第２８５話　８４カ国目　コートジボアール 「西アフリカのニューヨーク・・・。」 西アフリカのニューヨーク。アビジャン。 そこにはたくさんの洗濯物が干されていた。 ▼ アラスカ出発　１９９２／４／１〜コートジボアール　１９９６／７ コートジボアール出国までの走行距離　約８６７２８ｋｍ ▼ アフリカ走行　１９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離　約２２１０７ｋｍ ▼ コートジボアール走行　１９９６／６／２１〜１９９６／７／１４ 走行距離　約８４１ｋｍ

クアシウアンからアビジャンまでの距離は５０ｋｍ足らず。もうすぐ休息を取れると、気合いをいれてジャングルの森や、広大なバナナ畑を見つめながら走っていった。 ▼ 　コートジボアール　朝方はまだうっすらともやがかかっている。直射日光も当たらないので快適に走れる。 ▼ 　コートジボアール　広大なバナナ畑も。 　昼過ぎようやくアビジャンに到着。セネガルを出てからはひたすら、 「アビジャンまで頑張ろう。」 そう思い続けてペダルを踏んできた。ようやくそのアビジャンにやって来た。 　街には立体交差の道路があり、たくさんの車が走っていて、欧州にいると言われても分からないくらいの活気がある。が、ふっとハイウェイから下を見ると、 「ん？あれは。」 緑の芝生の上に洗濯物を干す人々の姿が。こうした光景はやはりアフリカならではだろうか。 ▼ 　コートジボアール　街角の芝生の上には洗濯物が干されていた。 ▼ 　コートジボアール　アビジャン市内に美しく並べられる洗濯物。 　近代的なビルが建ち並ぶアビジャンは、大きいと思ったセネガルの首都、ダカールとはまた違う迫力がある。人口１４２万人。西アフリカの経済中心地であり、ガイドブックには西アフリカのニューヨークとも書かれている。西アフリカにもこうしたビルの林立する都会があるのだと納得した。 ▼ 　コートジボアール　「西アフリカのニューヨーク」。ガイドブックにはそう書かれていた。 ▼ 　コートジボアール　どこの国の大都会に紛れ込んでしまったのか・・・と思うほどだ。 ▼ 　コートジボアール　大きなモニュメントみたいなものもあった。 ▼ 　コートジボアール　久々に見る海。海岸で胸に思いっきり空気を吸い込む。気持ちいい。 ▼ 　コートジボアール　アフリカのニューヨーク・・・何となくそれらしい雰囲気がする。 　私がアビジャンに到着したこの日は土曜日。町中はどこか静かな雰囲気だ。この街では地図やスライドフィルムの現像など行う事がたくさんある。とりあえずどんな街なのか、ビルの並ぶオフィス街を走った。すると、物乞いしている少年少女たちの姿が目に止まった。走っている限りではそれほど危険と言う感じはしないが、ガイドブックには注意が必要と書かれてあった。 　街を一通り見た私は、郊外の安宿を探した。今まで何十日もブッシュキャンプしてきたので、せめて雑用を行うアビジャンではクーラー付きの部屋で眠りたい。そこで１泊１３２０円と言う高値（私にとって）のエアコン付きのホテル、コナンクロに投宿を決めた。部屋を見せてもらうとちょっと狭い。電気はあり、シャワー室もある。エアコンの音はガーガーとうるさく、部屋の総面積の７５％が大きなベッドで占められている。決して完璧ではないが、ベッドの横には小さな机と椅子があった。大切なのはこの机と椅子。地面で長い事キャンプしていると、宿に机と椅子が置かれている事がとても大切だった。 ▼ 　コートジボアール　ホテルコナンクロ。約１３２０円（当時）。 　荷物を置いた私はシャワーを浴びて再び土曜日の静かな街中をぶらぶらと走り、写真屋を探したり、スーパーを覗いたりした。首都に着くと旅のまとめや知人への手紙書き、新聞社への雑記の送付やスライドの現像など雑用が溜まり、こうした作業をしなければ先には進めない。何から終らせるかを整理して、いかに短期間で体を休めながら作業を進めるか、それが滞在の鍵だった。 「まあ、ボチボチやっていこう。」 そんな事を考えながら、この日の夜は近くにあった「マキス」と呼ばれる居酒屋風のオープンバーに出向いて、チキンを食べながらビールで一人祝杯をあげた。 「やっとアビジャンに着けた・・・乾杯だ。」 