第１９６話 ６１カ国目 イギリス 「オクスフォードを抜け・・・。」  オクスフォードのユースでの朝食風景。 各国のサイクリスと話が弾んだ。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜イギリス １９９７／５ イギリス出国までの走行距離 約１００４０９ｋｍ 
欧州・中東走行 １９９４／６／２９〜１９９６／２／１ 走行距離 約３４１３１ｋｍ 
イギリス走行 １９９５／５／２６〜１９９５／７／６ 及び １９９５／７／１０〜１９９５／７／２１ １９９５／１０／３１〜１９９５／１１／１６ １９９７／５／３０〜１９９７／６／６ 走行距離 約２６７２ｋｍ  |
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ロンドンを後に３０ｋｍ程走ると、周囲には牧歌的な風景が広がリ始めた。緑が目に眩しく、気持ちのよいペダリングが期待できそうだ。 高速道路のようなハイウェイを走って行ったが、路肩には自転車専用レーンが設けてある。長い距離を走ろうと言う私のようなサイクリストにとって、こうして、整備が行き届いている国ほど走りやすい所はない。 英語圏のせいか、イギリスに入ってからは多くの人々と挨拶を交わすようにもなった。地元の人は私とすれ違うと、「ニコっ」と微笑んだり、会釈をしたり。軽い挨拶程度の言葉も掛けてくれるので、私もそれに答えながら走っていた。どこか清々しいやりとりだ。今までの欧州の国々では感じられなかった開放的な、親しみ易い雰囲気がイギリスにはあるようにも思えた。これは「島国」のせいなのか。そう言えばと思い出したのは、英国統治下にあったカリブの島々である。あそこを走っていたときも、やはりとても挨拶やコミュニケーションが多かった気がする。イギリス人の国民性の事などを色々と考えながら、私はオクスフォードの街を目指しペダルを踏んでいた。
イギリス どうやらオクスフォードの街に着いたようだ。 
イギリス オクスフォードの街で。  オクスフォード市内のインフォメーションセンターは５時で閉館。日が長いのに午後の５時で終わりと言うのも早いな・・・と思ったが、考えてみれば、 「今日は土曜日だったか・・・。」 曜日の感覚も麻痺している。 ガイドブックに載っているユースの住所、ストリート名を頼りにして、付近の人々に尋ねながらユースを探した。だいたいの方角が分かったので、その方面に向かって走っていると、前方から1人のサイクリストがこちらにやって来る。そして、 「キャンプ場を探しているんだけど知らないか。」 そう尋ねてきた彼の名はマーク。オランダ人サイクリスト。私は、 「良かったらユースに行かないか？」 と誘うと、 「何ポンド？」 と値段を聞くので、 「１０ポンド以内だと思うけどなあ。」 と答えると、 「それじゃあユースに行こうかな。」 ユースまでの１５分足らずの道を彼と一緒する事になった。オクスフォードのユースホステルに着き、レセプションに入って１泊お願いする。
イギリス 優雅な雰囲気が漂うオクスフォードのユースに到着した。  レセプションで受付を済ませ、ふっと横を見ると、どこかで見た男がいた。 「あれ？・・・マイケル？」 「おお、ヨシ！」 ロンドンで一緒だったマイケルが横に立っているではないか。本当に再会できるなんて思わなかったので、思わずマイケルと抱き合い、両肩をポンポンと叩き合って喜んでしまった。マイケルは我々を自転車置き場に案内してくれた。広いユースの庭にはテントがいくつか張られている。 「もしかして、テントを張っても？」 とマイケルに聞くと、 「テントなら４ポンドで泊まれるぞ。」 「それはいいや。」 と、マークと私は大喜びして庭にテントを張ることに決めた。料金は安くてもキッチンなどの施設は使えるので、特に問題はない。 オランダサイクリストのマークとは夕食にカレーを作った。ロンドンのジャパンセンターで購入した貴重なカレー粉だったが、せっかくならオランダの自転車野郎と、うまい日本製のカレーをシェアして食べたかった。 この日はロンドンから１００ｋｍ少しの走行だったが、久々に張り切って走ったせいか疲れてしまい、１０時半過ぎには眠りについてしまった。
イギリス オクスフォードのユースホステルでは４ポンドで庭にテントを張ることができる。  翌日６月１８日。７時に目を覚まし、８時に朝食。ロンドンのハイゲイトユースとは違い、オクスフォードのユースには朝食が付いていた。卵にポテトにパン、変わった揚げもの、それにコーヒーにジャム。量的には今ひとつだが、とりあえず満足。 朝食は例のサイクリストたちと一緒した。オランダのマーク、アメリカのマイケルと、彼の友人ケイブの４人で、 「あの街はいい、ここはあーだ、あそこはこーだ。」 サイクリストならではの情報交換に花が咲いた。
