第２７３話 ８１カ国目 ギニア 「想い出の工具・・・。」  ギニアの田舎の鍛冶屋さん。ここで工具を作ってもらった。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜ギニア １９９６／５ ギニア出国までの走行距離 約８４０３１ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
ギニア走行 １９９６／５／５〜１９９６／５／２２ 走行距離 約１０２３ｋｍ  |
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翌日５月１９日、朝食はパンにマヨネーズを付けてマヨパン。地元の人がこうして食べていたのを私も真似た。朝食を済ませ走り出すと、一台の車が走り去って行った。この車のルーフには、以前にも見たように車高の倍くらいの荷物が載っていた。自転車らしきものと思って良く見ると５０ｃｃバイクが３台。 「ス、スゴイなあ。」 車不足のアフリカではこうした光景が珍しくない。それにしてもすごいものだ・・・そう感心していたのが、私が走って来た道は大きな穴がそこらじゅうにある悪路で、車でもRV車が走るような悪路だった。 「あれでよく走れるものだな。」 そう感心していたが、しばらくすると案の定、大きな穴にはまって倒れかけていた。今にも倒れそうだ。すると中に乗っていた人々が次々に降りてくる。数えてみたら１２名。皆で車を押して、無事穴から脱出。こうしたトラブルも彼らにしてみれば慣れっこなのかもしれない。
ギニア 悪路でバンは停まってしまっていた。 
ギニア １２人が乗ったバン。ルーフには原付バイクが３台も載っかっていた。  「それにしても彼らは大変だなあ。」 そんな事を思いながら走っていた。ところが、人の事を心配していた私にもついにトラブルがやってきた。走行中に突然飛脚号の後輪が回らなくなってしまったのである。 「あれ？どうしたのかな？」 どうやらベアリンダ内に砂が詰まってしまったらしく、ホイールがきつくなっていた。慌てて修理開始。砂を除去すべく１時間程かけてホイール内を掃除する。しかしそれほどの砂は見付からない。原因不明のまま修理を終了し、そのまま走り出した。調子は悪くなく、その後しばらくは順調に走ってくれた。 昼飯を１１時位に食べ、小さな村を通過したので、そこで例によってコッフェルに飯を詰めてもらう。周辺には相変わらずギニア独特の美しい家が建ち並んでおり、私は地元の元気で明るい子どもたちと写真を撮った。酷暑の中のハードな走行は続くが、それでもこうした人々に出会え、美しい村々を見れたので充実していた。
ギニア ギニアの田舎で見る美しい家と子どもたち。 
ギニア この時は女の子が多かった。 
ギニア 写真を撮ると言うと、元気な笑顔で踊ってくれた。我々には真似のできない笑顔をしている気がする。 
ギニア 私も記念写真。  午後、小さな村に着くと二人の少女がマンゴーを手にやって来た。どうやら売っているらしい。 「いくら？」 と聞くと、 「１０円。」 と言う。するともう一人の少女はそれよりも安い値を私に提示。すると、それを聞いた隣の少女はまた値段を下げた。友だち同士のように見えたが、私の前でダンピング合戦を始めてしまった。もっと下げさせて安いほうを買う、と言うひどい事を少女たちの前ではできないので、両者から同じ価格で一つずつ購入する。お金を得るのに必死なのだろう、と痛感した。
ギニア 田舎の村で。 
ギニア バオバブの木の下に可愛らしい家がたくさん。 
ギニア ヤギのつがいと大きな庭と家とマンゴーの木。これだけあれば生きていける？  この日の午後は雨も少々降り、涼しくなった。こうなると私も少し元気が出てくる。できるだけ前へ進み、距離を稼いでマンゴーの木の下でテントと蚊帳を吊って眠った。涼しいのは蚊帳。しかし雨が降った場合に備えてテントも一応張っておいた。この晩はとても涼しく、快適な眠りにつく事ができたのだった。
ギニア 贅沢にも二つの家を持ち歩いていた私。この夜は雨も多かったのでテントを張り、蚊帳を吊った。 
