第３００話 ９０カ国目 カメルーン 「９万ｋｍ地点通過・・・。」  走行距離も日本を出発して９万ｋｍに・・・。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜カメルーン １９９６／１１ カメルーン出国までの走行距離 約９０７３３ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
カメルーン走行 １９９６／９／１９〜１９９６／１１／１２ 走行距離 約７９４ｋｍ  |
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大きな橋を渡ると９０ケ国目のカメルーン。メーターは８万９千９３９ｋｍを指していた。
カメルーン ９０カ国目のカメルーンに入国。  「やっと９０カ国の大台か・・・。」 感慨深いものがあるが、まだまだ山場はこれから。気を引き締めてペダルを踏み出す。カメルーンはアフリカの中でも所得は高く、豊かな国だと聞いている。いったいどんな国なのだろうか。入国審査ではまったく問題なく通過。手続きは至って事務的に進められた。 「さあ、カメルーンの走行開始だ。」 目指すは南のンゴンドレと言う町。カメルーンに入国してからしばらくはアスファルト道が続いたが、途中から切れ、ボコボコのダート道に変わった。
カメルーン 平坦なダート道が出現するようになった。 
カメルーン グチャグチャと走りにくい道を進んで行く。  質の悪いこの道が３００ｋｍも続くのかとぞっとしたが、コウセリと言う名の町を過ぎると、まるでコートジボアールのように質の良い、なめらかなアスファルト道にと変わった。 「あー安心。やはり金持ちの国は違うのかなあ。」 チャドを出発して、この日走った距離はわずか３０ｋｍ。道から少し入った所にテントを張り自炊した。
カメルーン 広い空き地があったので、ここでカメルーン最初の野宿をした。  翌日。誰も人が通らないだろうと思って張ったテントの横を、朝からたくさんの人々が歩いて行き、賑やかだった。畑に向かう人々。どうやら通勤に使われている道らしかった。怪しげに私の様子を見ていた子供たちは、取り立てのトウモロコシを持ってきてくれた。感謝。 チャドでもニジェールでも土壌が痩せていたためか、キビしか見なかった。が、ここカメルーンにはトウモロコシがたくさんある。半砂漠地帯から、肥沃な土壌を走り始めているのだと実感する。こうした土地を走っていると、人間は本当に動植物に依存しているのだと強く感じる。 子供たちからもぎ立てのトウモロコシをもらってしまって悪い気がしたので、私も何か彼らに上げることにした。何がいいか悩んだが、手持ちであるもので役に立ちそうなものは、蚊取り線香くらいか。これを少し分けてあげることにする。彼らはこれが何かを知っていた様子で、かなり喜んでくれた。良かった。 この日出発したのは７時３０分。走り始めてから平坦な道程は続き、湿原地帯のような所をひたすら走った。鳥たちの声は以前のチャドのサバンナでも多く聞けたが、ここはもっと多い。真っ赤な小さな鳥や黄色い鳥、原色の鳥をそこらじゅうで目にする。バードウォッチャーなら喜びそうな所だ。地図で確認すればこの周辺はワザ国立公園と書かれてある。動物たちの保護区にもなっていた。黙々とペダルを踏んでいると、かわいい猿の親子が飛び跳ねて行った。 走り出してからどのくらいが経過しただろうか。昨日は９０カ国目に突入したが、この日は距離も９万ｋｍに到達。モロッコでは８万ｋｍ地点を通過した。あれからまた１万ｋｍ。今までに走った距離が９万ｋｍと思うとどうも実感は湧かないが、目標の９割、そう思うとやはり感慨深い物がある。しかしまだまだこれから。ケープタウンへの道のりは遠い。アフリカ深部の中央アフリカとザイールを越えるまでは気は抜けない。
カメルーン ここでようやく９万ｋｍに。
カメルーン 地元の子供たちが私の様子をじっと眺めていた。  ９万ｋｍ走ったこの日もまた広い空き地にテントを張って一夜を過ごす事に。 「９万ｋｍ走破か・・・。もう旅も終盤戦だな。」 翌朝、５時３０分頃だろうか。私のテントの前で見知らぬ汚い格好をした男が、自炊用具やバックなどをゴソゴソと漁っていた。私は寝ぼけていたが、慌てて怒鳴り声を出した。 「コラーッ」 大声を上げて日本語で言うと、慌てて近くの沼地の中にズブズブと走って行ってしまった。道沿いから奥の方に入っており、まさかこんな田舎で泥棒など出るとは思いもしなかった。何か盗られたものはないか確認するが、何もないようだ。とにかく目が覚めて良かった。
カメルーン 空き地にテントを張ったのだが、ここに泥棒がやって来た。 
カメルーン 私に怒られた泥棒は近くの湿地帯にズボズボと逃げて行った。  無事被害もなかったようで、そのままテントを畳んで走り出す事にする。途中には耕された畑などがあり、そこで地元の女性が野良仕事に精を出していた。なぜか女性の姿が多い。アフリカの女性はとても力強く感じる。彼女たちの行動を見ていると、生きる力強さみたいな物を感じるのである。ただただ関心するばかり。そんな畑もあるワザ国立公園は今はシーズンもオフ。４月頃ならライオンも見れると、地元の人々は言っていた。うっかり野宿などできない。恐ろしい。
カメルーン ワザ国立公園で風変わりな猿を見た。 
カメルーン ワザ国立公園で見た尾の長い猿。 
カメルーン カメルーン北部の風景から。 
