第２８３話　８４カ国目　コートジボアール 「欧州のような快適な道・・・。」 走っても走っても並のような大地は続く。 ▼ アラスカ出発　１９９２／４／１〜コートジボアール　１９９６／７ コートジボアール出国までの走行距離　約８６７２８ｋｍ ▼ アフリカ走行　１９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離　約２２１０７ｋｍ ▼ コートジボアール走行　１９９６／６／２１〜１９９６／７／１４ 走行距離　約８４１ｋｍ

コートジボアールヘと入国し、国境の橋を渡ると、それは素晴らしいアスファルト道がお目見えした。速度制限の看板もあり、まるでヨーロッパに入ったような感じがする。 ▼ 　コートジボアール　標識はまるで欧州のよう。 　国境で記念撮影をしようとカメラの用意をしていると、少女たちが珍しそうに寄って来た。せっかくなので彼女たちにも写真に入ってもらうことにした。 ▼ 　コートジボアール　国境付近にいた地元の少女たちと写真を撮る。 　走り出せば道路の路肩まで舗装してありびっくりした。車線もしっかり引かれ、かつての西アフリカの国とはまるで違う。ガイドブックには、コートジボアールは「親欧路線の優等生」と書かれている。やはりこの国は違うのかも知れない。 ▼ 　コートジボアール　路肩も信じられないくらいに広くなった。 　ルレラバという集落に着き、ここで初めてコートジボアールの入国スタンプをもらう。係官は黒ぶち眼鏡をかけて新聞を読み、何となくだがインテリっぽく見える。 「今まで走った西アフリカの国々とは違う感じがするぞ・・・。」 そんなことを考えていると、係官は、 「ジャポンはホニャララで、かくかくしかじかだ。ミリオンジャポンジェンがうんぬんだ。」 今ひとつ訳が分からなかったが、一応日本のことを褒めてくれていたようである。快適なのは道だけでなく、気温も３０度前後と、暑い思いをせずに走れた。 　昼食を取ったところで雨に降られる。雨が多いのか、緑は以前に増して多くなった。この日はフェルケセドグという町に着き、バンガローを見つけたのでここに泊まる事にした。１泊３０００ＣＦＡ。とても快適な一夜を過ごす事ができた。 ▼ 　コートジボアール　この日はバンガローに滞在。それほど暑くも無く快適に一夜を過ごす事ができた。 　町にはスーパーマーケットもあり、「何でもありそうな豊かな国」、そんな印象を抱いた。こうした国に来てほっとするのは、やはり先進国の便利な暮らしに慣れてしまっているからだろう。 　翌日、６月２２日。朝の１０時に町の電話局に行き、実家へ電話をいれる。セネガル以来２、３ケ月分たまった手紙をアビジャンの日本大使館宛てに送ってもらう事にした。両親は相変わらず元気そうなので安心した。家族や知人からの手紙を受け取るのがとても楽しみである。 　出発したのは１１時過ぎ。かつてのサバンナのような強い日差しはあるものの、雲が多く直射日光に長い時間当たる事もない。また、周囲の緑は以前に比べ圧倒的に多くなった。木々の背丈も随分高くなり、風土はとても豊かになっているように見えた。たくさんの緑に囲まれていると、本当に気分が和む。 　コートジボアールに入国してからは、少しのんびり気分の走行。坂が意外にも多いので苦労したが、夕方には目的地であるバディカハの町に到着した。ここで夕食に備えてマトンなどの食材を買う。 ▼ 　コートジボアール　バディカハと言う集落を通過。ここで夕食の材料を買っていく。 　バディカハの集落はそのまま走り去り、少し過ぎた所のブッシュの中にテントを張ってスパゲッティを自炊して夕食とした。 ▼ 　コートジボアール　この日もブッシュの中にテントを張った。次第に草木が多くなってきたようだ。 　翌朝６月２３日はブッシュの中で快適な目覚め。 「んー、本当に良く寝れたなあ。」 朝起きてそう思った。マリやギニアビサウで酷暑の中暑くて眠れなかった事を思い出す。あの頃の走行を頭に思い浮かべると、本当に楽な季節、気候になったと実感する。