第２８０話 ８３カ国目 ブルキナファソ 「久々爽快ペダリング・・・。」  雲も多くなり、気温はかなり下がってきた。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜ブルキナファソ １９９６／６ ブルキナファソ出国までの走行距離 約８５８８７ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
ブルキナファソ走行 １９９６／６／９〜１９９６／６／２１ 走行距離 約８２４ｋｍ  |
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野宿した所から数ｋｍ走り、ブルキナファソに入国。しかし手続きを行うための、これと言うオフィスは見当たらない。おそらく最初の大きな村でチェックを受けるのだろう。
ブルキナファソ 国境付近で珍しい大きな木があったので記念に写真を撮った。  国境を越えてから９ｋｍほど走ると、トウと言う名の小さな村を通過。ここの村にも出入国のための管理小屋は見当たらない。 「ま、いいか。」 せっかくブルキナファソと言う国に入国したのだから、最初の村で記念撮影でもしようと、通り掛かりの村人に頼んでカメラのシャッターを押してもらう事にした。ところが、私が声を掛けた爺さんはフランス語を殆ど理解してくれない。部族語オンリーと言った感じなので、私はフルジェスチャーで、 「ワタシノ、シャシンヲ、トッテモラエマスカ？」 とやると、どうやら理解してくれたらしく、撮ってくれる事に。が、カメラは初めてだったようで、斜めに持ってシャッターをパシパシと押すものだから、ひっくり返ったような写真となってしまった。しかしこう言う写真も少ないので、お爺さんには感謝。いい思い出となった。
ブルキナファソ トウの村で爺さんにカメラのシャッターを押し手もらう事にした。 
ブルキナファソ 入国して最初の村で地元の爺さんに写真を撮ってもらった。私の下半身の写真。 
ブルキナファソ 斜めの上半身の写真。旅の写真の中では珍しい斜めカットの貴重な写真。  ブルキナファソの入国管理事務所は、結局、野宿した所から３０ｋｍ走ったティオウの村にあった。ここでやっと入国手続き。大学ノートに名前やパスポートナンバーを書き、簡単に入国手続きは終った。パスポートにも無事入国スタンプが押された。 「さあ、走るか。」 走り出そうとすると、係官は、 「何かくれ。」 と言っている。くれと言われても、何もないので、可愛そうだが何もあげずに走り出した。ダイレクトに「何かくれ」と言われても困ってしまう。この村で入国印をもらって正式にブルキナファソ入国。８３カ国目、８５０６６ｋｍ地点。 この日は朝から気温も高く、できれば入国記念にビールで乾杯といきたい所だが、真昼間からアルコールをとるのもマズイので、夜の楽しみにとっておく事にした。それにこんな小さな村で冷えたビールを売っている訳がない・・・と思っていたら、村の隅でビールを売っている店を見つけてしまった。 「ああ、欲しい、飲みたい・・・」 冷えたビールも売られているようで、喉から手が出るほど欲しかった。日曜日とあってか、地元の人もその辺に腰掛けてうまそうにビール瓶を傾けている。そんな光景を見た私は、 「あーもう我慢できない。えーい、８３カ国目の入国祝いだ、飲んでしまえ。」 ビールの値段は、６６０ｃｃ一瓶で約７０円。暑い中で一気に飲んだらもうたまらない。 「あーうまいー！」 暑さのせいかあまり酔わないが、一応これでも飲酒運転と言う事になるのだろう。真昼間に飲む冷えたビールはうまくて病みつきになりそう・・・。 この日はオウアイゴヤと言う町を目指した。気温は高く、また４３度まで上がった。早く雨の降る土地を走りたい。 「雨季よ早く来い。」 早く緑のある熱帯地域へ、海風の吹く海岸線へ南下しよう。そんな思いの毎日だった。 ブルキナファソで出会う人々は麦わら帽子をかぶり、颯爽と自転車のペダルを踏んで軽快に走っていた。やはり彼らの足も自転車なのだろう。国境付近の道は、マリやギニアと同じ赤い土壌の中伸びていた。
ブルキナファソ 気温は４３度。今日も暑い。大地からの照り返しがとてもきつい。  酷暑の中を走ってオウアイゴヤの町に着いたのは午後の４時頃だった。２０００ＣＦＡ（約４４０円）のホテルを探し当て、ここに投宿を決めた。思ったよりまともなホテルで電気もあり、ほっとした。