カメルーン トウモロコシのようにも見えるが、これはキビ畑。  お昼をいつものように自炊しようと思ったが、朝方の田舎泥棒が何かやらかしたのか、ガソリンストーブの調子がどうも悪い。真昼間から修理の作業に没頭。結局この修理やクリーンアップ作業に１時間半も費やした。修理を終え、無事に昼飯にありつく。 チャドからは随分景色も変わり、美しい緑がたくさん目に入ってくるようになった。標高の高い山々も見え出し、まるで違う大陸に来た思いだ。この日はモラという小さな町に到着。ここの水無しホテルに１泊することにした。
カメルーン モラと言う小さな村の安宿に投宿。  翌朝９月２８日。朝６時に朝食をとり、出発の準備を始め、ホテルの主にモコロと言う街までの道路情報を聞く。出発は朝７時。砂も多いこのモラの町だが、緑の木々も多くあり、それらが日陰を作っていて気持ちがいい町並み。町中をパイクタクシーが行き交う。木陰を走っていると本当に気持ちが良かった。
カメルーン のどかなモラの町を走り抜けて行く。  コルギと言う名の村までは人の通りも多かったが、そこを過ぎると、たまに自転車とすれ違う程度の田舎道に変わった。小さな村を走って行くと、何かの野菜を細かく切り、庭に天日干しにしている。ほのぼのとしていい光景だった。周囲の景色はきび畑にとうもろこし畑、綿花畑に岩山。チャドから走って来ると、とても信じられないくらいの緑豊かな世界がカメルーンに溢れている。
カメルーン キビ畑に囲まれて建つ家々。 
カメルーン モラからコルギを経由してモコロへと向かう。 
カメルーン 広い庭で何か植物を乾燥させていた村人。 
カメルーン 砂地をきれいに掃いて、その上で干していた。 
カメルーン 田舎道をひたすら走った。 
カメルーン 前方に小さな川を発見。 
カメルーン しっかりとコンクリートがある。これなら車も走っていける。 
カメルーン 橋を渡る手前で子供たちと写真を撮る。  田舎道なので、砂と石の混じったデコボコ道が続いた。ひたすら走り続け、途中で昼食を自炊。午後２時過ぎにコサという村に到着した。村で少々休憩。この村を過ぎると、２０ｋｍ余りの信じられないくらい辛い急勾配の上りが始まった。坂がきついのに加え、砂と石のでこぼこ道。うまくハンドルを操るが本当に汗だくになる。降りて押すにも辛い。 「降りてたまるか・・・。」 とペダルを踏み続ける。いつからだろうか。峠らしい峠は走っていないように思う。かなり強引にペダルを踏んだので、筋肉痛になりそうだ。久々の山道は少々苦しかった。が、今までが単調な道程だったので、起伏のある道を走ると不思議と嬉しく感じてしまうのだった。後を振り向けば、緑の平原に岩山。それは壮快な眺めだった。
カメルーン きつい急勾配を上りながら周囲の風景を眺めた。 
カメルーン キビ畑に覆われてしまった小屋。 
カメルーン 坂道の途中から眺めた小屋。 
カメルーン ある程度峠を走ると、平坦な道に出た。しかし相変わらずの悪路だった。  水をがぶ飲みしながら午後５時半頃まで走り、ようやく大きな町、モコロに到着した。ここで８０００ＣＦＡ（約１８４０円）という表示のホテルを発見。見掛けもよく、これなら快適に眠れそうだ。しかし値段が高い。 「んー高い・・・。もうちょっと安い部屋はないんですか。」 そうフロントで聞くと６０００ＣＦＡに値下げしてくれると言う。他に安宿もなさそうなのでここに決めた。部屋に入っても、本当にゆっくりしたくなるようなきれいな造りでビックリした。 「まともな部屋だなあ。」 これで６０００ＣＦＡ（１３８０円）なら安いと感じた。
カメルーン モコロで私が泊まった宿。なかなかいい雰囲気で清潔感もあった。  宿に落ち着いた私は、早速夕食を食べに出かけた。この町にもバイクタクシーが走り回っているので、それを捕まえ、レストランに直行する。ぼろいレストランだったが、ここで食べたチキンはたまらなく美味かった。そしてビールを飲もうと酒屋を探す。ちょうどその近くを通った男に、 「どこかでビール売っていますか？」 と聞くと、 「良かったら案内しようか。」 と言ってくれた。その後小さな酒屋に行く。彼は以前に日本人と仕事をした経験があると言い、 「日本人が我々の仲間５人にバイクをくれたんだ。」 と言った。この酒屋で２人で３本のビールを飲み、片言の英仏語でコミュニケーション。酒も少し入った頃、彼はフランス人の悪口を言い始めた。 「フランス人はカメルーンの土地を利用して食べているんだ。あんた、さっき酒屋の場所を私に尋ねたが、もしあんたがフランス人だったら案内せずに嘘を教えただろうよ。」 そう言った。日本も隣国などとギクシャクした関係があるが、アフリカ諸国にも欧州などと同じような関係があるらしい。 夜も１１時近かっだが、彼は自分の家に私を案内したいと言い出し、そこで遅い夕食の招待を受けることになった。招待されて頂いた食事は、煮豆とお芋と言う質素なものだったが実においしい味付け。大きな家で、一般のカメルーン人よりも豊かそうな暮らしに見える。 「働かなくても食べてはいける。でも電気代を払うお金はない。食べていけてもお金はないんだ。」 そう言った。豊かなのか、貧乏なのか、日本では考えられない不思議な言葉だった。それだけ自給自足できている、と言う事なのだろう。豊かな土壌に恵まれたカメルーンならではの言葉に聞こえた。
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