第２５６話 ７７カ国目 モーリタニア 「モーリタニア縦断・・・。」  ここからモーリタニア縦断の旅は始まった。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜モーリタニア １９９６／３ モーリタニア出国までの走行距離 約８１６７７ｋｍ 
アフリカ走行 １９９６／２／１〜１９９７／５／２８ 走行距離 約２２１０７ｋｍ 
モーリタニア走行 １９９６／３／２〜１９９６／３／２５ 走行距離 約１１１８ｋｍ  |
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中古のベンツのジープの持ち主の爺さんは、マリのモーリタニア大使館で働いていたと言う男だった。なる程、フランス語の他に片言の英語も話した。爺さんに、 「このままズエラットまでは１人で車の後部座席に乗って横になってくから、あんた良かったら助手席に乗れば良いよ。」 と勧められる。私はこの時、外の方が気持ち良くていいだろう、などと悠長な事を言っていたのだが。 午後６時、列車は動き出した。進行方向は港の方面だ。このときはまだ我々の車両は２〜３輌。しばらく進むと何本あるのかとても数え切れない程のターミナルに到着した。
モーリタニア 海岸沿いまでいくと大きなターミナルに着いた。  そこにはからっぽの車両がたくさんあり、行ったり来たり、つなげたり切り離したりしながら、我々の車両はどんどんと増えて行った。周囲も暗くなり、月明かりが気持ち良い。時刻は８時、９時となる。遅くになってもまだ作業は続いている。爺さんは私を２度、３度お茶に誘ってくれた。日も沈みすっかり涼しくなったヌアジブ。いつも飲む甘すぎるお茶だが、このときは気温も低かったせいか、体中にしみ渡るうまさだった。 午後１０時半。最初２、３両だった列車は、どこまでつながっているのかわからないくらい長く連結されてしまった。すべて空の車両だ。この列車で、鉄鉱石の採掘で知られるモーリタニアの内陸ズエラットヘと向かう。列車は飛び跳ね、横揺れし、そしてブレーキのショックで鞭打ちになりそうで乗り心地も何もなく、このとき私が乗った爺さんのベンツのジープの助手席とは特等席だった。 ４人乗りベンツ。爺さんは後ろに、私は前部座席を使ってそれぞれ横になり、寝る事が出来たのだった。 「あのスペインのおっさん、地元民と一緒に鮨詰めでギュウギュウで手を振っていたけど、大丈夫だったのかな。」 彼の幸運を祈った事は言うまでもない。 時々列車はブレーキをかける。そのブレーキショックで目が覚めたりもした。余りにも長い列車でブレーキにも時間差があり愉快だった。前方からか、連結部分が当たる激しい音が、 「ガチャン、ガチャン、ガチャ、ガチャ、ガチャガチャガチャガチャ」 １７０車両を４〜５秒の早さでブレーキの音がやって来る。それに合わせて私も構える。 「おおー、来たー。」 昔行った富士急ハイランドのジェットコースターなんかよりもずっとスリルがあって面白い。ちなみにこの列車、２週間程後に脱線事故を起こし２０数名の負傷者を出したと聞いた。
モーリタニア スリルある鉱石運搬列車に乗って内陸の町ズエラットへ。 
モーリタニア 砂漠を行く列車。 
モーリタニア 長いときは２、３ｋｍにもなると言う長い列車。 
モーリタニア どこまでも続き、先頭車両は見えない。 
モーリタニア 途中で擦れ違った列車。  翌朝３月７日。車の中で目を覚ますと、太陽が今にも地平線から顔を出しそうだった。気持ち良く太陽は昇ってきた。
モーリタニア 地平線から今日も太陽が昇る。  相変わらず止まったり動いたりの繰り返し。朝日を浴びた飛脚号は真っ白。鉄鉱石の粉だろうか、一晩で信じられない白さ。あのスペイン人のおっさんは本当に大丈夫だったかな。真っ白な飛脚号を見てそう思った。本当に彼の幸運を祈った。
モーリタニア 車両の上の飛脚号は真っ白に。 
モーリタニア あのスペインのおっさんもこうして真っ白になってしまったのか。  イナル、トゥメイミチャット等、集落は途中にあるが、やはり道はないようだ。砂漠の中には線路が１本敷かれているだけだった。