ここのアフリカ風居酒屋で、オランダ人女性に出会った。 「明日からガーナでツアコンをしなければならないのよ。」 「ガーナでツアコン？」 ガーナでツアコンの仕事なんてあるのか。オランダも進んでいるものだなあ。彼女とはその後グラスを傾けながら、西アフリカの旅の話しに花が咲いた。 　セネガルから酷暑の中を走った西アフリカ走行。約７０日余りかかってやっとアビジャンに着けた。しかしまだアフリカの旅は続くなあ。ザイール、中央アフリカ・・・難関はまだまだたくさんある。アビジャンに着き、一息ついて、私は翌日から約２週間作業を行った。 　アビジャンには日本大使館がある。日本の家族にここに手紙を送ってもらうように伝えたが、本当に着いているか不安だった。大使館の受付窓口に行くと、なぜかフランス人と思われる美しい女性がいた。私はへたくそなフランス語で、 「あの、ココデワタシアテノニモツヲウケトリタイノデスガ・・・」 と言うと、 「日本語は話せますか？」 と、流暢な日本語で言われほっとした。「こんにちは」くらい言ってくれれば私も日本語を話したのに・・・。 「マチイさんですね？家族からの荷物は届いていないようですけど。」 「そうですか？おかしいなあ。２週間くらいで届きますよね。」 今回は大き目の箱に、自転車の後輪のハブと新しい５リットルのボトルタンクなどが入っている。これはどうしても受け取らなければならない。しかし来ていないものは仕方がない。また後日来る事にした。この大使館ではもうひとつやっておく事があった。それはＡ型肝炎の予防接種。ロンドンでもやったが、ここで再びやっておく必要があった。大使館内には医務室もあり、ここにはドクターがいた。先生に聞くと、 「その辺の薬屋さんに行くと、注射針とワクチンが買えるから、そこで買ったら、また私のところに来てください。」 と言ったので、早速薬局で買って先生に打ってもらった。無事に注射をしてもらい、大使館を後に買い物。スライドフィルムを購入したり、アメックスのオフィスで旅行小切手を調達した。ガンビアで盗られたミシュランの西アフリカ地図も購入でき、更にカメルーンのビザも取得した。こうして少しずつ旅を続けるための雑用を終わらせることができた。 ▼ 　コートジボアール　約１３００円ほどの部屋で手紙書きや雑用を行う私。小さな机と椅子、それに電気にエアコン。もう天国のような部屋だ。 　手紙を書いたり雑記をまとめたりして、１０日ほどが過ぎた。 「もうそろそろ荷物も届いているだろう。」 そう思って再び大使館に顔を出した。例の女性に聞くと、 「まだ来ていないですね。」 そう言われ愕然。来ていなければ自転車の後輪の修理が出来ない。ボトルも大切だ。手紙も読めないとなると私の元気も出ない。 「もう少し待ってみるか、どうしようか。」 がっかりして大使館の廊下を歩きながら出口に向かっていた。そのとき、一人の大使館員らしい男性が、 「あの、自転車旅行者のマチイさん？」 と声をかけてくれた。 「は、はい。」 「ご両親から荷物が来ていますよ。」 「え？」 来ていた！良かった。どうやら別の担当の人が管理してくれていたらしかった。このとき男性と偶然すれ違ったから荷物を受け取れたが、そうでなかったらきっと、ペルーのリマの時のように何日も待つハメになっていただろう。男性はとても親切で、これから向かう国の大雑把な情報、治安などのことを教えてくれた。私も荷物が届いて嬉しくて、興奮しながら彼の話を聞き入った。 　宿まで大切に運んで、そこで中を開けると、驚いた事にカナダで出会った世界一周をした後藤さんからの荷物も入っていた。内容はチキンラーメンやふりかけなどの貴重な日本食の詰め合わせだ。自転車旅行者ならではの物資で、涙が出るほど嬉しかった。 「懐かしいなあ・・・後藤さん。元気かなあ。」 私は我慢できずに早速チキンラーメンを食べた。本当に涙がでるほど美味かった。 　中には両親の手紙や、友人からの手紙も入っていた。その数も多く、読めば読むほど私も走る元気が出てきた。旅の中で何が楽しみかと言えば、こうした手紙を受け取って、現地で読む事だったかもしれない。 「頑張ってアフリカを走って・・・」 そんな手紙の一文を読むと、不思議とモリモリと元気が湧いて出てくるのだった。 　