第２８４話 ８４カ国目 コートジボアール 「美味しかったネズミの肉・・・。」  村で出してもらった食事は、 チキンのように美味しいネズミの肉だった。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜コートジボアール １９９６／７ コートジボアール出国までの走行距離 約８６７２８ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
コートジボアール走行 １９９６／６／２１〜１９９６／７／１４ 走行距離 約８４１ｋｍ  |
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６月２６日の午前中、ヤムスクロの街の観光を少しして行く事にした。「この街はコートジボアールの首都」そう言われても今ひとつピンと来ないが、世界一大きいと言うノートルダム平和バシリカと言う建物を見ると、それらしい貫禄が伝わってくる。バシリカの高さは１５８メートル。こんな建物がブッシュの中から顔を出すのだから、初めてこれを目にしたときは驚いてしまった。天辺に付いている十字架だけでも高さは９メートルあるというから本当にでかい。１９８６年から３年をかけ、１５００人もの人々が建築に携わって出来上がったそうである。せっかく「世界一」なのだから見学して行く事にする。中にはエレベーターもあったので上にも上がってみた。
コートジボアール ノートルダム平和バシリカ。 
コートジボアール ノートルダム平和バシリカ。 
コートジボアール ピカピカの大理石だろうか。歩くのがもったいないくらいだ。 
コートジボアール 天辺の十字架だけでも９メートルあるとか。 
コートジボアール エレベーターで上に登り、そこからドームを見上げた。 
コートジボアール 上から周囲を眺めた。 
コートジボアール 中には素晴らしいステンドグラスが。 
コートジボアール 中から見た最上部の窓。そこにも美しいステンドグラスが施されていた。 
コートジボアール ノートルダム平和バシリカ。 
コートジボアール ノートルダム平和バシリカ。右には小さなモスクも見えている。 
コートジボアール こうしたモスクもあれば教会もある。同じ街なのにそれがどうも不思議に思えた。  飛脚号に乗って町中を見て歩いたが、広すぎるくらいの道路がそこらじゅうにあった。どうしてこんなにも広い道路を造ったのか、交通量は少なく、ガランとしていた。ここが一国の首都とはとてもじゃないが思えない感じだ。
コートジボアール とにかく広い道路がある。 
コートジボアール 国の南北を縦断する道。快適なアスファルト道路だ。  写真を撮りながら街中を走っていると、ヤシの実を売っている少年たちに出会った。 「ひとついくら？」 と聞くと、１５円ほどだと言うので、喉が渇いていた私は早速それを飲んだ。暑かったので立て続けに２ケ勢い良く飲んだら、案の定、後で腹がおかしくなってしまった。私がヤシの実を飲んでいると、どこからともなく元気のいい少年たちが集まって来ていた。彼らの明るい笑顔がとても良かったのでカメラを構えた、すると、 「ワオー」 とポーズをとってくれた。憎めない悪がきと言った連中だ。
コートジボアール 元気の良いコートジボアールの少年たち。  荷物を付けた自転車に乗って一通り街を見て歩いた私は、ヤムスクロを後に再び南へ向けて走り出すことにした。街を出ようとすると、道端でとても可愛らしい民芸品売り場に出くわした。アフリカ独特の衣装を着た可愛らしい人形。その素朴さが何とも言えず、本当なら気に入った品を買っていきたい所だった。が荷物になってしまうので、写真だけで我慢。 「今度来たときは買って帰ろう。」 そんな事を思った。
