第３０６話 ９１カ国目 ケニア 「ナイロビ到着、そしてサファリツアー・・・。」  マサイマラ国立保護区へ・・・。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜ケニア １９９６／１１ ケニア出国までの走行距離 約９１０４８ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
ケニア走行 １９９６／１１／１２〜１９９６／１１／２９ 走行距離 ３１５約ｋｍ  |
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１１月１２日、カメルーンを出国した同日の夜１０時頃、ナイロビの空港に到着した。 「ケニアに来てしまったのか。」 ナイロビの空港に着いたと言うのに東アフリカにやって来たと言う実感はなかった。本来なら喜ぶべきなのだろう。しかし、このとき私の頭の中には、まだカメルーンでの様々な出来事が残っており、これから始まろうとしている東アフリカ走行への気持ちの整理が完全には出来ていなかった。ザイール横断を諦めた事に、挫折感を抱いていたのかもしれない。正直、自分自身の選んだルートに納得していなかった。 「空路で飛んでしまったんだな…….。」 どこか複雑な胸中だった。 機外に出て、入国審査に向かうと、ケニアビザの申請カウンターがあった。ここで３０ドルを払うと、３ケ月間有効のビザを発行してくれた。同じアフリカでも国によってはこんなにも簡単にビザが取れてしまうのだから不思議なものだ。これで一応９１カ国目のケニアに無事入国する事ができた。 時刻はすでに深夜。ナイロビは白昼強盗も起きる危険な大都市。まさかこの時間に街まで走り出す訳にもいかないので、この日の夜は空港で一夜を明かすことにした。空港内は治安の心配はなさそうだった。 両替を済ませた私は、売店で軽く夕食を済ませ、建物の隅を借りて寝袋にくるまった。半袖、半ズボンでは多少肌寒く感じるが、サイクリングするにはこのくらいの涼しい気候の方がいいだろう。 翌朝１１月１３日。早朝から東アフリカ第１日目の走行を始めた。飛脚号に荷物を括り付け、小雨降る中をナイロビ市内目指し走り始める。カメルーンではアフリカのガイドブッグも盗まれたので、地図は手元になく、今ひとつ地理がはっきりしない。適当に標識を見ながらナイロビの街を目指した。 まるで軽井沢のような涼しい快適な気候の中、ナイロビ近郊にやって来ると高層ビルの建ち並ぶ光景が目に入った。 「都会だなあ。」 数多くの店やレストランが目に入る。町行く人々の顔付きにインド系の人々が多い。カメルーンから空路でいきなりやってきた私は、その光景に違和感を覚えた。しばし呆然としながら、街の中心部に向かって更に走り続けた。 「ナイロビに来てしまったんだなあ。」 日本人旅行者の情報を元に、日本人のよく集まると言う安宿を見つけ出し、無事にその宿に落ち着いた。１泊４５０円程で宿の名はイクバルホテル。フロントでドミトリーを申し込み、部屋に入る。するとそこには日本人がいた。 「こんにちは。お世話になります。」 ベッドが四つ置かれたその部屋には、卒業旅行で来たと言う学生や、会社を辞めてアフリカ旅行をしに来た人などがいた。彼らから早速ナイロビの情報を聞いた。すると、白昼の羽交い絞め強盗の話や、新婚カップルが夕暮れ時の公園を歩いていてボコボコにされた話などを聞かされた。どうやらナイロビはとんでもなく治安が悪い所らしい。日本人宿にくるとこうした情報を即座に入手できるので嬉しい。 シャワーを浴びた私は、早速ナイロビ市内のアメックスのオフィスに出向き、カメルーンでは購入できなかった旅行小切手２０００ドルを手にした。こんな大金を手にしたのは欧州走行以来だろうか。これで超節約生活からも脱出だ。 ナイロビ市内を歩いていると、驚くほどたくさんの品々が目に飛び込んできた。西アフリカでは決して見なかった日本製の品も多く目にする。自転車屋には日本製の自転車部品メーカーであるシマノの部品が並べられている。物価も西アフリカより断然安い。ポジフィルムは半値だ。ショップの経営者の大半はインド人のようである。 市内の本屋では盗まれたガイドブックと、ケニア・タンザニアの地図を購入した。地図とガイドブックを手に入れると、再び自分の進むべき長い道のりが開けたような思いだった。資金も手元に入り、地図もあればケープタウンまで南下するという目的もある。カメルーンでの最悪の状況とは全く逆だった。 「これでまた走り始める事ができる。旅を続けられる。」 ほっと一安心。しかし、陸路でこのケニアまで走ってきた訳ではないのでどうも実感がなく、達成感や充実感は今一つだった。 「カメルーンの滞在は長過ぎた。」 ザイールを越えてここまで走って来たかった。