第２６４話 ７９カ国目 ガンビア 「もしもアフリカに生まれ育ったら・・・。」  ガンビアのマーケットで。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜ガンビア １９９６／４ ガンビア出国までの走行距離 約８２４５８ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
ガンビア走行 １９９６／４／２３〜１９９６／４／２７ 走行距離 約８８ｋｍ  |
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出国して２〜３ｋｍ国境間を走り、８２３４３ｋｍ地点で７９ケ国目ガンビアに入国した。国境で通過ビザを取るつもりでいた。ガイドブックによればその価格は３ドルとあったので、これを取得したいと申し出た。しかし係官は、 「ビザは３０ドルだ。」 と言うではないか。 「３ドルのトランジットのビザをお願いしたいのですが。」 そう言うと、 「１ケ月ビザしか発行しない。」 とのこと。ペテン臭い気もするが、係員がそう言うのだから仕方がない。３０ドルを支払い、国境でガンビアビザを取得した。 「こんな事ならダカールで安く取っておくべきだったか。」 後悔することしきり。「写真とご飯とビザ（査証）はとれる時にとっておく」、と言う考え方がアフリカを走る時には基本になるのかもしれない。 事務所の前に飛脚号を置いておいたのだが、外に出てみるとフロントバックに挟んであった西アフリカの地図が消えていた。 「ああ、地図がない・・・やられた！」 手間をかけてロンドンでラミネート加工して、アフリカ走行の為に持ち歩いてきたのに、ろくに使わないうちから盗られてしまうなんて。セネガルもイスラムの国なのでそんなに盗みは多くはないと思ったのだが、がっかり。このガンビア国境でえらく落ち込んでしまった。 「地図がなければ、この先どうしようか。」
ガンビア ザ・ガンビア。ここの国境で西アフリカの地図を盗まれてしまった。 
ガンビア ガンビア国境で記念撮影。 
ガンビア ガンビア国境で。  モロッコでは子どもたちにサイクルメーターを盗られ、セネガルではアーミーナイフを盗られた。いつも困る物ばかりで、気を付けねばと思っていた矢先に、今度は大切な地図である。ただの大きな地図と言えばそれまでだが、私にとっては命に関わる大切な地図である。それを盗まれるなんて・・・全くどうしたものだろう。落ち込んだまま国境で入国作業。両替をし、ガンビア通貨を手に入れた。
ガンビア ガンビア通貨を手に入れて。  国境を越えて走り出すと、子どもたちが駆け寄り、ねだってくる。 「ギブミーマネー、ギブミーサムシング、ギブミーペン。」 国は変わっても旅行者にかけてくる言葉は同じなのか、フランス語が公用語だったセネガルと同じ意味の言葉を今度は英語で言ってきた。ガンビアは植民地時代、英国によって支配されてきた。よって言語は英語がオフィシャルだ。フランス語に比べればこうした英語圏では人々ともコミュニケーションがとりやすかった。 物乞いをする子どもばかりでなく、小さなかわいい子供たちも走っている私に、 「グッバー、グッバー」 と笑顔で手を振ってくれた。こういう子どもたちに出会うと元気が出てくる。 途中村で水を補給しようと井戸に寄った。セネガルでは手動で汲みあげられていた井戸の水も、ここガンビアに入国すると電動式のポンプが使われ、便利そうだった。セネガルに比べると緑が増え、周囲の景色はサバンナから一転して、雨量の多い熱帯気候に見える。しばらく走るとガンビア河の岸辺に着いた。この大きな河を渡って首都バンジュールに向かう事になる。
ガンビア ガンビア河を渡る船に乗り、首都のバンジュールにと向かった。 
ガンビア ガンビア河の岸辺で。  穏やかな波に揺られてやっとバンジュールに到着した。切符代を払わずにただ乗りをする人がいるのか、常に檻のような扉を開けたり閉じたりしている。係員も苦労している様子だ。 バンジュール市内は思ったよりもすっきりした造りになっていた。広い路肩に質の良さそうなアスファルト。英国によって統治されてきたガンビアと、フランスの統治下にあったセネガルとではやはり違ってくるのだろう。
ガンビア ガンビアの首都バンジュール市内。  バンジュール市内にはきれいでまともな宿もあったが、１５〜２０ドルと高目なのでもう少し安い宿を探し歩いた。ガイドブックも参考にしながら１泊８ドルと言うボロ宿を見つけ、ここに投宿することにした。