イギリス 朝からサイクリングの見所情報交換会が始まった。マイケル（左）とマーク。 朝食を済ませてから、マイケルの友人のケイブが一足先に出発することになった。彼はロンドンでバイクを盗まれてしまったそうで、代わりの新しいバイクを購入。新品自転車で旅を再開する事になったらしい。ここのユースでは他にもオーストラリア出身の女性サイクリスト２名にも出会ったが、彼女らもイギリス北部の町で自転車と荷物を丸ごとそっくり盗まれてしまったと言う。自転車盗難の話を聞いたのはイギリスで早くも２度目。いや、ノルウェーで出会った小林さんもイギリスでメーターを盗まれたと言っていたから、盗難に関してはかなりの注意が必要なのかも知れない。
イギリス ロンドンで自転車を盗まれてしまったと言うケイブ（中央）が新品自転車でオクスフォードユースを出発。  オランダのマークもマイケルも、 「１日のんびりとオクスフォードの街を歩いて見るよ｡」 と言っていた。私もこんなきれいな街でゆっくりしたいが、先が長いのでそうも各地でのんびりしてはいられない。あの街もこの街もなどとやっていたら、１０年、２０年かかっても自転車世界一周は終らない。私は北を目指して先を急ぐ事にした。マークとマイケルにさよならを告げて出発。 オクスフォードの街中を走り、少しばかり写真を撮っていく。古風な建物が多く、きれいな花や緑が目に入る。どこか落着く感じがする。こんな所で勉強したら私も少しは頭が良くなるだろうか・・・。街では学生らしき若者や観光客の姿などが目に入った。
イギリス 歴史の重みが感じられるオクスフォードの街で。 
イギリス 古風な建物も目に入るオクスフォードの街で。 
イギリス オクスフォードを走る飛脚号。 
イギリス 街中をカップルが歩く。とてもインターナショナルな街。 
イギリス 観光客らしき人の姿も多く目に入る。 
イギリス 美しい緑の中、オクスフォードの街中を抜けて行く。  オクスフォードを後に、スタットフォードを目指し走った。街を抜けると広大な牧草地は再び現れ、美しく気持ちの良い緑がどこまでも続いていた。
イギリス 美しい緑の大地はどこまでも続いていた。  途中のガソリンスタンドに寄り、自炊用ストーブの燃料を買う。ここのレジには愛想の良いおばさんがおり、 「どっから来たの？」 笑顔で聞いてきた。 「日本ですが・・・」 そう答えると、おばさんはニコニコしながら、 「私の息子が日本に行ったの。確かオオサカよ。それで日本の娘と結婚したのよ。」 嬉しそうに話してくれた。田舎で出会ったおばさんが笑顔でそんな風に言ってくれるのは嬉しかった。と言うよりは今までのフランスやドイツ、更に東欧諸国と違って、言葉が通じるという点でとても嬉しかったのかもしれない。ジェスチャーで何とか旅は出来るにしても、現地の言葉を話せるに越した事はない。そんな事を改めて考えると、言葉と言うのは大切。旅の内容も違ってくるものなのだと変に納得してしまう。今までの北欧やチュニジアや東欧諸国で、英語圏のように地元の人とコミュニケーションが取れたら、旅はもっと盛り上がったに違いない。欧州走行が終れば北・西アフリカに向かう。あの近辺はフランス語だ。せめて日常会話くらいは話せるようになりたいものだが・・・。 田舎道を走っていると、時々野うさぎに出合った。ハイウェイをピョンピョンと横切っていくのだ。車が少ない所では、気持ちのよい小鳥のさえずりも耳に入ってくる。走りながらの森林浴は最高だ。 「素晴らしい季節にイギリスにやって来た。」 雨が多いと聞いていたのに、運のいいことに、晴れの日が多い。私ははしゃいでペダルを踏んでいた。
イギリス 田舎ではこんな風景も。 
イギリス 静かな田舎道を走ると、小鳥たちがまるで歌でも歌っているかのようだった。 
イギリス 牧歌的な風景を眺めながら。 
イギリス 牧草地を眺めながら。 
イギリス 多くの羊たちの姿も目に入る。 
イギリス 川を下る家族、プカプカと泳ぎ回るマガモ・・・。そこには自然と人が仲良く暮らす図がある。  町中で止まって地図を眺めていると、近くにいる青年がさりげなく、 「何かお困りで？」 と言い寄って来たりする。自転車泥棒の話も聞いたが、地元の人々と接する限りでは、皆良い人、親切と言った印象を受ける。 夏のヨーロッパはどこも日が長い。イギリスもこの時期、夜９時までは明るい。お日様と共に生活する私のようなサイクリストは、ついつい日が沈むまで長い時間を走ってしまうのである。 スタットフォードのキャンプ場に着いたのは、まだ明るい夜の８時すぎ。キャンプ場ではうさぎが駆け回り、芝生にはまがもが腰を据えている。 「のんびりしているなあ。」 人工のキャンプ場とは思えない気持ちの良い空間。この日も張り切って走ったので、かなりバテ気味。テントを張り、米を炊いて夕食。１０時半過ぎには床に着いた。