今回の旅の一番の山場になる予定だったのに……。私は松本氏の著書、「絶えてアフリカ」のザイールの章の一節を思い出していた。 「一番楽しい、一番辛い、一番嫌い、一番好きなど、どのように形容しても一番の国、それがザイール……」 と。 「やはりザイールは横断したかった。」 イクバルホテルに戻り、日本からここまで直接来たと言う若者や、会社を辞めてアフリカ旅行をしているという人たちと話をした。就職の話題から日本の芸能話しなどをしてくれた。 「待井さん、それはチョベリグですね。」 「チョ、チョベベリ…って何ですかそれ？」 超ベリーグッドの略らしいが、そんな簡単な言葉にもついていけず、私はすっかり浦島太郎状態。５人同室と言うドミトリー部屋だが、違う部屋からや他のホテルからも色んな旅行者が集ってきて情報交換や旅の話で盛り上がり（もちろん日本語で）、久々に涙が出るくらいに大笑いをした。
ケニア イクバルホテルのドミトリー部屋で。散らかった部屋だがなぜか落ち着く。  この宿に滞在中に、マダガスカルに行って来たと言う望月さんに出会った。地方記者をしていたと言う彼は、 「これからザイールに向かおうと思うんです。」 と言った。戦火の中に飛び込むようなものだと私は忠告したのだが、彼はどうしても西アフリカまで陸路で進むのだと熱く話した。もちろん横断は不可能だとこの時は思っていた。 ナイロビは大都市とあって、アフリカの南部の色々な情報収集には事欠かなかった。サファリ情報に、チケット情報に見所情報。もちろん治安の話も聞けた。私はこれから南下していくのに必要な情報をここである程度得ていった。 ナイロビでは日本からの荷物の受領や、パスポートの作成なども行った。１９９５年にロンドンで作ったパスポートは、増補したのにもかかわらずページが終わってしまっていたので、ナイロビの日本大使館で３冊目のパスポートを作成してもらう事にした。今回は１０年有効の赤いパスポート。ロンドンの時のは５年、日本で取得したのは古いタイプのものなので、これで私のパスポートは３冊とも違う種類のパスポートとなった。なんだか嬉しい。
ケニア ナイロビで作った３冊目のパスポート。皆違う種類のパスポートとなった。 
ケニア 当時の痩せ細った不気味な顔写真がそのままパスポート写真となってしまった。  パスポートの取得だけでなく、次に訪れる国、タンザニアのビザも取得した。 新しく日本から送られた電子手帳を使って手記をまとめ、一通りの作業を終えたので、楽しみにしていたサファリツアーに出掛けることにした。同じ宿に泊まっていた木南さんと吉岡さんと共に、２泊３日で１５０ドルと言うサファリツアーに出掛ける事になった。サファリツアーとして出かける所はマサイマラ国立保護区という大草原。ガイドブックを見れば大阪府と同じ位の面積と書かれてある。どれだけの動物が見れるかとても楽しみだ。
ケニア マサイマラ国立保護区を目指して。 
ケニア マサイマラ国立保護区を目指して。 
ケニア 今回はこのワゴンでツアーに出掛けた。日本人旅行者や欧米人と一緒だった。  ５、６時間位ワゴンに揺られ国立保護区に到着。そしてゲートを入ると、いきなり現れたのはシマウマ。生まれて初めて見る野性のシマウマだった。 「お、おおー、あれはシマウマ！」 昔小さい頃確かに動物園で見たことはあった。しかし生で、サファリで見る野性のシマウマは違って見える。群れを成し、自由に駆け回る彼らの姿に感動してしまう。 「やはり野生に生きる彼らは違う……。」
ケニア いきなりシマウマの群れの姿が目に入った。  しばらく大草原を走ったワゴンは、動物たちの入れない、安全な区域に到着。ここでツアーの一行はテントを張った。ここに荷物を置き、ワゴン車で再び草原へ繰り出す。するとそこにはシマウマの他にも、バッファロー、キリン、それにアフリカ象などが歩いていた。車が近ずくと尻を向けて逃げ出してしまうのだが、目の前の無数の動物たちが本当の野生動物なのだと思うととても嬉しかった。
ケニア たくさんの野生動物たちに出会えた。これはインパラ。 
ケニア セクレタリ・バード。 
ケニア のんびりと移動していたバッファローの群れ。 
ケニア バッファローと鳥。 
ケニア のんびりと草原を歩く動物たち。 
ケニア アフリカ象もやはりのんびりと歩いていた。 
ケニア 夕暮れ時のサバンナを歩くアフリカ象。 
ケニア 遠くに見えるのはガゼルの姿だろうか。 
ケニア 大草原を走るワゴンと向こうに見えるのはキリン。  夕方まで草原を駆け回り、キャンプ地に戻ってこの日は寝袋にくるまった。
ケニア キャンプ地で記念撮影。  翌朝サファリツアー２日目。サバンナの更に奥深くまで進んでいく。途中では楽しみにしていたライオンを見れた。狩りをしているところではなく、木陰でのんびり、いやぐったりしている姿だったが、我々の車が来ても動じないところはやはり貫禄がある。
