第２９０話 ８７カ国目 ベナン 「謎の腹痛・・・。」  ベナン北部では主食はキビを使ったものが多い。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜ベナン １９９６／７ ベナン出国までの走行距離 約８８２５０ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
ベナン走行 １９９６／７／２６〜１９９６／８／１２ 走行距離 約７９１ｋｍ  |
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海岸沿いから北上して行くと、走行途中、 「ヨボ、ヨボー！」 と小さい子供たちが私を指差し、半分小ばかにして笑いながら言っている。彼らの部族語で、 「こんにちは」 と言う意味なのか？と思ったが、言い方からして少し違っていた。後で聞いたら、この意味は「白、白」で「白人」を意味しているのだという。日本で言ったら「ガイジン、ガイジン」みたいな言葉なのだろう。彼らも決して悪気で言っている訳ではないだろうが、少し強い口調で、 「ヨボ、ヨボー！」 とどこに行っても言われるので、あまり良い気持ちはしなかった。差別的な言葉のようにも感じる。彼らの中に、白人に対しての何か特別な思いが込められていたようにも感じたが、それは私の思いすぎなのだろうか。 この日の宿は、ボイコンと言う名の町の３２ｋｍ手前に小学校を見つけ、ここの教室内で１泊させてもらう事にした。
ベナン ボイコンと言う名の町の３２ｋｍ手前の小学校の教室内で１泊させてもらう。  私が泊まっている事を知った子供たちが、青年を連れてやってきた。何か怪しい雰囲気がしたが、危険な感じはない。私の荷物を色々と見ては、 「これくれ、これが欲しい。」 と、おねだりをしてくるので困ってしまった。 「ペンをくれ。」 くらいならまだ良いが、 「このラジオくれ。」 には閉口。これが無かったら私は短波放送を聞けなくなってしまう。私が何もあげれないと言うと、 「何か思い出の品はないのか。」 と言われてしまった。彼らは物をもらえる事を当然のように思っているようだった。反対にもし私が困っていたら、彼らは私を当然のように助けてくれるのかもしれない。それだけ彼らの社会では、助け合いの精神が当たり前のようにして育まれているということなのだろうか。 「何かくれ！」 と言うその裏には、 「私もあなたに、何でもあげるよ。」 そう言った助け合いの心が見え隠れしているように思えた。物資が限られているこうした地に先進国の人間が入っていくと、どうしてもギクシャクした関係になってしまう感じだ。何かを与える事を躊躇してしまうのは、どこかに壁を造ってしまっているせいかもしれない。
ベナン 「何かくれ」とねだってきた子供たちと青年。 
ベナン 小さな教室内で記念に写真を撮った。  翌朝は早くから子供たちが私のテントにやってきた。小さい子供たちばかりで昨日の青年たちの姿はなかった。昨日の子供たちが口コミで伝えたのか、９人もの子供たちが集まってきていた。いつもは路上脇で私を見ると、 「ヨボヨボー！」 と、やかましい子供たちも、私がパンにジャムを塗って皆に配ると、なぜかシ〜ンとして、本当に信じられないくらい不気味に静まり返って食べていた。小学校低学年くらいだろうか。このくらいの子供たちは実にかわいい。 ベナンに入ってからは、物をねだる人がなぜか増え、走行中に私を止めると、いきなり、 「金くれ。」 などと言う男もいるくらいだった。こうした土地を走っていると、精神的に疲れてしまう。
ベナン トーゴのように南北に細長い国。その中央部を走る道を北上して行く。  この日、ダッサウという町に到着して宿探しを行った。１軒目は１５００円もする高い宿。（私の頭の中ではこれでも高いと感じる。）庶民用の宿が必ずどこかにあるはずだと、小さな町の繁華街で村人に聞いていくと、ボロ宿のありかを教えてくれた。早速訪ね、部屋を見せてもらう。ところが中は蒸しており、とても暑くて眠れそうもない。そこで、シャワーだけ使わせてもらい、外の広い庭にテントを張らせてもらえないかと聞くと、オッケーしてくれた。