朝方の気温は２８度。西アフリカでは実に涼しい。以前だと、「朝方の涼しいうちに早く距離を稼いでしまおう。」と言った感じで早く走り始めるのだが、コートジボアールに入国すると、そうした焦りの気持ちも強くなく、「まあゆっくり走っていこう」などと思ってしまうのである。この日の出発は９時半。コートジボアール北部は、緩やかなアップダウンが続いていた。上から見たら波型の地形をしているのかもしれない。 ▼ 　コートジボアール　北部はだらだらとアップダウンが続いていた。 ▼ 　コートジボアール　緑の割合はとても多くなっていた。 ▼ 　コートジボアール　アスファルトの走りやすい道が続いていた。 ▼ 　コートジボアール　片道が２、３車線あるところも。 　道路の高い部分にやってくると、気持ちの良い樹海が遠くに見渡せた。以前の赤茶けたサバンナとは違い、広大な緑は走行中も安心感を与えてくれる。やはり緑が多い土地というのはいいものである。 　南に向けて黙々と走っていると、途中でトラックが止まった。 「アビジャンヘ行くのなら乗せてってやるぞ。」 そう言ってくれた。こうして声を掛けてくれるなんて、やはり暮らしに余裕があるのだろうか。親切な人がいるものだ。しかし私は、コートジボアールと言う国を自転車で走りにやって来たので、と丁寧に断った。 　お昼はラーメンで自炊。ワガドゥグで見付けて大切に食べてきた食糧、最後のラーメンだ。これを日陰のブッシュの中で料理して食べた。ジャングルの中で食べるラーメンもこれまた美味いのだ。 　ニアカラマンドゴーと言う村まで走り、そこで夕食の自炊に備えマトン、卵、ニラ、玉ねぎなどの食糧を購入。自炊のためのガソリンも買う。 　その後もしばらく走り、どこかテントを張れる場所を探したが、以前のように広大な空き地が「ひょい」と見つかると言う事も少なかった。周囲は開拓されていないジャングルが大半で、そんな中にはなかなかテントを張るスペースも確保できないのである。草刈り機かチェーンソーでも持ってないとジャングルでの野宿は大変だ。ようやくキャンプできそうな場所を見つけたのでそこにテントを張り自炊した。夕食を終え日記を書き、そのまま眠りについたのだが、夜中に小用で目が覚めた。寝ぼけ眼で草履を履いて外に出ようとした。が、何かぞうりの上に虫がいたのか、踏むと「プチっ」というような感触が足の裏から伝わってきた。 「何かな？」 と思った次の瞬間、親指に針のようなもので刺されたような痛みを感じた。 「痛い！」 慌てて手でパンパンと振るい落とし、懐中電灯で見ると、体長２ｃｍくらいの大量の大蟻が草履の周囲に集まってきていた。 ▼ 　コートジボアール　背丈の低い空き地にテントを張った。ここで大蟻に噛まれてしまった。 　６月２４日。朝起きると、昨日の蟻の大群の中の１匹が、テントのビニールに噛みついたまま死んでいた。噛み付いて抜けなくなってしまったのだろう。マジマジと蟻を見るととても大きい。これが本当に蟻なのか信じられない。クワガタみたいだ。 　バナナやオレンジ等のフルーツで朝食とし、早速今日も出発。いつものようにアップダウンは多いが、以前のサバンナの酷暑がないのは何より。気温は上がっても３５度。走り始めるとたくさんの緑が目に入り、気持ち良くペダルを踏む事が出来た。 ▼ 　コートジボアール　森に囲まれたアスファルトの道を走っていく。 ▼ 　コートジボアール　夕方には日陰になるので暑さの心配はさほどない。 ▼ 　コートジボアール　なだらかなアップダウンはひたすら続く。 ▼ 　コートジボアール　地元の人々は歩いて移動していた。 ▼ 　コートジボアール　森の中に延々と伸びる道。 　カティオラと言う町に着き、ここでコートジボアールの名物だろうか、主食のマニオク（キャッサバ）をまるでご飯のように漬したものを食べてみた。アチャケと呼ばれるそれと、少しの玉ねぎ、魚のフライ、パーム油。まあそれほどまずくもないがうまいものでもない。この時はそう感じたが、次第にこのアチャケは美味しく感じるようになっていった。 　