第３０８話　９２カ国目　タンザニア

「あーキリマンジャロよ・・・。」

ようやくその姿を現したキリマンジャロ・・・。

アラスカ出発　１９９２／４／１～タンザニア　１９９６／１２
タンザニア出国までの走行距離　約９２５９６ｋｍ

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アフリカ走行　１９９６／２／１～１９９７／５／２８
走行距離　約２２１０７ｋｍ

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タンザニア走行　１９９６／１１／２９～１９９６／１２／２２
走行距離　約１５４８ｋｍ

　ケニアの国境でタンザニア通貨を手にし、イミグレーションに進んだ。

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　タンザニア　タンザニアの通貨シリングを手にして。

　タンザニア国境には愛想の良い係官がいた。どこかの国のように賄賂を要求する様子もなければ、バックの中を物色しようと言うこともない。彼は普通に接してくれた。マイナーな国境だったのか、見ていてもそれほど忙しそうな様子はない。そこで、これから先の道路情報や食料品の買える集落の場所などを聞いてみることにした。すると、
「この先に水はないから、ここで汲んで持って行くといい。」
そう言ったかと思うと、係官は、近くにある自分の家まで案内してくれ、私の５リットルポリタンクを満杯にしてくれた。いつも思うのだが、国境でこうした人々に出会い、親切にされると、とても気持ちが良くなってしまう。
「タンザニアはきっといい国だ。いい人が住んでいるに違いない。」
そう思ってしまうのである。
　国境近辺には小さなレストランや店があったので、卵やローソクなどを買った。とある商店に寄ると、店主が笑顔でフレンドリーに接してくれ、
「ジャパンはタンザニアをヘルプしてくれている。いい国だ。」
日本政府の開発援助は、地元の人の日本人に対しての笑顔と言う形で返ってくる。実際に私がしている訳ではないのだが、彼らが笑顔でそう言ってくれると、とても嬉しかった。
　本来なら国境付近からキリマンジャロが見えると思うが、曇り空から雨が降り出し、キリマンジャロの眺めどころではなかった。この調子では山は見えないかもしれない。
　国境を過ぎた所にある小さな村のレストランでお昼などを食べながら、その後も走った。ところが私の選択したこのキリマンジャロ裾野の道は半端でなくきつく、上っては下る急勾配の繰り返し。ハーハーと荒い息をたてて必死にペダルを踏んだ。

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　タンザニア　上ってはまた下り、上ってはまた下る。かなりハードな道だった。

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　タンザニア　キリマンジャロの麓から山を眺めたが・・・。

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　タンザニア　キリマンジャロの頂きは少しも見えなかった。

　坂を走っている時にタンザニアの子供たちが、やかましく付きまとってくる。フレンドリーなのでまあいいのだが、私が汗を流してヒーヒーと必死に走っていると、ケラケラ笑いながらずっとついてくる。上りの時は私の方が遅いので、まるで彼らのおもちゃのようにあしらわれてしまうのだ。しかし、馬鹿にされながらも、子供たちと触れ合いながら走れるのは楽しかった。ケニアもタンザニアも言葉はスワヒリ語。
「ジャンボ！ハバリヤコ？」（こんにちは、ごきげんいかが？）
そう言うと、陽気な子供たちは屈託のない笑顔を見せてくれた。それにしても私のどこがそんなにおかしいのか、ケラケラ笑う子供たち。こっちまでつられておかしくなってしまうではないか。雨の中を１日中走り、寝場所探しの時間になった。
「さて今日の宿はどうしようか？」
と悩んだが、ちょうど小さな集落に辿り着き、宿とレストランが一体になった建物を見付けたので、ここに１泊することにした。
　オンボロの部屋に落ち着き、レストランで走行後の楽しみであるビールを飲んだ。周囲の村人たちは1リットルもありそうな異様な飲み物を飲んでいる。大きなプラスチックのコップになみなみと注がれ、うまそうだ。
「それ、なあに？」
と聞くと、
「ンベゲだ。」
どうやら地酒らしい。ンベゲはバナナの事らしく、地元の人の言うのには、「バナナビール」だそうである。バナナから作った酒。面白そうなのでちょっと味見をさせてもらったが、ほどよい酸味があり、かつて西アフリカで飲んだ黍酒とはまた違った味。もちろん炭酸もないのだが、どこか自然の味がする。しかし余りすすんで飲みたいと思う酒ではなかった。
　翌日１１月３０日。宿の主人と写真を撮って、南へ向けて出発する。

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　タンザニア　レストランを兼ねた小さな宿。ここで１泊した。ここに泊まればきっと「バナナビール」を試飲できるだろう。

