第２５９話 ７７カ国目 モーリタニア 「ヌアクショット到着・・・。」  所々にこうした砂地が現われた。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜モーリタニア １９９６／３ モーリタニア出国までの走行距離 約８１６７７ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
モーリタニア走行 １９９６／３／２〜１９９６／３／２５ 走行距離 約１１１８ｋｍ  |
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３月１７日。野宿した道路沿いから少し走ると、小さな小屋が目に入った。誰か住んでいるようなので、ちょっと寄って行く事にする。大きなタンクが目にとまり、中を見れば水が入っている。 「この水はもらえますか。」 と聞くと、 「お金がいる。」 と言うので、４リットルの水を２００ウギアで買った。水はタダと思っているのは私くらいだろうか。北部ではとても親切な人々に出会ったのに、シュンの村を過ぎてから首都ヌアクショットに向かって行く途中では物々交換というのもあった。 小さな小屋を過ぎて走り出すと大きな砂丘があった。風で大量の砂がどこからか運ばれてきたのだろう。一番砂の少ない箇所を選んで突き進んだ。砂の上を押したり引っ張ったり。それでも進まない所は荷物を外して、何度も往復して進んだ。
モーリタニア 途中には砂の吹き溜まりがあった。飛脚号を引っ張って進む。
モーリタニア 近くで見るととても美しい模様が。  砂地を押したりして、やっと硬質の土壌に出た。どのくらい進んだか、再び家屋があった。いつ水の補給ができるか分からないのでできるときにしておこうと、ここでも再び水をもらう。ここはお金の事も何も言わずにタダでくれた。 「あと何ｋｍでアクジュシュトゥですか。」 「２５ｋｍだ。」 短い距離でほっとする。 アクジュシュトゥに向けて走っていると、私の姿を見つけた少年が駆け寄ってきた。どこに住んでいるのか、こんな砂地の広がる場所で何をしているのかとても不思議だったが、姿格好は身軽だし、すぐ近くに家かテントがあったのかもしれない。自分ちの庭を駆け回るような服装で少年は私を見つめていた。彼と言葉のコミュニケーションがとれればどんなに楽しいだろうか。
モーリタニア 砂地を走っていると少年が駆け寄ってきた。 
モーリタニア こんな砂地を一人で。少年はいったいどこからやって来たのだろうか。  少年にさようならを告げ、石と砂混じりの土地を再び走っていると、変速ギアにつながるワイヤーが切れた。昨日から飛脚号はトラブル続きだ。修理して再び走り始める。
モーリタニア 陽炎を見ながら飛脚号の修理をし、もうろうとしてアクジュシュトゥを目指した。  アクジェシュトゥの町に着くと、早速警官が寄ってきた。 「パスポートチェックをする。」 と言うのでパスポートを渡すと、日付や入国した年月日、ビザの日付など入念にチェックしている。何を言うかと思ったら、 「おまえ、パンツを持っているな？くれ。」 ４、５枚あれば私も上げたいが、 「今私の手持ちは２枚しかないんです。」 そう言うと、 「２枚だけか。それじゃあ仕方ないな。他の服をくれ。」 「・・・。」 本当にここには物がないんだ。そう思った。意味のなさそうなパスポートチェックで記入などは何もしていない。警官も物資を得るのに必死なのだろう。日本にある使い古しの衣類をここモーリタニアの田舎の人々に送りたくなってしまう。 この村では野菜を見つけ、トマト、玉ねぎ、卵と久々の新鮮野菜等を買い込んだ。黒人のおばちゃん相手のやりとりは楽しいものだ。物不足なのだろうが、人々には明るさがあった。
モーリタニア 集まってきた村人と子どもたちと。 