コートジボアール こうした素朴な手作りの民芸品は見ているだけでも本当に楽しいものだ。  昨日のクーラーがいけなかったのか、走り始めると体中にだるさが残っている感じだった。ここのところ続いているアップダウンもその原因かもしれない。体中に慢性的な疲労が残っている、そんな感じだった。主要都市アビジャンに着いたら、雑用の傍ら体をゆっくりと休めたいものだ。 この日はトゥモディと言う町まで半日走って走行は終わり。２０００ＣＦＡ（約４４０円）の安宿に飛び込み、外食をする。メニューはいつものマニオクとチキン。これで腹を満たした。
コートジボアール ４４０円の宿、と言うよりは小屋のようでもあるが・・・。  翌朝、時計を見てビックリ。時刻は午前９時を回っている。 「え、９時？もうそんな時間？」 見間違えたかと思ったが、そうではなく、私は延々と１１時間も熟睡していた。ここまで眠るなんて、と自分でも恐ろしくなってしまう。体は正直なのだろう。ベッドから起きても、どうも疲れはとれていない感じ。この日はサドルに乗って出発するのも本当にしんどいと感じた。が、重い腰を上げ出発。時刻は１０時を回ってしまっていた。おそらくこの慢性的な疲れは、気合いを入れて走って来た西アフリカ数ヶ国の走行の疲れが蓄積されたもの。そんな疲労感だった。 「アビジャンまではあとひと息。よし、走るぞ。」 走行途中のレストランで、朝と昼を兼ねてマニオクと魚のフライを食べスタミナ補給。その後再び走り始めると、いつものアップダウンが始まった。いつの間にか勾配も急になっている。上っては下る、下ってはまた上る・・・こうした波のように続く道にはもう閉口。湿度は上がり、不快指数も高くなっている。暑いのとしんどいので、やはり「ぐたーっ」としてしまった。 午後の５時。道路沿いに小さなレストランを見付けた。できればここでテントでも張らせてもらいたい。店にいた女性に、 「ここの庭で一晩だけテントを張らせて下さい。」 そう聞くと、 「いいわよ。」 おかみさんのような女性が気軽に返事をしてくれた。テントを張るのもしんどいくらいだ。 「バテているなあ。」 自分の体は本当に疲れている、そう実感する。
コートジボアール 道沿いのレストランの庭先でテントを張らせてもらった。  レストランのおかみさんはシャワールームを使わせてくれた。と言ってもブロックを積み重ねた簡単な「洗い小屋」だが、そこで体を洗わせてもらう。１．５メートル四方のその囲いには屋根もなければ水道もない。あるのはかわいい木の椅子のみ。あと必要なのはバケツ一杯の水と言う事になる。西アフリカでお風呂やシャワーと言えば、このバケツ一杯の水がポピュラー。少しの水を体全体にかけ、石鹸でよく洗う。もちろん頭もよく洗う。洗った後は石鹸を洗い流す。これでシャワーは終るのだが、たった一杯のバケツの水が体を洗うのに十分な量だと言うことが分かった。他の旅行者から話には聞いていたが、実際にやってみるとうまく洗えるもので、変に納得してしまった。 この日レストランで食べた主食は風変わりな黄色の甘い餅のようなものだった。名は知らないが、マニオクを煮たものとバナナを混ぜて茹で、そして叩いたものらしい。この主食に付くのが辛く煮込んだ少しの肉塊が入った牛肉のソース。このソースは絶品。しかし肝心の主食であるこのマニオクバナナ餅は、勢い良く食べると吐き気をもよおした。餅のような感じもするが一種独特で、まずくはなかったが、好んで食べたいと思う品ではなかった。夕食を終えた私は早くにテント入りした。小雨降る中、この日も熟睡。 翌朝７時。レストランのおばさんに飯代を払い、お礼を言って出発。気軽にテントを張らせてくれると本当に助かる。感謝この上ない。 ヤムスクロ市内から途切れていた片道２車線の道は、再び広い道にと変わった。ビックリするほど広大で、これがアビジャンまで続くとなると走行中の気持ちにもゆとりが出てくる。安心して走れそうだ。
コートジボアール ビックリするような快適な道が伸びていた。 
コートジボアール これはまるで高速道路だ。 
