第２６０話 ７７カ国目 モーリタニア 「砂漠化を実感・・・。」  国道から少し砂丘を登る。緑が砂に埋もれ始めていた。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜モーリタニア １９９６／３ モーリタニア出国までの走行距離 約８１６７７ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
モーリタニア走行 １９９６／３／２〜１９９６／３／２５ 走行距離 約１１１８ｋｍ  |
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３月２１日。朝から心配種の後輪のハブの修理に専念した。と言ってもグリスを詰めてみたり、ガソリンで掃除してみるだけなのだが。ギアの空回りは直った。しかしクランクの反回転が利かない。つまり、「ペダリングを始めたら、休めない自転車」となってしまったのだ。おそらく砂が詰まってしまったのだろう。半日修理に費やし、とりあえずだが走れる状態にはなった。ここヌアクショットでは部品の関係上完全な修理はできそうにないため、セネガルの首都ダカールに期待するしかない。あの街に行けばきっといい部品が見つかるはずだ。 街中でタイヤの修理屋さんを見つけたので、ここで水タンクを借り、走行中に見つけられなかったチューブの小さな穴を見つけさせてもらう事にした。ここの店主はなぜかシリア人。この辺にはレバノン人やシリア人が移民しているのだと言った。修理を終え、品揃えの良さそうな店に出向き、食糧を買った。商店では主と片言のフランス語で情報交換。 「アフリカ縦断するならリベリアはやめた方がいいぞ。シェラレオーネも良くない。」 などと情報を聞く事ができた。その次にパンを買い、セネガルへ向かうルートを走り始めようとした。そのとき、ふとユースホステルらしき看板を見つけた。 「あれ、これは本物のユースホステルかな？もしかしたら、情報ノートみたいなのが置いてあって、何か役立つ情報を得られるかもしれない。」 そう思い、ちょっとだけ顔を出して見ようと立ち寄った。すると、ラバトで出会ったサイクリストのＴａｔｓｕ（坂本達氏）のメッセージが違うホテルに置かれていると言うではないか。情報ノートもあり、日本人もいたので、私は急遽ヌアクショットに滞在する事に決めた。坂本氏のメッセージを指定のホテルに取りに行く。受付にはファティマタと言うきれいな瞳をした女の子がおり、私が下手なフランス語で、 「タツというサイクリストからのメッセージを持っていますか？」 と聞くと、彼から預かっていた紙を渡してくれた。そこにはラバトを後にしてからのその後の旅の様子や見所、今後の情報が書かれていた。同士のメッセージほど嬉しいものはない。 モーリタニアのユースでは久々のシャワーを浴びてすっきりし、街中へとカメラ片手に人々の姿を撮りに出掛けた。大きなマーケットに行くと、彼らの着る服の布地が色とりどりに並べられている。散乱するゴミもあれば、ビニール袋も舞っている。そんな中で元気に裸足でサッカーをする子供たち。路地を歩く山羊もいれば、ロバもいる。第三世界と言ってしまっていいのか、私の目には少しショッキングであった。歩いているだけで、いや、そこに立ち止まっているだけで次々に目の前に様々な光景が飛び込んでくる。
モーリタニア ヌアクショットの街中のマーケットで。 
モーリタニア ヌアクショットのマーケットの近くで服が売られていた。 
モーリタニア ヌアクショットの街で。 
モーリタニア ヌアクショットで。 
モーリタニア ヌアクショットで。 
モーリタニア ヌアクショットで。 
モーリタニア ヌアクショットで。 
モーリタニア 砂地の中で服は売られていた。 
モーリタニア 街を歩くモーリタニア人。 
モーリタニア ゴミがそこらじゅうに散らかっていた。街中は砂で溢れている。 
モーリタニア ヌアクショットで。  街中では女性がトイレをした後砂で吹いていたのにも驚いた。 「ここでは水は貴重だから砂が水代わりなのか・・・。」 翌日３月２２日。この日もユースホステルに滞在し、朝からゆっくり雑用をした。洗濯をさせてもらい、その後はまた街を歩いた。それにしてもヌアクショットには物がある。今までに走ってきた田舎の小さな村々。そこで会った村人やテント生活をしていた人々の暮らしを考えると、ここ首都のヌアクショットは豊か過ぎるくらいだと感じる。とぼとぼ町中を歩きながら、日本人の暮らしやモーリタニア人の暮らしについてしばし考え込んでしまった。
