第２７１話 ８１カ国目 ギニア 「ダボラの寝苦しい夜・・・。」  ピースコープのウェンディー、ジュリーの 住まいにお邪魔したのだが・・・。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜ギニア １９９６／５ ギニア出国までの走行距離 約８４０３１ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
ギニア走行 １９９６／５／５〜１９９６／５／２２ 走行距離 約１０２３ｋｍ  |
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野宿地を後に、美しい緑を見ながら東へ走り始める。走行途中、雄大な風景が目に入ってきた。点々とある緑の木々。マンゴーなどが多いが、中にはアボガドの木も生えていた。しかし採って食べるにはまだ早そうだ。
ギニア マンゴーの木もあれば、アボガドのなっている木も目にした。 
ギニア 走行途中に見た風景から。  そんな緑に囲まれた大地を走りながら、地元の人と挨拶を交わした。公用語のフランス語ではなく、この地方の人々の話す部族語。こんにちは、はこの辺では「ギャラマ」と言うのだそうで、これを私も頻繁に活用するようにした。 「ギャラマ」（こんにちは、ごきげんいかが？） と言うと、向こうからも、 「ナラト」（いいですよ） そう気持ち良く返ってくる。
ギニア フランス語で話してくれる子どもも多いが、やはり彼らの部族語で話すとしっくりくる。  彼ら自身の部族語の挨拶の方がフランス語より違和感がなく、断然気持ちがいい。どんな婆さんでも田舎爺さんでも、この挨拶をすると即座に、 「おー、こんちは。」 と返ってくる。自分が地元の人に受け入れられている気がして、とても嬉しくなってしまった。 しばらく走るとダラバの町に着いた。
ギニア 割りと大き目の町、ダラバに着いた。 
ギニア しっかりとした家が建ち並ぶダラバの町で。  ダラバの町で偶然に、ラベで出会ったピースコープでボランティアをするデイブに出会った。 「おう、ヨシ！また会ったね。」 我々はすっかり意気投合し、彼から今後の道路情報を聞く事ができた。 「ダボラ過ぎは標高も下がり、また暑くなるよ。」 その言葉に少しがっかり。彼と他のピースコープの仲間と記念撮影をする。このとき一緒にいたジュリーは、先日出会ったウェンディーと一緒に住んでいると言い、 「ダボラには是非寄ってね。」 と言ってくれた。
ギニア ピースコープで活躍するデイブ青年（右）と他のメンバー。左はまたダボラで再会する事になるジュリー。  ダラバからマムまでは一気に下る。途中雨に降られ涼しくなり喜んだ。マムでは久々に町の宿に泊まりたかったのでホテルを探した。このホテルには電気があり、水もあり、更に衛星放送の入るテレビもありでびっくり。同じ国内でもすごい差があるものだと痛感する。
ギニア 衛星放送も入るホテルに投宿。  翌朝の朝食はすぐ近くの乗り合いタクシーのところにあった軽食屋で、カフェオレとパンを腹に詰め込んだ。 出発早々急勾配が始まり、ヒーヒー言いつつの走行。昨日、高い宿泊料を払って泊まったが、暑くてよく眠れなかった。そのせいかこの日は疲れがとれていなくて、今ひとつペダルを踏む足に力が入らない。 しばらく森の中を走り小さな村を通過しようとすると、空き地に村の女性たちが集まって、何か作っていた。どうやら揚げ物らしい。腹も減っており、好奇心もあったので少し寄って行く事にした。まるでお菓子のようなそれはマニオク（熱帯地方に住む人々が取る主食）からできたもの。マニオクの粉末を水に溶かし、パンのように練った物を揚げていたのだ。一口サイズの小さな揚げパンと言った感じで、味見させてもらったが、美味くてパクパクと食べてしまった。１０個で５円と言う破格値なので、２０個くらい買い、ついでに写真も撮らせてもらった。
ギニア 小さな揚げパンのようなもの。１０個で５円。その場でつまんでいった。 