ベナン 安い宿の大きな庭でテントを張らせてもらった。  小さな町、と言うか村だったが、夕刻を過ぎると町のメイン道路にどこからともなくたくさんの人々がぶらぶらと集まってきた。その雰囲気はまるでお祭りのようである。屋台が並び、灯油ランプの明かりが灯ると、とても和やかな気持ちになれる。屋台やレストランには食品衛生法も何もなく、料理作りもその管理もやりたい放題といった感じだが、そうした自由によって、彼らの、アフリカの人々の持ち味が十分に出されているように見えた。物質的には乏しいかもしれない。しかし、こうした灯油ランプの灯る夜の町を歩きたくなると言うことが、アフリカの不思議な魅力の一つでもあった。 この晩は、ビールを売っている店の軒先に出ていた、おばちゃんの屋台に顔を出した。地元の人が結構集まっていたので、私もさっそくそのおばちゃんの炊き込みご飯を食べてみた。すると、 「ん、うまい！おばちゃん、こりゃ、うまいよ。最高だね。」 カレー味で、マトンや野菜が入っており、最高の炊き込みご飯だった。これとビールを飲んで、元気が出てしまった。本当に忘れられない美味さだった。１皿は結構量があったのだが、ぺろりと軽く３杯も食べてしまった。おばちゃんに作り方を聞くと、 「これを入れるんだよ。」 そう言って、企業秘密であるスイス製の調味料を私に見せてくれたのであった。 翌日ダッサウの町を後に再び北上を開始する。町の周辺には奇岩があり、風変わりで美しい景観に囲まれていた。緑も多い。
ベナン この町でもバイクタクシーは活躍していた。 
ベナン ダッサウの町で。 
ベナン 奇岩が見えていた。 
ベナン ダッサウの町の近くで。 
ベナン ダッサウの町の近くで。 
ベナン 走行中に見た大きな河。 
ベナン 緑が多く水もあり、それほど暑さに悩まされそうもない感じだ。  割りとアップダウンも多く、下っては上る、上っては下る、その繰り返し。そんな道を走ったので、結構疲れてしまった。途中の集落を通過する毎に、耳にするのが子供たちの楽しい歌声だった。 「♪ヨボヨボ、ボンソワ、サバビヤン、メルシー、♪ヨボヨボ、ボンソワ、サバビヤン、メルシー・・・」 独特のリズムを付け楽しそうに歌っているのだが、私が手を振ったりしようとすると、 「キャー」 とか何とか言って村の奥に逃げてしまう。そうするとどうも悪口のようにも聞こえてくるのだった。歓迎されていて嬉しいような、単に馬鹿にされているだけのような、複雑な心境だ。いや、やはり手を振ってくれたりしていたから、歓迎してくれているのだろう。ベナンの南部全土で、この、「♪ヨボヨボ〜」と言う歌は聞かれた。 昼飯はサベという町でとうもろこしの粉を水と練ってふかした、変なプリンのような物と、カフェソーダと言うジュースを飲んだ。バニラエッセンスの効いた、この黒いソーダ水はなかなかうまく、そんなジュースを飲みながら走った。この日はそのサベの町を過ぎた所のブッシュの中にテントを張り、自炊した。
ベナン ブッシュにテントを張った。  サバンナにも雨季がやってきたのか、ここの所は雨も降り、テントを張って暑さに苦しまずに眠れる。朝夕の気温はぐっと下がってくれるので、本当にありがたい。ぐっすり眠れるので、疲れもよく取れる感じだ。 この日の朝方は霧が立ち込め、涼しい中でコーヒーを飲み、爽快にペダルを踏み出す事ができた。走り出すといつからか、子供たちの様子が変わっていることに気付く。以前はもっと、何かをくれと言い寄って来たのに、そう言った子供がぐっと減った。私の事を「ヨボ、ヨボ」と呼ぶ子供はなくなり、代わりに、 「ダットゥレ、ダットゥレ」 と叫ぶようになった。南部の人々とは部族の言葉が違うのだろう。少女たちが明るく手を振ってくれ、穏やかな雰囲気の子供の姿がそこにあった。お婆さんまでもが手を振ってくれている。 「ああ嬉しいなあ。」 ベナンのような小国でも、南と北ではやはり違いがあるのだろう。