モーリタニア ヌアクショットの街で。 
モーリタニア ヌアクショットの街のマーケットで。 
モーリタニア ヌアクショットの街のマーケットで。 
モーリタニア ヌアクショットのマーケットで。 
モーリタニア 小さなトマトやにんじんと言った生野菜が売られていた。 
モーリタニア 赤や緑の野菜売り場の風景を見ると、嬉しかった。食べ物が確保できる、という安心感を抱くのである。 
モーリタニア ヌアクショットの街で。  ユースホステルではセネガルからヌアクショット、アタール、ヌアジブと旅行した日本人の村木さんと言う方に出会い、セネガルとモーリタニアについての話を聞いた。同じイスラム教徒でもセネガルの方が陽気で明るくてさっぱりしていて良いと言う。どこが違うのかは分からない。セネガルから始まる西アフリカはブラックアフリカと呼ばれている。アラブ人の血が混じらないからそう呼ばれるのだと思うが、人々の気質にも違いが出るのだろうか。何か陽気なセネガルの音楽でも聞こえてきそうな感じがする。セネガルで少々危険な目にも遭ったと言う村木さんが、モーリタニアからセネガルへ国境越えをするときの注意事項を話してくれた。 「とにかくセネガル側の入国には気を付けて。旅行者相手に食ってる奴がたくさんいるから。」 そんな話を聞いてしまい、また不安材料が増えてしまった。しかしセネガルにはモーリタニアにはない陽気さがある、その言葉が何よりの支えだった。夜、ベッドで横になると、今までに街で見た人々の姿や光景が再び脳裏に浮かんできた。 「ここは第三世界・・・モーリタニアと言う国にいるのか。」 翌日３月２３日。ユースの管理人と記念写真を撮り、いざセネガルへ、南へ向けて出発する事にした。
モーリタニア ヌアクショットにも世界のユースホステルが？これは果たして本物か。 
モーリタニア ユースの前で記念撮影。  途中の店で地元の人々とコミュニケーションをとりつつ、ジュースなどを買いながらのんびり南へ走る。飛脚号の後輪はおかしいままで、走っている最中はペダルは嫌でも回りっぱなし。どうってことはないと最初は思っていたが、走りながら休憩できないのは辛いものがある。 小さな村でコカコーラを飲んだが、その村ではまた子供達に物を盗られる。いつの間にか飛脚号のリアのポケットからチューブやら粉ミルクやらを抜きとってしまっていたのだ。 「あれ？いつの間に。」 食糧もたくさん持っており余裕もあったので、少し分けて上げると、 「全部よこせ。」 と奪い取ろうとする。これにはさすがに困ってしまった。子供たちへの対応はいつも大変。それにしても、こうした砂地に２４時間囲まれて暮らしていたらどうかなってしまいそうだ。もしここが私の母国だとしたら、やはりこの国に一生住み続けたいと思うのだろうか。このときの子どもたちも当然のように砂漠の世界で生き抜いていくのだろう。暑い直射日光が当たり、緑の少ない地に強風が吹き砂が舞う。生きる厳しさを教えてくれる地がここにはある。この日は砂地にテントを張り、自炊して床に着いた。
モーリタニア 砂地にテントを張って過ごした。 
モーリタニア 砂地に囲まれるように人々は住んでいた。 
モーリタニア 砂地に張られたテント。  翌日３月２４日。追い風を受けて出発する。セネガルへ向けて入国だと気合いも入る。ティゲントの村に入る前に御馴染みジャンダルメリ（警察と軍の中間の組織らしい）のチェックを受ける。そのすぐ近くの商店でジュースを一杯。いろいろと聞いて来るフレンドリーな子供たちがそこにいた。
モーリタニア 「どこから来たの？」色々と聞いてくる子どもたち。 
モーリタニア 彼らの将来はいかに。 
モーリタニア 小さな村の道沿いで出会った少年たち。  ティゲントと言う村の商店に寄ってみるが、質素な品々ばかりが陳列されていた。一番良さそうな店に入っても、缶詰や少しの野菜だけ。 「彼らの食生活はいったい・・・。」 素足で駆け回る子供たち、村中に無造作に散らばるゴミ。ここでは子どもも大人も必死に今日を生きている。旅している自分が信じられない。 「こんな旅をしている場合だろうか。」 途上国が貧困であればあるほど、そんな思いは強くなっていったような気がする。ボーっとしたままペダルを踏み、再び追い風に乗って南へ走った。
モーリタニア 小さな村を駆けながら。 
モーリタニア 途中で出会った子どもたちと。 
モーリタニア 途中で出会った子どもたち。 
モーリタニア セネガルへと続く道。 
モーリタニア 小さな村を通過して。 