コートジボアールは、以前訪れたカリブの島々の香りが漂っていた。今までの西アフリカの国々とは明らかに違い、豊かになったのだろうか。水道もあり、いたるところで「蛇口」も見る。家の造りもしっかりとし、電気もある。インフラも整っている感じがした。以前の西アフリカではダイレクトに話してくれたように思うが、ここで出会った人々は少し距離をおいて接してくる感じがした。 　その後も緑の中のアップダウンをひたすら走り、ボアケと言う町に到着した。ここで５ドル程のホテルに投宿し、ほっと一息。部屋にはシャワーもあり電気もある。当たり前だが、そうでない所を今まで走って来た私にとってはとても嬉しい宿だった。 　夜はレストランに出向き、辛いチキンを食べ栄養補給。 ▼ 　コートジボアール　ボアケの町に５時位に到着。５ドルのホテルに投宿。当然だが、シャワーもあり電気もあった。 　翌朝１０時出発。以前のような暑さは確かになくなった。しかしこの日もアップダウンが多く、波のように続く道を毎日走っていると、大きな峠を毎日越えているようで、次第に疲れが溜まっていく感じだった。 「暑さの次はアップダウン・・・か。」 一難去ってまた一難。この日は何とか首都のヤムスクロに到着しようと必死で走った。 　しばらくして大きな街を通過。以前の国々と交通事情を比較すると、これまた凄い差である。ビュンビュンと走る乗用車にトレーラーにバス。それはまるで先進諸国を思わせる。道路も広ければ路肩も舗装されている。 ▼ 　コートジボアール　途中ではこんな大きな町も通過。 　街を通過してしばらくすると、また密林の中の１本道を走る事になった。熱帯地方ならではの美しい木々を見つつ走り続ける。以前に比べれば気温は低く、上がっても３５度。日陰では２８度くらいまで下がる。以前の４５度の中の走行を考えると本当に快適になったものだ。 ▼ 　コートジボアール　夕方には涼しくなる。日陰部を走っていると、気温は２８度くらいだろうか。 　ティエビッソーと言う集落過ぎで前輪タイヤが擦れて限界となり、交換した。ギニアビサウ以来だ。その後もアップダウンと格闘しながら夕日を見つめて走った。 ▼ 　コートジボアール　夕日を眺めながら南下を続けた。 ▼ 　コートジボアール　以前ブラジルでみた風景にどこか似ている気もする。 　夜の８時過ぎに、やっと首都ヤムスクロに到着。街の入り口に来てびっくりした。オレンジ色の街灯が美しく光っている。日本のように電線は目に入らず、地中に埋め込まれていた。片道３車線の道が市街に向けて伸び、真っ暗な中その道を走ると、まるで滑走路を走っている感じさえした。 「何だかえらい町へ着いちゃったな。」 主要都市はアビジャンだが首都はこのヤムスクロ。人口は１２万人。暗い中、明るい街中に向けて走っていると、少年少女の遊ぶ明るい声が耳に入ってきた。道が広い割りに交通量も少なく、のどかで静かな町と言う印象を持った。ガソリンスタンドや商店などの様子を眺めていると、ヨーロッパのどこかの町と言われてもわからない感じさえしてくる。 「ここが一応この国の首都なのか。」 私はガイドブックを頼りにして、エアコンの付いた８ドルの宿に入った。 ▼ 　コートジボアール　首都ヤムスクロの８ドルのエアコン付きホテル。 　宿でシャワーを浴びた私は、外に出てマニオクとチキンを食べた。外を歩いていると、街灯の明かりで勉強する少女の姿が目に止まった。 「電気はないのかな・・・」 街の入り口はあんなにも街灯があったのに、庶民の家には電気はきていないのだろうか。中心街ではタバコを売り歩く少年たちの姿も目にした。やはり生活は豊かではないのだろうか。美しい街の光景と人々の生活のギャップがとても印象的だった。 　ブルキナファソでも見たが、西アフリカでは街灯の下でノートとペンを片手に勉強している子供たちをよく見る。「蛍の光窓の雪」の世界はここコートジボアールでも再び目にした。勤勉な子供たちだと感心してしまう。 ■ 次のストーリー第２８４話へ▼