ベナン ひたすらベナンを北上。 
ベナン アスファルトの道をひたすら歩く地元の女性。 
ベナン 北に向かって走っていると、次第に以前にも見た様な暑そうな光景が目の前に広がるようになっていった。  日中の日差しは雲が減った分強くなり、暑い。海岸沿いにはたくさんの雲が見えたが、北上して行くに連れ、湿度が徐々に低くなっていくように感じた。それでも以前のあのマリやブルキナファソのような猛烈な「酷暑」はないのでまだいい。 この日はパラコウと言う町で昼飯。例によってとうもろこしプリンのようなものを注文。それに豚肉ソース。腹一杯となって再び出発。次第にアップダウンも減り、周囲の風景も乾燥地帯へと入っていくのが分かった。 結局この日はンダリという町で買い出しをして、そこを過ぎたところのブッシュにテントを張り自炊した。
ベナン 牛たちものんびりと草を食んでいた。 
ベナン 以前のように地面が暑くないので助かる。  翌日走り始めると、周囲の木々の背丈は短くなり、気温も多少上がっていると感じた。途中で休憩してジュースなどを飲む回数も増えた。そんな中で見たのが、串刺しのマトンが焼かれる屋台風景だった。このマトンはマリやギニアで食べた「サバンナの味」だ。このマトンを食べると、暑さに苦しんだマリやギニアの走行をまた思い出す。 「暑い走りがまた始まるのか。」 少し休んで再び走り始める。しばらくして、ホイールの調子が悪いのに気が付いた。ガーナでスポークの調整をしたのに効果がなかったのか、道路脇に止めリムの振れ取りに苦闘。すったもんだして、ようやく満足に修理出来た。 宿泊する予定の村に着いたのは何時だろう。とにかく真っ暗の中の到着。路上でご飯２杯にマトンを食べて夕食とした。このとき店にいた青年が声を掛けてきたので、 「南と北は何か違うの？」 と聞くと、パラコウと言う町を境に南北では差があると言い、部族も違うのだそうだ。私が接した人々も、どこか違いがあった。本当に小さな国なのに、南北に差があると言うのが愉快に思えた。 この日は村の隅の空き地にテントを張らせてもらい、くたくたで横になった。 私がテントを張った「空き地らしき所」はどうやら村人の通り道だったようで、翌日にはたくさんの村人が私を変な目で眺めていた。そんな村人に見送られ、今日も出発。
ベナン 「こんな所で寝たのか？」と変な目で見る村人。  走り始めた朝方は曇りで気持ちも良かった。しかし、昼頃になると晴れてきて直射日光を受けることになった。暑さのせいか食欲が今ひとつ湧かず、昼飯は午後３時頃に食べる。 走行途中には、今まで見た事もないような美しい飾りをたくさん身に付けて歩いている人もいた。じっくりと見たいし写真も撮りたいのだが、余り珍しがってジロジロ見るのも失礼かと思い、私はごく自然に振るまいながらも、彼女たちに注目した。今思えばなぜ彼女たちの美しい姿を写真に撮らなかったのかと後悔した。 この日ケンディの町に到着。ジャンダルメリ（警察署のような建物）に転がり込んだ。治安が良いのだろうか、人の良さそうなおっちゃんが、暇そうに署で寝ていた。彼に、 「あの、今晩一晩だけ庭にテントを張らせてもらいたいのですが。」 そう言うと、 「あんた旅行者かい、ああいいとも。」 そう快諾してくれた。
ベナン ケンディの町の警察署に転がり込んでテントを張らせてもらった。  テントを張った私は夕食を食べに外に出た。いつものように灯油ランプの明かりが灯り、人々のざわめきが聞こえてくる。焼き飯があり、焼き鳥のようなマトンの串焼きが売られ、ビールも売られている。素朴なアフリカの田舎の夜の町を歩くと、いつものどかな気持ちになるのであった。 翌朝８月１１日。警察の人にお礼を言って出発。治安が本当に良いと言う事は、そののんびりとした警察の雰囲気が物語っていた。こんな町では事件も起きないのかもしれない。
