第２９７話 ８８カ国目 ニジェール 「念願のニギミ到着・・・。」  この町まで何とか走る事ができた。 ニジェール走行のゴール地点だ。嬉しい・・・。
アラスカ出発 １９９２／４／１～ニジェール １９９６／９ ニジェール出国までの走行距離 約８９８２６ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１～１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
ニジェール走行 １９９６／８／１２～１９９６／９／１９ 走行距離 約１５７９ｋｍ  |
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９月１７日。朝からお茶漬けを食べた。椋木さんに頂いた貴重な日本食なのに、我慢できずに早速食べてしまった。これがさっぱりとしてうまい。お茶漬けはこんなに美味いものだったのかと変に納得。それにしても日本食はおいしい。テントを畳み、追い風に乗って３５ｋｍほど走ると、ディッファに到着した。
ニジェール ディッファに到着。道沿いを鮮やかな衣装を身に付けた女性が歩いていた。 
ニジェール 暑いのに重たい荷物を頭の上に載せ大変そうだ。 
ニジェール 次々に村人がやってきては過ぎ去って行った。 
ニジェール 私の走った道。 
ニジェール ディッファ周辺で見た珍しい家屋。  ディッファの町では食糧を調達する。いつものように珍しがって寄って来た子供たちが、マルシェ（マーケット）への案内役となった。 「玉ねぎはあっちだよ。オレンジはこっちだ。ニンニクも買ったほうがいい。」 などと言ってくれる。騒がしいのだが、頼もしくていい。 「これは買わなくていいの？あれは？」 気の効く親切な子供たちに私もたじたじ。物乞いしてくる子はここにはいない。無邪気に手助けしてくれる子供たちに感謝。ディッファは砂埃もゴミも舞う汚い町だが、ナイジェリアとの国境が近いためか、物資にはとりあえず恵まれているらしい。ナイジェリア通貨である「ナイラ」も多く使われているようで、 「いくら？」 と聞くと、 「○○ナイラだ。」 と返ってくる事も多かった。英語を話す人もおり、 「ハウワーユー？」 と声を掛けてくる子供たちも少なくない。 このディッファの町のポリスヘ寄って、「通過スタンプ」と言うのを一応パスポートにもらっておく。ガイドにそうするようにと書かれてあったためだ。「私は外国人で、この町を通過しチャド国境に向かいます。」と言う報告の意味も兼ねたものなのかもしれない。水も調達したりして、１時間ほどこのディッファにいただろうか。雑用を終えて出発。 道はまた悪くなり、ボコボコのアスファルト。しばらくして通った小さな村は今までの普通の村とは違い、難民キャンプのような感じで、家の作りも人々の様子も違っていた。ナイジェリアからやって来た人々だろうか。 この日は夕刻５時まで走り、道沿いにテントを張って自炊することにした。
ニジェール 道沿いにテントを張り自炊することにする。  ニジェールの東端まで来たせいか、車の通りはほとんどなかった。１日に見る車は数台と知れている。テントを張っても静かな夕刻だった。私は自炊の準備を始めた。すると、そこに３人の男たちがやってきたかと思うと、いきなり英語で、 「水はあるか。」 と言う。 「あるけど・・・。」 「くれ。」 水はあっても私自身が使う分でギリギリ。明日の朝も自炊しなければならない。渋っていたが、「くれくれ」としつこく言うので、コップ１杯ずつ３杯上げた。英語を話す態度の悪い男たちは、どうやらナイジェリアから来たらしい。かなり強引で、地元ニジェール人とはその様子はまったく異なっていた。 「ナイジェリアに入国しないで良かったかもしれない。」 そう思った。夕刻は気温が下がってくれ、気持ち良く過ごせた。 「今日も１日無事に走れたなあ。」 そんな充実感に浸る瞬間である。食欲は旺盛、体調もすこぶる良く、そして走行ペースもいい。壮快なひとときだった。 「明日はいよいよ西アフリカの旅の終点の町、ニギミヘ向けてのペダリングだ。」 苦しかったニジェール走行だけに、感慨深いものがある。 翌日９月１８日。西アフリカの旅の終点地であるニギミヘ向けて走り出したのは早朝６時。チャド行きの車探しが心配なので、できるだげ早く町に着き情報を得ようと思っていた。昨日は水がかつかつだったので、朝の朝食はコーヒー１杯だけ。腹をグーグーと鳴らしながらの走行が始まった。朝夕がとても涼しかったせいか、太陽が昇った８時には既に暑く感じるようになる。ニギミまでの距離はちょうど５０ｋｍ。日陰で休みながらガムシャラに走り、午前９時に到着してしまった。
