第２６８話 ８１カ国目 ギニア 「ギニアの赤い道・・・。」  水汲みに精を出す子どもたち。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜ギニア １９９６／５ ギニア出国までの走行距離 約８４０３１ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
ギニア走行 １９９６／５／５〜１９９６／５／２２ 走行距離 約１０２３ｋｍ  |
|
ギニアビサウの出国手続きを終えギニアに向かって行くと、未舗装路にと変わり、赤土のでこぼこ道が始まった。ギニアビサウを出国してから何ｋｍ走っただろうか、しばらく走ると小さな小屋がいくつも並んで建っていた。 「あそこがギニアの国境か？」 何か緊張する。と言うのも、ギニアに入国する３ヶ月前くらいに首都コナクリで軍と政府によるいざこざがあり、戦車まで出動する騒ぎがあったと聞いていたからだ。当時外務省はギニアヘの渡航自粛勧告を出していた。しかし私はギニアにはイスラム教徒が多いし、首都を避けて田舎を走れば問題はないだろうと考えていた。 入国審査が行われている掘っ立て小屋に着くと、そこでは係官らしき男と出国しようとしていたギニア人の男性が、軽い言い合いをしていた。しばらくその言い合いが続いた後、男は係官に札を渡していた。 「あ、あれは賄賂か？それとも罰金か？何か嫌なもの見てしまったなあ。」 ガイドブックには、所々の検問で軍人や警官から賄賂を要求される事もあると書かれてあったので、私は入国早々固く構えてしまった。 「この国では警官や軍人から賄賂を要求されるかもしれない。外貨の申告も抜かりなくやっておいた方が無難だ。」 私の順番になると、係官はパスポートに入国印を押した。特に何も問題はないようである。入国印をもらい、次に税関にと進む。ここにはきっと悪代官がおり、荷物検査では物色されるに違いない。私は最悪の入国審査を覚悟していた。ところが税関職員は至って紳士的。笑顔で普通に応対してくれた。申告するのはカメラや自転車などだが、 「カメラくらいなら、申告はしなくてもいいよ。」 と言う。 「持ち金の申告は？」 と聞いても、 「必要ない。」 と言う。私は過去にユーゴスラビアでこの手に引っ掛かり、苦い経験をしているため、係官の言葉はどうも信用ならなかった。 「きっと、行きは良い良い帰りは恐いの世界で、出国時には申告書を提出しろ！とか何とか言うに違いない。」 そう思っていた。ガイドブックには、「空港からの出入国では外貨申告は確実にチェックされる」とあった。私は強引に係官に言った。 「紙に書いてもらいたいのですが。」 すると、 「本来なら発行手数料を取るんだがな。ま、いいだろう。」 ってな事を言うと、紙にカメラ、テント、ドルいくら、フランいくらと私の手持ち金額を書き出してくれた。住所を書く欄まで記入が進むと、長いローマ字で書かれた私の日本の住所を書き写すのが面倒らしく、「ツーリズム」と略してしまった。でもここまで書いてもらえば、出国時も大丈夫だろう。後で問題が起きても対処はできそうだ。 入国手続きを行ったのは、日中の暑い時間帯。このとき税関職員は、 「あそこに井戸があるから水で冷やしていけばいい。」 と言ってくれた。係官に勧められ、早速近くの井戸の水を汲み上げて頭からかぶろうとすると、どこからかミツバチが飛んできたかと思ったら手の平にとまり、 「プスッ」 刺されてしまった。ちょっと痛いな、くらいに思っただけだったのだが、アフリカの蜂はパワフルだったのか、その後真っ赤に大きく膨れ上がり痛みが残ってしまった。このとき係官は心配して塗り薬を持ってきてくれた。かと思ったら缶ジュースやマンゴーまで持たせてくれるではないか。缶ジュースなど庶民にしてみればかなり高価な品だと思うのだが。こうも良くされると余計に怪しく思ってしまう。最初からギニアの係官を悪く思ってしまうのも何だが、出国するまで分からない。信じて良いやら疑って良いやら、複雑な気持ちだ。とりあえずイミグレーションにいた男たちも一緒に記念写真を撮り、出発する事にした。