　宿を後に走り始めると、また昨日に引き続き、アップダウンは繰り返された。気温は２０度前後。霧がかっており、気温はそれほど高くはないので、坂は多かったが快適な走行だった。　畑仕事に向かう地元の人々に出会うと、
「ジャンボ！」
と声を掛けた。畑仕事に精を出す村人たちの光景が印象的だった。急勾配のくねくね道を走っていると、子供たちは少し照れながら、
「グッドモーニング。」
と声をかけてくれる。私はスワヒリ語の方が好きなので、
「ジャンボ！」
と挨拶。いろんな国のいろんな挨拶があるが、この「ジャンボ」はとりわけ大好きな言葉となった。
　途中、小さな肉屋に立ち寄った。掘っ立て小屋の中に肉をぶら下げてあるだけの質素な肉屋だ。田舎爺ちゃんの経営で、彼は英語は話せないらしい。横にいたおばちゃんが通訳してくれた。
「２５０ｇの牛肉が欲しい。」
そう言うと計ってくれ、私に渡してくれた。価格は５０円也。
「よし、これ、おまけだ。」
そう言って笑顔で肉をおまけしてくれる爺ちゃん。感謝・・・。
　長かった未舗装ダート道もやっと終わり、アスファルトが出現。そこからは長い下り坂。キロマンジャロのすぐ裾野を走ってきたのに、結局その姿を間近で見ることは出来なかった。
　十数ｋｍのアスファルトの下り坂を豪快に下って行く。ヒモという町に着き、ここでチャパティ（とうもろこしの粉を水と混ぜて練り、ひらべったくして焼いたもの）と本場のキリマンジャロコーヒーを飲んだ。しかしキリマンジャロコーヒーとは名ばかりか、入れ方がまずいのか、あまりおいしいコーヒーではなく、ちょっとがっかりした。
　キリマンジャロの裾野は標高も高く爽やかだったが、ヒモの町まで下ると、かつてのニジェールのような乾燥したサバンナが現れ始めた。とげのある植物も見られる。それに気温もグッと上がり不快感も増してきた。ニジェールで辛い経験をしただけに、こうした乾燥した環境が精神的には一番こたえる。走行中に水分をとる回数も一気に増えてしまった。村人たちの様子を伺っても、木陰でじっとしている姿がやけに目立つようになった。今朝までは爽やかな気候の壮快な地を走っていたのに。同じ国でも住む土地柄や気候というのはとても重要なのだと痛感してしまう。
　レンベニという小さな村にやって来た。ついにキリマンジャロをまともに見る事もなく、ここまで南下してきてしまった。がっかり。ちょうど雨期に来てしまったのでしょうがないと言えば、しょうがないか・・・。
　小さなレンベニの村の線路沿いのゲストハウスに投宿。１泊３００円だった。夕食に牛肉とポテトと卵と野菜サラダを食べた。昨日雨に降られたせいか、多少風邪気味。
「明日からいよいよ１２月だ。もう１ケ月で１９９６年も終わってしまうのか。」
そんな事を考えながら横になった。

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　タンザニア　レンベニと言う小さな村にある安宿に１泊。

　１９９６年１２月１日。ナイロビから走り始めてまだ一週間足らず。私の体は以前の体に戻っていないのか、右肩の調子が悪く、風邪気味。カメルーン以前のような走行ペースもつかめていない。この日の朝は腹の調子まで悪く、起きてトイレに駆け込むと下痢だった。体調が悪いときに走リ続ける事ほど辛い事はない。
　８時過ぎに宿を出発する。
「出遅れたなあ。」
宿の外からふと北を見ると、雲のかかったキリマンジャロの姿が見えた。
「おお、あれは。ようやく見れた・・・。」
ほんの一瞬だった。壮観な眺めだった。しかしキリマンジャロを見れたのはこれが最初で最後。
「もっと間近から、あの山を見たかった。またいつか見れるだろうか…。」

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　タンザニア　標高５８９５ｍ。雲の隙間から真っ白な姿が見えた。

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　タンザニア　タンザニアの田舎、レンベニからみたキリマンジャロの姿。

　午前中にタイヤ交換などをしながら黙々と走る。サメという名の町に着き、ここでまともそうなレストランを見つけたので昼食をとる事に決めた。

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　タンザニア　サメと言う集落にやって来た。

　レストランの店員は、私の顔を見るとなぜか、
「私はウガンダの出身だ。」
と話した。彼が牛肉ライスがうまいと言うので、それを注文。単にご飯に牛肉とそのソースがかかっているだけだが美味い。これを食べて少し元気が出たので、再び走る。単調なサバンナの道を走っていると途中の集落の子供たちが、
「ワォー、ムズング、ムズングー。」
そう叫びながら私を見ていた。日本で言う「外人」のような意味らしい。とにかく私の変な格好を見て、とても嬉しそうだった。彼らのその喜び方も半端でなく、
「キャー、キャー、ムズングー」
私は子供たちのアイドルにでもなった気分。タンザニアの子供たちは、やかましい位に明るく楽しい。
　この日はマカニャという町の手前にある駅の庭に、テントを張らせてもらう事にした。

