第２８９話 ８７カ国目 ベナン 「Where there is a will there is a waｙ...」  「ここに穴がある。」 子供たちは穴の場所を知らせてお金をもらっていた。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜ベナン １９９６／７ ベナン出国までの走行距離 約８８２５０ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
ベナン走行 １９９６／７／２６〜１９９６／８／１２ 走行距離 約７９１ｋｍ  |
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「ベナンのビザは国境で取得可能」と書かれたガイドブックを当てにしたのが間違いだった。実際にベナンの出入国事務所で聞けば、 「２日間のトランジットビザしか発行しない。」 と言うではないか。明日は土曜日で明後日は日曜日・・・と言う事は国内に入ってからビザの延長はできない。絶対的ピンチだ。応対してくれた係官は、 「君が何か払うのなら延長してやろう。」 などと言っている。こう言う言葉を出入国管理事務所で聞くと、ベナンの印象は悪くなってしまう。賄賂など払ってたまるかと、２日間のトランジットビザで我慢する事にした。 入国作業を終えて走り始めると、前方で子供たちがロープを張って通過する車を強制停止させている。 「ありゃま？何やってんだ？」 ちゃんと停まる車もあれば、そのままクラクションを鳴らしてスピードを上げ、強引に通過しようとする車もある。何をしているのかと思ったが、子供たちが立っている周辺のアスファルトにはデコボコの穴が開いており、車がそのまま走って行くと車体がダメージを受ける。そこで子供たちは、 「ここにアスファルトの穴がありまーす。」 と、デコボコ穴の位置をドライバーに教えていたのである。そして車が通過しようとすると、ロープをピンと張り、 「穴の場所を教えたのだから、金をくれ。」 とやっていたのだ。こうした金の稼ぎ方もあるのかと半分笑ってしまったが、主要都市のコトノウに着くまでに、たくさんの子供たちが路上でこうした作業をやっているので、私も閉口してしまった。勢い良く走り去る車が大半だが、それでも時々は小銭を投げてあげる運転手もいた。私が通過しようとすると、 「金をくれ。」 と言ってきたので、 「あげない。」 と言ってしまった。自転車のスピードなら穴ぐらい教えてもらわなくても十分に避けれるのだが。
ベナン たくさんの穴が開いている事をドライバーに知らせ、お金をもらう子供たち。 そんな子供たちの姿を見ながら走っていると、道沿いに椰子の実が売られていた。誰もいないのでじっくり見ていると、草むらから売り子がひょっこり出てきて、私に値段を告げたりするのであった。
ベナン 道沿いに売られていた砂糖や椰子の実。 
ベナン 道沿いで売られる椰子の実。 
ベナン 砂浜でちょっと休憩。 
ベナン 爽やかな海風を体に受けながら走った。 
ベナン 海岸沿いを眺めて。 
ベナン 砂浜を歩いた。水は思ったよりきれいではなかった。  この日は出来るだけ走ってコメと言う集落を過ぎたところで小さなホテルを見つけ、そこに投宿した。
ベナン コメと言う集落にあった宿で。  翌日７月２７日。出発は９時。隣国トーゴから少し東に進んだだけだが、時計の時刻を１時間進めた。遅らせるのは良いが、進めると時間を損した気分になる。地球を東進するよりも西進する方が、進むたびに時間が増えていくようで気分がいいのだが・・・。 さて、昨日の午後べナン入国してしまったので、この日でトランジットビザの有効期限切れ。今日は土曜日である。主要都市コトノウへ着けたとしても、果たしてビザの延長ができるかどうかは分からない。しかし、とりあえずコトノウを目指し急いで走った。 ゴチャゴチャとした繁華街に着き、ガイドを当てにして一目散で市内にある内務省の建物へ向かった。