ギニア 入国管理小屋で係官と写真を撮った。 
ギニア 入国管理小屋前で地元の男と写真。椅子に腰掛け、オレンジ色のタオルを巻いているのがお偉いさんらしかった。  国境を後に東へと向かうが、穴ぼこの多い赤土の道が伸び始めた。しばらくは走りにくい道が伸びていたが、そのうち地元民が自転車に乗る姿も目に入ってくるようになった。車もそんなに多くはなく、地元の人々と一緒にチャリンチャリンとペダルを踏むのはなかなか楽しいものだった。
ギニア 大きな穴のある赤土の道。雨が降ったらいったいどうなるのだろうか。 
ギニア しばらく走ると走りやすい赤土が姿を現した。 
ギニア 集落に着くと、自転車に乗る人を多く見かけた。車の通りは少なく快適だ。  国境では両替が出来ず、国の通貨であるギニアフランを手にしていなかったので、この日はギニアビサウから持ち込んだ繰り越しの食糧で自炊をすることにした。夜の気温も暑かったのでマンゴーの木の下でテントは張らずに蚊帳を吊って一夜を明かした。
ギニア マンゴーの木の下で蚊帳を吊って一夜を明かした。  翌日５月６日。テントを畳んでしばらく赤土の田舎道を走った。今までに見たことも無いような美しい山やテーブルマウンテンが見え感激してしまう。 「ギニアにはこんな美しい風景が広がっているのか。」 ギニア走行がとても楽しみになってきそうで胸が躍った。
ギニア 砂道を走ると山羊たちがメ〜と横断して行った。 
ギニア 赤土と緑とテーブルマウンテンがとても美しい。 
ギニア こうした風景を見ているとギニアの走行がとても楽しみなものになってくる。 
ギニア 村で見る家も手作りと言った風で、どこかシンプルな感じがして良かった。  野宿した場所を出発してから１７ｋｍ程走ると、コウンダラという大きめの町に到着した。ここでようやく両替をして現地通貨を手にする事ができる。しかし銀行を探してみるが、それらしき建物はどこにも存在してない雰囲気だ。国境から一番近い大きな町なので、両替は必ずできるはず、きっと両替商がいるだろうと、近くにいた人に聞いてみた。するとある商店でやってもらえる事になった。
ギニア コウンダラという大き目の町でギニアの通貨を手に入れなければならなかった。  ギニアフランのレートはこのとき全く把握してなかった。両替商も町では一人しか見当たらなかったため、両替レートの相場も全く分からない。暗闇の中で手探りするようだ。参考までに、両替する前に缶コーラの値段を聞いた。両替レートから缶コーラの値段を割り出して、物価が高いか安いかでレートを探ろうという考えだった。両替商にレートを聞く。 「いくらで両替を？」 「１ＣＦＡ（シェーファーフラン）は○○ギニアフランだ。」 レートを聞くと、コカコーラ１本当たりいくらなのか計算できた。 「ムム、９０円？この国ではもっと物価は安いはずだぞ。んー。」 ちょっとおかしい、割りに合わないレートだと、唸って考えていると、両替商はすっとレートを下げた。 「○○ギニアフラン、これでどうだ？」 それでもまだコカコーラの値段は高いと感じる。私は、 「んー」 と再び唸ってしまった。そしてかなり強引なレートを告げると、 「おいおい、そりゃ勘弁してくれ。」 彼の表情を見て、ようやくおおよその相場を理解できた。こうしたやりとりを経て、それらしいレートで換金してもらう事に成功。結局１５分くらいのやりとりだったか、無事両替は成立。ギニア通貨を手にしてひとまず安心。早速近くのマーケットでオレンジや玉ねぎ、調味料などを買って行く事にする。