ブルキナファソ オウアイゴヤの安宿。１泊は約４４０円。  宿に荷物を置き、美味しい冷えたビールを飲もうと、町に出掛けた。以前のマリの町とはだいぶ雰囲気が違っており、洋服を着た人もいれば、スクーターやバイクに乗っている女性の姿も多く目にする。町のマーケットに出向くとパンフレットのようなものを渡されたりして、今まで走ったマリやギニアと比べるとどうも雰囲気が違う気がした。ブルキナファソは少し近代化したような、そして西欧に近ずいたような感じのする国に思えた。 町には大きなモスクもあれば教会もあり、イスラエルやアルバニアと同じように、コーランと教会の鐘を同時に耳にするという事があった。宗教はこの辺りでは複雑に交錯しているのかも知れない。町の人々の生活風景にそれが現れているような気がする。
ブルキナファソ マリと比べると物質面でかなり豊かになったように思えた。  町中の路上を歩きながらバナナのフライを食べる。このバナナは変わっており、食用の野菜のように扱われるものらしい。甘味はあるが、唐辛子汁（西アフリカでは辛いのはピーマンと呼ばれる）を掛けて食べるというもの。暑い中でこれには結構食欲がそそられ、バナナの甘味と辛味が意外にもマッチしてうまい。ビールのつまみに持ってこい。早速おかわりした。 久々に多くの「物」に溢れた町を歩いたせいか、私は嬉しくなり、いつまでも夜の町を歩きながら涼んでいたい気分だった。 翌日６月１０日。カフェオレとパンと卵焼きを腹に入れて出発。しばらく走ると前輪のパンク。良く見ると何かトゲのようなものが刺さっている。この日はたて続けに３回もパンク。タイヤも使えば使うほどパンクの回数が多くなっていった。昨日は雨が降っており、そのせいもあったのだろう。雨上がりの後はパンクの確率が高くなる。
ブルキナファソ 小さなトゲが簡単に刺さってしまい、この日は３回もパンク。 
ブルキナファソ 植物のトゲが刺さってパンク。 
ブルキナファソ こうした道沿いで修理。  走行中に出会う子供たちはにこやかに手を振ってくれる。今までの国の子供たちとはまたどこか違っているように感じる。少年や地元の人々は、なぜか皆して文通をしてくれと頼んでくる。住所交換をして私と文通して下さいと言うのだが、１人や２人ならまだ良いが、ブルキナファソに入国してからはすでに２０名以上の地元の人から、 「文通して。」 とせがまれた。まるで流行っているかのようだ。 「私はフランス語はだめだから・・・」 そう言って断ってしまった。 曇り空のこの日は気温は上がっても３５度。いつもに比べればそれほど暑くない１日だった。それでも午後になるとへたばってしまい、ペダルを踏む足に力が入らず、ヒーヒーと言いながらヤコという町を目指した。
ブルキナファソ ３５度の中の走行はやはり厳しい。ヤコまでの道がとても長く見えてしまう。 
ブルキナファソ 道沿いから見る風景。 
ブルキナファソ ひたすら南に向けてペダルを踏んだ。 
ブルキナファソ 途中で見た小さな村。  ヤコの町には午後７時に到着。レストランを見つけ、ようやく食事。ここのレストランでも、 「私と文通して下さい。」 そう言って住所をくれとせがまれる。どこへ行ってもこう言われるので、「何か裏があるのではないか？」ついそう疑ってしまう。こういう風に考えると旅の中の出会いの楽しみも半減してしまうのだが、余りにも多いので私も構えてしまうのだった。 町の安ホテル探しが面倒になってしまった私は、この日はジャンダルメリ（道沿いにある警察のような所）に顔を出し、許可をもらって庭に１泊テントを張らせてもらう事にした。ちゃんとしたトイレも近くにあり、公共の水道もあったので、一般のホテルよりも便利な所だったかもしれない。ここでパンクしたチューブの修理をして横になった。 翌朝６月１１日。 「ボンジュール。」 ジャンダルメリの男はテントを揺らし、朝の５時半に起こしてくれた。余りにも早かったので、マリとは時差があるのかと思ったが、そんな事はない。地元の人々は皆、早起きなのだろう。空はかなり明るくなっており、走り出すにも調度良く、テントをたたみ、礼を言って出発。 朝の早いうちは涼しい気温で快適。以前のマリ、ギニア国境などでは、朝の８時くらいですでに暑くてぐったりしたものだが、ここブルキナファソは気候も涼しくなっており、爽やかさを感じる。走っていても周囲には緑が増えた。それだけ雨が多いと言う事なのだろう。空にはかつてフィンランドで見た様なポカポカ雲が浮いている。アフリカとは思えない気持ちの良い走行となった。 畑仕事をする地元の人々の姿を見ても、以前のマリの人々とは比べられないくらい活動的だ。快適な心地よい風が肌に当たり、私も元気が出てくるようだった。１日中向かい風だったが、早起きした分だけ余裕ができ、この日の目的地である首都ワガドゥグに無事到着することができた。
ブルキナファソ 首都ワガドゥグに到着。
ブルキナファソ ワガドゥグへ。  ワガドゥグではフォンダシオンチャールズという安宿に投宿。自炊用のキッチンもあったので、早速スパゲティを作って腹を満たした。もちろんビールも飲んだ。 「あーうまい。」 ここ首都では次に行くコートジボアールとガーナのビザを取得しなければならず、連泊となる。しかし体を休められそうなのでほっと一安心。
