第２９６話　８８カ国目　ニジェール

「ミルクの差し入れ・・・。」

「これを飲むと元気が出るぞ。」
ガッツポーズをして牛乳７００ｃｃをくれた地元の男性。

アラスカ出発　１９９２／４／１～ニジェール　１９９６／９
ニジェール出国までの走行距離　約８９８２６ｋｍ

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アフリカ走行　１９９６／２／１～１９９７／５／２８
走行距離　約２２１０７ｋｍ

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ニジェール走行　１９９６／８／１２～１９９６／９／１９
走行距離　約１５７９ｋｍ

　９月１４日。７時には出発したかった。が、昨日刺さったトゲトゲの植物の種を取るのに思いのほか時間をとられてしまった。修理やチューブの交換に２時間も掛かってしまった。ここで欧州から持ち歩いていたドイツ製のタイヤに交換して出発する。

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　ニジェール　自転車を引っくり返して修理開始。

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　ニジェール　タイヤはまだ使えたが、チューブはもう使えなくなってしまっていた。

　次のゴーレの村まではわずか２０ｋｍ。しかし出発したのが遅かったので、到着したのはお昼前。ここでまずガソリンを買い、その後に水補給。７．５リットルの透明な水が得られた。ゴーレの町はこの近辺では大きく、商店にも豊富と思われる品々が並んでいた。ここでは子供たちに案内してもらい、マルシェ（一般庶民の市場）に行って玉ねぎを購入。それにマトン、オレンジ、砂糖、電池、卵なども購入。この先は村も少なくなるだろうからと、ここぞとばかり徹底的に食糧の買い出しをした。欲を言えば冷えた炭酸飲料をもう少し飲みたかったが、たくさんの子供たちが私の行動を見て（監視して？）いたので、思う存分喉を潤すと言う訳にはいかなかった。
　村を出た所にあったジャンダルメリで、水の有無や道路情報の収集をする。彼らは協力的で、ポンプ（井戸）のある村、無い村などの情報を当たり前のように教えてくれた。
　ゴーレ付近からか周囲の土壌は変わり、砂地が多くなった。遠くにある砂丘を見た時、ふとモーリタニアに舞い戻った気がした。それだけサハラに近づいたと言う事になるのだろうか。吹く風は以前より乾燥しており、不快指数も下がってくれ、日陰で体を休めると快適だった。
　走行途中にオレンジ４つにチョコ菓子で間食。そして午後２時から自炊。玉ねぎとマトンを炒め、ラーメンを作り、その上に炒めた具と生卵をぶっ掛けた。そんな料理で腹を満たし再出発。
　夕方になり、突然軍人の乗った車の集団に止められた。軍人たちは自動小銃を持っている。
「な、なんだ、なんだろう？」
私は焦った。しかしフレンドリーな軍人たちで、興味津々に私の旅について聞いてくるだけだった。
「ほっ。」
これでもし、銃でも向けられて、
「おい、金よこせ」
なんて言われたものならお終いだがそんな事はなかった。
　しばらく走っていると、地元ハウサ族の女性が道路を横切った。いつか彼女たちの姿を写真にと思っていた。この日カメラを取り出し、彼女たちに、
「写真撮ってもいいかな。」
と聞くと、照れながら、緊張しつつオッケーをしてくれた。が、あまり良い表情はしてくれなかった。せめてにこりと笑ってくれればと思ったのだが・・・。

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　ニジェール　地元ハウサ族の女性の写真を撮らせてもらったのだが。

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　ニジェール　なぜか良い笑顔をしてくれなかった。

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　ニジェール　途中の小さな集落を眺めながら走る。

　この日走った距離は６３ｋｍ。そしてうまい具合に固めの土壌を見付けテント自炊。まさか今日もと思ったが、ふと飛脚号のタイヤを見ると、やはり昨日同様のトゲトゲ。ドイツ製タイヤにもブスブス刺さってしまっていた。サバンナの野宿は厄介だ。
　野宿地にはプスプスと刺す虫も飛んでいたので、蚊帳を吊ってその中で自炊をし、ロウソクの明かりを灯しながら薄暗い中で、ガツガツとご飯を食べ始めた。すると暗闇から一人の男がやって来た。彼は大きなひょうたんで作った器にミルクを入れており、私に飲めと言っている。
「こ、これはもしかしてラクダのミルクでは？」
土にラクダの絵を書いて問うと、
「違う。」
と首を横に振る男。
「じゃあ、これは『モーッ』のですか？」
と聞くと、
「そうだ。」
とにこやかにうなずいた。
「これはのう、元気がでるぞ。」
そう言ってしきりにガッツポーズをしてくれる。この優しさに感動した。

