第２９９話 ８９カ国目 チャド 「フレームが折れた・・・。」  ９万を目前にして、遂にフレームが折れた。 ニジェールでの自滅事故が影響したのだろう。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜チャド １９９６／９ チャド出国までの走行距離 約８９８２６ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
チャド走行 １９９６／８／１２〜１９９６／９／１９ 走行距離 約１５７９ｋｍ  |
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９月２２日。お世話になった警官に、出発前に、 「署の庭に張ったテントの写真を撮ってもいいですか。」 と尋ねると、 「ああいいよ。」 と言った。ところがもう一人の警官は、 「だめだ。」 と言う。そのフレンドリーでない方の警官は、私が出発する頃になると怪しげな顔つきとなり、 「こっちへ来い。」 そう言ってきた。署の暗い部屋に入れられ、彼は私のパスポートを見ながらノートに名前などを記帳し、 「２０００シェーファーだ。」 などとのたまう。 「払うんですか？なぜですか？」 と聞いたが、何かモゴモゴしている。 「払えばいいんだ。」 テント設営代金を払えといってるのかなと思ったが、そうではないようだ。 「とにかく何か払え。」 と言う。もう一人の警官はとても親切で何も要求する事はなかったのだが、この男と接していると、感謝していた気持ちは薄れてしまった。またしてもパスポートをホールドされ、払わなければ返してもらえない。チャドはどうもこのパターンが多い。リグリグの村にしてもここのマサゲのポリスの一人にしても同じ感じだ。私は呆れて外に出て、彼がどう出てくるのかずっと待っていた。ここでも以前のように根比べを始めてしまった。すると何分も経たないうちに、 「ジャポネ、ほら、パスポートだ。返してやるよ。」 そう言って返してくれた。何だか遊ばれているみたいだ。 「まったく・・・。」 面倒見の良かった警官の方にはお礼を言って、その後出発。町中で水をもらい、マサゲを後に首都ンジャメナ向けて走り出す事にする。町の出口で再びポリスチェックを受けた。ここでは日本の事を色々と聞かれる。 「オレは日本で働きたい。」 と話す男。給料がいいと言う事を知っているらしい。彼からはお茶の招待を受けた。警官のチェックの次は、同じ国内だというのに税関のようなところがあり、 「金をくれ、何か思い出の品をくれ。」 など色々と要求された。この国の警官は「物をよこせ」とか、「金を払え」と言う事をよく口にする。そうした要求も日常茶飯事らしい。しかし、噂に聞く中央アフリカやザイールに比べるとまだおとなしく、強引さはないような気がする。とりあえず検問を通過して南にある首都ンジャメナを目指し走り始めた。
チャド マサゲから南下。再び自転車に乗って走り出す。目指すは首都のンジャメナだ。 
チャド 相変わらずのボコボコのダート道だ。 
チャド 牛たちも放牧されていた。なぜかとても広い道。  走り始めてから何時間がたっただろうか。マサゲから未舗装路を３５ｋｍくらい走った所だった。飛脚号の具合がおかしく、何かグラグラしている感じがした。 「なんだろうなあ。」 前輪のハブがおかしいのか、不安定な感じだった。何かおかしいと思ったが特に異常は見つからないので、そのまま走り続けた。が、やはりグラグラとどこかおかしい。以前のフロントフォークがまたおかしくなったのかと見てみるが、そこが原因ではないようだ。自転車から降りて、飛脚号の各部をよく観察してみる。すると、とんでもない事が起きていた。 「ああ、折れてる！」 大事件。なんと飛脚号のトップチューブ（フレームの三角形の上の部分）の前部が折れている。
チャド 「な、なんてこった！」飛脚号のトップチューブが折れてしまった。
チャド 折れたフレーム。  「こんなバカな事があるだろうか。」 これでは飛脚号は死んだも同然。こんな重要部分が折れるなんて信じられない。これは先日のニジェールでの事故が原因だったのだろう。こんな田舎の砂道で修理をする所など見つからず、どうしようもないので、とりあえず紐を使ってグルグル巻きにして固定し、固く縛って応急処置をした。人間で言ったら、首の骨が折れたようなものかもしれない。しかしとりあえず走れそうなので、そのまま走り続けることにした。しばらく走って、ジェルマヤという村を通過。ここでもやはりポリスチェック。 「何か物をくれ。」 と再び要求された。
チャド ジェルマを通過。町の入り口で、何かよこせとねだられた。 
チャド 当時の私のチャド走行スタイル。 
チャド 周辺でみたチャドの家々。 
