第３０９話 ９２カ国目 タンザニア 「マサイの男たちと触れ合いながら・・・。」  ちょっと恐そうなマサイ族の兄ちゃんたち・・・。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜タンザニア １９９６／１２ タンザニア出国までの走行距離 約９２５９６ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
タンザニア走行 １９９６／１１／２９〜１９９６／１２／２２ 走行距離 約１５４８ｋｍ  |
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昨日は少し無理をして走ったので、朝は疲れて寝起きも最悪だろう、と思っていた。が、静かなブッシュでテントを張って熟睡したせいか、快適な朝を迎えることができた。お金を払って安宿の蒸し暑いベッドに眠るよりも、テントの方がはるかに熟睡できる。 朝方は雲も多く、涼しい中を走る事ができた。しかしアップダウンは相変わらず。ここのところ平坦な道はあまり見ていないような気がする。 朝一で寄ったムカタと言う集落では、子供の手作りの木製自転車を目にしたので、ちょっと写真を撮らせてもらった。アフリカ走行中は結構こうした手作り自転車を見掛ける。サドルもあれば、クッションも効くように考えて作られている。タイヤもフレームも全部材料は木だ。木でないのはホイールの回りのゴム位か。木製の乗り物と言うのはどこか温かみがある。
タンザニア 手作りの木製自転車？アフリカではこうした乗り物を良く見た。  道中地元のタンザニア人は、２０リットルタンクを三つ、約６０ｋｇを自転車の荷台に載せ走っていた。どこからこの水を汲んで来るのだろうかと、彼らのやって来た方向へ進んでいくと、大きな池があった。雨水が溜まって出来たその水は多少濁っていた。彼らに、 「この水は…」 と聞くと、 「飲み水だよ。」 と、私の目の前ですくって飲んで見せてくれた。
タンザニア 「この水は飲み水だよ」彼らはそう言った。  タンザニアの水事情は場所によって本当に悪いのだろう。日本政府も井戸堀の援助をしていると聞いた事がある。私が泊まるような安宿では、濁った水が当たり前のようにシャワーの水に使われている。宿のシャワーならまだいいが、レストランで出されるコップの水が濁っていたりするのには閉口してしまう。 午前中はまだ良いが、時間が経つに連れ段々と暑くなる。お昼はブウエウエという村でチキンとご飯を食べた。暑い中で食べたこのご飯の味はなかなかおいしかった。食事を出してくれたおばさんは、私が手を洗った汚水を、そのまま食器洗いの水として使っていた。不衛生と言うよりも、ここまでして水を使っているのには脱帽。水の大切さを実感する。 おそらく暑いのだろう、さすがの地元の人々も木陰に座ってボーッとしている人が大半だった。強い日差しの下で、「休まずに働け働け」と言うのは酷な話なのだろう。
タンザニア 緑と青空と白い雲・・・。爽やかな光景に見える。しかし実際は暑い。  やっと着いたのはムサタと言う小さな村。ここでも私は安宿に投宿した。主は、 「体を洗う水はこれ・・・。」 そう言ってくれるが、そのバケツの水はやはり濁っていた。 「これはどこから汲んできたのだろうか・・・もしかしたら何日も放置してある水かな。」 そんな事を考え始めると、体も洗わない方がましかもしれない。そうも思ってしまうのであった。こうなると何のためにホテル入りしたかも分からない。しかしながらも主は本当に面倒見の良さそうな人だった。
