第２８１話　８３カ国目　ブルキナファソ 「ワニ見学・・・。」 ブルキナファソの田舎でみた家は まるでオモチャのようだった。 ▼ アラスカ出発　１９９２／４／１〜ブルキナファソ　１９９６／６ ブルキナファソ出国までの走行距離　約８５８８７ｋｍ ▼ アフリカ走行　１９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離　約２２１０７ｋｍ ▼ ブルキナファソ走行　１９９６／６／９〜１９９６／６／２１ 走行距離　約８２４ｋｍ

６月１４日。首都ワガドゥグを後に、南西へ向けペダルを踏み出す事にした。ゆっくりと体を休めるつもりだったのに、張り切って街を駆け回ったせいか、逆に疲れてしまった。もう少しゆっくりすれば良かった。 　４日振りに走り出した私は朝から１リットルの水分を摂取してしまい、早くもバテ気味。水を飲めば疲れる事くらい分かっているが、暑い日はどうしてもガブ飲みしてしまう。体を休めたのが逆効果になったのか、この日はたったの５５ｋｍ走っただけでダウン。夕刻の６時くらいにカトリックのミッションで水を分けてもらい、その後しばらく走った所のブッシュにテントを張って自炊した。 ▼ 　ブルキナファソ　この日はたったの５５ｋｍ走っただけ。ブッシュにテントを張って自炊した。 　翌日の出発は７時。この日はワガドゥグの宿で出会ったイギリス人旅行者が勧めたサブーという小さな村に寄る事にしていた。なんでも大きなワニがいるのだそうで、肉を食べる事ができるか定かではないが、せっかく通り道にあるので寄って行く事にした。村には小さな湖があり、管理している兄ちゃんが入場料をとっていた。見学料は１５００ＣＦＡ。（約１６５円） ▼ 　ブルキナファソ　サブーの村の湖に寄り、ワニの見学をして行く事にした。 　兄ちゃんは湖畔に行くと、口笛を吹きながら、紐でくくった死んだニワトリをバシャバシャと湖に投げ始めた。するとどこからか２匹の小さなワニが姿を現し、陸に上がってきた。口をパクパクとやるのだが小さなワニで今一つ迫力に欠ける。大自然の中に生きるワニのイメージとは程遠い。ちょっとがっかり。 ▼ 　ブルキナファソ　ゆっくりとやってきたワニ。 ▼ 　ブルキナファソ　陸に上がって来たワニ。 ▼ 　ブルキナファソ　死んだニワトリにかぶりつくワニ。 ▼ 　ブルキナファソ　こうして見るとなかなか迫力のあるワニだ。 　兄ちゃんが、 「ちょっとあんたもワニと写真を撮っていきなよ。」 と言うので、誘われるがまま小さなワニと写真を撮った。 ▼ 　ブルキナファソ　「大丈夫だ。噛み付かないから・・・」そう言っていたワニ管理の兄ちゃん。 ▼ 　ブルキナファソ　「この尻尾を掴むんだ。こんな風だぞ。」 ▼ 　ブルキナファソ　「カシャ」ワニと記念撮影。 　兄ちゃんはここで泊まっていけば良いと勧めてくれたが、ワニだけしかいないので、悪いが村で野菜等を買出しして、再び走り始める。 　周囲には、まるで緑のじゅうたんを敷き詰めたような光景が広がっていた。きっと雨が多いのだろう。ギニアビサウやマリの酷暑のイメージはもうここにはない。気候は確実に以前とは違っている。しかし気温は３５度。まだ涼しいと言える気候ではない。 ▼ 　ブルキナファソ　周囲には緑の多い風景が。 ▼ 　ブルキナファソ　まっすぐにジャングルを駆けて行く。道はアスファルトだ。 　時々畑も目にしたが、地元の人々は暑さにも屈せず汗を流していた。脱帽してしまう。 　走行途中は暑いのであまり自炊はしなかったのだが、たまに食べるといえばラーメンだった。これを昼食に食べる場合は、涼しそうな木陰を見つけ、そこで自炊道具を出して作ったのだが、暑くて汗だく。