ケニア ライオンの姿も。
ケニア 木陰で寝転がるライオン。 
ケニア 駝鳥の姿も目に入った。 
ケニア シマウマとバッファローの群れ。 
ケニア シマウマとインパラとイボイノシシ。 
ケニア イボイノシシ。 
ケニア サバンナを歩くアフリカ象。 
ケニア 親子で歩いていたアフリカ象。 
ケニア 可愛らしい目をしていたキリン。 
ケニア 広大な草原でもキリンの姿は見つけやすかった。  キャンプ地からかなり走った。すると、大きな池にたどり着いた。ここにはこれでもかと言うくらいのカバが生息していた。うじゃうじゃといるカバたちの姿は圧巻。やはり大自然に生きるカバの姿はどこか魅力的だ。それにしてもこの場所は臭かった。
ケニア プカプカと浮くカバたち。 
ケニア うじゃうじゃとカバが泳いでいた。 
ケニア 池の辺でぐったりと寝転がるカバたち。とても臭い匂いが立ち込めていた。  カバを見た我々ツアー一行は今度はマサイ族の集落に向かった。しかし本当に自然に暮らすマサイ族ではなく、観光客のためにアクセサリーなどを売っている人々が大半だった。野性の中で槍を持ち、たくましく駆け回る、という私の想像していたマサイ族とは違い、観光客相手に商売をする彼らの表情にはどこか寂しさが見え隠れしていたように見えた。
ケニア 民芸品を売るマサイ族の人々。 
ケニア 広大な草原に住むマサイ族の人々。 
ケニア きれいな民芸品を売っていた。 
ケニア ジャンプするマサイの男。このシーンを見たかった。 
ケニア マサイ族の女性たち。 
ケニア 一緒に記念撮影をしてもらった。 
ケニア 牛の糞を材料にして作られていると言うマサイ族の家。  マサイ族の集落を後にキャンプ地に戻り、食事を済ませて床についた。 翌朝３日目はサファリツアー最終日。このときすでに何種類かの動物たちを見ていたが、一つだけ見てないものがあった。それは肉食動物の狩りをするシーン。この日の朝は、ツアーのケニア人ガイドが、 「レパード（ヒョウ）の姿を見に行くぞ。」 そう言うので、まだ薄暗い早朝から一行はレパードを見に出掛けた。 「そんなに簡単に見れるものなのか？」 と思っていたが、目の良いガイドは、 「あそこを見てみろ！」 するとそこに豹柄が見えた。 「あれがレパードか？」 まるで何かを探すように軽やかに走っていったので、シャッターチャンスは少なかったが、なんとかフィルムに収める事ができた。レパードを見れただけでもラッキーだったかもしれない。
ケニア ブッシュの中を足音も立てずに軽やかに走っていくレパード。 
ケニア 朝日を浴びて、颯爽と獲物を探していたレパード。  レパードのハンティングのシーンこそは見れなかったが、その姿を見れただけで満足。その後はブッシュにハイエナの姿を見た。 「あれがハイエナか。」 ハイエナもやはりハンティングをしている様子だったが、足早にピョンピョンと逃げるガゼルに追いつくはずもなく、簡単に獲物を逃している様子であった。 「ハイエナもああして狩りをするのか？でもあんな遅い足で大丈夫かな？」 などと思っていたが、その後にちゃんと獲物を口にしたハイエナの姿も目にした。弱肉強食、野性の掟がここには存在しているのだろう。自然の動物たちの暮らしそのままを見ることができた。
ケニア 何かをくわえたままサバンナを駆けていたハイエナ。  楽しみにしていたサファリツアーはあっという間だった。できればもっとリッチなサファリツアーに参加したかったが、まだ先もあるので、今回は２泊３日のテントを使った安いツアーに参加して終わった。 帰り道ではレストランに寄ったり、小さな集落にも寄ったりして、田舎のショートトリップを楽しんだ感じだった。ツアーを共にした木南さんと、吉岡さんとはすっかり親しくなった。
ケニア 木南さんケニアの子供と触れ合う図。その１ 
ケニア 木南さんケニアの子供と触れ合う図。その２ 
ケニア 木南さんケニアの子供と触れ合う図。その３ 
ケニア 木南さんと欧州人。ズッコケルの図。 
ケニア ツアーの途中で寄った商店で地元の女性と記念撮影。 
ケニア レストランで食べた料理もなかなかいけた。  サファリツアーを終え、ナイロビに戻ってきた私。手紙を書き、ビザも取得し、アメックスでお金も手にした。宿の仲間とはナイロビの日本食レストランに出向いたりもした。 「こんなにリラックスできたのは久しぶりのような気がする。」 西アフリカの走行の疲れも、カメルーンでの悪夢のような日々も、もう昔の事のように思い出され。 「さあ、これからは東アフリカ南下の旅が始まるんだ。」 私は気持ちを入れ替えてケープタウン向け走り始めることにした。
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