タンザニア ムサタの村の安宿に転がり込んだ。ここでも体を洗う水は濁っていた。  翌日１２月６日。相変わらずの暑さだが、今日も出発する。しばらく走るとダルエスサラーム（海岸沿いにある）へ向かうための分岐点、チャリンゼと言う町を通過。ここで地元の畑でとれた大きなオクラを発見し購入。アフリカのオクラは日本のとは違い、大きくて食べごたえがあるのだ。久々においしいオクラが食べられそうだ。 昼飯はチャリンゼのジャンクションの屋台で食べた。ここチャリンゼから首都ダルエスサラームへは一本道。とりあえず首都に行き、マラウィとモザンビークのビザを取得しなければならない。再びこのチャリンゼに戻って来る事になるが、同じ道を２度走りたくはないので、帰路はバスに乗ることを考えていた。 ダルエスサラームへ続く道では地元の人にじーっと見られた。とにかくジロジロ。変な格好をして走っているので、仕方がないと言えば仕方がないのだが、その見方も今までとは少し違うように感じた。プライベートも何もなく、四六時中見られるとなると、こちらも困ってしまう。照れてよいやら何してよいやら。大人も少年もじっと見てくれるので、ちょっと困った。 午後になると気温は更に上がる。ダルエスサラームに向けては多少下っており、気候もジワジワと暑くなっていく感じだった。所々で休憩をとりながら走った。
タンザニア 田舎の小さな店に寄り休憩。コミュニケーションをとる。 
タンザニア 田舎の商店で。  一軒の集落にあった小さな店でジュースを飲んでいると、地元のマサイの男たちがどこか興味ありげに話し掛けてきた。彼らに捕まり３０分程コミュニケーションをとる。放牧をして暮らすと言うマサイの男たちは、西アフリカで見たハウサ族に似ていた。ダルエスサラームから東の土地は放牧に適しているそうで、こうした土地にマサイの人々は多く住んでいるらしい。西側的便利生活のペースに巻き込まれずに、彼ら自身のライフスタイルを大切にして生きている。そんな彼らの姿が魅力的だった。 「あなたの夢は何ですか？」 とマサイの男に聞くと、 「私もあなたのように世界を旅してみたい。」 そう言った。彼らと一緒に記念写真を撮る。
タンザニア 独自の生活文化を大切にするマサイの人々。 
タンザニア 「僕も君のように世界を旅してみたい」そう言った。
タンザニア 彼らと記念撮影をした。  この日気温は何度まで上がったのか。夕刻にはもうバテバテだった。食糧を買い、ブッシュの中にテントを張ってすぐにバタンＱ。横になると、自炊もせずに眠ってしまっていた。次にふと起きたのは夜の10時頃。変な時間帯だったが、明日の体力保持のため自炊をした。 翌日１２月７日。誰もやっては来ないと思ったブッシュだったが、どこからか地元の少年たちがやって来た。元気の良さそうな少年たちと一緒に写真を撮って、午前９時、テントをたたんで出発する。
タンザニア とても元気な明るい地元の少年たちと写真を撮った。 
タンザニア 少年に写真を撮ってもらう。  ダルエスサラームまでの距離は１００ｋｍ以内。しかしこのところ疲れ気味。右肩の調子も悪く、どうも体調が優れない。そう言えば最近は元気に１００ｋｍ以上走ったと言う日は少ないのではないか。 上り下りの続く暑さ地獄の道を走り、昼食は小さな村のレストランに入ろうと思った。集落で地元の人に、 「どこかにレストランは？」 と尋ねると、コンクリート塀に囲まれた一室を指さした。 「あれは小屋でレストランではないだろうなあ。」 と思ったが、中を覗くとなるほど飯屋があった。牛肉＆トマトソースがけのぶっかけご飯だが、なかなか美味い。水分も補給して休憩後、再出発。 ダルエスサラームに遅い時間に着いて暗い中で安宿を探すのも何なので、１０ｋｍ手前のホテルに投宿した。
タンザニア ダルエスサラーム１０ｋｍ手前にて１０ドルのホテルに投宿。 