モーリタニア 砂漠の中に伸びる線路。  「ここを自転車と一緒に歩いていたら、水は切れて干上がっていたかもしれない。」 トゥメイミチャットの村でほんの数分止まり、その間に我々の車両に積んであったドラム缶を数本皆して転がし落とした。荷の積み下ろし時間などは全く関係ないようで、すぐに列車は動き始めてしまった。そこを過ぎると、今度はアザフと呼ばれる砂丘地帯を横断する。
モーリタニア アザフと呼ばれる砂丘地帯を列車は行く。  「いつもこの辺は問題だ。線路上に砂溜まりができて除去するのに手間取るんじゃよ。」 爺さんが言った。が、この日はゆっくり進んで無事通過。砂丘のふもとをラクダが歩いていく。 「いやー美しいですね。」 チュニジアでは見る事のできなかった砂丘が目の前に広がっている。爺さんは、 「ラクダは１頭、１０万円位する。高いぞ。」 そう教えてくれた。
モーリタニア 列車から見る砂丘とラクダ。 
モーリタニア 列車から見る砂丘とラクダ。 
モーリタニア 列車から見る砂丘。 
モーリタニア 列車から見る砂丘。 
モーリタニア 列車からの眺め。 
モーリタニア 列車から見た同じ車両。とにかく長い。  退屈する事なくシュンを通過し、更に北のズエラットヘ。ヌアジブからシュンへ走れなかった分、私は地図上の輪跡の空白部分を少しでも埋めるべく、列車で行ける最北の町、ズエラットから南下を開始する事に決めていた。途中通過した町「シュン」は見る限り自転車でも走れそうだった。
モーリタニア シュンの村を通過。どうやら自転車でも走れそうな道がある。  ズエラットに到着したのは午後２時過ぎ。ここで爺さんともお別れだ。 「爺さん、ありがとう。」 私は真白の荷物を飛脚号に取り付け、早速ズエラットの町中へ向かった。今迄半砂漠の中を走って来たが、この町ズエラットには緑や花があるようだ。鉱山の標高を地図で確認すると９１５ｍ。ここには水もあるかもしれない。
モーリタニア ズエラット近郊の町を眺めて。 
モーリタニア ズエラット近郊の町。 
モーリタニア ズエラット近郊の町。 
モーリタニア 内陸の砂漠を車で行く男。  「あの岩山は鉄の材料だろうか？」 赤黒色したその山。以前の砂丘の色からしたらとても想像のつかない異色だ。
モーリタニア ズエラット近郊の土地。  ズエラットの町中は変わりなくゴミゴミしている。既に見慣れた貧困を思わせる町。駆け回るノラ山羊。駆け回る少年たち。彼らは、 「パリダカ、パリダカ。」 と言いながら駆け寄ってくる。
モーリタニア ズエラットに到着。 
モーリタニア ズエラットの家屋。バラックのような造り。 
モーリタニア ズエラット近郊の風景。  しかし、町と町の間は立派なアスファルト。所々で白人も見かける。なぜか左側通行。ヨーロッパの開発会社が絡んでいるのだろう。 ズエラットの町中ではフレンドリーな親子連れに声を掛けられ、写真を撮った。 「パリダカールラリーに出場しているのかい？」 と聞かれた。
モーリタニア ズエラットの町で優しそうな親子に出会った。こうした地にも人々が暮らしている。 
モーリタニア 親子に写真を撮ってもらった。 
モーリタニア ズエラットの町中で。 商店でミネラルウォーターを買う。のどかな町だ。西サハラ砂漠の中の人々の暮らし。日本の反対側のブラジルよりはずっと遥か遠くに来た感じがする。 「ここは西サハラの内陸。ズエラットと言う町なのか。」 水が豊富にある町はやはり雰囲気が違う。活気があるように思う。のんびりせずに、町を見終わった足で早速首都ヌアクショット、いざセネガルはダカールを目指して出発。この日はズエラットからわずか３０ｋｍ程を走り調度アスファルトも切れた所でテントを張って自炊した。 今回の旅の中でもしんどかった砂漠走行。ヌアクショットまでの砂混じりの長い道程は８００ｋｍ余り続いた。
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