ニジェール ようやくニギミに到着。ここまで走れて本当に良かった。
ニジェール 走行途中で出会った少女も笑顔で接してくれた。嬉しい。  町の入り口のジャンダルメリでパスポートチェック。ここにはとても面倒味の良い人がいた。アラビア語で、 「彼はチャドヘ行く旅行者。チャド行きの車が来るまでの滞在をお願いします。」 と、コミサリア（警察署のような所）ヘのメッセージを持たせてくれた。このメッセージを書いてくれたお陰で、後に国境にある警察署で気軽に野宿させてもらえる事になった。この近辺の人々の様子はモーリタニアで接した人々に似て、面倒見の良い人々が多い気がする。 商店でジュースを飲み、一休み。そして町のコミサリアに向かった。真っ先に出国の手続きをそこで済ませる。 チャド行きの車（４ＷＤ）はチャド人が運転手で、ニギミからチャド湖北部の半砂漠地帯を通過し、首都ンジャメナまで走る。約５００ｋｍのこの砂道は、ニジェールとチャドを結ぶ唯一のルートで、運が良ければ２、３日待ちで乗れ、悪ければ１週間も待たされる事になるそうだ。このチャド湖北部の縦断ルートは深い砂道なので、自転車で走るのは不可能。ここばかりは車に頼るしかない。車は必ずコミサリアに立ち寄る事になっており、コミサリアはチャド行きの車を待つ、待合い宿みたいな役目もしている。そこには先客がいた。車を待っていたのはカメルーン人とザイール人、それにガーナ人とブルキナファソ人の計４名。その中のカメルーン人の男、ジャンポールとは気が合い、色々と話をした。 「アルジェリアまで出稼ぎに行ったのは良いけど、納得のいく給料をもらえずに、嫌な思いをしたんだ。」 そんな話をしてくれた。アフリカではリッチな国のカメルーンのはずなのに、 「なんで出稼ぎに？」 と聞くと、やはりお金を蓄えるのは、カメルーンでも大変との事だった。 警察署内でうろうろしていたマモという警官に誘われ、車探し。市場へ両替しに行くことにした。旧仏国領の西アフリカと中央部のアフリカは同じＣＦＡ（シェーファーフラン）が使われているのだが、西と中央と言う形で区分され、異種。しかしレートは同じで１：１。私は中部アフリカで使われるＣＦＡを換金したのだった。 さて肝心の車の方はと言えば、なんと今日、昼過ぎにチャドヘ向かうものがあるという。値段は２万シェーファーフラン（約４６００円）とべらぼうに高い。アラブ系のチャド人のパトロン（運転手）で、値はビタ一文も下がらない。しかし値段はとにかく、チャドのビザも期限があるし、この日の車に乗ることにした。即日に乗れるならば、高いとは言え、運がいい方だと半分喜んだ。 しかし車はすぐに来ると思ったら、いつになってもやって来ない。仕方がないので昼を自炊する。そしてその後１５時、１６時、１８時。結局、夜まで待ってもチャド行きの車は署に来なかった。 「やはりいい加減なんだなあ。」 しょうがないのでこの晩は、署の庭にテントを張らせてもらう。簡単に設営できるアメリカ製テントを見た署員たちは、感心して見入り、それは子供のように、 「ワー、すごいな、すごいな！」 と喜んでいた。運良くこの、ニギミ到着当日にチャド行きかと思ったが、そうは簡単にいかなかった。きっと、明日、また明日、という具合にどんどん延ばされて、１週間くらい待たされるのかもしれないと最悪を想定した。 「いつ出国できるのだろうか？」 そんな不安な思いを抱きながら、署の庭で眠りについた。 翌朝９月１９日。 「おはよう。」 カメルーン人のジャンポールが気持ちの良い笑顔で挨拶をしてくれた。笑顔の多い憎めない男だ。この日の午前中、警官マモが、チャド人のパトロン（運転手）を連れて来た。すると、 「今日、チャドへ向かう。」 と言うではないか。 「え、本当？」 また嘘ではないかと思ったが、今回は本当らしい。２日目にしてチャドヘ行けるのであれば、やはり運がいい。昨日とは違うパトロン（運転手）で、早速値段の交渉。昨日は２万ＣＦＡだったが、この日は長い交渉の末、昨日に比べ１割程下がった。普通は人一人で１万ＣＦＡ。しかし私の場合は自転車があるためにうまく値段を吊り上げられ、ぼられている感じだ。価格表も何もないこうした砂漠では彼らの思うがまま。殿様商売なのだ。こちらとしてはできるだけ粘って、値を下げるしかない。高くても、今日中に出発できればそれでいいと思った。チャドのビザも９月２６日までなので、この車を逃すとまた面倒な事になる。あまり強気で交渉に望めないので少々悔しいが妥協してしまった。ザイールの彼とジャンポールは１万ＣＦＡと聞いて腰を抜かし、 「そんな高いのあるか！」 と断念。もっと安い便を待つと言う。私は待てないので金よりも時間をとり、彼らは時間よりも金をとった。 コミサリアで交渉が終わると、チャド人のパトロンはトヨタのランドクルーザーを運転して署にやってきた。 「うわー！すごい・・・こんなのでチャド湖北部を走って行くのか。」 何年か前の型のトヨタ車を見て唖然とした。