ギニア ギニアの通貨。ギニアフラン。 
ギニア コウンダラという町で食糧を買い出していく。  コウンダラを後に走り始める。途中の村には井戸があった。まだ設備は新しいようで、大きな鉄の棒を上下運動させると地下水が汲み上げられる仕組みになっており、以前セネガルやモーリタニアで見たような深い井戸から長いロープを引っ張って汲み上げるものとは違って、何十倍も効率が良い。おそらく援助なのだろう。このとき見た井戸はサウジアラビア援助のもので、国旗も描かれていた。他にもギニアではフランス、ドイツ、インド、イタリアなど各国の色々な方式のポンプを目にする事になった。生活用水を扱うためか、井戸の囲いに入る時は、靴を履いている人はきちんと脱いで井戸水を汲んでいた。どんな田舎に行っても子供たちはきちんと草履などを脱いで、素足で入っている。徹底されていたのはすごいと思った。これはきっと水の大切さへの思い、水や井戸への感謝の意の現われだろうと思った。
ギニア 小さな子どもたちが水を汲みに井戸にやってくる。皆きちんと裸足で水汲み場に入る。
ギニア たくさんの水をロバの荷台に載せて運んで行く子どもたちの姿があった。 
ギニア この井戸はサウジアラビアの援助により建てられたものだ。  村を出ると、またジャングルのような赤土の中の道をひたすら進む事になった。この日もやはり酷暑。気温は４３度まで上がった。照り付ける太陽の陽射しは半端でなく強い。
ギニア ギニアの田舎道を東へ進んだ。 
ギニア まるでジャングル。暑くてたまらない。日陰で休みながら走って行く。 
ギニア どこまでも伸びる道を走った。でこぼこの多い洗濯板のような道だった。 
ギニア 爽快な眺めが広がっていた。 
ギニア 「洗濯板道」がどこまでも続く。  ブッシュの中に伸びる赤土の「洗濯板道」をひたすら走り、ようやく小さな村に到着。ここの民家でマンゴーの木を見付けた。 「お、うまそうだ。」 マンゴーにも色々なタイプがある。まだ固くて熟していない小さな青い物、熟していても種が大きく、実が小さくて食べ応えのないもの。また、紫色した完熟のうまいタイプなどなど。このときこの民家で見たのはまさに紫色の完熟タイプで、私のマンゴー経験からすると一番美味いタイプ。 「これを売ってくれませんか？」 そうお願いすると、フレンドリーな主が出てきて、市場へ持って行くための甘そうなのがあるからと言い、それを売ってくれる事になった。６つで１００ギニアフラン（約１１円程）。これは収穫、収穫、と喜んで買った。食べてみると私の目に狂いはなく、味は格別だった。 しばらくしてまた小さな村を通過。地元の人がバケツたっぷりの澄んだ水を頭の上に載せて歩いていた。この近辺では地下水を汲み上げるポンプも目にしなかったので、慌てて、 「ウードロー？」（その水はどこで？） とカタカナ棒読みの下手なフランス語で聞いてみたが、もちろん通じない。しょうがないのでジェスチャーで聞く。彼らが歩いてきた茂みの方へと向かって行くと、そこにわずかな湧き水発見。何人かの少女たちに紛れて私も水を汲ませてもらった。ここにいた少女たちは、直径２０センチ程のひょうたんの器を大切に使い、これで清水をすくっては大きなバケツに継ぎ足していた。バケツがいっぱいになると、少女たちはそれを頭の上に載せて歩いていく。バケツを持ってみるが、１０キロくらいは軽くあり、かなり重い。これをこぼさずにうまいこと運んでいくのだから感心してしまう。それにしてもアフリカの子供たちは強い。私が田舎で見掛けた子どもたちの元気さや活発さは尊敬に値する。この日も道沿いから少し入った所で野宿をする事に。モスキートネットを張って自炊した。
ギニア こんなブッシュでテントを張って過ごした。 
ギニア ブッシュキャンピングをした。 
|