日本の霞ヶ関のような固い所では決してないので、私のような外国人でもビザの延長くらいで顔を出すことが出来る。 守衛の人に聞くと、イミグレーションに関係した建物があるからと、その場所を教えてもらい直行した。するとその建物から、気前の良さそうな太目の女性が出て来る所だった。やはり土曜日は半日仕事なのか・・・。用件を告げると、月曜日にまた来なさいと言った。 「実はそれだと期限が２日オーバーしてしまうんです。」 そう言うと、 「あら、大丈夫よ。」 との返答。意外にもルーズなんだとひと安心。 ビザの一件が片付いたので、一息ついて安ホテル探しを開始した。ガイドブックを頼りに、良さそうな宿を訪ね歩く。その中で６００円程の宿を見つけた。部屋にはシャワーと扇風機があり、４、５階建ての建物で、屋上にも上がれる。ここからコトノウの街を見渡す事ができる。屋上があると言うのが気に入ったので、早速この宿に投宿することにした。 さっとシャワーを浴び、飛脚号に乗って街中に出掛けた。５０ｃｃバイクがタクシーとして使われ、それが人々の足になっている。ホンダにヤマハ、スズキ。日本製が圧倒的に多い。かつてのカリブ海のドミニカ共和国と似たような感じだ。その数は半端でないので排ガスもすごかった。
ベナン コトノウ市内を走る日本製のバイクタクシー。 
ベナン バイクタクシーに乗るコトノウの女性たち。  夕食にチキンを食べ、宿に戻ってからガーナ人とアメリカ人旅行者に出会い、彼らと宿の屋上で旅の話や情報交換などをし、その後部屋で横になった。 コトノウでの滞在が長くなるとはこの時は想像もしていなかった。が、結局丸々１週間ここにいることになる。土、日曜日は行動できず、そして８月１日はベナンの独立記念日との事だった。大使館などのお役所関係は休みとなるので、１週間を通して作業のできる日は限られてしまった。 ７月２９日の月曜日は、朝一でベナンビザの延長手続きを行った。すると、 「明日の午後５時の出来上がりです。」 との事。翌日３０日の５時に取りに行くと、無事手続きが終了した。そして問題となったのは翌日の７月３１日だった。ナイジェリアの大使館に行き、そこで、 「ナイジェリアのビザを取りたいのですが。」 そう言うと、 「あなたは旅行者ですか。ここベナンに住んでいますか？そうでないのならビザを発行する訳にはいきません。」 淡々とした口調でそう言われ、「はい、さようなら」だった。 「どうしよう・・・。まさかナイジェリアのビザを取得できないなんて・・・あそこを通過できないとしたら他にルートは無いのではないか。カメルーンに行くのに空路なのか？いや空路だけは避けたい。」 簡単に取得できると思ったナイジェリアのビザが取れないとなると、 「これからどう走ればいいんだろう？」 と、落胆してしまった。前進したくてもできないじゃないか。困り果ててしまった。私は四方八方に大きな壁を置かれたような気分だった。 「ここから飛行機で一気にカメルーンの主要都市ドゥアラに飛ぶか、それともベナンを北上してニジェール、チャドを経由し、カメルーンヘ入国するか。」 ルートを考えた結果、二者択一を迫られた。前者のルートは時間も費用も少なくて済むし楽。チケットを買ってしまえば問題は解決する。でも空路と言う事で、アフリカを陸路で縦横断したいと言う私の思いに反する。後者は時間も費用もかかり、暑くて辛いサバンナに再突入しなければならない。それに加え、サハラ越えよりも大変と言われるチャド湖北部の砂漠の中の国境越えがある。しかもこのルートには他にも問題があった。ガイドブックによると、「ニジェールにチャド大使館はなく、ビザの取得は不可能。このチャド北部越えルートを行く場合は、アフリカ大陸に入る前にチャドのビザを取得する必要がある。」などと書かれてあった。こうなると、やはり空路を選択する他ないのかもしれないと思い始めた。 ところが、このベナンの主要都市コトノウにチャド大使館はある、そんな地元の人々の言う不確かな情報を当てにして、私はバイクタクシーを捕まえ、 「チャドの大使館へ。」 と告げ、向かってもらった。