第２６７話　８０カ国目　ギニアビサウ

「電気のない街・・・。」

朝方、テントを畳んでいたら地元の人が遊びに来た。

アラスカ出発　１９９２／４／１～ギニアビサウ　１９９６／５
ギニアビサウ出国までの走行距離　約８３００８ｋｍ

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アフリカ走行　１９９６／２／１～１９９７／５／２８
走行距離　約２２１０７ｋｍ

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ギニアビサウ走行　１９９６／４／２９～１９９６／５／５
走行距離　約３８８ｋｍ

　宿の前にいた地元の人々に見送られて出発。何度も通った賑やかで活気のあるマーケット通りで野菜を購入し、首都ビッサウを後にした。猛暑の中の出発となり、気温は早くも３５度を越えている。そんな酷暑のギニアビサウの道を、フルーツかじりながら東へと走った。

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　ギニアビサウ　酷暑のギニアビサウ、日中、地元の人々は皆木陰で休んでいたりした。

　途中パンクをしたので日陰で修理。直して再び出発。小さな村々には井戸があるので、そこで水を汲んでは頭からザブっとかぶり、体を冷やして走った。
　１２時を過ぎ、午後１時。暑い。そして午後２時。いつも猛暑はこの時間にピークを迎える。いったい何度なのか息苦しささえ感じる。肌に当たる風はすでに熱風。
「ううー暑いー。」
しばらく走ると、どこからか煙がモクモク。雨季を迎える前に彼らはどうやら焼畑を行うらしい。何もこの暑い時間帯に焼かなくてもと思うのだが、きっと良く燃えるのだろう。しばらく走ると、小さな家屋があった。
「助かった、水があるかもしれない。」
冷えたジュースでも買おうと、村人に聞くと一軒の店を指差した。どうやら地元の人々が夜になると集まるバーのような所らしい。午後３時近くだったが、この際だからと冷たいビールを一杯飲んでしまった。走行中にアルコールを取るのはマズイと思ったが、飲んでしまった。こう言うときに飲むビールの味はこれまた格別。
「あーなんて美味いんだ。」
走行中には禁酒が原則だが、このときは「非常事態だ」と自分を納得させた。この集落にある民家ではマンゴーをもらってしまった。旅人に優しい人々がいる。あまりツーリストが入っていないのか、物乞いをする人は本当に少ない。セネガル、モーリタニア、モロッコと比べると所得はこの国が一番低そうな気もするが、どうしてこんなにも違うのか。やはり過去に統治された国々に寄るのだろうか。
　ギニアビサウの田舎では、原始的な服装をした人も多く見かけた。半ズボンを履き、首飾りや変わったブレスレットをして、布切れを体にまとう簡単な衣装だった。この日はブッシュにテントを張って自炊し、暑さにめげた１日に幕を閉じた。今までの西アフリカ諸国とはまたどこか変わった、何か優しそうな一面をこのギニアビサウの人々に見たような気がした。

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　ギニアビサウ　夕刻、ブッシュにテントを張って過ごした。

　翌朝５月３日。朝起きてテントを畳んでいると、地元のおじさんがやって来た。私のテントに興味があったのか、じっと畳む様子を見ている。近くに寄って来てくれたので、彼と握手をして記念撮影をした。

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　ギニアビサウ　テントを畳んでいると近くにやって来てくれた地元の人。

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　ギニアビサウ　彼と記念撮影。ピグミーではないと思うのだが、身長がとても小さかった。

　彼に別れを告げ走り出すが、この日も朝から暑い。日が昇るとすぐに３０度くらいになってしまった。道沿いには例の木の実が目に入ったので、それらを口に含みながら走った。ここの所の暑さのせいか、昼間は食べ物が喉を通らなくなっている。水やフルーツと言った水分だけを取って済ます場合が多くなってしまった。

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　ギニアビサウ　ヤギの放牧風景も目にした。

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　ギニアビサウ　道沿いの木陰で休んでいる親子に出会った。