コートジボアール 道沿いから見る周囲の風景。やはりジャングルだ。  昨日早くに寝たせいか、疲れが少し取れているような気がした。 この日もいつものように多くのアップダウンをえっこらやっこらと走った。朝方、私の走る前方にたくさんのカタツムリを目にした。これがかなり大きめで５ｃｍ以上はある。 「不気味だなあ。」 このカタツムリがこの日の夜に私の胃袋に納まる事になるとは夢にも思っていなかった。 昼飯はエリボウと言う小さな村のレストランに入った。レストランと言うよりは小さな小屋のような所だが、ここで昨日の夜にも食べた例のマニオクバナナ餅を食べることになった。あまり勢いよく食べると吐き気がするので、ゆっくりと食べる。何度食べてもどうも好きになれる味ではなかった。決して嫌いな訳ではないのだが・・・。魚の煮付けの入ったソースに少しづつ付けてゆっくり食べた。せっかくなので写真を撮らせてもらう。
コートジボアール 単純な味だがこうしたもので腹を満たした。中央はマニオクとバナナを練ったもの。左はおかずの魚の煮付け。 
コートジボアール ここはレストラン。配膳してくれた女性に詰め寄られた・・・。  小さなレストランの周りでは子供たちが元気良くはしゃいでいた。マリで見た様な物乞いする寂しい子供たちの光景と言うのは、ここでは目にしなかった。私のような変な東洋人が飯を食べていると、子供たちは好奇心いっぱいの目で見ており、どこか嬉しそうにしている。同じアフリカでも風土や気候が変わり、緑の木々も増えたりして、人々の生活の豊かさには大きな差があるのであろう。 この日は１００ｋｍを走り切り、とある村に到着した。以前の国々ならば簡単にその辺の適当なブッシュにテントを「ポン」と張れたのだが、ここコートジボアールの南部はそう簡単にはいかない。周囲は密林ジャングルといった感じで、本当にチェーンソーでも持ち歩いていないとブッシュにテントは張れそうもない。野宿地探しは困難だ。そうなると近くの村に転がり込むしかない。この日はアビジャンから北西５９ｋｍの所にあるクアシウアンと言う村を訪ねた。村に入ると早速子供たちが集まってきた。 「今夜村にテントを張らせてもらいたいんだ。」 そう言うと、子供たちは村長さん宅に案内してくれた。私はどこか村の隅にテントを張らせてもらえればそれで良いと思っていた。村長さんはまだおらず、その後どこからか帰宅すると、 「空き部屋があるからここに一晩泊まっていきなさい。」 そう言ってくれた。私は遠慮せずに一晩その部屋に厄介になることにした。暑そうな部屋だが眠れそう。電気もないが、嬉しい。荷物を部屋に入れると、近所の子供や青年がやって来て、 「体を洗いに行こう。」 と誘ってくれた。私は貴重品をそのままにして、タオルだけ持って彼らに付いて行った。密林の中を５分程歩くと、河が見えた。今にもワニの出てきそうな茶色い河だ。何人かの少年たちがすでに河で楽しそうに泳いだり体を洗ったりしていた。 「いいなあ、楽しそうだなあ。」 皆裸になっており、パンツなど履いていない子供がほとんど。青年も素っ裸になって河に入っていった。私はどうしようか悩んだが、やはりパンツは脱がずに履いたまま。彼らは体が黒いので大切な部分が目立たないのだが、私はいくら焼けているといっても、やはりあそこは目立ってしまう。彼らの注目を浴びるのはさすがに恥ずかしかった。 気持ち良く体を洗った私は皆と村に帰った。夕食の時間になると、村長さんに呼ばれ、灯油ランプの灯る部屋に案内された。ここで昼にも食べたマニオクバナナ餅が、まるで飾り物のように皿に並べられていた。更にメインのおかずを皿に入れてくれた。 「いただきます。」 そう言って夕食を頂く。村長さんの他にも村の青年たちが固唾を呑んで私の様子を見守っている。 「モグモグ・・・」 とても美味しい。あっさりとしたチキンのような肉だ。 「これは何ですか？」 と聞くと、 「ラットじゃよ。」 「え？ネズミ？野ネズミの肉？」 私はネズミの肉を食べさせられたのか・・・。でもおいしかった。その他のおかずは、朝方見た巨大カタツムリ。更にもう一品は魚の干物を煮込んだもの。野ネズミの肉はおいしいソースで煮込んであったので本当においしかった。チキンだと言われてもわからない美味さ。どれも絶品というのが信じられない。カタツムリはあわびのようにこりこりとして、これも美味い。カタツムリがこんなに美味いと知っていたら、朝方見た大きなやつを拾いながら来れば良かった、と少し後悔した。