ガンビア タランガゲストハウスにと投宿する。 
ガンビア こんなオンボロ宿でも８ドルもするのか。 
ガンビア バンジュールの港で。  薄暗くなってから街のレストランに出掛けたのだが、早くに閉店したのか、ほとんどやっていなかった。代わりに真っ暗な路地で地元の人々が炭火を使い、路上レストランを開業している。小さな牛肉の串焼きを焼く親子連れなどがおり、治安はまず問題なさそうに見えた。貧困という中にあっても、そこには和やかで幸せそうな家族の、ほのぼのとしたやりとりがあった。 街を歩いていてもセネガルの首都ダカール等とは違い、あまり物乞いをする人には出会わない。こうなると気分的にも楽だ。それだけセネガルには物乞いが多かったと言う事なのだろう。この夜は気持ちの良い、涼しい夜だった。シャワーを浴びてビールを飲むと、走行の疲れも吹っ飛んでしまうようだった。 「８０ケ国目まではあとひといきか。それにしても地図の盗難は痛かった。」 翌日、バンジュールで唯一大きいと言われるブックストアーへ足を運んだ。もしかしたらフランス製のミシュランの西アフリカ地図が手に入るかもしれないと思ったからだ。ガイドブックを頼りにしてそのブックストアーへと出向くと、今にも壊れそうな、植民地時代を思わせる古い建物があった。 「ここがブックストアー？」 白人の爺さんが経営しており、良く見ればそれ相当の本や地図があった。 「このタイプの西アフリカの地図はありますか？」 と爺さんに聞くと、ミシュランマップはあいにく品切れとの事。この本屋は首都バンジュールでも唯一の本屋だったので、仕方なく諦める。 バンジュールでは他に雑用があった。セネガルの次に向かうギニアビサウのビザを取らなければならない。私は早速パスポートを片手にギニアビサウ大使館へ向かった。事務所では愛想の良い係官が対応してくれ、簡単な書類に記入すると３０分足らずで発行してくれた。係官と接する限りでは、 「きっとまともな国なんだろうなあ。」 そんな印象を抱いた。 その次に出向いたのはギニア大使館。ガイドを当てにして行ったが間違いだったのか、近くにいた地元民に尋ねると、事務所の場所は移転したと言う。 「あっちへ向かって、あそこをああだよ。」 親切に教えてくれたのでほっとし、早速その、「あっち」へ向かった。それらしき場所に来たようなので、再び周囲にいた一人の男に聞くと、 「俺は神戸に行ったことがある。」 と言った。私は、 「ギニア大使館へ行きたいんです。」 と告げると、 「そこ知ってるから付いて来な。」 と言う。またもガンビア人の親切を受ける事になった、とこのときは思っていた。 「こっちだぞ、こっちだ。」 そう言って私を連れ回してくれるのは良いが、どうやら彼は大使館の場所を知らないらしい。 「本当に場所を知っているの？」 と聞くと、 「良くは知らない。」 「ガクっ」 何だかあさっての方向へ向かって歩いている気がしたので、ちょうど立っていたポリスマンにバトンタッチ。今度は安心の警官だ。親切な警官はやはり、 「俺に付いて来い。」 と言う。今度は安心して彼に付いて行った。狭い街なので、歩いてすぐの所にあった。 「あの建物がそうだ。」 良かった。これでギニアのビザも取れる。 「どうも有り難うございます。」 そうお礼を言った。間違っていたりするけど、皆親切だよなあ。そんな事を思いながら建物に入ると、そこはガンビアエアウェイ（ガンビア航空）のオフィスだった。実はあの警官も場所を知らなかったらしい。いくら私が英語は苦手と言っても「ギニアエンバッシィ」と「ガンビアエアウェイ」を言い間違えるほど下手ではない。 「あー、結局頼れるのは自分自身か・・・。」 ここのガンビア航空の事務所で一応正確なギニア大使館の場所を聞き出す。今度は大丈夫そう。再び手元のガイドブックと照らし合わせ大使館を探した。近くにやって来たので近所の人に聞いてみる。が、 「知らない。」 の返答。それらしき建物などは見当たらない。まさかこんなオンボロの建物の中に、一国の大使館があるわけがないよなあ。いやまさか。私は恐る恐る階段を上って行った。すると、ちゃんとしたオフィスが出現。ここがギニア大使館だった。早速中に入れてもらう。奥の部屋にいたお偉いさんは一生懸命札束を数えている。ビザの件を聞けば、 「２日待ちで金曜日の１０時にはでき上がる。」 と言う。４０ドルで１ケ月間有効だそうだ。高いが申請する。ダカールでは日本大使館の推薦状が必要で、取得もわずらわしかった。諦めていたギニアビザもここガンビアでは簡単に発行されてしまい、得した気分になる。これでこの先に行くギニアとギニアビサウへの準備が整った。後はビザが出来るのを待つのみだ。 宿に帰ってからはガイドブックの地図を見ては、唸りながら今後の西アフリカルートを考えたりした。ギニアの入国が可能になったため、マリも西側からでなく南側から入国することができそうだ。ギニアビサウからギニア、そしてマリへ。進路は徐々に細かく決まっていった。 翌日、時間もあったので、バンジュールのマーケットにと出掛け、市内を見て回った。