ギニア 蚊帳を吊り、テントも一応張っておいた。  翌日５月２０日、９時出発。気持ち良くペダルを踏み出したのは良いが、出発してからたったの４ｋｍ進んだ所で昨日同様にホイールが止まってしまった。 「な、なんだ、なんだ？」 それは突然誰かに後輪ブレーキを掛けられた感じだった。このホイールのハブはセネガルの首都ダカールで交換したハブ。ガルシアさんに安く売ってもらった中古品である。 「セカンドハンドを使ったのは失敗。部品の到着を待てば良かったかもしれない。」 そんな後悔をしても始まらない。とにかく修理開始。しかし砂が詰まっている訳でもなく、原因が分からず悩んでしまった。こんなトラブルはかつて味わったことがない。とにかくハブを外してネジを回したりしてみるが、分からない。どこか調節して一応ホイールが回るようになったので、また走行続行。ところが２ｋｍ程走ったらまた同じハプニング。今度はきつくホイールが回りすぎたのか、内部のベアリングに当たる部分ががっちりと締まってしまってなかなか緩まない。これは大事件だ。シャフトを外すのにそれは難儀する。地元の人々が自転車で走り去って行くのだが、一応に心配して声をかけてくれる。１時間すったもんだして、ようやくシャフト両側のベアリングを押さえるネジを緩める事に成功。 「今度こそ大丈夫だ。」 手持ちの工具で出来る限りきつく締め直した。大丈夫だろうと走り出したが、わずか２ｋｍ程走ると再びトラブル。 「あーどうしてしまったのだ、分からない。」 シャフトから何からベアリングのボールも全部取ってきれいにして、今度こそ慎重にセットした。ところが３ｋｍ程走るとまた飛脚号は止まってしまった。 「これはダメかな。」 時刻は午後の３時を回っていた。一日中曇り空だったのが何よりの救いだった。２〜３ｋｍ毎にこんな事をしていては埒があかない。朝から走っては、道沿いに止まって修理をするの繰り返し。 「こりゃ本当に弱った。」 でもこんな田舎で何ができるのか。もう午後の４時を回ってしまった。 「ああ、どうしよう。」 そこにまた自転車に乗った地元の男がやって来た。 「あんた、今朝も見たよ。まだこんな所におったのかい。」 仕事帰りらしいその地元の男は、 「２、３ｋｍ向こうの村に修理屋さんがあるから行かないか。」 そう言ってくれた。土壁レンガで藁葺き屋根の、言葉は悪いが原始的な暮らしをする村の中に修理屋が？私は、 「こんな田舎の村で直せる訳がない。」 そう決め付けていた。自転車屋などない、修理できない事は分かっていた。でも何もしないよりはいい。私はその男に言われるがまま付いて行った。 「もしかしたら何とかなるかもしれない。」 ９５％辞め気分。いつも道路側から見ていた土壁の集落のその中に入ると中は凄い。まるで迷路のように複雑な造りになっている。
ギニア 土壁の家の中にと入って行った。  各家の土壁はくっつき合っており、その家の間の路地をくねくねと曲がりながら男に付いて行った。２〜３ｍの小さな家がくっついて連なり、集落の中は独特の雰囲気だ。時々子供がどこからか現れると、男と私に気持ち良く挨拶をしてくれた。そんな迷路のような土壁が終わる頃、男は、 「ここじゃよ。」 と言って建物の中に案内してくれた。鍛冶屋のような感じで、キンコンカンとやっている。外から見る限りでは何の建物なのか皆目見当もつかない。しかし中には役に立ちそうな工具があり、 「これなら修理できるかもしれない。」 そう思った。しかし私の自転車に合う薄いスパナなどはなく、 「やはり無理か。」 と思った。が、修理していた男は、 「ちょっと待ってろ。」 と言うような仕草をすると、薄い鉄板を持ち出し、ものの数分でキンコンカンとそれをたたき切って薄いスパナを作ってしまったのだ。 「うわ、すごい。」 嬉しくて、信じられなかった。
ギニア タイヤを持っているのが修理屋の兄ちゃん。道沿いで声をかけてくれたのは左の男性。 
ギニア ものの数分でキンコンカンと薄い鉄切れをたたき切って工具を作ってしまった。感激。 ギニアの田舎で思い出の工具が出来上がってしまった。これで修理も簡単にできるようになった。ダメと思って決め付けていたのに、こんな田舎の、こんな建物の中で修理できるなんて夢にも思わなかった。私は皆と記念写真を撮りたいと申し出た。
ギニア 村の鍛冶屋さんの横で記念撮影。 
ギニア 「はい、もう一枚！」  村人に助けてもらい、これで私もまた走り続ける事ができる。 「本当にありがとう。」 皆さんにお礼を言い、クラブのシールを渡し村を後にする事にした。男にとっては何気ない気遣いだったかもしれないが、私にとっては涙が出るくらい嬉しい出来事だった。 この日もテントを張って自炊した。