コートジボアール 村で出された食事は大ご馳走だった。 この日のメニューは確かに良かった。しかし何回食べてもマニオクバナナ餅は苦手だった。でもせっかく出してくれたので、マニオクバナナ餅１個を残し、全部頂いた。貴重なひと時だったので、村長さんと記念撮影もさせて頂いた。テントを張らせてもらえればそれで十分だったのに、温かく歓待されて、何だか嬉しいやら申し訳ないやらといった気持ちになってしまう。
コートジボアール 村長さんと食事をした。  翌朝６月２９日の朝方、昨日河風呂に誘ってくれた青年、ジェラが部屋まで起こしに来てくれた。私が昨日マニオクやカカオに興味を示したので、栽培している所に案内してくれると言う。 「それは楽しそう。」 早速早朝から村を後に、ジェラに付いていった。どこの村にもニワトリやヤギがいて、朝から「メ〜」とか、「コケコッコー」とか鳴いていて、とてものどかでいい。 ジャングルの奥に入って行くと、彼らの育てているマニオクやパームヤシの苗、そしてこの国の特産でもあるカカオがたくさんあった。 「ここは村長の庭だ。」 そこにはたくさんのパームヤシの苗がたくさん植えられていた。豊かで肥沃な土壌のようで、植えればバナナでもアボガドでも何でもスクスクと育ってしまいそうな、そんな土があった。
コートジボアール これはパームヤシの苗らしい。  主食のマニオクも初めて見た。カカオも初めて見た。加工しなければ食べられないかと思ったカカオの実は、直径１０ｃｍ程のラグビー形をしていた。木からもぎ取ってその黄色い殻を割ると、親指のさきっちょ程の種が十数個あり、その種の回りに白い実が着いていて、それを食べる。これがチョコレートの元になるのか？と楽しみにして食べてみたが、イメージしていたカカオの味とは違い、甘酸っぱい。でもとりあえずはおいしい。
コートジボアール こんな風になっているカカオの実。 
コートジボアール カカオの実。 
コートジボアール カカオの実を割って少し食べさせてもらった。甘酸っぱい。  マニオクとはキューバでも食べたあのカッサーバ（キャッサバ）のことらしいが定かではない。このマニオクと言う主食は熱帯地方で食べる事が多かった気がする。
コートジボアール これがマニオクの葉。彼らの主食だ。  見学のあと、朝食にはやはりマニオクを出してくれた。このとき出されたのは村の女性たちの作ったアチャケ。以前にも食べたご飯状のさらさらしたマニオクで、ご飯のようで美味い。ちょっとしたパスタのようでもあり、これはソースやおかず次第でどういう風にでも食べる事のできる頼もしい主食。マニオクは餅のようにバナナと練って出される事が多かったが、私はこのサラサラとしたアチャケが好きになった。 机に置かれたアチャケに魚の干物に水。その卓上の雰囲気はどこか日本の朝食を思い出させた。ご飯にみそ汁におしんこ。そんな感じの素朴な温かさを感じた。クアシウアンの村ではすっかりお世話になってしまった。村長さんや村の人々と写真を撮り、私の住所を渡して出発することにする。
コートジボアール 村長さんたちとお別れに記念撮影。 
コートジボアール 私も一緒に記念写真。私の隣にいるのが村長さん。 
コートジボアール クアシウアンの村でお世話になった方々。  クアシウアンの村を後に、主要都市アビジャンへと走り始めた。
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