第２９１話 ８８カ国目 ニジェール 「チャドビザ・・・。」  ここでダウン。２４時間下痢に苦しめられた。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜ニジェール １９９６／９ ニジェール出国までの走行距離 約８９８２６ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
ニジェール走行 １９９６／８／１２〜１９９６／９／１９ 走行距離 約１５７９ｋｍ  |
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ベナンを出国した私は、腹を抱えながらニジェールに入国。今すぐにでも便が漏れそうだが、出国の作業を終えるくらいまでは何とか我慢できそう。国境管理事務所に着くと、軍人の姿が多く目に入った。大統領選挙後間もないニジェールでは、軍が政権を担当していた。後で聞いた話では、国民投票は無事行われたが投票箱は軍人が持っていってしまったとか。国境には、 「金をよこせ。」 と言いそうな怪しい危険な雰囲気の漂う軍人がたむろしていた。しかし、手続きを進める上ではまったく問題なく、入国カードとパスポートを渡すと、きちんとノートに記帳していた。パスポートには入国印も押され、 「行って良し。」 作業は至って事務的に終了。これで８８カ国目、８８２７４ｋｍ地点、無事にニジェール入国を果たすことができた。イミグレーションの前では数人の車椅子に乗った人々が、国境越えする人に寄付を募っていた。ニジェールではなぜか身障者を目にする機会が多かった。 さて、無事に国境を越えたものの、相変わらず私の腹は調子が悪い。我慢して国境を越えたが、走り出してもグルグルと鳴っており、下痢気味。時々痛みもやってくる。走り出したがすぐに茂みに駆け込んで用を足した。メキシコからだろうか、途上国では下痢気味の大便が排泄される事は多かった。しかしこの時の下痢は、ノーマルな状態の時とはちがっている。ピーピーだが、排出感と言うか、感触がおかしい。体中がだるく、すっきり感や爽快感がないのである。明らかにいつもの体調ではない。便を見れば通常とは違い、かなり水分が多そうだった。その後もとりあえず走り出すが、サドルにまたがっているだけでも辛く感じるようになり、吐く息はゼーゼーと荒くなり、疲れがどっと出てきた。 「どうしたんだろう。昨日は特に変なものを食べたつもりはないのだが。」 大便をした後、１０メートル走るのも辛くなってしまった。こんなのは初めて。 「ちょっと体を休めて行こう。」 道沿いにいい木陰と草むらを見つけたので、そこにシートを敷いて少し横になっていくことにする。ところが横になって回復するかと思いきや、息はますます荒くなっていった。少し休んで再び走ろうと思っていたのに、容態は悪化していく一方。横になったは良いが、再び起き上がるのに一苦労。走る気力はすでになく、やっとの思いでその場にテントを設営し、再び横になる。時々下痢と腹痛に襲われ、茂みに駆け込み、用をする。するとまた水便だった。これが何回もあり、 「もしかしてコレラではないか。」 と疑ってしまった。コレラの予防接種などやってない。痛む腹を抱えつつ、ウーウーと唸りながら、ぐったりとしてテント内で過ごした。結局この日の朝１０時頃からほぼ２４時間、翌朝までこの苦痛は続き、テントの中でずっと過ごす事になった。こんなに苦しい腹痛は生まれて初めてだ。 ニジェールでの苦しい経験はこの日だけでは終らなかった。「地獄の３週間」とでも言いたくなるような辛いニジェール走行は、まだこれから始まろうとしていた。
ニジェール ここで２４時間下痢に苦しんだ。辛いニジェール走行はこのときすでに始まっていたのかもしれない。 翌日、具合はまだ悪いが体調は回復している様子。水便もでるが、コレラでないことを祈るしかない。走れるまでに体調が回復したのは昼の１２時頃。テントを畳み、サドルにまたがり何とかペダルを踏み始めた。しかし走行中何度もブッシュに駆け込んだ。腹の具合はまだ良くないらしい。ピーピーが続いている。時々フラフラしながら走り続けた。 お湯で作る炭水化物なら消化もいいかもしれないと考え、ガヤという町でスパゲティを買い、それを自炊した。茹でたスパゲッティに、カナダで出会った世界一周サイクリストの後藤さんから送られてたレトルトの「牛丼の素」をぶっ掛けて腹に入れる。これがたまらなく美味い。いざと言うときはやはり日本食だ。少し元気が出たような気がする。美味い食事をしたお陰か、体調も徐々に回復。２、３日で完治しそうで安心。この日はブッシュにテントを張った。
ニジェール ブッシュにテントを張った。  翌朝起きると、腹痛はだいぶましになっていた。原因はやはり食事だったのだろう。テントをたたんでいると、地元の子供たちが私の様子を伺いにやってきた。しかしどこか怪訝そうな表情を浮かべている。なぜか分からないが、私はよそ者として歓迎されなかったのか。とりあえず彼らの写真を撮らせてもらった。
ニジェール どこか怪訝そうな顔をしていた子供たち。 