荷物には飛脚号の部品である後輪のハブが入っていた。ギニアで散々悩まされたハブもここで新品に換わる。完璧な振れ取りは出来ないので、ハブにスポークを通し、ホイールを組んで、市内の良さそうな自転車屋に持っていった。そこでは少年が振れ取りをしてくれた。大丈夫だろうと彼を信じたが、やはり今ひとつの仕上がり。 　雑用をしながら体を休めたので、少し体調も良くなった感じがした。贅沢をしてクーラー付きの部屋に滞在を決めたのは正解だった。 　アビジャン滞在中は珍しくテレビも見た。自分の部屋にはないので近くのレストランでウィンブルドンの試合を見入った。このとき偶然、伊達とグラフの試合を見る事ができた。なかなかいい勝負で女王グラフに伊達が食い下がり、見応えのある試合だった。 「あと少しだ！」 伊達がいける、と言う所で試合は雨で中断、試合の続きは翌日持ち越しとなった。結局グラフが勝利をおさめたが、 「あのまま延期されなかったら・・・」 そう思うと悔しい思いだった。伊達のプレーを見て、なぜか私も頑張って走るぞ、そんな元気が湧いて出てきた。それにしても久々のスポーツ観戦だった。 　アビジャンで過ごした２週間はアッと言う間だったが、雑用をほぼ終え、再び前方に何千ｋｍか進める道が開けたような思いがした。 「よし、目指すはカメルーン、ザイール横断、ナイロビだ。」 そんな思いで、７月１３日にアビジャンを後に走り出す事にした。元気はつらつ。ホテルの人に別れを告げ、いざ東進。 ▼ 　コートジボアール　アビジャンを後に東進。 ▼ 　コートジボアール　大きな河で。 　アビジャンを走り出して間も無く、路上でヤシの実売り娘たちに出会った。かつてのサバンナ走行中では味わうことのできない海岸沿いならではの味。若い娘だがヤシの実に小さな穴を開ける刀さばきは実に見事。 「シャッシャッシャ」 あっという間にヤシの実にうまく穴を開けてしまった。私なら自分の手を切ってしまいそうだ。１ケ１０円。 「ゴクゴク、いやーうまいなあ。」 汁を飲んだらきちんと中の実も食べる。これがまたコリコリして美味い。このとき少女たちはスプーンを渡してくれた。これならうまいこと食べれる。何だか感心してしまう。 ▼ 　コートジボアール　路上で「ヤシの実娘」たちに出会った。 　ヤシの実を食べた私は再び走り始めた。すると今度は道端にパイナップル屋発見。値段はいくらかと聞くと、３個で４４円だと言う。 「エ？本当に？」 パイナップルファンの人にはたまらない国かもしれない。道沿いにはそれは多くのパイナップル畑。産地直売だったのだ。走行中はそのパイナップルの香りが、もうたまらなかった。 　海岸沿いの道にもかかわらず、アップダウンは割に多く、足にこたえた。私の走ったアスファルトの両端には切り開かれていないジャングルか、又は開拓されたバナナやパイナップル畑のどちらかが広がっていた。鬱蒼としたジャングルを走っていると今にも何か出てきそうな雰囲気だ。 ▼ 　コートジボアール　鬱蒼とした森、そしてバナナ畑。 　この日はアボイソの町に着き、きれいな６００円の宿に泊まることにした。アビジャンで買った中国製のラーメンを食べ、床についた。 ▼ 　コートジボアール　アボイソと言う町のホテル。 　翌日７月１４日は７時出発。しばらく走って、巨大な無気味な感じのするパームヤシの畑の木陰で朝食をとった。木陰なら涼しいのだ。 ▼ 　コートジボアール　パームヤシの木陰で一休み。 ▼ 　コートジボアール　牛たちものんびりと草を食んでいた。 ▼ 　コートジボアール　これもパームヤシだろうか。 ▼ 　コートジボアール　何かに加工される木の実。 　海岸を走ればなくなるだろうと思っていたアップダウンはまだまだ続き、苦闘を強いられた。雨も降ったり止んだりで結構うっとうしい。しかし気候がとても涼しいと言うのが救い。 　出発した所から６０ｋｍほど走るとガーナの国境に到着した。 「何だかごちゃごちゃした雰囲気だなあ。」 ガーナは旧英国領。旧仏領で使われている共通の通貨ＣＦＡ（シェーファーフラン）は使えず、ガーナ独自の通貨が使用されている。国境では当然両替の声も多くかかってきた。 「どんな国だろうか。楽しみだ。」 ■ 次のストーリー第２８６話へ▼