ところが場所を知っていると言ったバイクタクシーを運転するこの男性は、実は良く知らないようで、地元の人に聞いていたが、結局分からずにギブアップ。しかし他にも知っている人がいるかも知れないと、私は再び、違うバイクタクシーを捕まえ、 「チャド大使館へ。」 と告げた。何台目のバイクタクシーかは分からないが、やっと街の外れにあるチャド大使館に到着した。 「あ、あった！これか。」 建物は確かに存在していた。しかし何だか人の居そうな気配は感じられない。私はウロウロとその周辺を観察していた。すると、私の様子を見ていた近くの男が、 「今は閉鎖だ。」 と言った。男はチャドからやって来た者だと言った。彼にそう告げられがっくり。 「ダメだったか。やはり諦めて、空路でカメルーンに飛ぶしかないな・・・。」 と半分諦め気分。アフリカを縦横断するラインは、これでまた途切れてしまう、そう思うとがっかりした。ところが、そこにいた男は、 「コトノウは閉鎖だが、ニジェールの首都ニアメにチャド大使館は新しくできている。」 そう言うではないか。 「それは本当ですか？」 私は彼の情報を信じた。いや信じたかった。本当かどうかは分からない。もしニアメまで走ってチャド大使館がなかったら、そこでまた道はふさがり、行き止まりとなる。しかしそこまで走って確かめれば、納得して空路と言う移動手段を選ぶ事だってできるはずだ。空路がいやならば、進むべき道はそれしかない。 「決めた。ニジェールを目指そう。ナイジェリアをぐるりと回る事になるが、陸路ではこの方法しかない。陸路で前進しよう。」 そう決断した。となればその後の行動は早かった。ニジェール大使館に向かい、ビザを取得した。高かったが１日で取れた。東進してカメルーンに向かう進路は９０度変更。真北にあるニジェール目指し、ベナンを北上することになった。せっかく涼しい海岸沿いにやって来たのに、再び暑い中を走らねばならなくなってしまった。北上して、それから本当にチャド経由で前進できるのかも分からない。でもきっと道は開けるはずである。出発して間もないとき、アラスカハイウェーでばったり出会った藤原さんがこんな言葉をくれた。「Where there is a will there is a way....(意志あるところに道は開ける)」と。彼は５０ｃｃバイクでサハラ砂漠を縦断したつわものだ。このとき、あの藤原さんの言葉がどれほど支えになったことだろうか。 「きっと進める、きっと走れる。きっと道は開けるはずだ。」 私はそう信じた。 コトノウでは毎日自炊した。街中に巨大なマーケットもあったが、私はそれとは別の小さなマーケットへ出向いてはサラダの材料の生野菜を買い、ホテルのベランダで作ったりした。マーケットのたくさんある売り場の中で、私がいつもレタスを買う店は決まっていた。毎日買いに行ったものだから、私は「お得意様」となり、ここのお婆ちゃんとはすっかり仲良くなった。こうして長く滞在すると、地元の人々と触れ合う機会も多くなり、楽しかった。
ベナン コトノウには巨大なマーケットがあった。 
ベナン とにかく色んな物が売っている。 
ベナン コトノウのマーケットで。 
ベナン コトノウのマーケットで。 
海岸沿いの街なので気候は涼しく、風もとても気持ち良かった。夕方には宿の屋上に上って夕日を眺めたりしてくつろいだ。 「こんな涼しい思いができるのも今だけか・・・。これからはサヘル（サハラ砂漠南部）の走行が始まるのだ。」 日本から送ってもらった日本茶を飲みながら、今後のルートを考えていた。 コトノウでの長いようで短い１週間に幕を閉じ、８月４日に北上を開始することにした。少し仲良くなったナイジェリア人の男と、ホテルの管理人に見送られて出発。
ベナン コトノウのホテル「バブ」 
ベナン とても親しみの持てる人々だった。  大きな街だったので、市内をあっちこっちと少し迷いながら、ようやくニジェール方面へ向かう主要道に合流し、ペダルを踏んでいった。
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