第３０３話 ９０カ国目 カメルーン 「カメルーンの霧ケ峰・・・。」  カメルーン北部。そこは気持ちの良い高原だった。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜カメルーン １９９６／１１ カメルーン出国までの走行距離 約９０７３３ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
カメルーン走行 １９９６／９／１９〜１９９６／１１／１２ 走行距離 約７９４ｋｍ  |
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ガロワの部屋の中の蒸し暑かったことと言ったらなかった。外は風が吹き気持ち良いのだが、中は風が通らずに蒸し風呂状態。疲れていて早く眠れるはずなのに、いつまでも暑くて眠れず、結局寝たのは夜の１２時頃だった。とんでもない宿を選んでしまったものだ。
カメルーン ガロワのボロ宿はとにかく蒸し暑かった。私が寝たのは１９号室。  翌朝。多少疲れがあったのか、出発は８時。町を出るとベヌエ河と言う大きな河を渡る。そこに掛かる橋から河を眺めると、私の田舎の諏訪湖で見るような四つ手網に似た漁法で川魚を捕っている光景が目に入った。懐かしい感じがしたので写真を撮っていく。どうやら、てこの原理を利用しているようで、河に仕掛けられた大きな網には魚もかなり入っていたようだった。
カメルーン 大きな網を使ってベヌエ河で魚を取る人々。 
カメルーン かなりの割合で魚はとれている様子だ。  ベヌエ河を渡ってまた走り始めると、多くの村人が頭の上に様々な荷物を載せて歩いていた。何ｋｍにも渡って何十人もそんな人が歩いている光景はアフリカならでは。運ばれる品々も野菜や魚にブッシュミート、グァバにトウモロコシに米にキビにカカオ・・・。とにかく何でもある。カメルーンと言う国は食が本当に豊かだと感じる。熱帯地域もあればサバンナもある。住む土地によって大きく人々の食文化も変わってくる。サバンナよりは緑溢れる熱帯に住んでいる方がはるかに快適な暮らしが出来るのかもしれない。 しばらく走っていると、見知らぬ少年が自転車に乗って私の後を付いてきた。好奇心いっぱいの目をして、 「どこいくの？」 そう聞いてきた。 「ンゴンドレだよ。」 「自転車で？」 「そうだよ。３、４日くらいは掛かるかな。」 「気をつけてね。」 小さな子供の持つ好奇心と言うのは万国共通のものなのだろう。 滑らかなアスファルト道を引き続き南へ走り抜けていく。周囲の山々が樹海の中に浮かんでいるように見え、とても美しい。カメルーン北部はサイクリングにお勧めの土地かもしれない。小さな集落のマーケットで野菜等を見付け、ジャガイモ、トマトなどを買う。ここで牛肉を３００グラムも購入する。が、人々がどこへ行っても私を珍しがって寄ってくるので、すぐに人だかりになってしまい困った。 小さな村で休憩などを挟みながら、ガロワから続く快適な舗装路をひたすらペダルした。５０ｋｍ走ってお昼に野菜カレー汁とパスタを作る。ガロワの町で念願だったカレー粉を購入していたのだ。ゆっくりと自炊を済ませ再び走る。
カメルーン カメルーンの田舎の様子。  樹海にまるで浮かぶようにある山々を見ながら夕刻まで走り、この日もブッシュの中にテントを張り、この夜も再びカレー汁を自炊して夕食とした。 この夜はガロワでの寝苦しい夜がまるで嘘の様に、テント内で快適に眠る事ができた。やはり自然の風に吹かれて眠るのがいい。とにかくテントでは熟睡できる。お金を払って蒸し風呂ホテルヘ入るよりは、大自然の中で大蟻や巨大ゲジゲジに囲まれて過ごす方が、私の様な自転車野郎には似合っている気がする。
カメルーン 今日もブッシュの中でキャンプ。ここでカレー汁を作った。  翌日１０月４日。この日もいい天気だった。しかし暑くなりそうだ。出発するとすぐにゴウナと言う町に到着。この先は大きな村はなさそうなので、ここで食料を買って行く事にする。食堂で休んでいるとリベリアからやって来たと言う２人の青年に出会った。ガーナの難民キャンプにしばらくおり、車などを乗り継いでここカメルーンにやって来たのだそうだ。ここから彼らは中央アフリカを通り、私と同じように南アフリカを目指すのだと言った。手段や目的は違うにしても同じ国を目指すという点では同じだ。リベリア難民と聞くと、少し悲しい響きにも聞こえて来るが、彼らのように異国に夢や希望を抱いて旅する姿を見ていると、そんなイメージはこれっぽっちも湧かなかった。逆にこちらが励まされるような気がした。
カメルーン 中央アフリカを通り南アフリカを目指すと言うリベリア青年２人と合う。  ゴウナの町を過ぎるとベノナショナルパークの横を通過した。農地に転用されず原生林がそのまま残っており、今にも動物が出てきそうな雰囲気だ。私は何か動物が現れるのではないかと、できるだけ音を立てずに走った。そして物陰を見付けたので息を殺して静かに待つ事にした。すると自転車に気付かずに現れたのは猿の集団。（いつも猿ばっかりでつまらないが。）一家族なのだろうか、小猿が母猿にしがみついて移動している姿が微笑ましかった。私の姿に気が付くと、一斉に森の茂みへと逃げていってしまった。 猿に出会ったこの日の走行はかなりきついものがあった。８％〜１０％もあろう上り下りが嫌と言うほど繰返され、もう必死でペダルを踏み、道路沿いにある木陰に入っては何回も休憩をとった。