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　ギニアビサウ　彼らと記念撮影をする。

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　ギニアビサウ　こうした彼らに出会うと私も元気が出てくる。

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　ギニアビサウ　カメラは彼らのオモチャにされてしまった。

　午後１時過ぎ、またいつもの暑さのピークがやってくる。４０度～４２度。そして午後の２、３時になると気温は更に上がり４５度に。
「暑い～。」
もうろうとしてペダルを踏んでいた。

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　ギニアビサウ　たまに焼畑をやっている所があると、さあ大変。

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　ギニアビサウ　途中で目にした地元の人の家屋。

　酷暑の中を走り、ようやく小さな集落にたどり着いた。そこには店らしき建物もあり、とりあえず冷えたビールやジュースが売っていた。ここでコカコーラを飲む。
「あー、生き返る。」
電気は定期的にきている様子だった。

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　ギニアビサウ　日中は地元の人も直射日光の下で行動せずに日陰にいる人が多かった。

　午後４時過ぎには気温は下がると思ったのだが、午後５時でもまだ４０度。午後の７時を過ぎてもまだ３９度。内陸にやって来て風が少ないせいだろうか。不快指数も高く、このままどこかの空き地でテントを張っても暑苦しいだけだろうと、大きな町、バファタを目指す事にした。町に着く手前にキャンプ場を見つけたので早速飛び込んだのだが、値段を聞いてびっくり。３６ドル！フランス人の経営らしいが、そんなふざけたキャンプ場価格がどこにあるんだ！などと、一人で文句を言いながら退散。それにしてもいったい誰が泊まるのか。高い値段だけあって、水も電気もある様子だった。本当は３６ドルでも泊まりたかった・・・。でも高すぎる。
　しばらく走ると、バファタと言う町に着いた。が、辺りは真っ暗。どうやら町に電気がきていないらしい。道はどう伸びているのか、どこがどうなのか、どれが何の建物なのか、さっぱりわからない。灯油ランプや懐中電灯の明かりを頼りに前進して行くと、何となく周囲が明るくなってきた。かと思ったら、人ゴミが見えた。私は間違いなく中心街へと向かっているらしい。それにしても真っ暗な中でホテルを探すのも大変。どうしたものかと、とりあえず近くにいた人に、
「ホテルはどこか分かりますか？」
と尋ねると、親切丁寧にホテルまで案内してくれた。
　ホテル内もやはり真っ暗。値段を聞けば４２０円と言う。電気もきていないのに高い気もするが、シャワーがあるのでオッケー。ホテルの主にこの真っ暗な町の事を聞けば、
「今年の１月から電気はきていないよ。」
と言った。４ヶ月も電気のない町とは・・・。
　電気のない部屋に扇風機とシャワー。自炊する元気はなく、水で体を洗ってとりあえずすっきりした。午後９時くらいになると少し涼しくなり、私の体にも元気が出てきた。
「レストランはこの町にはあるのかな？」
町を歩いていた小さな少女二人に聞くと、５分程かけて案内してくれた。町の人々は優しそうで親切な人たちばかりだ。しかしせっかく案内をしてくれたのだが、レストランでは、
「今は電気もないので料理はやってない。」
と断られる。しかしホテルの近くの民家で冷えたビールを売っていると言う事を聞き出した。そこでは発電機を使って冷蔵庫で冷やしたビールを売っていたのだ。
「天の恵み！あーなんてうまいんだろう。」
４０度の灼熱地獄を走った後のビールはうまいなんてものじゃない。感激してしまった。ここにいたおばちゃんに、
「レストランか何か近くにありますか？」
と聞いてみると、
「魚でよかったら２万ペソで出してあげるよ。」
「それはいいや。」
その好意に甘え、おばちゃんの手料理を頂くことにした。一皿の魚フライとわずかなトマトだったが、おばちゃんの手料理がとてもうまかった。更に街を歩くと、広場のような所で人々が集まっていた。ここでは四六時中発電機が稼動し、明るい光が灯っていた。そして冷えたビールをまた発見してしまった。ここでまた１杯。それにしても１月から電気がないなんて・・・それでも町の暮らしは成り立っているのだから凄い。
　この日は結局部屋の中は蒸し風呂のように暑くて眠れなかったので、部屋の外にマットを敷いて虫よけを塗り眠りについた。

