第２６６話 ８０カ国目 ギニアビサウ 「拾われた財布・・・。」  インフレの激しいギニアビサウ。 国の最高額紙幣は１万ペソ札。日本円にして約４２円ほど。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜ギニアビサウ １９９６／５ ギニアビサウ出国までの走行距離 約８３００８ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
ギニアビサウ走行 １９９６／４／２９〜１９９６／５／５ 走行距離 約３８８ｋｍ  |
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セネガル国境から１ｋｍ程走り、８２５６３ｋｍ地点、８０ケ国目のギニアビサウに入国することになった。 「やっと８０ケ国目。遂に８０ケ国目だ。」 感慨深い数字だった。しばらく走ると軍の検問が出現。怪しい雰囲気があり、もしかしたら賄賂などを要求されるのではないかと思ったが、暑さの為か、彼らは少しだれている様子だ。パスポートの提示を求められ、チェックを受ける。軍人は、 「入国印は１０ｋｍ先のサントドミンゴの村でもらいなさい。」 と言ってくれた。旧ポルトガル領と言う事で、この国ではポルトガル語が公用語だ。フランス語よりは言葉も通じそうで助かる。 この国境で突然後輪タイヤのパンク。 「あー、またか。」 西アフリカに入ってからと言うもの、気候のせいかパンクの回数も増えたような気がする。暑くてだれていた軍人たちは、パンクしたタイヤを見て修理を手伝い始めてくれた。悪代官のようなたちの悪い軍人や警官とは全く正反対。偏見を抱いていた事を反省しなければいけない。言葉がポルトガル語のせいだろうか、ブラジルやポルトガルを思い出し、のんびりとした温かな人々に触れ合っているようだった。
ギニアビサウ 国境からサントドミンゴの村へ向かう途中で。 
ギニアビサウ 牛が歩く湿地帯で。 
ギニアビサウ 牛と鳥も仲が良さそうだ。 
ギニアビサウ サントドミンゴの村に向かう途中で出会った少年たちと。  サントドミンゴの町に着いて無事に入国スタンプをもらう。 「両替はどこで出来ますか？」 と聞くと、私のために両替商を呼んでくれ、 「彼としなさい。」 と言い渡された。レートを聞いても相場を知らなかったので、とりあえず２、３日分の生活費を両替。国の最高額紙幣は１万ギニアビサウペソ。日本円に換算すればなんと約４２円ぽっち。物価は安いのか高いのかはまだ分からないが、札束をたくさん貰うとリッチな気分になってしまう。
ギニアビサウ 何度も人の手に渡り、ボロボロになってしまった５００ペソ。（約２円）  アフリカのガイドブック（ロンリープラネット）のインフレ率を見ると５０％とある。その数字がどんなものなのかは、彼らと同じ所得を得て、実際にこの国で暮らしてみなければ分からないのかもしれない。セネガルより生活水準は下がってしまったように見える。 警察のオフィスに張られてあるのはユニセフのポスター。「用を足したら手を洗いましょう。」そのポスターには文字はなく、絵で説明されている。これなら教育の行き届かない子どもでも分かる。識字率も低いのかも知れない。 「ここはどんな国なのか。」 私は首都のビサウに向けペダルを踏んだ。以前の北部の仏語圏と違い、物乞いをする声は全くと言っていいほど掛からない。こうなると走っていても気は楽でいい。小さな商店を見つけたので早速寄ってみると、モーリタニア人の経営だった。 「冷えたコカコーラがあれば欲しいのですが。」 しかし冷蔵庫はないようで、なまぬるいのしかなかった。たいがいどこの国にもコカコーラの工場はあったりして、途上国では空きビンをリサイクルして売っているが、この国にはその工場もないのか、缶ジュースのみが売られていた。となれば物資は隣国や海外から送られてくるのだろう。 家々の庭には鶏、ヤギ、そしてマンゴーの木。見た感じでは自給自足の生活が色濃く伺える。子供たちは私を見て、嬉しいのか、 「ワー、ワー」 と手を振りながら追い掛けてくる。以前のモロッコやモーリタニア、セネガルの子どもたちとは違い、何か物を盗ろうと言う様子はこれっぽっちもない。本当に嬉しそうな笑顔で走っていた。途中に井戸を見つけたので水をもらいに行くと、地元の青年は亀の甲羅の様なものをおちんちんの前にぶらさげていた。腕にはチャラチャラする貝でできたブレスレットをはめている。こんな青年に出会え嬉しくなった。入国初日のこの日は、インゴレという村を過ぎた所のブッシュでモスキートネット（蚊帳）のみで野宿をした。