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　ニジェール　「これはのう、元気がでるぞ。」そう言ってガッツポーズをしてくれる男。私も元気が出た。

　男は去り、その後私は７００ｃｃのミルクを煮沸させ、砂糖をたっぷり入れて飲むと、とても濃くて旨みがあった。何もないようなサバンナかと思ったが、まさかこんな所で美味しいミルクを飲めるなんて思いもしなかった。辛いと感じたサバンナ。その厳しい土地で暮らす人々。自然の恩恵を受けつつ、うまいこと自然と共存してるんだ、そう感心してしまった。この夜、通り掛かった男がくれたミルクの味は今も忘れられない。
　翌朝９月１５日。昨夜、牛乳を持って来てくれた男は、朝は朝でミレット（きび）を発酵させたものを持って来てくれた。この近辺では人々はいつも朝にこれを飲んでいる。砂糖を入れるとヨーグルトみたいで、あっさりしておいしい。キビジュースといったところだろうか。

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　ニジェール　どこからともなくやって来た人々と朝方に写真を撮った。

　この近辺で唯一元気にスクスク育っているのがこのキビだ。加工法も色々あるのだろう。色々と持って来てくれるこの男性には、まったく恐縮するばかり。それにしてもジンデールから東のニジェールは国が変わったように人々も親切になった。旅行者がそれほど入っていないためだろうか。こんな土地はサイクリングしがいがある。
　地元の人々の温かな志を受け、今日も出発。昼食は自炊。椋木さんにもらったラーメンを食べる。砂漠のような気候だが、乾燥しているせいか、日陰に入ると以前より涼しく快適に過ごせるようになった。乾燥した気持ちの良い風が頬に当たった。

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　ニジェール　サバンナの向こうには砂丘が見えていた。

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　ニジェール　かなりたくさんの砂だ。

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　ニジェール　砂道にはたくさん植物のトゲがあるので要注意。休むときはアスファルトの上で休んだ。

　ゴウドマリアという村に到着し、ここで再び７．５リットルの水を補給。村の入り口の道沿いにはなんと水道の蛇口があった。その周辺では小供たちが元気に遊び、村の女性も水汲みに集まっていた。ここにはもう以前のように物乞いする子もいない。そんな元気で明るい人々と写真を撮った。

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　ニジェール　彼らのすぐ後ろにはきれいな水の出る水道があった。

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　ニジェール　元気な村人と写真を撮る。

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　ニジェール　今までの村で接した人々とは違い、とても明るくフレンドリー。なぜだったのか。

　水を汲んでしばらく走ると、村の男達がなにか売っていた。バナナがあったので７つほど買う。あまりうまいものではなかったが、一応腹は膨れる。どうやらナイジェリア経由で来たものらしい。ゆで卵もあり、３つ買った。その後また走り出す。

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　ニジェール　ひたすら東進。まるで地の果てにでも向かって走っているようだ。

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　ニジェール　手前にキビ畑。その後ろには砂丘。

　怪しい雲が見えだした５時頃。砂地の上にテントを張って野宿することにした。砂にじゃりじゃりとまみれながらの作業で大変。この時はニアメで買った貴重なタイ米を炊いた。これが最高にうまかった。

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　ニジェール　砂に吹かれながら自炊。砂がジャリジャリと混じってしまったが、ここで炊いたタイ米はとてもうまかった。

　翌朝９月１６日。朝から砂だらけ、そしてブッシュを歩いたせいかバカがたくさんバックについてしまい、バカだらけ。この近辺にはバカが多くて困る。それも日本にあるようなのとは違い、チクチクと刺さる感じで、非常に厄介なものだった。

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　ニジェール　周囲は本当に砂ばかりとなってしまった。

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　ニジェール　一面砂だらけ。

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　ニジェール　砂地の中にもわずかな緑があった。

　走り出した午前中は曇り。そして運良く追い風。今までボコボコだったアスファルトもディッファ州に入ると同時に良い舗装路になり、走行のペースはあがった。朝一番で通った小さな村には公共水道があったので、ここで水を頂く。いつも水をもらった時は生き返る思いがする。
「ああ、これでまた安心だ。」
水も十分に確保でき、道も良しときて、午前中に８０ｋｍを算出。この日のお昼も懲りずに野菜をミックスしてラーメンを作った。椋木さんに頂いたラーメンのスープが信じられないくらいうまい。砂漠を眺めながら汗して食べる日本製ラーメンほど美味いものはなかった。
　マイネソロアという町に着き、ここでまた、電池やマトンの肉などを買う。

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　ニジェール　ニジェールの月光仮面登場。マイネソロアという町にやって来た。