チャド チャドの集落を眺めながら。  首都ンジャメナに入る手前にも、また警察とも税関とも区別のつかぬ小屋があり、ここで再びチェック。それに荷物検査。この日１日８０ｋｍの走行区間で４回もの検査を受けた。昔の日本で言う関所みたいな所なのかもしれない。こうも何度もチェックが入り、その都度、 「何かくれないか。」 と言われるとさすがに参ってしまう。 マサゲから７４ｋｍを走ると、首都ンジャメナに到着した。町の入り口で首都到着を祝い、記念写真を撮ろうとした。すると付近にいた地元の人たちがやって来たので、一緒に写真を撮った。
チャド 「ようやく首都に辿り着いた。」ここで記念撮影。 
チャド 地元の人も混じって写真撮影。 
チャド この頃の私はげっそりしていた。  ンジャメナに着いた私は、ガイドブックを頼りに、市内のモスクの近くの安宿に投宿。オンボロなのに、ニジェールの倍くらいする高いホテルだ。値段も高ければ品質も最低。蒸した部屋だが、ほかに安宿も見つからず、しょうがなくここに泊まる。
チャド 市内のオンボロ宿に投宿。  宿でシャワーを浴び、町のレストランヘ出向いた。そこで白身魚とサラダ、パンを食べる。これで１５０円。 「ようやくンジャメナか。」 ビールも売られていたので、ンジャメナ到着を祝い一杯飲んだ。とにかく首都に無事に着けた。西アフリカからいよいよ中部アフリカ圏入りだ。車だったとは言えチャドの難関も越えられ、ホッとした気持ちになる。
チャド チャド市内のモスクで。  翌朝９月２３日。銀行へ行き両替する。ここからカメルーンや中央アフリカで使われる通貨は西アフリカで使われていたシェーファーフランとは別の種類のもの。これからこの通貨とは長い付き合いになりそうだ。
チャド 中央部のアフリカで共通して使われていた紙幣。チャド、中央アフリカ、カメルーン、ガボンなどで使われている。  銀行で両替をし、その後、フレームの折れてしまった飛脚号を修理してくれる溶接修理工場を探した。アフリカは溶接修理が盛んで、その種の工場はすぐに見つける事ができた。あっちにもこっちにもあり、どこがいいのか迷ってしまうほどだ。 「この辺でいいか。」 私はそこの主人に自転車を見せ、お願いすると、電気溶接で念入りに修理してくれた。鉄の金具をあてがってくれ、かなり丈夫な感じに仕上がっており、これでまた何ｋｍも走れそう。主人に修理代を聞くと、 「１０００シェーファー。（２３０円位）」 と言う。彼らの生活水準で言ったら普通なのかもしれないが、安すぎて、こちらとしては何だか悪い気がしないこともなかった。
チャド 修理後の飛脚号。 
チャド 修理後の飛脚号。下部から見た所。  修理を無事に終えた私は、ガイドブックお勧めのレストランヘ出向いた。これが腹一杯食べて１１０円ほど。結構美味い。夜もやっているのかと聞くと朝昼のみだという。この日の晩は白身魚のフライにビールなどとした。 翌朝、近くのレストランヘ朝食。シトロンのフルーツジュースを飲む。その後パンツ、靴下を買いにマーケットを歩いた。いつものようにアラブ独特で、吹っ掛けてくる売り子が大半。同じ品でも店によって倍も値段が違うのだから恐しい。でも良い人もいる。ここで靴下を買ったが、長持ちもしなければ履き心地も悪かった。失敗。その後、郵便局へ出向いたが１１時４５分位で閉まってしまっていて、また午後ということになり、昨日のレストランヘ行って食事。昨日と同じ飯だがやはり美味い。ンジャメナはヌアクショット、バマコ、ニアメなどと同じサヘルにある首都だが、湿地帯があるせいか、食糧事情は豊かそうだった。数々のフルーツに野菜、魚、牛肉にマトン。見ている限り人々は貧しくはないようだ。砂にまみれたあのリグリグの村を思い返せば同じ国とはとても思えない。雲泥の差がある。アフリカの首都と田舎の、その差はいつもすごい。 翌日の寝起きは最悪だった。昨日の夜は良く眠れなかった。このチャドの宿は通気性が悪いのか、外は涼しくて気持ち良いのに、中は暑く、窓の少ないコンクリート壁に囲まれて眠る夜は不快だった。昨日の食べ物が何か当たったのか、朝からピーピーと下痢気味。まるでコレラのごとく何回も便所に駆け込む始末。２、３分おきに「グルグルグル」とくるので、当然、出発などできずに午前中一杯は横になったり便所へ通ったりして、時間が過ぎてしまった。それでも午後に、なんとかホテルを出る。今一つ体調が思わしくないが、国境を目指し走り出す。そして腹の具合が悪いのにコカコーラを飲んでしまう。バカな私。 橋を渡ってすぐカメルーンかと思ったが、そこから１０ｋｍ以上走り、やっとチャド側の国境に着いた。 「ここでは何を要求されるのだろうか。」 と不安だったが、いたって親切、フレンドリー。賄賂の要求も何もなく、すべての手続きを終える。サングラスをかけた危なさそうな係員が、 「パスポートを見せろ。」 ちょっと恐い感じだった。しかし、その後は、 「どっから来た、どこへ行く？」 と、彼もまたフレンドリーだった。こうしてチャドの走行は無事に終える事になった。チャド走行は車での移動が長く、走ったのは１００ｋｍほどだった。私は大きな橋を渡り、いよいよ９０ケ国目のカメルーンへと向かって走り始めた。
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