第２５８話 ７７カ国目 モーリタニア 「ボールペン１本と２．５リットルの水の交換・・・。」  モーリタニアにもグランドキャニオンのような大地があった。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜モーリタニア １９９６／３ モーリタニア出国までの走行距離 約８１６７７ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
モーリタニア走行 １９９６／３／２〜１９９６／３／２５ 走行距離 約１１１８ｋｍ  |
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３月１３日。朝食を済ませ走り出すと、いきなり砂の道が始まった。その前にパンクもしていたので修理する。砂道走行と言うよりは「砂道歩行」なので、リュックを抱き、タイヤに掛かる負担を少しでも少なくして歩き始める。しかしなかなか大変。しつこいハエと戦いつつ、やっとシュンとアタールの中間点のレストランに着いた。暑さを凌げる日陰があったのでここで休ませてもらう。何も売っていないような所で、どうやって暮らしているのか不思議だ。体を休めていると数人の男たちの乗ったバンが目の前で停まった。モーリタニア人とはどこか雰囲気が違っていたのだが、聞けばセネガルからやって来たのだと言う。彼らに誘われ、一杯の熱く甘いお茶を御馳走になった。せっかくお茶に呼んでくれたので、記念に写真を撮る。
モーリタニア お茶に誘ってくれたセネガル人たちと。  この店で飲んだのは、砂糖たっぷりの中国産のお茶だった。彼らは熱いお茶にこれでもかと言うくらいに砂糖を溶かし、「甘過ぎる熱い茶」を作るのだが、不思議なもので、モーリタニア走行中はこれがとてもおいしく感じた。何度か繰り返して飲んでいるうちに私もとりこになり、日陰を見つけてはガソリンストーブを出し、砂糖をたっぷり入れて甘い熱い茶を作っていた。暑さの中でバテずに済む、最高のカロリー補給だったのかもしれない。強烈な直射日光の外とは一転、その小屋の中は涼しく快適。周囲を見ればとても生活できる所とは思えないのだが、こんな所にも人は住んでいる。なぜ移住しないのか。それが不思議だった。 ここでは先の道路情報を聞く。 「この先、砂は沢山あるんでしょうか。」 「あの山を上ってから少し。その後はアタールまで砂道はないよ。」 そう言われほっとする。砂にズブズブと埋もれながら走るのは辛い。私はすっかり砂道恐怖症になってしまっていた。ここでお茶を出してくれた店の主が、残ったわずかな水を小さな１本の木の根にかけていたのがとても印象的だった。緑の木１本でもここ砂漠では１００本分くらいの価値があるように思える。 その後も砂混じりのダート道を四苦八苦しながら走り、木陰で休憩をした。休んでいると地元の人が通りかかり、ラクダのミルクを飲みなさいと勧めてくれた。が、どうしても飲む勇気が出ない。勧めてくれた地元の男は、 「ほら、この通り大丈夫だよ。」 そう言って飲んで見せてくれたが、 「いや、さっき飲んだので。」 と腹一杯のジェスチャーをして断ってしまった。地元の男は自慢気に、 「パリダカもここを通ったんだぞ。」 と話していた。
モーリタニア 砂地を抜けると走り易い岩場が広がり始めていた。パリダカールラリーのステージにもなったとか。 
モーリタニア 砂の道よりはこうした岩の多い地形の方が走り易い。 
モーリタニア 波打つダートを走っていく。 
モーリタニア 砂の多い部分を避けながら蛇行しながら走った。 
モーリタニア 走行途中で写真を撮りながら。 
モーリタニア 岩場も現われ、砂地が少なくなっていった。 
モーリタニア 気持ちに余裕が出て写真も多く撮ってしまった。 
モーリタニア 波打つダートを走って。  直射日光の下と日陰とでは驚くほど気温に差がある。木陰で休むと走行中の暑さは嘘のように消えてくれるのだ。少しでも小さな木陰があると、そこに逃げ込んで休んだ。 前方にまるでテーブルマウンテンのような岩山が大きく姿を現し、この岩山をゆっくりと上っていった。ゴツゴツとした岩場が多いが、砂よりは全然マシだ。峠越えをする頃には、砂も見えずほとんど岩だけになり、ほっとしてペダルを踏んだ。２００ｍ位の峠の上から自分の走って来た道を振り返ると、地平線がどこまでも続いている。壮観だった。