ブルキナファソ ワガドゥグではフォンダシオンチャールズという安宿に泊まった。 
ブルキナファソ 宿のベッドは蒸し風呂のようだったので、庭でテントを張らせてもらった。  翌日６月１２日。久々にゆっくりと目を覚まし、短波ラジオのスイッチを入れ、いつも楽しみにしているＮＨＫのラジオジャパンを聞いた。そして朝食を済ませ、午前１０時にガーナ大使館に向かう。ガイドブックには住所が載っているので、簡単に行けるはずだ。最初に銀行で両替し、その後ガーナの大使館に行く。ところが住所が変わったらしく、その場所に大使館はなかった。慌てて地元の人々にどこに移ったのか聞くと、ちゃんと教えてくれた。フランス語に苦闘しながらも、なんとかガーナ大使館に辿り着く事ができた。
ブルキナファソ 町中を迷いながらガーナの大使館に向かった。  ガーナの大使館でビザの申請をすると、 「受領は今度の月曜日だ。」 そう言われ呆然。４日も待たされるなんて、ガイドブックのどこにも書いていないし、聞いたことないぞ・・・。４日間待たされて、その後コートジボアールのビザ申請・・・となれば、１週間もワガドゥグ滞在することになってしまう。 「それはまずい・・・。」 ４枚の書類を書き終えた私は、 「金曜日の朝くらいまでに何とかならないでしょうか？」 と尋ねた。すると係官は、 「もし何か払ってくれるのなら・・・」 と言う。 「いくら払えば？」 そう聞くと、口を閉ざし、価格を言わないので、 「１０００ＣＦＡ（２２０円）ですか？」 と聞くと、 「そうだ。」 とうなずいた。これが賄賂に当たるのかどうかは定かではないが、１０００ＣＦＡを払ったとたん、係官は、 「それじゃ明日の９時に取りに来なさい。」 と言うではないか。 「え、明日？早い・・・」 最初からビザ発行は早くできたのかもしれない。１週間ワガドゥグに滞在させられるよりは、２２０円を支払って１日でビザが取れた方がいいので、こういう場合は言いなりになるしかなかった。痛い所を突かれてしまった感じだ。本当は早くビザを発行できるのに、対応する係官一人が、「早く欲しければ金を払え」と付け加えるだけで、マージンが取れてしまう。ガーナは英国の統治でもっときっちりとした対応をしてくれるかと期待していたのに、こう言う具合に「何か」を求められてがっくり。ちょっと印象を悪くしてしまった。しかし、西アフリカの中では治安も悪くなく優秀な国と聞くガーナは早く走ってみたい。 ガーナのビザ待ちの間は大洗濯。自転車のバックからＴシャツから全部手洗いした。それが終ると街の中心の大きなマーケットへ出掛け、見て歩いた。民芸品から生鮮食糧品にレストラン。マリよりは時代が進んだ感じに見える。この位の町なら少しの間滞在しても居心地が良い。欧米人の顔もちょろちょろ見かけた。物価も安く、コカコーラの５００ｃｃのビンは４４円、屋台飯は５５円ほどで腹がいっぱいになるくらい食べれた。 翌日６月１３日、朝一番にガーナ大使館に出向きパスポートをもらう。そしてその足でフランスの大使館へと向かった。と言うのもフランスがコートジボアールビザの発行代行業務をしていると聞いていたため。ところがコートジボアールの大使館がワガドゥグ市内にあると警備員が教えてくれ、その住所へ向かった。これも簡単に見つけ出す事ができた。 コートジボアールの大使館はクーラー付きでびっくり。今までのアフリカの大使館とは雰囲気も違っており、落ちついた洋風の造りだ。ビザは明日の１０時まで掛かると言うので、 「今日中には無理ですか。」 と尋ねると、それじゃあ午後の４時に来なさいとの事。ガーナのように「何か」は言われずにほっとする。こうして２ケ国のビザを２日で取る事に成功。ガーナは１２０００ＣＦＡ。コートジボアールは２００００ＣＦＡ。２国でＵＳ７０ドル近くの大出費。高いことこの上ない。
ブルキナファソ ワガドゥグの街の様子。  ビザを取得した私は、この日、食べたり飲んだりしてくつろいだ。大きな街には何でもある。しかし田舎に行けば限られた食生活になる。つまり食べられるときに食べる、栄養もとれる時にとっておこうと思ったのだ。今まであまり満足に良い物、栄泰価の高いものを食べていない気がしたので、牛のように食い溜めする。更に、マリのバマコで床屋に行き髪を切っていたが、まだうっとうしかったのでここで再び切る事にした。切ってくれたのは、ガーナからブルキナファソにやって来て１２年と言うベテランの床屋。もちろん安い床屋で、店はベニヤで囲まれた掘建て小屋だ。紙切りバサミでチョキチョキとやってもらい、どうにかまともなスポーツ刈りに仕上がった。値段は１００円程。彼の真剣な眼差しが印象的だった。
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