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　ギニアビサウ　とにかく暑かった電気のなかったバファタの町の宿。

　翌日５月４日。
「さあ、壮快な気分で、今日も走るぞ。」
と言いたいところだが、寝起きから暑い。連日４０度を越す中の走行を強行をしているせいか何だかバテ気味。しかし地元の人々を見る限り、とても元気があるようだ。朝から暑いが、ひたすら耐えてペダルを踏む事にする。が、どうも体の調子が優れない。午前中からヘトヘトで、ヒーヒー言いながら走った。熟睡できないせいか、この毎日の暑さのせいか。結局この日はギニアビサウ最後の町のガブまで走って走行を終えることにした。期待した電気はこのガブの町にもきていなかった。残念。
　町では８ドルのホテルに投宿を決めた。中は立派な洋風で、最近では結構マシな造りのお勧めの宿だった。

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　ギニアビサウ　中は結構いい造りになっていた。ガブの宿。

　宿の主人に、
「電気はないんですよね？」
そう聞いてみた。すると、午後７時半には来る、と言うので、
「あ、この町には電気がくるのか。」
と思い、少し安心。
　ここのところ元気がないのは食事のせいかもしれないと、私は宿に到着後、自炊を開始した。野菜に、卵、パスタなどを作り、体力回復に努める。食後すぐにベッドでダウン。酷暑での走行の疲れをとった。しばらく休んでから午後に町へ繰り出すと、人々は炎天下で働いていた。皆汗だくである。確実に４０度はある。信じられなかった。元気ある人もいれば、日陰でバテている人もいる。
「マンゴー、マンゴー。」
少年少女は相変わらずマンゴー売りに余念がない。汗水流し気温４０度近い中歩きまわる人々。もう脱帽と言う他何も言葉はなかった。

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　ギニアビサウ　酷暑の中を働きまわる人々がいた。

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　ギニアビサウ　ガブの町で。

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　ギニアビサウ　ガブの町で。

　休んだり外に出たりしてみるが、どうも元気が出ない。少し横になれば回復すると思ったが、だるさが残っている。再びホテルで横になった。
　夜、７時半過ぎになり、威勢の良いエンジン音がホテルの横の庭の方から聞こえてきた。すると部屋の電気が点いた。
「発電機だ！」
この宿には自家用の発電機があったのだった。宿の外の町中はまだ電気はなく真っ暗。灯油ランプやロウソクの明かりが灯っている。電気があるのはここだけだ。
「電気があるというのはすごいことだ。エネルギーがあると言うのは便利だ。」
そう実感した。外に出ると、ロウソクや灯油ランプの光が目に入ってきたが、目が慣れてくると結構視界も広がっていった。そこではマンゴーを買う人々に、コーヒーを飲む人々。暑かった日中とは一転し、どこか和やかな人々の姿がそこにあった。ざわめきや笑い声がランプの灯る薄暗い夜にこだましている。平和な夜だ。電気がなくてもそれなりに過ごす人々の姿があった。ギニアビサウ最後の夜。明日はギニアを目指し走ろう。この夜、モロッコ以来で前後輪のタイヤを交換し、少し荷物も軽くなったような気がした。
　５月５日。朝８時ギニアの国境目指し出発。昨日の午後を休息にあてたのは正解だった。だいぶ体の疲れはとれている。しかし、また走り出せば暑さとの戦いだ。暑い日は昼まで走ったらバテてしまいそう。そんな中、村に井戸を見つけると、いつもやっていることだが全身に水をかぶり、Ｔシャツを濡らして体を冷やした。こうして走ると気持ちいい。
　途中ではフレンドリーなギニアビサウの人々に出会い、写真を撮りながら国境目指し走り続けた。

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　ギニアビサウ　ギニアの国境目指しまっしぐら。