第２６１話　７８カ国目　セネガル 「セネガルのお袋の味・・・。」 小さな商店に寄ると昼飯を一緒にと呼ばれた。 ▼ アラスカ出発　１９９２／４／１〜セネガル　１９９６／４ セネガル出国までの走行距離　約８２６２０ｋｍ ▼ アフリカ走行　１９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離　約２２１０７ｋｍ ▼ セネガル走行　１９９６／３／２５〜１９９６／４／２３ 　１９９６／４／２７〜１９９６／４／２９ 走行距離　約２５０ｋｍ

セネガル河を渡る船に乗ると、１０分もしないうちに向こう岸に到着した。 「７８カ国目のセネガルだ。」 またひとつ国境を越える事ができた。ボートを降りて上陸すると、軍服を着た大柄な黒人の男が、 「パスポート。」 と言い寄って来た。なぜか焦ってしまった私は、「ひょい」っと渡してしまった。彼が本当に軍人だったから良かったが、もし偽軍人、あるいはたちの悪い役人だとしたら、そのままパスポートをホールドされ、「金をよこせ！」と言ったトラブルが起きていたかもしれない。簡単にパスポートを渡してしまった事を少し反省した。 　無事に入国印をもらい、７８カ国目のセネガル入国作業を終え、南へ向けて走り出す。屋外に置かれたスピーカーからは大音量でアフリカンミュージックが流れ、人々が私に声を掛けるしぐさにはかつてのイスラムの国々とは違う明るさがあり、カリブ海のジャマイカのような陽気さを思い出させた。モーリタニアとはまた違った活気を感じる。 「ここからブラックアフリカと言う国々が始まるのか。楽しみだな。」 セネガルに入国すれば砂漠走行もないだろう。大きな街ダカールも待っている。 　セネガル川を渡ってしばらく走ると、以前カリブ海で見たサトウキビ畑が目に付くようになった。 「懐かしい・・・。」 それは西インド諸島で見た風景と良く似ていた。 ▼ 　セネガル　カリブ海でも良く見たサトウキビ畑が目に入った。どこか懐かしい風景だ。 　しばらくは清々しい気候が続いていた。が、そんな爽やかな気持ちの良い走行も長続きはしなかった。内陸に入って行くに従い、それまで吹いていた爽快な風は熱風にと変わった。暑さも増し、気温は３７度。そんな中を元気に走り回る子供たちには脱帽する。道沿いから頭に何か載せた女性が手を振ってくれたりもする。やはりモーリタニアやモロッコとは違っている。 「あー異国だ。ここが西アフリカ諸国、ブラックアフリカか。」 セントルイスと言う大きな街に着く手前の小さな村で、久々にサトウキビから作られたというマルタジュースを飲んだ。 「うまい！」 とにかく７８ヶ国目セネガルヘ無事入国した。この夜も野宿、テントを張って自炊した。 ▼ 　セネガル　入国初日の野宿地。 　翌日３月２６日。日本の自宅を出発してからちょうど４年目。 「４年目にしてようやく７８ヶ国目のセネガルかあ。」 と思いつつテントを畳んで出発する。目指すはセネガルの首都ダカールだ。朝方はいつものように清々しい風が吹いていた。そんな中を走っていると、１人のセネガル人が私を止めていろいろと聞いてくる。 「私は学校でフランス語を教えている。」 と言うその先生。セネガルにはたくさんの部族語があると聞いていたので、いくつあるのか聞いてみたら、２６もあるのだと言った。小さな国なのに、これには驚かされてしまう。 ▼ 　セネガル　セネガルでフランス語の先生をしていると言った男。変わった先生に見えたが。 ▼ 　セネガル　セネガルのフランス語を教えていると言う先生。 　先生と記念撮影をして別れ、その後も走った。 　セネガルと聞くと貧困をイメージするが、モーリタニアから入ったせいか私はこの国に対しては豊かさを感じた。フルーツ、野菜等物質的な面もそうだが何よりも人々の明るさ、元気さ、振る舞いが違う。砂漠からサバンナと、緑が多い分だけ豊かなのか。人々の笑顔が違って見えた。同じイスラム（２０％はカトリック）。でもセネガルにはビール工場がある。ビールを飲む人もいるのだろう。モロッコやモーリタニアのように完全な禁酒国ではないようだ。女性の服装も派手な色を使った物が多く、ファッショナブルだ。 　昼に近ずくに連れ暑さも増してくる。しかし、セントルイスの近くになると気温が下がり爽やかな風が体に当たるようになった。昨日のあの内陸のサバンナでの熱風がまるで嘘のような、そのおいしい風に思わず立ち止まって深呼吸。お金を払ってもいいくらいのおいしい風だ。通行人は、 「フナティゲか」（疲れたのか） と冗談交じりで笑って言っていた。 ▼ 　セネガル　セントルイスの街中にかかる橋で。 　小さな島、セントルイスはフランス植民地時代の面影を色濃く残している。街では少年が駆け回り夕方にはサッカーが始まる。裸足で走っている少年もいる。路上では揚げ物やセネガル特産の落下生などが売られている。時々ＵＮＨＣＲ（国連難民高等弁務官）の車が横切る。物質的には貧困さを感じても人々には活力があると言う感じだ。これは爽やかな気候のせいだろうか。 ▼ 　セネガル　セントルイスの安宿に投宿。 ▼ 　セネガル　中は天井が吹き抜けになっていた。 　街中で食事を済ませ、両替をしてアルベルゲと言う安宿に投宿した。今日は実家を出発して調度４年。セネガル入国を祝いモロッコ以来のビールで乾杯。 「あれから４年経ってしまったのか。」 ▼ 　セネガル　セントルイスで。 ▼ 　セネガル　セントルイスで。 ▼ 　セネガル　セントルイスで。 ▼ 　セネガル　セントルイスで。 ▼ 　セネガル　セントルイスで。 ▼ 　セネガル　セントルイスで。 ▼ 　セネガル　セントルイスで。 ▼ 　セネガル　セントルイスで。 ▼ 　セネガル　セントルイスで。 ▼ 　セネガル　セントルイスで。 ▼ 　セネガル　路上では採れたての野菜が目に入った。 　朝方、出発前に街を歩いた。東洋人の私が珍しかったのか、１人の地元民が声をかけてきた。 「どこから来た？おー、ジャポネか。」 そんな調子で始まり、彼からはナショナルパークの事やギニアビサウの事などを聞く事ができた。街中の写真を少し撮り、宿に戻って出発。 　走り出して間もなく、また地元の子どもやおばさんに捕まってしまった。フランス語に四苦八苦しながら何とかコミュニケーションをとる。一夫多妻のセネガル。１人の夫に４人の妻で１５人の子供がいると言う。 「いやいや家の中も楽しくていいですね。」 私はそんな内容の事を伝えたかった。そこで３０分もやりとりして写真を撮って出発した。 ▼ 　セネガル　一夫多妻のセネガルでは子どもが１５人いる家族も珍しくないと言う。 ▼ 　セネガル　子どもたちはどうやら学校帰りらしい。 ▼ 　セネガル　小さな子どもたちと接していると心が和んだ。皆いい笑顔をしている。 　今思えば本当にセントルイスは爽やかで、快適この上なかった。しかし、走り出すといつもの暑さ。日陰で休みつつ走った。途中水をもらい、点々とある村々を見つつ今日もテント、自炊。くたくたになって床についた。 ▼ 　セネガル　小さな木の下で野宿。 　翌朝、朝食を済ませて出発。朝方は涼しい風だが、日中これが４０度位まで上がる事になる訳で、夜中のあの快適な涼しさを取っておきたい気持ちになる。午前中に立ち寄った村で、 「自転車かい？あんた今日は最初のお客だよ。」 ジュースを片手にそんな会話が始まった。 ▼ 　セネガル　途中通過した村の様子。 　「何、日本から来たのか、それじゃあ、お金持ちだな、私に２００ＣＦＡ（シェーファーフラン）くれないか。」 旅行者や外国人は大金持ち。とにかくカドゥ（プレゼント、ギフト）をくれ、ラルジャン（お金）をくれと毎日３０回以上は聞く。小さな子供達になるとよく教育されていて、ボンジュールやサバァよりも何よりも先に、 「ムッシュー、カドゥ、カドゥ。」 毎日がこれだからちょっと疲れると言うのが正直なところ。おじさん達は、仕事も少なきゃ客も来ないと、道端の木陰のチェアに腰掛け嘆く。 「日本だって仕事、仕事、時間もないし大変ですよ。」 と伝えた。仕事に追われ時間に余裕のない日本人、貧乏でも有り余る位の時間を持つセネガルの人々。こんな、毎日暇そうに木陰でのんびりの姿を見ると、ある面では羨ましいとも思ってしまった。 ▼ 　セネガル　バオバブの木を眺めながらペダルを踏んでいた。 ▼ 　セネガル　バオバブの木を眺めながら。 ▼ 　セネガル　ブッシュに家を建てて住む人々。 ▼ 　セネガル　バオバブの木を眺めながら。 ▼ 　セネガル　ダカール目指して走った。 ▼ 　セネガル　バオバブの木を眺めながら。 ▼ 　セネガル　ブッシュにある小屋。 　今日は途中の村で２回もパンク。モーリタニアからセネガルにかけてはよくパンクする。買い出しをしつつ店の人とあーだこーだと話す。店内の品はやはり貧弱。卵やパン、缶ミルク、直径５ｃｍ程のキャベツなどを買った。 　走行途中で、子供たちが手作りおもちゃで遊んでいるシーンに出会ったので、写真を撮らせてもらった。この日もテントを張って一晩過ごす。 ▼ 　セネガル　暑い中でも元気に遊んでいた子どもたち。 ▼ 　セネガル　私も一緒に混じって写真・・・一人だけ浮いてしまってる感じだが。 ▼ 　セネガル　この日もブッシュにテントを張って自炊した。 　テントを畳んで出発の準備をしていると爺さんがやって来て、 「なんだこんな所に寝たのか。なんでわしの家に来ないんだ？」 と言ってくれた。 　点々とある村々の木陰でひと休みしていると、子どもたちの群れに囲まれた。フランス語の他に多少の英語を話すのですごい。その中の１人の子のお兄さんは、日本大使館で働いていると言う。そんな関係もあってか、少年たちと盛り上がった。セネガルの言葉でありがとうやさよなら、こんにちはを教えてもらう。写真を撮ったり住所のスタンプを押してあげるが、それはすごい勢いで子どもたちが集まってくる。 ▼ 　セネガル　人の良さそうな少年たちとコミュニケーションを取ったのだが・・・。 　動物の群れが集まってくるようで唖然としてしまった。自転車を背後に置き、写真を撮ると、次の瞬間に空気ポンプを盗られた。しかし近くの店の主人が出てきて、 「返して上げなさい！」 と言ってくれ、一件落着。無事手元に戻る。フレンドリーな子供たちだったのに物を盗られ悲しくなる。この場所を去り夜になって気が付いたのだが、スイスで買ったアーミーナイフがフロントバックから消えてしまっていた。これには困ってしまった。アラブの子供はどうも難解だ。 　この日は昼飯の招待を受けた。コカコーラを飲んで日陰に腰をおろしていたのだが、おばさんが、 「あんたも飯においで。」 と誘ってくれたのだ。 「はあ、はい。」 １０人の子供たちと一緒にである。飛脚号を中に入れ、セネガル人との初めての「同じ釜の飯」。直径６０ｃｍ程の銀のたらい桶のようなところに盛られたご飯。にんじんにジャガイモ、魚、いろいろ入っている。この銀桶のようなものを小さな子供達と５、６人で囲む。私にはスプーンが手渡された。彼等は右手だけで直接くちゃくちゃちぎって口に運ぶ。味はまあまあだ。私はスプーンでにんじんを遠慮気味にちぎって口に入れた。そうしていると風格あるお母ちゃんが、右手でくちゃくちゃとにんじんや魚をちぎって、食えとばかり私の目の前にポイポイと放り投げる。十数人の大家族だが皆、シ〜ンとして昼食を食べている。母上の無言のこの行為は何とも言えない温かさだった。セネガルの母親の愛情が伝わってきた。静かに食べる子供たちに混じり私も食べた。この家族との銀桶の昼飯の光景は、強く印象に残った。 ▼ 　セネガル　招待してくれた家族の家で。 ▼ 　セネガル　招待してくれた家族の家で。 ▼ 　セネガル　家族の家で。 ▼ 　セネガル　セネガルの母上はとても温かかった。 　お礼を言い写真を撮って出発。父親は警官で、この家庭はかなり豊かな雰囲気だった。午後、とある村の井戸の近くで洗濯風景を見つけ、暑かったので水をかぶろうと思った。しかし近所の爺さんがやって来て、 「この井戸は深さが３４ｍじゃ。汲み上げるのは大変だから次の村にしなさい。」 と言う。それは深い井戸だったらしい。ティンの町では安宿が見つからず、明日のダカール入りを前にブッシュにテントを張って過ごした。 ▼ 　セネガル　ブッシュにテントを張った。 　この日はセネガルの首都ダカールを目指した。道路も広くなり、走り易くなる。朝から暑く、途中の商店に寄ってはコカコーラだジュースだと飲んでは走り続けた。一軒の商店に寄ると写真を一緒に撮って行けと言われる。相変わらずフレンドリーだ。 ▼ 　セネガル　女性の経営する店で写真を撮れと言われて撮った。 ▼ 　セネガル　原色の色を使った服がとても美しい。 ▼ 　セネガル　街で見掛けたセネガルの女性。 　昼にパンクをしたので修理。その後も走って３８Ｋｍ地点、ダカールから２３ｋｍ手前のレフィスケと言う町でドイツ人（トーマス）が経営するキャンプ場を見つけた。１泊５００円弱でここに滞在し、雑用をする事に決めた。ダカールヘは交通の便は悪いが、飛脚号がある。ここは静かで落ち付けて良い。 ▼ 　セネガル　レフィスケの町のドイツ人経営のキャンプ場。 ▼ 　セネガル　レフィスケのキャンプ場。 　キャンプ場では、ドイツ人トーマスからキャンプ場設立の話を聞き、またスイス人からはザイールの旅行体験などを聞いた。ザイールでは空缶でさえ、あげればとても喜ばれるものだと、その物不足を話してくれた。 　モロッコのタンジェからアフリカ走行を始めて２ケ月。セネガルのダカールに無事到着した。 ■ 次のストーリー第２６２話へ▼