ギニア 私も料理のお手伝いをする。  食糧を補給したのちに再びペダルを踏み始めたが、この日の勾配は凄まじく急で、半端でなかった。上っては下り、下っては上るそのアップダウンの連続に閉口。舗装路なのが何よりの救いだが、それでもかなりきつい。サドルからは絶対に降りまいと、必死の思いで駆け上っていると、地元の乗り合いタクシーもうなりをあげて走って行く。このときのタクシーを見て私はビックリした。 「おおー」 その積載量が半端でないのだ。排気量２０００ｃｃあるかないかのバンに乗っていた人数はなんと１６名。１２名は車内に、残りの４名は、バンの上に山のように積まれた荷物の上に乗っていたのだ。その荷物の量は車高の倍程もある。クレイジーと言えるくらいに荷物を載せて、それでもこのとき急坂を走っていたのだからスゴイ。しかし一度は私を追い抜いたこの乗り合いタクシーも、案の定前方の坂道の途中で停まってしまっていた。車の需要が本当に少ない、そんなギニアの事情が伝わってくる一幕だった。 この日は私もこの急勾配に苦闘しながら７５ｋｍ進み、途中の森の中にテントを張ることにした。
ギニア 急坂を走ってバテた１日。森の中で野宿した。  翌日５月１５日。ペダルを踏み出したのは８時。昨日同様に急匂配の連続で朝からぐったり。そんな中で見たギニアの田舎の家々はとても美しく、穏やかな気持ちとなれた。きっとあの家には電気もなく、テレビもないのだろう。でも、豊かな緑と広い台地に囲まれてポツリと建つ家には、とても魅力を感じた。自然と仲良く暮らすアフリカの人々の知恵がその家には詰まっているように見えた。
ギニア ギニアでみた田舎の家はとても可愛い。アフリカを走っている実感がする。 
ギニア 造り方もきっと彼らの独特なものなのだろう。 
ギニア 周囲には美しい風景が見えていた。 
ギニア 田舎の集落で。  アップダウンも少なくなる頃、小さな民家の人に声を掛けられた。何かと思ったら、 「このマンゴーを持って行きなさい。」 と言う。覚えたての、 「ギャラマ。」（ありがとうも、こんにちはも併用されるらしい） とお礼を言うと、民家の人も嬉しそうにしていた。それにしても最近は毎日マンゴーばかり。ちょっと飽きた気がしないでもなかった。 ダボラと言う町に着く手前には、のどかで美しい村が点々としていた。そんな中、偶然市の開かれている村を見つけたので、少し見学して行く事にした。市は日中の強い陽射しを避けるために大きな大きなバオバブの木の下で開かれていた。小さな可愛らしいその市は、日本で言うフリーマーケットのような感じだ。村の人々が各自持ち寄った野菜やマンゴーなどを売っていた。
ギニア 大きなバオバブの木の下で開かれていた小さなマーケット。とても美しく私の目に入ってきた。  マーケットに並んでいる品は質素ではあったが、こうした集まりを見てなぜか嬉しくなった。この時寄ったバオバブの木の下のマーケットには何か言い知れぬ魅力があり、それに惹きつけられた。村人の楽しそうな雰囲気や活気がここに漂っていたのだろう。 ここではフレンドリーな爺さんに、この辺の部族語であるマリンケの片言を教えてもらう。「こんにちは」は「イニッケイ」と言うのだそうだ。実際聞いていると「日経」に聞こえる。こう言う単語は私も覚えが早かった。このマーケットで少し休憩を兼ね、その後も美しい緑の中をペダルを踏んで行った。ダボラに着く頃には急勾配の坂は現れなかった。
ギニア ダボラの町に向かう途中の風景。 
ギニア 標高が高めなのか、緑の美しい風景が広がっていた。 
ギニア ダボラに向かう私。 
ギニア ダボラという町に到着。  ダボラに着いた私は、アメリカのピースコープで活躍しているウエンディーとジュリーを訪ねた。ウェンディーとはラベで出会っており、ジュリーとは途中通過した村で会っていた。どちらとも顔を合わせていたので、再会できる事をとても楽しみにしていた。 彼女たちの住所は聞いていた。小さな村で見付けるのは簡単と高をくくっていたのだが、これが自力で探してもなかなか見つからず、結局地元の子供たちに案内してもらう事になった。 少年たちに案内され、無事に彼女らの家に到着。 「あらーヨシ、ようこそ。着いたのね。」 ラベで会ったウェンディーが出迎えてくれた。彼女は子どもたちに仏語で数学を教えており、もう一人のジュリーは子どもたちに英語を教えていると言った。アメリカのピースコープは日本で言う海外青年協力隊のようなもの。彼女たちはとても個性的で、接していても面白い。私を出迎えてくれたときも、ラフな感じで短パンにＴシャツ、それに裸足でペタペタととても気持ち良さそうに歩いて出迎えてくれた。地元の人の住む家をちょっと良くしたようなもので、住まいはぼろいと言えばぼろい。 彼女たちの家にも水道はなく、毎日井戸へ水汲みに行くのが日課だと言う。