ギニアビサウ 酷暑の西アフリカではこうした蚊帳をブッシュに吊って寝る事が多かった。  翌日４月３０日。ここのところ日中の暑さに苦しめられる毎日が続いているので、 「今日は朝早くに出発しよう。」 そう思い、７時前にはペダルを踏み出した。モスキートネットのおかげで涼しく夜を明かしたせいか、良く眠れ疲れも取れた気がする。朝食は食べずにいたので、その辺の木になっていた例のスポンジ状のフルーツの実をとって水分のみを腹に入れた。地元の人々は畑仕事にでも行くのだろうか、トコトコと道路を歩いている。車が普及していないためかその数も多いようだ。しばらく私は自転車で走っていたのだが、前方から何かスゴイ物を頭に載せた人が歩いて来た。 「何だろう？」 大きな桶か何かかと思ったが、近づいてきて良く見れば、それは、 「おお、ドラム缶？？」 びっくりした。ドラム缶を頭に載せて歩く人なんて世界広しと言えど聞いた事がなかった。しかもそれが女性だったから尚驚いてしまった。私にもできるだろうか。彼女は延々とアスファルトの道を歩いて行った。さすがに写真を撮ることは出来なかったのだ。ドラム缶はとても大切なリサイクルの「缶」なのだろう。 少し走るとカチェム川と言う大きな河にぶち当たった。ここをオランダ製の小さなフェリーで渡った。乗船料１２円程。
ギニアビサウ カチェム川を渡って。  川を渡ると、水やフルーツ等が乗船待ちの人々の為に売られていた。この岸辺の道路脇では一人のおばちゃんが捕り立ての魚をその場で調理して揚げて売っていた。美味そうだったのでこれを食べ、朝食の足しにする事にした。口に入れるとアツアツで、ホクホクして実に美味い。とび魚のような魚らしく、味付けは塩味だ。 「おばちゃん、これうまいよ。」 そう言うと、 「そうだろ、そうだろ？タイワンにはこんな魚はないだろ？」 台湾が農業援助の指導を行っているようで、台湾の旗をそこらじゅうで見かけた。だから東洋人は端から台湾人とされてしまうらしい。
ギニアビサウ 道沿いで揚げ物屋さんがあったので、寄って行き腹を満たした。 
ギニアビサウ 途中の林で美しい鳥を見つけた。 
ギニアビサウ 小さな田舎の商店。日本の「味の素」はこんな所にも。 
ギニアビサウ 大き目の活気あるギニアビサウの町を通過して行く。  しばらく走るとまた河。今度はマンソア河と言う河を渡る。これもまたなぜかオランダ製の同型の船。この船の上ではガンビアからやって来たという男に話し掛けられた。 「近隣諸国へは簡単に出入国できるの？」 そう聞くと、少しの手数料を払って手にしたと言う一枚の紙と、ＩＤカードを見せてくれ、 「これで簡単に隣国へ行けるんだ。」 と言う。パスポートは不要だと話した。西アフリカにはＥＣＯＷＡＳ（西アフリカ諸国経済共同体）と言うのがあるのだそうで、欧州で言うＥＵ連合みたいなものらしい。アフリカ諸国は欧州に準じて行くのだろう。地元の人はどうやってあの高いビザを支払うのかと思っていたが、その話を聞いて納得した。私にとってはアフリカ諸国におけるビザ（入国査証）代金はバカにできない。モロッコに関して言えば査証は免除で無料だが、モーリタニアは８０００円、セネガルが２７００円。ガンビアなどはたかだか４日間の滞在で３３００円だ。更にギニアビサウは１１００円、ギニアが４４００円、マリが１６５０円、ブルキナファソが２７００円、コートジボアールは４４００円、ガーナは２８００円。貧乏旅行者の間では、ビザ代と生活費がトントン、つまり旅費の半分がビザ代で消える、などと言われているくらいだ。いや、それはちょっと極端な話かもしれないが、とにかくビザは高い出費なのである。 この日は嬉しい出来事があった。首都ビサウに着く前に、どこでどうしたのか私は財布を落としてしまった。パスポートやビザチェックを受けたので、そこできっと何かの拍子に落としてしまったのだろう。昨日両替した１０ドル分の現地通貨、それに、５０００ＣＦＡ（１１００円）が財布には入っていた。落とした事など知らずに走り始めたのだが、しばらくすると、後から少年が自転車に乗ってやって来て、 「これはあなたのですか？」 と渡してくれるではないか。財布の中には彼らにとっての大金、何十日も生活できるようなお金が入っていたにもかかわらずである。それもわざわざ自転車に乗って渡しに来てくれたのだ。私は感動してしまった。と言うよりは信じられなかった。私が同じ境遇に立ったら、仮に何十万円も入った財布を日本で拾ったとしたら・・・と思ってしまった。 「オブリガード、ムイントオブリガード。」（ありがとう、ありがとう） 私は礼を言い、この国の最高額紙幣１０，０００ペソ（４２円）をお礼として彼に渡した。
ギニアビサウ 首都ビサウに到着。 
ギニアビサウ 地元の少年に撮影してもらった。  ビサウの町はすごい所だった。ゴミゴミしており、街中の所々はなぜか小便臭い。レストランはあまり見当らず、商店に寄るとモーリタニア人の経営というのが多かった。うろうろとゆっくり街中を走りながらホテルを見つけ投宿する。３９万ペソ。約１７ドルもする宿に投宿してしまった。高いが、室内には扇風機が付いていたのでここに泊まりたかったのだ。
ギニアビサウ 扇風機付きの１泊１７ドルの宿。こんな高い所になぜ泊まってしまったのか。 
