タンザニア　あの大きな牙で、こちらに来なければ良いが・・・。 ▼ 　タンザニア　結構な大家族のようだ。 　シマウマが道の前方をパッカパッカと横切る姿も目に入ってきた。 ▼ 　タンザニア　前方にシマウマの姿が・・・。 　調子に乗って写真を撮っていたのはいいが、５時、６時と次第に日は暮れ、知らない間に日没となってしまった。赤道近辺の国々では太陽が垂直に沈むため、日没後は暗くなるのがとても早い。 「あれ、暗くなってきたぞ。大変だ。」 午後の３時に公園内に入ってしまい、ゆっくりと写真などを撮りながら走って来たのは大失敗。嘘か本当か、 「夜にはライオンも出るぞ。」 と地元民からは聞いている。月明かりもない暗い夜道を、私は猛スピードで駆け抜け始めた。 「ガサガサ、ガサガサ・・・」 ブッシュから不気味な音が耳に入る。 「うわー、なんかいるー。」 前方で黒い巨体が動いた。 「象か！」 時々、シマウマらしいのが私の姿に驚いて慌てて茂みに駆け込んで行くのがわかった。 「もしライオンでも出てきたらどうしようか。」 ヒヤヒヤしながら走った。公園を脱出する頃は本当に周囲は真っ暗。生きた心地がしなかった。 　午後８時にようやくミクミ国立公園を抜け、ミクミの集落に到着。村の安宿へ入り、ほっと一安心。ここで屋台飯を食べた。 「あー、本当に怖かった。でもあんなにいっぱい動物を見れて価値ある１日だった。」 走りがいのあるミクミ国立公園のサイクリングだった。 ▼ 　タンザニア　ミクミの村の安宿で１泊過ごした。 　ミクミ国立公園の走行の疲れが少し残ったまま、翌朝８時過ぎに出発した。今日も暑くなりそうで、５リットルのタンクを満たんにしていく。 　ミクミの村を出発すると、いきなり急勾配坂道が出現。朝から汗だくでペダルを踏んだ。 　ひーひー言って走っていると、前方から爺ちゃんが歩いてきた。たくさんの重そうな薪を載せて歩いているが、まるっきりの笑顔。 「ジャンボ！」 爺さんは私にそう言ってくれたが、ジャンボと言うよりも、 「グレイト！」 と爺さんに声を掛けたかった。年とった爺さんも頑張っているので、私も負けじと笑顔で、 「ジャンボー。」 と坂を上りながら言った。しかし私の顔は引きつっていたかもしれない。 　そんな村人と触れ合いながら、坂道を進んでいくと、眼下に昨日走ってきたミクミ国立公園のジャングルのような絶景が広がっていた。標高が上がった分かなり涼しくなり、次第に快適な気候になっていった。民家の軒先にあるマンゴーの実を猿がおいしそうに食べていた。 　田舎の素朴な住まいを見ながら和やかな走行が始まった。しばらく走ってようやく道も下り坂。ところがある程度下ると、再び川沿いに沿って長い長い上り。 「ううー。」 思わず声が漏れてしまう。気温は４０度近い。食欲が今ひとつないので、ビスケットなどを腹に詰めた。 　この日はパンクにも悩まされた。１年以上も使っているタイヤチューブは、暑さのせいか、修理したパッチから空気が漏れ出してしまっていた。 「うううー。」 暑さとパンクでダブルパンチ。所々ですったもんだしながら、ようやくンブユニと言う町に到着。この日も本当にくたくただった。 　いつものように村では屋台飯を食べ、村の人たちとも少し交流をして過ごした。このンブユニの町の全ての生活用水は、ルアハ川から汲み上げられる。その汲み上げの新しいポンプは、スウェーデン政府の援助によって造られているそうだ。北欧の国もこうしたタンザニアの田舎に援助しているのだと改めて知った。その工事に携わっていると言う男が、私にビールをおごってくれた。日本人の何十分の一の所得のタンザニア人に酒をおごってもらうと言うのも気が引けたが・・・。ビール片手に村人とコミュニケーションをとり、暑い１日に無事幕を閉じることができた。 ▼ 　タンザニア　ンブユニで１泊した。 　翌日１２月１５日。地元の人々は、 「次の町イリンガまで１日では無理ではないか。」 と言っていたので、その忠告を聞いて２日掛かりでイリンガを目指す事にした。どうやら途中には強烈な峠があるらしい。 　走り出す前にンブユニの町で朝食を食べていく事にする。薄汚れた、レストランとも小屋ともわからぬ所で不安このうえなしで料理が出てくるのを待っていた。チャパティを３枚頼んだので、ちょっと時間がかかったようだ。ついでにチャイ（ミルクティー）も頼んだ。待った甲斐があり、このときのチャパティは最高。熱々でホクホク。ちょっと焦げ目もついていてパリパリ感もあり、絶品だった。 「それにしても、このチャイもチャパティも真茶色の、あのルアハ川の水から作られたのだろうか。」 つい余計な事を考えてしまう。 　そして、８時過ぎに出発。朝から晴天でくそ暑い。足に力も入らず、のんびりと緩やかな坂を走り続けていた。しばらく走っていると、昨日ビールをおごってくれたおじさんと再会した。 「昨日はどうも。」 握手をする。おじさんも、 「気をつけてな。」 そう言ってくれた。たった一夜酒を飲んだだけの仲だが、おじさんの一言は嬉しかった。 　急勾配を上っていると、今度はドイツ人のバイク野郎。モンバサからやって来たと言い、彼と１０分ほど木陰で立ち話をした。 　草むらで野菜炒めを自炊し、腹を満たして再び走る。曇り空になり、どしゃぶりになり、しばらくするとまた曇り空。天気はコロコロと変わった。急勾配の長い上り坂がまた始まり、一番軽いギアでゆっくりとえっちらおっちら。トラックなどもエンジンブレーキを使って唸りをあげて上っていた。 　午後５時近く、やっと頂上に到着。焼きとうもろこしが一本２０円程で売られていたので２本平らげる。穏やかな涼しい気候の土地に変わり、ぐっと走りやすくなった。 　小さな村々を過ぎ、イルーラに到着。この近辺の子供たちは飛び切り元気がよく、対応にも疲れてしまう。 「うわー、うわー、ムズングー。」 こちらの方に走ってやってきては手を振ってくれる。どこからともなく涌いて出てくる子供たち。 　夕刻、気温もだいぶ下がったところでイルーラの宿に投宿。やっと高地に上がって、これからは暑さに苦しめられる事も少なそうだ。電気の少ない、灯油ランプの灯る賑やかな集落の中で、ご飯や卵焼きなどを食べて床についた。 ▼ 　タンザニア　イルーラの宿に投宿。 　翌朝１２月１６日。ホテル出発は８時。標高が上がったので涼しくて気持ちがいい寝起きだ。 　村で野菜を少々買い込んでいったが、愛想のいいおばちゃんでサービスだよと余分にトマトを付けてくれた。この近辺はトマトの栽培地なのかトマトだらけ。近くにいた青年もトマトを山と持ってきてくれた。タダでいいよと言うが、さすがにたくさんは重たいからと、断ってしまった…。 ▼ 　タンザニア　イルーラの朝の様子。 　 　大きな岩石の山々、そこに広がる畑。子供達も加わり、親子総出の野良仕事。 「おームズングー！」（おー外国人ー） と叫んでいる地元の人々。私も返事をする。 「おー、ジャンボー」。 ▼ 　タンザニア　イリンガを目指し田舎道を走った。 ▼ 　タンザニア　イリンガ手前の道で。 ▼ 　タンザニア　標高も高くなり涼しくなった。 ▼ 　タンザニア　タンザニアの人々の家。 　目的地のイリンガについたのは午後２時頃。銀行で５０ドル両替し、その後町中にある市場などを見て歩いた。が、ここのところ続いた急勾配のせいか、体はくたくた。部屋に戻ってベッドに横になると、すぐにダウンしてしまった。この日は夕飯も食べずに眠ってしまうと言う珍しい夜だった。 ▼ 　タンザニア　イリンガの宿では疲れ果てて食事もとらずに寝てしまった。 ■ 次のストーリー第３１１話へ▼