ガンビア ガンビアのマーケットで、金物屋を見た。 
ガンビア これはスチームアイロンか。  1
ガンビア マーケットの様子。 
ガンビア バンジュールのマーケットの様子。 
ガンビア マーケットの様子。 
ガンビア マーケットの様子。 
ガンビア マーケットの様子。 
ガンビア マーケットの様子。 
ガンビア マーケットの様子。 
ガンビア マーケットの様子。  写真を撮りながらマーケットを歩いていたときの事だった。フレンドリーな一人の男が声を掛けてきた。 「あんた日本人だろ？私は日本かアメリカヘ行って仕事を探して働きたいんだ。でもインビテーションが必要なんだが、あんた書類に記入してくれないか。」 このバンジュールの大きなマーケットで別々の２人のナイジェリア人から同じように声がかかった。いずれも接しやすいフレンドリーな２人だった。ロシアにも仕事探しに行ったことがあるというこのナイジェリア人の男の目は真剣だった。 「日本へ行って働きたいんだ。」 と私を説得した。私は、 「あなたを招待できるお金もないし、受け入れだって困難だろうし・・・無理ですよ。」 あっさりと言ってしまった。すると、ナイジェリア人の男は言った。 「もし君がナイジェリアに、西アフリカ諸国に生まれたとして、私のようにこのガンビアに来て、このマーケットで何をする？何ができる？この国の条件の下で君だったら何ができる？」 私はたまたま日本に生まれた。豊かな生活の中で生きて、貯金をして自転車で世界旅行などをしている。彼にそう言われると、日本に生まれて運が良かったとしか言えなくなってしまう。彼の立場に自分を置いた時、切ない気持ちになってしまう。 「もし私がこの国に生まれたら・・・か。」 きっと生活して食べていくのに精一杯と言う日々を送っていただろう。いつも路上で一生懸命汗を流して働いているあの少年のように。彼の言葉はいつまでも私の心に残った。
ガンビア もしも私がこのガンビアと言う国に生まれたら・・・。
ガンビア マーケットの様子を眺めて。  夜になってバンジュール市内のマーケット近くを歩くと、足踏みミシンの音がそこらじゅうから聞こえてきた。月明かりとわずかな電球。そこにミシンのカタコトという音が響いてくる。それはとても穏やかな夜だった。
ガンビア 夜も遅くまでミシンに向かうガンビア人。  翌朝、約束の日時が来たので、朝の１０時にギニア大使館に出向いた。しかしビザはまだ出来ていない。 「明朝１０時に再び来い。」 などと言うではないか。一昨日に念を押して聞いて、確認したにもかかわらずこれだから参ってしまう。でもまあ、そこはアフリカだ。 「今日はもう出発したかったのですが、午後には何とか受領できないですか。」 そう聞くと、 「それなら午後１時過ぎにもう一度来なさい。」 とのこと。決して当てにはしなかったが、午後もう一度顔を出すことにしてホテルで待機した。約束の午後１時になったので大使館に出向くと、午後の１時過ぎから大使館は閉館らしく、 「あれ？閉まってるぞ。」 ビザはやはり出来ていなかった。 翌朝の９時に、 「今日こそは。」 と意気込んでギニア大使館に出向いた。が、まだ開館していなかったのでホテルに戻り、１０時に再び出向く。一人係官がおり、 「ダカールから取り寄せて、今届いたんだ。」 そう言ってギニアビザのシールをパスポートに貼ると、押印してくれた。
ガンビア ようやく取得したギニアビザ。  １カ国のビザを取得するのにこんなにも手間取るものなのかと、この先が少し不安になった。でもこれでギニアまでは前進できそうで一安心。 ビザを取得したので、早速バンジュールを後に出発。所々でジュースを飲んでは休み、８２４４０ｋｍ地点、再びセネガルヘ入国することになった。
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