ニジェール やって来たのは何年か前のトヨタ車だった。これでチャド湖北部を横断？？大丈夫なのか・・・。  パトロンの名はアフマッド。４０歳くらいの男だ。客は私の他にリビアヘ出稼ぎにいくというガーナ人とブルキナファソ人。共にイスラム教徒。そしてこの他にもあと２人の乗客をニギミの宿に寄って乗せて行くと言った。 私の自転車を積んで出発準備が終わり、昼頃にジャンポールたちや、コミサリアの署員に別れを言って出発。ジャンポールたちには悪い気持ちがしたのだが・・・。 ニギミの町中で客を２人拾って乗せる予定だった。ところがそのうちの一人が具合が悪いと言う事で、パトロンは、 「チャド行きは明日の朝に延期する。」 などと言い出す。 「明日？それはないだろう・・・でも、まあ、こんなもんだろうな。」 客を乗せるはずだったその木陰で、ガーナ人たちと話しをしながら時間を潰していると、パトロンがやってきた。 「載せる予定だった彼は今、死んでしまった。」 などと言う。冗談だと思ったが、真顔でそう言ったので本当らしかった。これからすぐに葬儀が執り行われると言う。同乗していたガーナ人とブルキナファソ人、それにパトロンも皆イスラム教徒で、葬儀に参列するらしい。私はその間、一人車で待たされることになった。村から集まった人々は砂地に座り、葬儀ともメッカへのお祈りとも見分けのつかぬ儀式を外で行い始めた。３０名程か、木陰でござを敷き、いつものメッカへのお祈りのようにも見えるが、どこか違う。 「長いな・・・とても長い。」 日本で言ったらお坊さんのような代表格の男が、何かコーランのような言葉をひたすら唱えていた。１時間程その儀式は続いた。その後村人の手にはスコップがいくつか用意され、次に棺桶が運ばれてきた。そして３０名程の団体は墓地らしき砂地へと向かって歩いていった。一方の私は木陰の車の中で彼らの様子をちらちらと見ながらひたすら時を待った。写真を撮るのはまずそうなのでやめた。 しばらく時間がたち、一行は埋葬を終え、帰ってきた。そして木陰のござの上で今度はボソボソと座談会が始まった。英語とハウサ語と多少のアラビア語を話すガーナ人（彼の名もアフマッドと言う）の通訳で何があったのか教えてもらう。すると、死んだ男は、なんでも病んだ体のままブルキナファソからこのニギミまで１日半で車で移動して来たそうである。私はジンデールからニアメの、あの車の移動でさえくたくたで、嫌になったのに、それをブルキナファソからの２０００ｋｍを１日半、それも病人が移動したと言うのだから驚きだ。 「なんてこった。」 私が言うと、パトロンがふっと言った。 「すべてはアラーが・・・。」 パトロンもガーナ人たちも参列した葬儀は終わり、夕刻には予定を再変更してニギミを出発、チャドの国境へ向かうことになった。ニギミの町を出ると深い砂道が出現した。日本の若者ならＲＶ車で喜んで走り回りたくなるような道だ。
ニジェール こんな道が何ｋｍ続くのか？本当に大丈夫なのか？  跳ねたり揺れたりするので、乗っているだけで意外にも体力を使う。 何時間か走り、チャド国境手前に到着すると、 「今日はもう国境は閉まってるから明日の朝一で入国しよう。」 そうパトロンのアフマッドが言った。この晩は砂地の上でみんなで野宿。私もゴロゴロと横になった。ところが砂漠なのに蚊がいるのか、何かチクチクと肌を刺す虫がいた。何かと思って懐中電灯を照らすと、小さな昆虫だった。こいつが肌をチクチクと刺すのである。パトロンを見ると、かなり厚着していた。 「なるほど・・・。」 私も慌ててテントを張り、その中で横になった。 翌朝、９月２０日の出発は６時頃。日も出て、もうすっかり明るい。７時過ぎにダブアという国境の小さな村に到着した。以前にも増して丈の小さくなってしまったキビの畑。砂道の両側は土壁造りの家が連なっている。小さなこの村の住人はごく少数のようで、軍人が多かった。このダブアの村でチャド入国のチェックをする事になった。
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