食欲を出すためにピーマン（唐辛子）を入れる。粉末にはなっていないので自分で細かくしてラーメンに入れるのだが、このピーマンをちぎった手で顔の汗水を拭いてしまったりすると、もうその後は顔じゅうから火が噴いているようだ。 「ウォー！ヒー！」 私は一人ブッシュの中で叫び声を上げる事になってしまった。そんなピーマンパワーが効いたのか、この日は１２０ｋｍを走破。いつものペースをとり戻せた感じだった。 　走行も終わりに差し掛かった所で小さな村を発見。今日はこの後テントを張って自炊するだけだったので、この村で１杯のビールを飲む事にした。 「あーうまい。」 そこではヤギの肉が焼き鳥のようにして焼かれて売られていたので、１本１２円ほどのヤギの串焼きを何本も食べてしまった。ここの調理人はマメで、その手付きはマリのドゴンの老人を思い出させた。脂身を切っては細切れの肉の間に丁寧に入れていたのである。 ▼ 　ブルキナファソ　アフリカでの貴重なタンパク源。卵とヤギの肉が多かったように思う。 　彼は細かい手作業を一生懸命やっていたのだが、実はビールを飲みながら半分酔っ払って作業していた。益々感心。脂ののったこのマトン。田舎で焼きたての肉に唐辛子を振りかけて食べるこれはもう絶品。すっかりやみつき。走行後におつまみ付きでビールが飲める、そんな贅沢がブルキナファソでできるとは夢にも思っていなかった。そしてこの日も野原にテントを張って自炊した。 ▼ 　ブルキナファソ　下には緑の草木が生えているのでギニアの時のように暑さで眠れないという事もなかった。 　翌日６月１６日、朝から後輪タイヤのチューブを交換して出発する。この日は象の生息するナショナルパークを走ったので、いつ象が現れるかと楽しみにしながらペダルを踏んでいた。しかし一向に現れる気配はない。そこで地元の人々に聞いてみた。 「どの辺で象の姿を見ることができるの？」 すると、地元の人は、 「そんなのは１０年も前の話だよ。」 そう言われがっかり。自転車に乗りながら象を見れると楽しみにしていたのに・・・。 　この日も暑い１日で、気温は４０度近くまで上がった。人々は相変わらず畑仕事に専念している。私も負けてはいられない。彼らを見ていると、凄まじい勢いで畑を耕している姿が目に入った。自転車に乗るよりもはるかに大変な作業のように見える。力強いアフリカの人々にはまったく感心するばかりだ。私は少々バテて途中の木陰で休みながら走った。 ▼ 　ブルキナファソ　今日も暑い。とにかくゆっくりとペダルを踏んだ。 ▼ 　ブルキナファソ　美しい緑が広がっていたので写真を撮った。 ▼ 　ブルキナファソ　ブルキナファソの田舎の風景から。 ▼ 　ブルキナファソ　田舎の風景から。 ▼ 　ブルキナファソ　降水量も増えたのか、地表の緑も多くなった。 ▼ 　ブルキナファソ　田舎の風景から。 ▼ 　ブルキナファソ　田舎の風景から。 　オンドゥと言う町に到着した私は安宿を見つけ、ここに投宿した。ところがこの宿には電気も水道もなかった。部屋に入れば蒸しており、とてもじゃないが眠れる状態ではない。 「なぜこんな宿にお金を払ってしまったのか。」 そう自問自答してしまう。 ▼ 　ブルキナファソ　まるで蒸し風呂のような安宿に投宿してしまった。 　蒸し風呂のような宿だが、荷物と自転車は部屋に置いて村の見学ができるので、これは嬉しかった。野宿をするとその場から離れる事ができないので、こういうときは気楽な気持ちで村を歩ける。私はバケツ一杯の水で体を洗い、村を歩いた。すると偶然、日曜日のせいか、村人が広場に集まって楽器を奏でていた。楽しそうに踊っている姿もある。その踊り方も半端でなく、全身を滅茶苦茶に動かし踊っていたりする。