ギニアビサウ ものスゴイ人で活気付いていた町のマーケットの通り。  翌日の５月１日。ちょっとでも安い宿に泊まろうと、もう一軒のペンションに移動した。こちらはポルトガル人の経営で１泊１５００円ほど。
ギニアビサウ ポルトガル人の経営していた安宿に移動。  町中の人々の様子を見たり観光したり、銀行で両替などもしたかったが、この日はメイデー。ここビサウでも人々は街中でメイデーの行進をしていた。これでは作業もできない。トラベラーズチェックの両替は明日に持ち越しだ。
ギニアビサウ ここビサウでもメイデーが行われていた。  ホテルではリベリアからやって来たと言う青年と話した。リベリア国内では争いが絶えず本当に大変らしい。青年は私に金（きん）の話を持ちかけてきた。 「俺は金を持っているんだ。安く買わないか？」 リベリアの内戦のごたごたに紛れて強奪したような代物かどうかは知らないが、 「自転車旅行中だから持ってけない。」 そう言って断った。軍がクーデターを起こしたついでに、それに混じって群衆が白人経営の商店など襲う。こういった話はよく聞いていた。リベリアには間違っても入国はできない。そう思った。 メイデーのこの日、街中をブラブラとして人々の様子を見て歩いた。ピーマンやトマトなど野菜は一通り売られている。スパゲッティなどパスタは高価な品なのか５０グラムを一束として売られていた。ポルトガルから輸入された３００ｃｃのビールも売っていた。これは１本４２円ほど。この小さなビールビンは捨てられず、市民の間では大切に再利用される。油を入れて売られたり灯油を入れて売られたり。車でもバイクでもプラスチック製品でも電化製品でも彼ら自身で生産、製造していない為だろうか、物資すべてが最後まで徹底的に使われている。１．５リットルのプラスチックのペットボトルでさえ売られているのだ。ワインなどのビンも、油やガソリンを入れたりと多目的に使われていた。
ギニアビサウ 空き瓶もペットボトルも本当に大切に使われている。 
ギニアビサウ こちらはマーケット。物が集まる所には人も集まるのだろう。  大人も子どもたちも皆働いている。子供たちが売っている物と言えば資本金ゼロの自然の恵み、マンゴーだ。路上に並べ、 「マンゴー、マンゴー」 声を張りあげて必死に売っていた。真昼の陽射しは肌を刺すように強く、軽く４０度は越える。子どもたちが汗水流して必死に働く姿を目にすると、 「私は旅をしている場合なのだろうか？」 と自問自答してしまう。必死に頑張って今日を生き抜く子どもたち。その姿に心を打たれる。
ギニアビサウ 日中は４０度を越える暑さ。その中で汗して働く子どもたちの姿も見た。 
ギニアビサウ マーケットで出会った人々。 
ギニアビサウ 街では笑顔の素晴らしい元気な子供たちにも出会った。 
ギニアビサウ 私の自転車を珍しそうに見ていた子どもたち。 
ギニアビサウ 子どもたち、港でたそがれる・・・の図。港では新鮮な魚も売られていた。  日中、街を見て歩いた私。夜になると気温はぐっと下がり、とても元気が出てきた。街で見つけた映画館に足を運ぶと、上映されていたのはブルースリーの古い映画だ。どこの国でもカンフー映画は人気があるようで、観客は喜んで声をあげて鑑賞していた。ちなみに入場料は１３円。昼間の暑さは嘘のようだった。 ５月２日。昨日出来なかった両替をしようと銀行に出向き、旅行小切手を両替してもらう。人の列が長く、４０分も待たされるが、無事に両替終了。両替を済ませた人々を見ていると、皆それはたくさんの札束を抱えて出て行く。高額紙幣が４２円程なのだから、当然と言えばそうなのだが、そのぶ厚さにはたまげてしまう。仮に５０米ドルを現地通貨に両替しようものなら１万ギニアピッサウペソ札を１２０回も数えなければならない。１００ドル札を両替しようものなら２４０枚になってしまう。 銀行で両替を済ませた私は、宿に帰って宿代の３５万ペソを支払う事にした。１泊分の代金は約１５００円。１万ペソで払うとすると、３５回数えなければならない。１泊で良かったが、もしこれで３泊もしようものなら１０５回も紙幣を数えなければならない。案の定ホテル代金の支払いには少し時間がかかった。私が３５回×２回数える。管理人であるポルトガル人のおばちゃんが３５回。計１０５回。数えるのに確かに時間は掛かるのだが、なんだか楽しい。日本では決してこう言うリッチな気分にはなれないので、このときとばかりお札をピラピラと数えて楽しんでいたのかもしれない。宿泊代を支払うのにこの始末なのだから、もっと高額取引になったらいったいどうなるのだろうか。私のように外貨を持っていればよいが、地元の人々にとってインフレは死活問題だ。
ギニアビサウ １泊の宿代は３５０，０００ペソだった。そのお札の多さにびっくりしてしまう。
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