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　タンザニア　小さな小屋があったのでここの庭で眠った。どうやらここは駅らしかった。

そして、両親がケニアの大使館宛に送ってくれたそばを茹でて夕食。駅の庭で食べたのでタンザニア駅そばとでも言うのだろうか。本当は年越しそばとしてとっておくつもりだったが、我慢できなかった。煮干しを使ってだしをとり、おいしい「駅そば」が出来上がった。
「んー、信州の味だ・・・。」
　翌日１２月２日。駅を管理していたおじさんにお礼を言って出発する。朝８時くらいだったが、すでに暑い。
「今日も暑いなあ。ふー・・・」
とぶつぶつ言いながらの走行となる。
　ヘダルという町でジュースを飲んで休憩。店の番をしていた少女がタンザニアの食べ物の話をしてくれた。
「ウガリ（とうもろこしの粉を熱湯と練ったもの。）がおいしいわよ。」
そう教えてくれたが、私はケニアでもそのウガリを食べていたが、好きになれる味ではなかった。
　ここで休憩して再び出発。標高も徐々に下がっている感じで、日中は４０度近くまで上がる。
「暑い・・・。」
ムコマジと言う小さな集落でお昼を自炊。それから５時半まで走りマジンデと言う村の１６０円の安宿に飛び込んだ。

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　タンザニア　１泊１６０円の宿に落ち着いた。

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　タンザニア　安い宿だがちゃんと眠れる。

　外食をしようと食べ物屋を探した。路上屋台を見つけ、そこでフライドポテトに卵焼きを食べた。単純な味なのに美味かったのは、炭火で作っていたせいだろうか。
　翌朝１２月３日。朝方の涼しげな気温の中、いつものように走り出す。ここのところ暑い日々が続いているので、どうもペースが上がらない。
「今日も辛い１日になりそうだ。」

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　タンザニア　朝方は快適な涼しい気温だった。

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　タンザニア　「今日も暑くなりそうだ。」

　マジンデの村の木の下で少女がマンゴーを売っており、１ケ４円だと言うので２ケ、あとチャパティという平べったいパンケーキのようなものも買って木陰で朝食とした。朝食を済ませてから出発。あまりに暑いので途中途中で冷えてもいないコカコーラなどを飲んでしまう。休憩の際も、屈託のない笑顔を振り撒く無邪気でフレンドリーなタンザニアの子供たちに囲まれて楽しい。
　この日通った道は本当にマンゴーの木ばかりでまさにマンゴー街道。路上でも少年たち、いや、大人たちもマンゴーの売り込みに余念がない。しかし、まだ少し時期が早いので青いものが大半だった。
　走っていると一台のジープが前方で止まる。先日キリマンジャロの麓でも会ったスイスのカップル旅行者だった。
「いやいや、東アフリカには素晴らしい自然があっていいですね。」
と１０分程立ち話をした。
　再び走り始めた昼頃、清水が涌き出ているところを見付け、そこで洗濯をしつつ子供たちと交流。みんな一生懸命で、洗濯したりまたバケツに水を汲んで歩いていったり。水を巡る奮闘振りが見られた。苦労をする子供たちの姿を見ていても酷だとか、同情を感じることなどなく、逆に微笑ましい光景に私の目には映った。自然な中の自然な光景、そしてそこでの笑顔。私もここで一時間ものんびり洗濯などをしてしまった。
　走り出して昼を木陰で自炊。日本から送られた貴重なそばとお茶漬け。さっぱりして最高にうまい。そして今日はコログエという大きな町に到着。たったの５８ｋｍ走ったのみでこの日は走行が終わってしまった。気合いが今一つ抜けている昨今である。

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　タンザニア　コログエという大きな町の宿に到着。

　１２月４日。８時半に銀行へ出向き旅行小切手の両替をする。一生懸命やっているようだがなぜか時間がかかる。４０分かかってやっと終了し、タンザニアシリングを手にした。
　この日は晴天。海抜も以前よりはずっと低くなっており以前にも増して暑い。途中の村々で休憩しつつ子供たちとコミュニケーションをとりながら走った。

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　タンザニア　キリマンジャロ近辺の気候は嘘のようだ。暑い日が続いた。