モーリタニア ここの村で野菜などを買った。新鮮な野菜があると本当に嬉しい。  私はここで３〜４日分の食糧を買い込んだ。それにしても物価高。２時間もうろうろしてやっと町を出る。ガソリンを買い、アクジェシュトゥから７ｋｍほど走り、道沿いにテントを張り自炊した。
モーリタニア この日もいつものように砂地にテントを張って過ごした。  翌日３月１８日。野宿は何日続いているだろうか、くたくたの日々だ。早くシャワーを浴びたい。洗濯をしたい。そんな思いでテントを畳んでいた。そこに、通りすがりのヌアクショットに住んでいるおじさんが、水をいっぱい持たせてくれる。スペイン語を話せるこのおじさん、アタール北部に鉱山を持っているようで、新しい日本車に乗っている所を見るとリッチな人らしかった。しばらく会話を交わし、私は彼に言った。 「鉱山を持っていてリッチならば、こんな砂の多い大変な国に住まずに欧州のフランスかスペインにでも移住してしまえば・・・。どうしてこんな所に住んでいるんですか？」 などと聞いてしまった。彼は、 「ここは私の国だ。私の生まれ育った国だ。いくらお金があっても、私はモーリタニアに生まれ育ったモーリタニア人なんだ。だから、いくら砂が多かろうとここに住むんじゃよ。」 そう言った。豊かさよりも、愛国心をとるこのモーリタニアのおじさん。彼の言葉は昨日聞いた事のように今でも私の心に響いてくる。日本に生まれたから、日本人だから、私も日本に住みたい。彼と出会った後から私もなぜかそう強く思うようになっていった。彼とは３０分も言葉を交わさなかった。しかし、貴重な出会いだったような気がする。 おじさんは私の足元を見て、 「サソリじゃ。」 そう言って足で踏もうとした。 「ああ、ちょっと待って下さい。写真を撮りますから。」
モーリタニア 真ん中に小さくいるのはサソリ。テレビで見るような大きなものではなかった。  リッチそうなおじさんは去り、私は再び砂地とにらめっこしながら進んだ。ぼこぼこのアスファルトも始まったが、とりあえずはサドルにまたがって走る事ができた。
モーリタニア 地平線を見つめながら今日も走った。 
モーリタニア ヌアクショットに向けて・・・。  砂地を走っていると壊れた車があった。 「これはいいや。」 と、この車の骨組みとテントのシートを利用して日陰を作り、１時間ほど休んだ。日陰に入ると気温も下がり、ほっとする。 この日４２ｋｍ走るとまた民家があった。ここにはフレンドリーなモーリタニア人がいて水をくれた。 「あと４０ｋｍで補走路だよ。」 そんな言葉が嬉しかった。結局この日は７０ｋｍを算出し、道沿いにテントを張る。長かったズエラットからの道のりも、明日からはやっとアスファルトになる。
モーリタニア 砂漠を走った。毎日見た夕日の美しさは忘れられない。  翌日３月１９日。ボコボコのアスファルトが出現し、ここを走り始める。出発して水を民家でもらうとしたが、涸れてしまい、すでに井戸に水はなかった。が、アタールから運ばれたものがあるからと、その水をくれた。 「ありがとう。」 この日嬉しい出来事があった。砂地の中のボコボコのアスファルト道を走っていると、どこかで見たジープが前方で停まった。出てきたのは軍人・・・。 「あ、ションテラックさん！！」 車から降りた彼らの片手には、オレンジにリンゴ、チーズ、更に凍った水。こんな嬉しい事はなかった。夢のようで涙が出そうになった。 「ありがとうございます。凍った水の差し入れなんて、まるで夢のようです。」 本当に嬉しい差し入れだった。ションテラックさんは、 「ジープのリアガラスも道が悪いんで割れてしまったよ、スゴイ道路だな。」 そう笑って言っていた。お礼を言って、固い握手をして彼らと別れた。 このときの直射日光の下で思いっきり飲んだ水、それに冷えたオレンジにチーズ。一生忘れられない味となった。
モーリタニア 砂漠で飲む氷入りの水の味は格別。「ありがとうございます。」  元気が出たその後も快調に走る。お昼は道路工事をしていたモーリタニア人の方と日陰で一緒に過ごす。その後も、疲れるとカメラの三脚とテントのシートを使って自作の日陰で休んだ。