モーリタニア セネガルに続く道。  所々アスファルトは砂で覆われていた。もう少し風が吹き続ければ砂で埋もれてしまいそうだ。どんな地形なのか、国道から少し上がった所が砂丘になっていたので、そこに登り、周囲を見てみた。緑はあるが、いや、かつてはあったが、それが今、目の前で砂によって少しずつ埋もれていく所だった。
モーリタニア 緑と砂丘。  しかしそんな道沿いから見る砂丘は美しく目に映る。地球の砂漠化という言葉を実感してしまう。
モーリタニア 砂丘から砂が舞い、次第に緑を少なくしていく。 
モーリタニア テレビで見た砂漠化と言う言葉が目の前の光景と一致した。 
モーリタニア この木々もいずれは砂に埋もれてしまうのだろうか。
モーリタニア 海岸から風が吹き、もの凄いスピードで砂は舞っていった。 
モーリタニア 砂が道を流れるように舞っていった。 
モーリタニア 砂丘を眺めて。 
モーリタニア 徐々に埋もれて行く緑。 
モーリタニア ヌアクショット南部の砂丘。 
モーリタニア 砂がもの凄いスピードで舞っていく。  セネガルに向けて走って行くと、ジャンダルメリと呼ばれるチェックポイントがいくつかあった。ここでチェックを受けながら、この日は薄暗くなるまで１３０ｋｍ近く走り、ロッソの１７ｋｍ手前でテントを張って自炊した。
モーリタニア 明日はいよいよセネガルに入国。  モーリタニア最後の夜。星空を眺めつつ思い出す。ヌアジブ、鉱石運搬列車、ズエラットの町並み、気づかってくれた人々、質素な田舎の店内、そしてそこに生きる人々。入国してからのいろいろがまるで走馬灯のように思い出された。見たもの全てが真実だった。刺激あるものが私の脳裏を駆け巡っていた。単なる旅人として、このモーリタニアを通過した。しかし旅人で終ってしまって良いのだろうか。いつもそんな事を考えさせられた。少ない物資の中で暮らす人々がいる。私にはいったい何が出来るのだろうか、そんな事を考えるともどかしくてならなかった。 ３月２５日。朝起きると前輪にトゲが刺さってパンクしていた。とにかく最近はよくパンクする。そのトゲをとると、 「シュー」 という音。手供たちがやって来て、彼らに見守られて修理を済ませた。
モーリタニア 少年たちに見守られて修理も終わる。  残すモーリタニアの走行も１８ｋｍ。国境の町、ロッソまでだ。難なく走って１１時前、国境に到着。
モーリタニア ここを越えれば次の国セネガルはもう目の前。  国境の係官は外貨の申告書の提示を求めてきたが、実際に金額と照合するような作業はしなかった。モーリタニアのブラックマーケットは余裕で使えると言う事も分かった。 出国印をもらったのは良いが、セネガル入国には大きな川を渡らねばならない。当然ボートを使う訳だが、寄って来る連中の言う金額はどれもでたらめで、３０ドルと言う奴もいれば１０ドルと言う男など色々。信用できそうな係員に聞くと、５００ウギアとか１０００ウギアなどと言う。まあ５００ウギアまで、５ドル位なら支払っても良いだろうと思った。安い渡し船を探していると、怪しい黒人がやってきて、 「いくら持ってる？」 と聞いてきた。 「６００ウギア。」 「え？６００ウギア？それだけしか持っていないのか？しょうがないな、乗れ。」 他にもまじめそうなチケットを売っている人がいる。 「１人いくらですか？」 と聞くと、彼は船代は５０ウギア（自転車も一緒なら１００ウギア）だと言う。 「５０ウギア？それだけ？」 つまりここで旅行者をカモにして料金を吹っかけ、その仲介の手数料を取る男がたくさんいた訳だ。私は知らずに６００ウギアを男に払ったが、実は１００ウギアだった。こんな初歩のでまかし代行業務に引っ掛ってしまったのである。６００ウギアの内１００ウギアと言うのが正式な船代（地元民価格）。と言う事で５００ウギアが彼のポケットマネーとなる。 「お願いだ、私だってダカールへ行くまでこの金で食わなきゃなんない、５００ウギアを返してくれないか。」 と言うと、 「しょうがないな、１００ウギアおまえにやる。４００は俺のだ。」 「４：１じゃだめだ、半分こしよう。２５０ウギアと２５０ウギア。」 「しょうがないな２００ウギアやろう。」 結局正規運賃の３倍ほどを支払い、セネガル河を渡る渡し船に乗ることになった。
モーリタニア 地元の人々に混じってセネガルに入国する。 
モーリタニア モーリタニアで見た人々とは人種が違うようだ。「ブラックアフリカ」に入って行くのか。 
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