ベナン お世話になったジャンダルメリのおっちゃんと。 
ベナン ケンディのジャンダルメリで記念撮影。  この日走り始めると、朝から暑かった。 「また始まったのか。」 再びのサバンナを走り始めたという実感が湧いてくる。食欲がなく、日本茶を飲み、インスタントのみそ汁を飲んで走った。途中にはキビ畑が見えている。初めはとうもろこしかと思ったが、そうではないようだ。穂の先が天に延びるようにあり、小さな粒々の付いたススキのようにも見える。 「これが黍か。」 そう納得した。あのマリのドゴンの村も、雨季できびがすくすく育っているかもしれない、そんな想像をした。
ベナン 道沿いからキビ畑が見えていた。
ベナン 目指すはニジェール。それにしても暑くなってきた。 
ベナン 道沿いからみる放牧風景。 
ベナン 途中で出会った子供たち。  暑い中を走った後の楽しみと言えば、冷たいシャワーとマトンの焼き肉に極冷えのビール。それらを楽しみにして、ようやくニジェールとの国境の町、マランビルに着いた。
ベナン マランビルの町到着。もう少し走ると、北にはニジェール国境がある。  国境の町マランビルには１軒ホテルがあったが高かった。他に宿はなく、どうしようか迷ったが、冷たいシャワーとビールとマトンは諦め、この日は小学校の軒先を借りてテントを張らせてもらう事に決めた。 砂地を歩いて自転車を引っ張っているときだった。「○○クリニック」と書かれた一軒の建物の下から声が掛かった。 「あなた、どこへ行くの？」 「あ、今夜は小学校の軒先でテントを張らせてもらおうかなと思って。」 「あなたは旅行者？」 「は、はい。」 「よかったら一晩うちの診察室で寝たら？」 「はあ・・・。」 誘ってくれたのは、診療所らしき施設を運営するラワニさんと言うおばさんだった。部屋の中には電気も扇風機もある。水道がない代わりに、庭に大きな井戸があった。夕食は済ませていたので、ここで寝かせてもらう事になった。自転車を部屋の中に入れると、ラワニさんはバケツ１杯の水を用意してくれた。洗い場に案内され、そこで石鹸を使って洗ったが、この時は水が余るくらいだった。私の洗い方も上達しているのかもしれない。「チョロチョロ」と少しずつ流しながら洗うのがコツだろうか。部屋のベッドで眠れたのは良かったが、肝心の扇風機はカチカチと音が鳴り、かなりやかましかった。かと思ったら、夜中には電気が切れてしまったようだった。 翌日、ラワニさんは朝からコーヒー等を出してくれた。 「シャワーは？」 と聞くので、 「ああ、出来れば・・・」 そう言うと、またバケツの水を用意してくれた。朝は少しヒンヤリとしていたせいか、ラワニさんはわざわざお湯を沸かしてバケツに足してくれた。感謝この上ない。 彼女の家には大きな庭があり、そこには車もあり、井戸はコンクリートで囲まれていた。さすが診療所を営むだけあってお金持ちのようだ。ラワニさんと写真を撮って出発。
ベナン お世話になったクリニック前でラワニさんと記念撮影。  お礼を言い、ニジェールに向け出発した。起きた時はそれほどでもなかったが、町を抜け国境近くを走る頃になると、腹の調子が次第に悪くなっていった。「ゴロゴロ、ピーピー」と言った感じで、次第に悪化し、腹を抱えるほどになった。 「どうしたんだろう。昨日何か食べただろうか。」 ベナンの出入国の管理事務所に着き、やっと手続きを終えたので、 「あのー、トイレがあったら使いたいのですが。」 と言うと、係官は、 「トイレ？なんだ、それならブッシュがあるだろう、ブッシュが。」 と野糞の指示。しょうがないので、もう少し我慢して、大きな橋を渡ってニジェールの入国作業を終らせてから便をすることにした。
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