タンザニア ホテルの部屋に自転車も全部入れる。ここで洗濯をした。  翌日１２月８日、あと少しの距離だと、ダルエスサラームに向かって出発。１０ｋｍ位かと思ったが首都までは２０ｋｍ。きついアップダウンは町へ着く最後の最後まで続いた。これでようやく体を休める事ができる。 次第に人通りも多くなりダルエスサラーム市内にと突入する。ケニア以来だろうか。町には当たり前だが信号機があり、愉快になった。と言うのも日本の信号機に形が似ていたのである。道路の端には自転車用の側道が設けられてあり、驚かされた。自転車側道を利用する地元民の数も多く、ときに三輪自転車なるものも走っていた。
タンザニア ダルエスサラームの市街に入った。 
タンザニア 何だか知らないが、建物から多くのアンテナが突き出ていた。  町の中心へと向かって行くが、建物には今までとは何か違う雰囲気が漂っている。壁や屋根に飾りが多く、年代なども記されていて歴史を感じさせる。どういった造りなのかと、ずっときょろきょろしながら走ってしまった。
タンザニア どこか風変わりだった街並みのダルエスサラーム市内。  この日は日曜日とあって、街中の交通量も少なめだった。シーンと静かで、走るのも楽だ。首都ではインド人経営のサファリインという１０ドルもするホテルに泊まる事にした。高いだけあり、水や電気、トイレなど一通り備わっていて快適そうだ。
タンザニア 首都ではサファリインという１０ドルのホテルに投宿。  現金が少なかったので、キリマンジャロホテルという高級ホテルまで出向き、そこで両替。日曜日で町中はあまり動いていない。この日はたいした雑用もせずゆっくり体を休めた。 翌日９日。月曜日なので朝一番でマラウィビザを取りに出掛けた。町の中心の大きなビルの９階だという。そこに行くと、 「今日はホリデーだ。」 守衛の人が言う。冗談だろうと、こちらもジョークのつもりで、 「独立記念日ですかね？」 などと聞くと、 「そうだ。」 と言う。彼も冗談がうまいなあ、と思いつつガイドをめくったら本当に独立記念日だった。びっくり。海外を走っていると、平日が独立記念日で休日、なんて例はたくさんあった気がする。 マラウィの大使館の住所が本当にここなのかどうか心配だったので、ビルの階段を必死に上った。（エレベーターは壊れている。）９階まで上ったが、それらしきものはない。ちょうどそこに青年がおり、彼に聞くと「ライフハウス」にマラウィ大使館は移ったと言う。 「もしかしたら開いているかも・・・。」 そのライフハウスにも行ってみたが、やはり休み。ホリデーに当たり、何だか１日損してしまった感じだ。しょうがないから宿に帰ってゆっくりした。 ダルエスサラームでの食事はもっぱらトルコ風のレストランに足を運んだ。油っこい料理だが、暑い中を走っていたせいかそれほど苦にはならず、体力を回復させるべくガツガツワシワシと食べ、ここに通い詰めてしまった。 １２月１０日。今日は火曜日。 「まさか、今日もまた『○○記念』の日ではないだろうなあ。」 街は平常通りで活気に満ちていた。 午前８時過ぎにマラウィ大使館に出向く。３ケ月有効のビザが何と４０ドル。これにはぶったまげた。値切る訳にもいかないので、申請。１時間程待つとビザは発給された。タンザニアの次に訪れるこのマラウィは、ツーリストの間でも良い国と有名。私も実に楽しみにしている国の一つだ。 マラウィの大使館内で偶然に、協力隊の人ともう一人の日本人旅行者、田上さんという方に出会った。協力隊の人は、 「タンザニアでも追い剥ぎが出没するから気を付けて。」 と忠告してくれた。地元で活動している彼の話を聞いていると、タンザニアも所によっては治安が悪そう。 マラウィ大使館を後にした私は、速攻でモザンビークの大使館へ向かった。すると今度は３０ドルで、ビザは明日に仕上がると言うので早速お願いした。 午後、ホテルで体を休めていると、田上さんがやって来た。何か情報交換をと言う事で、レセプションの前でジュースを飲みながら何時間か話をした。ケニアの私が行ったツアーよりも、タンザニアのンゴロンゴロ国立公園のサファリの方がいい。