モーリタニア 坂を上ると走って来た道が遥か遠くに続いていた。 
モーリタニア あの道を走って来たのか。 
モーリタニア 北に伸びる道。 
モーリタニア 地球をペダルしている実感が湧いた。  峠を上り切って走ると、今まで走って来た砂地は嘘のように消え、そこにはモーリタニアのグランドキャニオンとでも言うような素晴らしい景色が広がりはじめていた。
モーリタニア 坂を上り切ると走り易い岩盤の道があった。 
モーリタニア 西日を見つめて。気温が徐々に低くなっていくのが嬉しい。 
モーリタニア 途中で水を飲んで休憩。西日がいい色を出してくれていた。
モーリタニア まるでグランドキャニオンのようだったので、記念撮影をした。  高い大地を下ると、そこには砂の吹き溜まりがあった。さっきまでは気持ち良く岩場の道を走っていたのに、風の関係で遠くから運ばれてきたのだろうか、砂が山のように溜まっていた。その後も２、３ｋｍの砂道を走り、小さな集落を過ぎた所でテントを張り自炊。星空の美しい夜。もう砂道はないだろうと安心して眠りについた。
モーリタニア こんな砂地が１００ｍも続いたら、もう大変。荷物を外してバックを一つずつ運ばなければならなかった。 
モーリタニア この日は砂地を抜けて、岩場にテントを張って一夜過ごした。  翌日３月１４日。この日は２００ｍの峠の上りから始まった。２頭のラクダを連れた爺さんがとことこと歩いていく。荷物の多さからして、遠くからやって来た様子だ。
モーリタニア ラクダは道なりに歩いて行った。爺さんはその後からてくてく歩いてきた。 
モーリタニア ひたすら砂の道を走って行く。  その峠を越えしばらく走ると、ヤシのような木の鮮やかな緑が目に入った。黄金色の砂地の中のわずかな緑が、心身を和らげてくれる。
モーリタニア 砂地を歩いてくると、こうした緑が目に眩しかった。 
モーリタニア 緑のある所には水がある、水のある所には人が住んでいるはずだ。  しばらく走ると村があった。ここではいつものように子供たちが、 「ドネモワカドゥ」（何かプレゼントちょうだい） と片言のフランス語で叫びつつ私の方に駆け寄ってくる。石や土で出来た家々が目立つ。ボロシャツをまとい、下半身裸で駆け回る子供もいる。第三世界、貧困という言葉が現実となって目の前に現われる。こんな世界のために何かする訳でもなく、ただペダルを踏む私。もどかしい気持ちになってしまう。
モーリタニア この村で生まれ育ち、ここで一生涯を終える人がいるのだろうか。  砂地を走りつつやっと多くの緑が広がるアタールに着いた。街角のどこを見てもすごい。どう言ったらいいのか。商店を覗いて見たが、並んでいるのは缶詰めに乾電池、パン、缶ジュースくらい。物資に恵まれた日本に生まれ育った私には、こうした世界で生きている彼らの暮らしは想像もつかない。賞味期限ぎりぎりの古い缶詰めとローソク、パンなどの買い出しを済ませ、町をうろうろしていた。そこに迷彩服を着たフランス人の軍人が声をかけてきた。名はションテラックさんとペゴアさん。 「良かったら冷たい飲み物でもどうかね。」 と誘われた。モーリタニア軍への協力隊だと言う。彼等の施設に案内され、凍ったグラスに冷えたコカコーラ。おまけにエアコン付きの快的な部屋。ここで３０分程モーリタニアの話を聞いたりした。 「あの例のラクダのミルクは、腹は下すが慣れたらうまいぞ。」 と勧められる。モーリタニアの人々は、自分の国が一番であると誇りにしていると言う。 「もっと休んでいったらいい。」 と言って下さったが、あまりゆっくりするのも何だったので、有難うと礼を言い出発する。
モーリタニア アタールでションテラックさんとペゴアさんに誘われた。 
モーリタニア 彼らの誘いが本当に嬉しかった。  しかしあまりにも暑いので、木陰で３０分間ダウン。クーラーのあの部屋のひとときは気持ち良すぎた。かえって体に悪い。手元の温度計は３７度。まるでグランドキャニオンを思わせる地を走った。涼しくなった夕刻、岩場にテントを張る。この日はたくさんの野生ラクダを見た。
モーリタニア 自然の中をゆっくりと歩くラクダの姿が愉快だった。 
モーリタニア アタールの町近くで見たラクダの群れ。 
モーリタニア ラクダの群れを眺めて。 
モーリタニア 和やかな風景だ。 