この時期は乾季で降水量が少なく、水力発電も十分でないために、電気も夕方から深夜までで切れてしまうのだそうだ。 「暑いのは今の時期だけよ。雨期は雨期で蚊は多いけど、それほど大変じゃないわ。」 とギニアでの暮らし振りを話してくれた。彼女たちはいつも屋台で外食するそうだが、私が来たので手間をかけてスパゲティと、パンケーキまで作ってくれた。感謝・・・。パンケーキを食べながら、 「何が一番辛いの？」 と聞くと、 「ラマダンの時期ね。あれは辛いわ。」 と言った。何でも生徒たちは、 「僕等皆やってるのに、先生たちもやらなきゃだめだー。」 と言うのだそうだ。この言葉はかなり酷らしい。異文化、異宗教の中での２年間のボランティア。すでに半分の１年が経過しており、 「大変な時はとても大変。でも楽しい経験よ。」 と笑って言った。明るい人々と美しい環境に囲まれ、時には厳しい自然に翻弄されながら暮らす、先進国人のウェンディーとジュリー。豊かなアメリカ社会にはない何か大切なものや魅力をこのギニアで見出しているのかしれない。 この日の夜、ジュリーは、 「ヨシ、扇風機のある部屋で寝るといいわ。夜中に電気は消えちゃうけど。私たちはいつものように外で寝るから。」 ナヌ？夜中に消える？・・・と言う事は風もなくなり、部屋はあのギニアビサウのときのように、蒸し風呂状態になるのではないか・・・。それを恐れた私は、 「あ、私も外で寝たい。いいかな？」 と言うと、 「あら、いいわよ。テントを張ってもらってもいいけど、マットレスが余っているから、それを敷くわね。」 そう言って布団大のスポンジのようなマットレスを持って来て、庭に敷いてくれた。そして、我々はモスキートネットを張って澄み切った夜空の星を眺めながら、旅の話などをして気持ち良く深い眠りに着くはず・・・だった。ところが彼女たちがマットレスを敷いてくれた場所はその日、１日中直射日光が当たっていたところで、硬いその土壌は焼け石のようにじんわりと熱い状態だった。その上に保温の役目をするマットレスなんかを敷いたものだから、暑苦しくて眠れたものではない。寝返りを何回も打ちながら、 「なーに、そのうち涼しくなるだろう。」 と思って寝ようとするが、マットレスはじんわり熱く、まるで電気毛布のようなまま。 「ウ〜。」 しばらくすると、彼女たちの気持ち良さそうな寝息が聞こえ始めた。彼女たちのベットは地べたに敷くものではなく、地元の人も使っている、木製のベッドに網が張ってありもの。ハンモックのように宙に浮く感じで空気の層が確保されており、見るからに涼しそう。一方私の方は、１２時になっても、２時になっても眠れない・・・。疲れているはずなのに、 「ウ〜ウ〜。」 下手に彼女たちの家の中を歩き回ったり、外出して水浴びに行くと言うのも不自然と思い、じっと耐え凌ぐ。 「ウ〜眠れない・・・。」 結局朝方の３時くらいまで眠れなかった。アフリカで苦しかった経験、それは彼女たちの庭で寝た一夜だったかもしれない・・・。 翌朝、ウェンディーとジュリーが気持ち良さそうな顔で、目を覚ました私に声をかけてくれた。 「おはよう、ヨシ。良く眠れた？」 「う、うん、とても良く眠れたよ。ちょっと暑かったけどね。」 ってな事を言って何事もなかったような顔をし、出発の準備をした。 体格の良いジュリーが、朝も早くからバケツを持って井戸の所まで水汲みに行ったようでフレッシュな水が既に置いてあった。そして、 「コーヒーにする？紅茶にする？」 そんな細かい気配りをしてくれる優しいウェンディーとジュリーだった。寝不足の私もすっかり元気になってしまった。パンとコーヒーを頂いて記念写真を撮り、８時５０分に出発することにした。
ギニア 記念写真を撮って出発。 
ギニア 明るく陽気な二人であった。
ギニア ダボラで世話してもらったピースコープのウェンディー（左）とジュリー（右）。ありがとう・・・。  ギニアの田舎暮らしは大変だと思うが、ボランティアで子どもたちのために頑張る彼女たちはスゴイと思う。旅行者の立場ですっかりのんびりとお邪魔してしまい、世話をかけて申し訳ない気持ちになってしまった。 お世話になった彼女たちに当時の写真を同封し、お礼の手紙を送った。すると半年後の１０月にジュリーから日本に手紙が届いていた。
 Dear Yoshi
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