第２７９話 ８２カ国目 マリ 「大切なチキンの骨・・・。」  砂道を歩いていると元気な子供たちが集まってきた。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜マリ １９９６／６ マリ出国までの走行距離 約８５０６３ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
マリ走行 １９９６／５／２２〜１９９６／６／９ 走行距離 約１０３２ｋｍ  |
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バンカスを後にしたのは６月８日。朝７時に町の屋台で食糧を調達し、ブルキナファソ入国目指し東進を始めた。田舎の国境のせいか、バンカスからしばらく走ると砂道となり、２時間ほど酷暑の中を歩くことになった。自転車に乗っては走れないが、歩いてなら何とか進む事ができる。深い砂地に入らないように道を選んで歩いた。しかし、時々ズブズブと車輪が埋まってしまう。この日は気温も４３度まで上がった。日陰で休みながら少しずつ歩く。地元の人々はこの炎天下で畑仕事をしている。 「こんな所で畑仕事なんてしたら死んでしまうのでは？」 そう思うくらい、とにかく暑い。私の姿を見つけた子どもたちが元気良く走ってきた。 「どうしてあんなに元気がいいのだろうか。」 赤ちゃんのときからこの環境なら、適応して強く育っていくのだろう。
マリ 私の姿を見て元気に駆け寄ってきた子供たち。 
マリ 暑いのに本当に元気な子供たち。
マリ コーローに行く途中で見た土壁のモスク。 
マリ 風変わりな土壁のモスク。 
マリ 土壁のモスクを眺めて走った。  砂地を何時間かかけて進み、ようやくコーローと言う国境の村に到着した。腹ペコだったのでその辺の屋台レストランに入り、ご飯と鳥肉を食べる事にした。周囲には子供たちがいて気が引けたが、私も食べなければと、その場で食べた。骨についた肉もきれいに食べた。１つの骨がお皿の上でゴロゴロと転がっており、ご飯が食べにくかったので、ポイッとその下の砂地に捨てた。すると次の瞬間、屋台のおばさんは、 「あんた何するの！」 と言わんばかりの剣幕で怒リ出した。最初は散らかしたのが悪いのかと思い、慌てて拾おうと思った。しかし周囲は他にもゴミが散らかっており、間違ってもきれいな所とは言えない。他の客を見てみれば、お皿にある程度食事を残している。以前にも同じように、レストランで食べ残す習慣を見た事がある。本当は残さなければいけなかったのだ。つまり、子どもたちのために食事を残してあげるのが常識だったのだ。たとえそれが肉の付いていない骨であってもだ。子供たちは常に客の「おこぼれ」を待ち望み、屋台の周囲に群がっているのである。私は彼らの貴重な骨を砂地に捨ててしまった。大切な大切な骨だったのに・・・。 マリの現実はとても厳しい。何をどう対処してよいやら躊躇するばかり。子供たちがそこまでする程、このコーローの村は物不足や貧困には見えなかったのだが。マリ、そしてその後のブルキナファソでもこうした光景には度々出くわす事になった。 玉ねぎとマンゴーを村で購入した私は、ブルキナファソ国境に向け出発する。コーローの村を出ようとすると、そこにはイミグレーションを兼ねた国境管理小屋があった。ここで出国スタンプを貰うことになる。マリもブルキナファソもセネガルなどと同様で、シェーファーフラン（ＣＦＡ）と言う同じ通貨が使われているので、両替の為のわずらわしい作業はない。ここでは普通に出国印を貰えばそれで済む。しかし、何か嫌な予感がした。係官の所に行くと、案の定、 「今日は土曜日だから１０００ＣＦＡ払え。払いたくなければ月曜日にまた来い。」 などとのたまう。これは日本円に換算するとたかが２２０円程で、払えばそれで簡単に済んでしまうのだが、そうはいかない。金額は関係ない。職権乱用は万国共通良くないのだ。こういういい加減な警察を見ていると腹が立ってしまう。早速抗議開始。 「土曜日？なぜ１０００ＣＦＡ払わなければならないの？そんな馬鹿な事はない。」 抗議するが、払えときかない。 「払わぬのなら月曜日だ。」 と言い張る。 「２２０円に妥協するのか、悔やしいなあ・・・。」 もしかしたら彼らの言っている事は本当かもしれない。土曜日の国境越えには本当に支払いが必要なのかも知れない。余りにも彼らが自信ありげに言うのでこちらも不安になってきた。 「地元の人に聞いて、もし本当なら諦めて払おう。」 そんな事を思いながら外へ出ようとしたとき、 「アタン、ジャポネ、」（待て、日本人） 「ん？何だろ？」 彼らは手招きをしている。 「しょうがないな、パスポートよこせ。」 と言いいつつ、結局は出国スタンプを押してくれた。本気だったのか、ふざけて言ったのかは知らないが、まったくたちの悪い係官だ。パスポートを見た男は、まだ何か言いたそう。 「このビザはなんだ、期限切れじゃないのか。」 と再びケチをつける。 「え？あの今日はまだ６月ですけど。」 どうやらどこかの違う日付と勘違いしたらしい。汚職と言うのはどこの国にもはびこっているのだろう。 マリの出国手続きをして、ブルキナファソ国境へと向かう。国境間はかなり長いようで、途中でテントを張って一夜過ごす事になった。 絶対に誰もいないと思った低木の間にテントを張ったのだが、翌朝、早くから畑仕事などに行く人や子供が次々にやって来ては、握手を求めてきたりした。林の中もブッシュの中も通勤の道になっているのかもしれない。
マリ どうやら私のテントを張った所は地元の人々の通り道になっていたらしい。  テントを畳み、８３カ国目のブルキナファソに向けてペダルを踏んで行った。
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