ギニア この日も森にテントを張った。  翌日５月２１日。マンゴーを朝食として出発する。昨日直ったと思ったホイールはまだ問題があったのか、この日も再びハプニング。どこかおかしいようだ。とりあえず修理する。今は昨日作ってもらった思い出の工具があるので修理は以前に比べて断然楽。気楽なものだった。 修理を終え、しばらく走るとニジェール川が見えた。雨期に比べると水量は少ないらしく、渡し舟に乗る時間は１０分位だ。
ギニア ニジェール川を渡っていく。 
ギニア 雨期前で水量はかなり少なめだ。 
ギニア 小さな渡し舟でニジェール川を渡った。  川を渡る時に、何か物をねだってくるような嫌らしい警官たちがいた。が、特に問題なく通過。そしてシギリと言う町に着いた。この町ではギニア出国の為の手続きを済ませなければならない。ガイトブックには「シギリのイミグレでは賄賂を要求されるので、行くべきでない」と書かれてあり心配だった。が、税関もイミグレーションもまともで問題はなかった。きっと古い情報なのだろう。イミグレーションでは判子をもらい、そのカードを国境の出国係官に渡し、出国印をもらうらしい。ややこしいのだが、そう言う仕組みになっているようだ。午後２時頃までかかり出国の作業も終了。ギニアの出国の手続きは済ませたが、ギニアとマリの国境まではまだ距離はあるので、油に乾電池、米、ガソリン、ロウソクなどの生活品を買った。どこに行こうとしても子どもたちがちょろちょろ付いて来たのには参ってしまった。
ギニア マリの国境目指して走って行く。 
ギニア マリの国境へ向けて。 
ギニア 途中の村で見た小さな家？これは穀倉のようだ。  この日の夕刻、小さな村で井戸を見つけたので、ここで水を汲んで、ついでにTシャツも洗っていく事にした。井戸のポンプのある所では少女が２０リットルのタンクを三つも満杯にしようとしていた。ポンプの上下運動は私でも大変で、ポンプがきつかったりすると尚重労働。そんなポンプを少女は「キコキコ」と鳴らしながら水汲みに励んでいた。いつ見ても本当に大変そうだ。私は少女のポンプの汲み上げを手伝い、２０リットルのタンクを三つ満杯にしてあげた。すると嬉しそうにしていた。私も自分のタンクに水を汲み入れ、その後に汚いTシャツを洗おうとした。するとその少女は、 「私に任せなさい。」 と言わんばかりに奪い取り私のＴシャツを洗い始めてくれた。待っている間に他の女の子がマンゴーを二つ持ってきてくれた。優しい少女たちの心に触れ、私の心はたちまち和んでいった。彼女たちにお礼を言い、再びマリ方面に向けて走り出した。 夕方になると村にある井戸の周りには子どもたちが集まり、楽しげにバシャバシャと水遊びをしていた。子どもたちのキャッキャと言う元気な声が村中にこだまする。日本にはこうした井戸もなく、各家庭に便利な水道と言うものがある。ギニアには水道がない代わりに公共の井戸があり、村人同士の交流が多い。便利で快適で合理的な暮らしをとことん追求してしまう日本や先進諸国。ギニアを走っていると、合理的な暮らしを追求し過ぎて行くと、何か我々の生活の中で失っていくものがあるように思えてならなかった。不便な生活の裏側に、実は素晴らしい世界や忘れてはならない教訓がある。ギニアの人々の生活に触れていると、考えさせられる事がたくさんあった。この日も森の中でテントを張り、焼き飯を自炊した。
ギニア ブッシュの中でテントを張って自炊した。この晩のメニューは焼き飯。  翌日５月２２日。 「今日は８２ケ国目のマリヘ入国だ。」 張り切って出発した。心配種のホイールも大丈夫の様子で、シギリ手前で修理して以来５０ｋｍ近くを走ったが、問題はない。マリに出国する手前の小さな村でお店に寄った。そこで冷えた水を貰う。 「いくらですか？」 「タダでいいよ。」 そう言ってくれた。 午後も暑くなった頃、マリとギニアの国境にあるコウレマレの村に到着した。
ギニア マリへ抜けるための国境のコウレマレの村に着いた。  出国の手続きは、賄賂も要求されることなく紳士的な対応で安心の係官。 「この出国カードをもらうのにシギリの警察で金を払ったのか？」 とまで確認してくれる正義の味方。税関の人々もまたフレンドリー。この日でギニアの走行も終わるのかと思うと少し寂しい気もした。苦しめられた赤いアップダウンの道。緑の美しい景観。おばちゃんたちの作ったおいしいぶっかけ飯の数々。触れ合いの多かった井戸。酷暑の中を走り終えて飲んだビールの味・・・。 「ギニア走行は本当に良かった。」 出国の前に余ったギニアフランを使い切る。ジュースを飲んで休憩。そしてマリへと向かって走り出した。
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