カメルーン 緩やかな上り下りが繰り返され、疲れてしまった。  小さな村を次々に通過して行くのだが、まるで何か獣でも見たように逃げていく村人もいたり、疲れるくらい長く手を振ってくれるフレンドリーな村人もいる。部族が異なるのか、それらの人々の違いを観察するのが楽しい。 この日の昼食はヤムイモ。安くて腹にたまる一般庶民の食事。それとマトンの肉。マトンはサバンナではすっかり馴染みとなった味。これらを昼食とした。カンカン照りの暑い中、ツェツェバエのような刺す虫が舞ってきて、これらと格闘しながらイライラして走る。 夕刻、５時過ぎにンガオヤンガの村に到着。なぜかこの近辺の地名は『ン』から始まるものが多い。ここの小学校の前に今夜は野宿させてもらうことにした。軒下を借りたので雨の心配はない。自炊していると、どこからか２人の子供がやってきた。いつもなら集団で来るのだけれど２人だけだったので、多目に作ったカレーを御馳走することにする。うまいのかまずいのか、はっきりしない。少年たちは、 「シーン。」 静かに食べている。その姿は、いつも元気にやかましく走り寄ってくる姿からは想像できなかった。 翌朝１０月５日。６時３０分、昨日も来た少年たちと写真を撮り、ンゴンドレを目指し出発する。
カメルーン ンガオヤンガの学校の建物の前にテントを張らせてもらった。  地元のおじさん情報では５０ｋｍもの長い上りがあるそうだが、その距離の正確さはあまり当てにせず、気合いを入れて気長に走り始める。村で水を３リットル補給させてもらった。
カメルーン 走行途中に見る村人の様子。  ンガオヤンガから１０ｋｍほど走ると、早速峠への上りが始まる。１０％と言う急勾配がくねくねと上に続いている。日差しがとても強い。所々に木陰があるのでここで休んでは走る。少々の休憩をはさみ昼過ぎまで上り続けた。大きなトラックやワゴン車がクラッチ板の焼ける臭いを漂わせながら走っている。故障している車も多く見えた。 どのくらい走っただろうか。長い坂を上って、ようやく山頂付近に着いた。そこには高原の空気があり、素晴らしい眺めが広がっていた。今まで走って来た道を振り返って見れば、どこまでも緑の樹海が続いている。アフリカ大陸の大きさを実感するひとときだ。
カメルーン アフリカ大陸の大きさを実感する。 苦しめられたアップダウンも平原に見えている。頭上の雲も次第に近くなり手に届くようだ。手元の高度計では私の地元、諏訪の霧ヶ峰高原の１６００ｍと言う標高を上回っている。 「いやー壮快だ！」 高原の風にすっかり酔ってしまった感じだった。坂も苦にならず、立ち止まっては、思いっきり息を胸に吸い込む。山頂の小さな村にはなぜか料金所があった。 「料金所まであるなんて。ここはカメルーンの霧ヶ峰のようだ。」 そう言いたくなる所だ。ニッコウキスゲこそは咲いていないが、小さなひまわりが美しく咲き、周囲には風変わりな緑がかった岩山があった。
カメルーン そこはまるで「カメルーンの霧ケ峰」。爽快で美しい高原だ。 
カメルーン 高原をペダリングしていると、とても気持ちが良かった。  山を上り切ると小さな出店がたくさんあった。ここで休憩。日本の焼き鳥よりふた回りくらい大きい牛肉の串焼きが１本２０円で売られていたので、一気に５本たいらげた。格別だった。
カメルーン 峠には気持ちの良い出店があった。  ンガオヤンガから出発してちょうど５０ｋｍ。峠に着き、ンゴンドレヘの下りが始まる。当てにしていなかったあの村のおじさん情報は驚くほど正確だった。峠からはそれほど標高が下がらないうちにンゴンドレに到着した。
カメルーン 長い気持ちの良い道を下ってンゴンドレの町へ。 
カメルーン 高原を下ってンゴンドレへ。  ンゴンドレに無事着いた私は、ガイドブックの地図を頼りに１泊約１０００円程の宿に投宿した。とりあえずカメルーンの走行もひと休みといった所だ。 ここンゴンドレは標高１０００メートル程の高原の町。ここから南東へ２７０ｋｍ進むと、いよいよアフリカ深部横断の旅が始まる。中央アフリカ、更に南東に進むとザイール（コンゴ民主共和国）に突入する。中央アフリカのバンギから難関ザイールを経由してウガンダ、ケニアへ抜ける横断ルートは今回の旅の最大の山場。アフリカ走行の大きな峠と言ってもいい。しかし、その前に両国のビザを取得するためにカメルーンの首都ヤウンデに行く必要がある。首都ヤウンデへは列車で往復する事にした。飛脚号や荷物はこのンゴンドレの宿に預かってもらい、できるだけ早くビザを取得して雑用を終らせ、気合いを入れてアフリカ深部の横断に向いたいのである。 この時私は、ヤウンデで首締め強盗に遭おうなどとは夢にも思っていなかった。今回の旅の最大の悲劇は、カメルーンの首都ヤウンデで起きる事になってしまった。
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