モーリタニア あまりに暑いので自分で木陰を作って凌いだ。  快調なアスファルトが伸びていたので、この日は９９ｋｍも進み、道路沿いの砂丘の見える所でテントを張って自炊。日中は暑い砂地だが、夜は気持ち良いくらいに気温も下がり、快適な夜を迎えた。満天の星が夜空に輝いている。
モーリタニア 砂丘にテントを張った。夜は満天の星が輝いていた。 
モーリタニア 野宿した場所から見た砂丘。 
モーリタニア 砂丘を見つめて。  翌日３月２０日。出発の準備をしていると黒人のおじさんがやって来て、サソリのいる事や足跡はこんなんだと教えてくれた。変わった足跡を早速写真に納めていく。
モーリタニア 地元の人がやって来た。これはサソリの足跡だそうだ。  出発してすぐに前輪パンク。修理していると、一台の車が停まって水を持って行けと５リットルのタンクを満タンにしてくれた。砂漠が大半を占める国、モーリタニアだけあって、この辺の気使い、助け合いの精神は本当にしっかりしている（中には物々交換と言う人もいるが）。 直射日光の当たる所は地獄なので、少しでも日陰があればそこで体を休めた。ヌアクショットまではわずか４０〜５０ｋｍ。残った道のりを全力で走る。頭も暑くてもうろうとしていた頃、ようやく民家がちらほらと見え出した。ふと見ると、地元の人が井戸で水を汲んでいた。 「水か！」 慌ててそのコンクリートの中を覗きこむと、きれいな冷たい水があった。そこにあるバケツで水を汲み、体にぶっかけた。
モーリタニア 砂地で見つけた忘れられない井戸。 
モーリタニア ここで体に水をぶっかけた。  「ああ、天国だあ。」 この場を離れたくない気持ちになってしまった。水浴びをして久々に爽快な気分。
モーリタニア フリースにもタオルにも、たっぷりと水を含ませて走ると、まるでクーラーの風を受けているように冷たい風が体に当たった。しかしすぐに乾いてしまった。  緑の量も家の数も増え、そしてアスファルトの質も良くなり、ヌアクショットの街中へと入って行く。空港が街中のすぐ近くにあったので両替を済ませた。そして中心街へと向かって行く。人々はすごく活気に満ちている。商店に陳列されている商品を見ると、ヌアジブのような地方とは違い、とても豊富な品揃えだ。
モーリタニア ようやくヌアクショットに着く。ここにも立派なモスクがあった。 
モーリタニア ヌアクショットの街で。  両替したウギアを片手にコカコーラを飲んだ。走って来た砂漠を思い出すと、５本でも１０本でも飲めそうな気持ちになってしまう。久々に「現代の味」を堪能した。 この日の宿は簡単に見つかるだろうと気楽に考えていた。が、探し始めると３０ドルから５０ドル、７０ドルとぶったまげる値段ばかり。 「冗談だろう・・・」 ボロそうに見えて値を聞くと７０ドルと言われ、これにはびっくり。吹っかけられていると言う他ない。あっちこっちと街中をうろうろして安宿を探していた時だった。 「ガキガキ、ガガガ・・・あ、あれ、あれあれ？」 ペダルを踏んでも飛脚号が進まない。チェーンも掛かっているのに空回り。どうなってしまったのか。以前にフランスの山間部で起きたトラブルと全く同じだった。 「まさかこんなトラブルがモーリタニアで起こるなんて・・・。でもちょっと待てよ。これはイギリスで交換した新しいハブだ。まだ２万ｋｍも走ってはいないぞ。」 トラブルが起きるには早すぎる。が、考えてみれば走行条件は砂地が多かった。とにかく安宿も見つからないまま、修理もできずに、海辺方面の空き地で野宿をする事にした。ヌアクショットに着いたのは良いが、飛脚号の後輪の内部のトラブルとは最悪。どうしたものかと頭を抱えつつ、この日の夜を過ごした。
モーリタニア 高い宿しか見つからなかったので、この日は空き地にテントを張って過ごした。 
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