高いけど質もそれなりだと勧めてくれた。彼も長い道のりのようで、アジアやインドの話を聞く事ができた。 １２月１１日。出発の準備をしているとオンボロ部屋の古電話のベルが鳴った。 「ダルエスサラームのぼろ宿に電話をしてくれるのはいったい誰だ？」 昨日も会った田上さんだった。何かに期待したのでちょっとがっかり・・・。彼も長旅で日本語にかなり飢えている様子だった。 「ちょっと地図を見せて欲しい。」 そう言うので、私の地図とガイドを渡すと、むさぼるようにじっくり読んだり見たりして、納得している様子だった。
タンザニア 宿の前で田上さんと記念撮影。  11時にチェックアウトをした。荷物を預かってもらい、モザンビークのビザだけ取りに行く。すでに手続きは終わっていたのでほっと一安心。 「さあ、出発だ。」 街中で昼飯を済ませ、走りだす。しかしチャリンゼまでは行きにも走った道なので、途中から西に向かうバスに乗ることにした。手を上げれば簡単に停まると思ったバスはなかなか停まらず。結局３９ｋｍも同じ道を走ってしまった。 「やっぱり車は速いなあ。」 再びチャリンゼに着くと、時間は夕刻だったので、ここの安宿に１泊する。ゴキブリが駆け回る宿だった。
タンザニア チャリンゼのゴキブリが駆け回るゲストハウスに１泊した。  翌朝の朝食は、その辺の屋台でチャイと食パンで済ませた。バターをぬったトーストで、単純な味だがこれがいける。そして８時に走り始めた。西に向け走ったのだが、少し標高も上がっているようで気温も何となく下がり気味。朝方も曇ってくれたので助かった。しかし昼頃からは次第に日の光も強くなり、暑くなっていった。
タンザニア 日陰でほっと一息。アフリカにはこうした未開のジャングルが豊富にある。  地図に載っていない小さな村の屋台で、白飯と煮豆を食べた。少年たちに囲まれ、和やかムードだ。外の気温は暑いが、小屋の中は日陰で風通しも良くリラックスできる。ペプシコーラを頼むと案の定生温いのが出てきた。 覚えたてのスワヒリ語の数字（百の単位をよく使う）のレッスンをしてもらった。とりあえずは挨拶、値段のやりとりだけでも覚えたかった。ケニアも田舎はそうだったが、地元の人に英語が通じない事も多い。いやでもスワヒリ語を話さなければならないのだ。レストランに入って私の使う言葉といえば、 「モジャ、ワリ。」（スワヒリ語で「ご飯一つ」のような意味。） 少しでもこうして現地語を話せると楽しかった。ローカルな人々とコミュニケーションとる時は、仏語も英語もどうもギクシャクする感じで、田舎の村に行けば行くほど、それを強く感じる。せっかくケニア、タンザニアを走るならばスワヒリ語の片言を覚えて損はない。 路上ではマンゴーやパパイヤが売られていた。あまり長い時間日光に当てられていたので、「ホットパパイヤ」や「ホットマンゴー」に変わってしまっている。ホットトマトやバナナなども買った。 しばらく走り、２０００ｍ級のウルグル山脈の裾野にある町、モロゴロに着いた。以前のタンザニアのサバンナとは違い、この町には豊富な水がある様子だった。そのためか人々にも笑顔が多い気がする。
タンザニア モロゴロの街で元気にサッカーをする少年たちの姿を見た。  モロゴロでは３０００タンザニアシリング（約６ドル）と言う、値段の割りにお値打ちの宿に１泊した。もちろん水、シャワー、トイレが付いている。
タンザニア モロゴロの町の宿。約６ドル。  夕食は外食。ポテト２皿に、タンザニアの風変わりなピザを１枚とビール２本。全部で２５４０シリング（約５ドル）。超大食いの夜になってしまったが、食欲旺盛は健康の証拠、私の走行ペースも復活したのかもしれないと喜んだ。 「また明日も気合いを入れて踏んばらねば！」 と宿へ帰った。
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