これが面白くて、私も見物人に混じって見学。 ▼ 　ブルキナファソ　日曜日に広場に集まった村人。踊りを見物していた。 　彼らの奏でていた楽器は肩から吊す変わった木琴のようなもので、意外にも美しい音を奏でていた。楽器の下部には空のひょうたんがくっついており、木をたたく音がひょうたんの中で反響する仕組みとなっているらしい。その音はまさにアフリカ独特の響きだ。 ▼ 　ブルキナファソ　アフリカ風の風変わりな木琴。 ▼ 　ブルキナファソ　アフリカらしい素晴らしい音が村中に響いていた。 ▼ 　ブルキナファソ　踊る村人。 ▼ 　ブルキナファソ　踊る村人。彼は女装しているようだ。 　踊りは終わり、村は暗くなっていった。電気はきていないようで、夜のオンドゥの村には電気の明かりは灯らなかった。その代わりに灯油ランプがあちらこちらに置かれ、小さな出店の軒先にも置いてあった。村じゅうに灯るこの灯油ランプの光がまるで星のように光っていた。美しい明かりの灯る村に、子供たちの元気な声がいつまでも響き渡っていた。 　村を歩いていると、電気の明かりが見える家があった。前の広場では、ビデオ上映をしている。子供たちは釘付けになってそのカンフー映画を見ていた。どこの国でもこの手の映画は人気があるようだ。 　この夜も暑苦しそうだったので、宿の前にあるコンクリートの上でテントを張らせてもらい、そこで眠りについた。 　翌日６月１７日。オンドゥの宿を７時に出発。走り出すと周囲にオモチャのような可愛らしい家が建ち並んでいた。 ▼ 　ブルキナファソ　田舎で見た可愛らしい家々。 ▼ 　ブルキナファソ　田舎の風変わりな家。 ▼ 　ブルキナファソ　村人の素朴な暮らし振りが伺えた。 ▼ 　ブルキナファソ　まるでそれはオモチャのようだった。 ▼ 　ブルキナファソ　大自然に囲まれた可愛らしい家だ。 　緑と調和のとれた彼らの家を眺めながら走っていると、アフリカ大陸を実感する。テレビや冷蔵庫、洗濯機、電話と言った便利な品々はないが、彼らは自然と仲良く暮らしている。そんなのどかさがそこにはあった。それにしても自然に囲まれた美しい家だ。 　村を眺めながらその後も走った。このまま走れば本当にコートジボアールに、そして海岸線に辿り付けるのだろうか。信じられない思いでペダルを踏んでいた。 　気温は午前中の１１時頃には我慢できないくらいに暑くなり、時々日陰でダウン。もうろうとしながら走った。涼しくなったと喜んでいたが、暑さはまだまだ厳しそうだ。途中寄った村、コンビフでは少年たちが鶏の羽根を一生懸命むしっていた。その姿にたくましさを感じる。 ▼ 　ブルキナファソ　このまま走ればコートジボアールに着けるのか。 ▼ 　ブルキナファソ　水の中をのんびりと歩く牛たちの姿も。 ▼ 　ブルキナファソ　途中には大きな池などもあった。 ▼ 　ブルキナファソ　道沿いからみる風景。 　この日の目的地、ボボディラソの町に到着したのは午後７時近く。ホテルオキナワと言う宿があったので、ここに投宿。オーナーは小さい頃沖縄にいたと言う事だったが、この日は不在だった。 ▼ 　ブルキナファソ　ボボディラソのホテルオキナワに投宿。 　この夜は町に出歩き、何かうまい物を食べ、スタミナを補給しておこうと思った。テーブルとチェアが野外に出されたチキンの丸焼き屋を見つけたので、ここで食事。チキンの丸焼きにかじりつき、星空を眺めながらビールを傾けた。この日も本当にくたくた。食事を腹に詰め込んで、ホテルへと向かう。町を歩いていると、小さな少年が電柱の明かりの下でノートを広げ勉強していた。「蛍の光、窓の雪・・・」勉強したくても明かりは十分にないのであろう。 ■ 次のストーリー第２８２話へ▼