モーリタニア この日も岩場にテントを張った。  翌日３月１５日。朝の涼しいうちに距離を稼いでおこう、などと思ったものの出発は９時。すっかり遅れる。昨日に引き続き砂混じりのダート道を走り始めた。しばらくするとジャンダルメリと呼ばれる警察に着く。そこでパスポートナンバー等を記載される。その後走り始めてすぐにチェーンが切れた。モロッコで交換したばかりなのにと少々驚く。ちょっと早すぎる。修理を済ませ、遠くに砂丘を見つめつつ走った。気温は徐々に上がって行く。
モーリタニア 風の関係だろうか。岩場の隅に砂が吹き込んでいた。  小さな村が見えて来た頃に、今度は前輪のパンク。また修理して走る。村ではいつものように子どもたちが、 「ドネモワステイロ、ステイロ」（ボールペンちょうだい） と言い寄ってくる。村の子どもたちにはボールペン１本も行き渡らないのか。
モーリタニア 小さな村を通過すると必ず少年たちの物乞いに遭った。村の子どもたちはボールペン１本も持っていないのか・・・。  彼等に果たして何をして上げられるのか。チョコレートを上げるか、お金を上げるのか、ボールペンか、それとも将来の為の教育なのか。彼らの生活を見ていると色々考えさせられてしまう。村には井戸があり、ここで水の補給をしていく。
モーリタニア 村を出て、砂地を走ったり岩場を走ったりした。 
モーリタニア アタールの南にある風景。  尻も手も痛い。延々と続くのは波のように続く砂混じりのダート。途中後輪のパンクの修理ついでに昼食。パンにチョコレートクリームを塗って腹に詰め込む。日中の日差しの強さは半端でなく強い。走っては木陰で休み、再び走る。しばらく走ると今度はスポークが折れた。この日飛脚号は一通りのトラブルを起こした。それだけハードな土地と言う事か。私の体もくたくた。
モーリタニア ラクダは相変わらずのんきに座っている。砂漠には本当に強そうな生き物だ。 
モーリタニア ラクダと遊牧民。 
モーリタニア ラクダと遊牧民。  サバンナから急に緑が多く見え出したと思ったら、井戸にスタンド。ここで水補給。明日に備える。結局この日は５０ｋｍ少々走って１日の走行に幕を閉じる。それにしてもどこの店でも、売っている品々は私でさえ高く感じる値段。彼等の食生活はいったいどうなっているのか。私は単に高い値を言い渡されているのか。パンの中には糸や毛や虫も入っていたりする。衛生面もすごい。美しい星空を眺めながらテントで横になり、モーリタニアという国についていろいろと考えた。
モーリタニア この日もまた星空を見ながらテントを張った。  ３月１６日。出発して砂丘を横目にヒーヒーと言いつつ走り始める。周囲には緑の木々も少なく、見るからに暑い。
モーリタニア 日中の砂地は本当に暑い・・・。  「あー暑い。もう走れない。あの木陰まで走って休もう。」 この日は午前中だけ走り、午後は１時から夕刻の６時まで木陰で横になってダウンしていた。休んでいる間に一台の車が通り過ぎたかと思ったら、前方で止まり、再び戻って来た。私の所にやってくると、 「ドルかフランを両替してくれ。 と言う。どうやら外貨が欲しいらしい。私は、 「入国時に申告をしたので、できない。」 と伝えた。すると、男は、 「大丈夫だ。」 と言う。しかしやはり断る。私が水を売って欲しいと言うと、 「売りはしないが何かと交換しよう、ボールペンは持っているか？」 と言うので、ボールペンと２．５リットルの水とを交換した。結構きっちりしている男だった。 午後は本当にバテてしまったが、午後の６時頃になると太陽も低くなり、とりあえずは涼しくなった。気温が低くなったせいか急に体力が回復し、その後は夜の８時迄走って距離を稼いだ。この日はもうへとへと。サソリがいるのを承知で、テントも張らずマットを敷いて道沿いでバタンＱ。 「あー疲れた。」 食わねば明日走れないので、自炊はして飯を腹に詰め込んだ。この日は砂地の酷暑の中の走行。バテた１日だった。しかし満点の星空を眺めていると、明日も走ろうとまた元気が出てくるのであった。砂漠で見る夜空はなんと美しいのだろう。
モーリタニア この日はもうヘトヘトでテントを張って砂地に横になった。サソリがいるとも知らずに。 
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