ニジェール カメラを向けると、何故か構えたアグレッシブな少年。  野宿地を後に走り始める。この日目指したのはドッソと言う町。チャドのビザを取得するためにニアメに行かなければならないのだが、そのニアメはドッソの北西に位置している。私の進行方向は東なので、ドッソからは公共の交通手段を使って首都へ向かおうと考えた。野宿した所からドッソまでは１００ｋｍくらいはあったが、今日中に着こうと、気合いを入れてペダルを踏んだ。運良く追い風を受けながら小さな村々を壮快に走り去って行く。
ニジェール 大きな河では洗濯をする地元の人々の姿があった。 
ニジェール 地元の人が乗っていた船。 
ニジェール 茶色の大きな河。  ジュースやパンなどを食べながら、ひたすらドッソ目指し走り続ける。日中は暑かったが、平坦な道が続いていたのでそれほど苦痛なく走れた。先日の腹痛も完治してくれたようで、ペダリングは軽快だった。
ニジェール ドッソに向かう途中で見た風景。  目的地であるドッソに到着。ベナンとニジェールの首都ニアメを結ぶ重要なジャンクションであるこの町からは、チャドを目指しニジェールを東進して行く。メインの国道なので、舗装されている部分が大半。路上には屋台がたくさん並んでおり、砂埃舞う中で人々は熱心に商売をしていた。
ニジェール ドッソの町の路上の屋台では活気が溢れていた。  ガイドブックを頼りに町の安宿を訪ね、ここに泊まる事にした。ここはザイール（コンゴ民主共和国）から来たというおばさんがロシア人のオーナーと切り盛りをしている。ザイールおばさんは東洋人びいきで、私はしどろもどろのフランス語でザイール国内の事などを教えてもらった。
ニジェール ドッソの街中にあったオンボロ宿。ここにお世話になる事になった。  翌日８月１５日、宿のザイール出身のおばさんに荷物を預かってもらい、チャドのビザを取得すべく一路首都ニアメへと向かった。自転車は置き、トヨタワゴンタクシーに乗って行く事にする。移動距離は約９０ｋｍ。時間は１時間半で運賃３００円。小さなワゴンに１５〜１６人が鮨詰め状態で乗るため、窮屈このうえない。ただでさえ暑いのに、私の足元にはエンジンがあり、我慢大会でサウナにでも入っているよう。直射日光も当たり、暑さ倍増。アフリカで車の移動は楽だとバカにしていたが、結構ハードなのだとこの時実感した。 １時間半程で首都ニアメに到着。まず最初に銀行で両替しようとしたが、午前中の仕事はおしまい。午後の部は４時過ぎからの営業だという。フランスと同じで昼休みが長いようだ。暑い日差しの中ニアメの町を見て歩く。高いビルに壊れかけの建物、多くのトヨタスターレットにコロナタクシー。そして路上屋台に砂埃。流れるコーランにモスク、日陰では定刻にメッカヘとお祈りをする人々の姿がある。 「ここがニジェールの首都ニアメか。」
ニジェール 首都のニアメに到着した。 
ニジェール 立派なモスクもあった。  ビルが建ち並ぶニアメの街。砂埃を巻き上げて走る車。街の大きなアスファルトの通りをターバンを巻いたトアレグ人が、ラクダに荷物を載せ悠然と歩いていた。
ニジェール ラクダを連れた地元の人々の姿があった。 
ニジェール 街をのんびり歩くラクダたち。  街の様子を見ながら銀行で両替を済ませ、チャドの大使館へタクシーを飛ばした。運転手に、 「チャドの大使館へ。」 と言うと、 「よし、分かった。」 と言う顔をした。良かった。やはりニアメにチャドの大使館はあったようだ。大使館に着くと既に閉館。せっかくドッソからやって来たのに、ビザの申請は翌日に持ち越しということになってしまった。しょうがないのでそのまま宿を探し投宿。
ニジェール ニアメで泊まった宿。  翌日１６日の朝一番に再びチャド大使館へ。用紙に記入し提出すると、２時間程待たされた。領事に呼ばれパスポートを受け取る。しかし受領したビザの有効期間を確認すると、発行日から１５日間との事。 「あれ、これは？」 これではニジェールとチャドの国境に着く前に期限が切れてしまう。走行中に期限切れになってしまうではないか。
ニジェール せっかく取得したチャドのビザ。有効期限は取得後１５日間のみ。  「あのこれは？有効期限は今日から１５日って事ですか？」 申請用紙には９月から１ヶ月と記入したはず。そう申し出ても、係官は、 「ここで出せるビザは発行日から１５日間が限度だ。」 と言う。これでは何の為にニアメに来たのか分からない。ショック。 結局この時取得したヒザは役に立たず、代金も返してもらえなかった。支払った１３００円がパーだ。ニアメ市内の宿へ帰り、今後の進路をどうしようか悩んだ。 「１５日間だけ有効と言う事ならば、このまま進みチャドに入国する少し前に、車でニアメに戻って来て再取得するしか方法はない。」 進む道は決まっている。チャド行きの為の陸路は一通りしかないのだ。 結局この時は、ニアメでチャドビザを取得したものの使い物にならずに、無駄足を踏んでしまった。そして再び自転車の置いてあるドッソへ車で戻った。
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