イギリス カモやウサギが歩き回るスタットフォードのキャンプ場で。  翌日、気持ちの良い朝日がテント内に入り込んできた。信じられない位の広い芝生、周囲の緑に木々。こんな広々とした素晴らしいキャンプ場が日本にもあればと、考え込んでしまう。 コーヒーにパンなどで朝食を済ませ、テントをたたみ今日も北へ向けて出発。目指すは遥か北、スコットランドである。 朝方の晴れ間も出発する頃に雲り空に変わり、怪しい雲が広がり始めていた。緩やかな斜面、丘陵地の緑を眺めつつ、昼過ぎまで黙々と走る。
イギリス どこまでも緑の大地は広がっている。  途中の店で煮豆の缶詰めとパン等を買おうとすると、近くの自転車屋の店主である元気の良い爺さんが私の方にやって来て、 「どっから来た、どこへ行く？」 興味深そうに聞いてくる。私はいつものようにどこから来て、どこへ行くのかを答えた、すると爺さんは、 「英国は好きか。」 と聞いてきた。実はこの質問は、ジャマイカやカリブの島々でもよく聞いたお馴染みのセリフ。旧英国領と全く同じ質問のような気がする。私は、 「もちろん好きです。」 と答えた。人々は接しやすいし、自転車に乗って駆け抜ける田舎道も気持ちいい。それにイギリスには羨ましいくらいのたくさんの緑がある。そうした私の答えに納得したのか、爺さんは笑顔で、 「良い旅を。」 そう言い残し去っていった。 走行中に腹が減ったので、美しい芝生の敷き詰められた広いラグビー場で座り込んで昼食とした。イギリスでの昼食はもっぱら缶詰。トマトソース味の煮豆、「ビーンズ」。これが主食となっていた。他の旅行者は、 「豆の缶詰で飽きないか？」 と言っていたが、私は軟らかで手頃で栄養のありそうなこの豆缶が大好きだった。緑の大地を目の前に豆缶とフルーツ。間違っても豊かな食事とは言えないが、それでも満足していた。ここで３０分程座り込んで休んでいると、老人が散歩がてら通り過ぎて行き、声をかけてきたりするのだった。 イギリスはさすが「紳士の国」と言われるだけあってか、交通マナーは良い方だった。その譲り合いの多さに感心してしまう。英国などヨーロッパには信号が少なく、とくに田舎では交差点よりもロータリーのような場所が多いが、車と一緒に私もここをグルグルと走っていた。するとトラックなどがゆっくりと私を気づかって走ってくれた。マナーも良く、譲り合いも多い気持ちの良い環境があるように思う。
イギリス 車の運転は紳士的だったように思うが。 
イギリス 途中の小さな街では「KARAOKE」の文字を発見。  バーミンガム郊外を北へ抜け、田舎道を走った。ルジェリーから５０１３号線を北上。小さな湖の中を走り抜ける。無数の牛に、湖では釣りをする人。自然豊かなイギリスの田舎が全く羨ましい限り。
イギリス こんなイギリスの田舎でゆっくりと暮らしてみたい気もする。  アルトンタワーという、イギリスでも有名な観光地の近くのユースをこの日の宿として目指したのだが、その付近の上り下りの多いこと。それに加えて急匂配。大渋滞の車を横目にえっちらおっちらやる。ユースホステル近くになっても特別に目立った標識も見当たらず、付近の人々に聞いてみる。すると、どうやらかなり山奥らしい。主要道からはずれて左に右にと山中を抜ける。 「あれ？こっちだろうか。」 近くの家のおばさんに尋ねると、 「この道ずっと真っすぐ上ったら左に曲がって右側よ。とてもきれいな所よ。木曜日、金曜日は良い天気かもしれないけれど、明日は雨かもしれないわ。」 そう付け加えて言った。 急匂配斜面を上っていくが、途中ではそれは何種類もの小鳥の声が、まるで大合唱しているかのように森にこだましている。坂道でふっと立ち止まり自分の荒い息を殺して耳をすませると、それは気持ちのよい響きだった。その場で野宿したくなった。イギリスの田舎に住んでみたいものだ。 この日にやってきたのは牧草地、田畑、林などの緑に囲まれたユースホステル。５ポンド（７００円）で素泊りができる。老夫婦がのんびり経営、そんな感じのユースだった。
イギリス アルトンの街から更に山奥に入っていった田舎のユース。  ここでは英国人の元カメラマンと言うマイクさんに出会った。こんな田舎の小さなユースに足を伸ばす人も少ないのか、宿泊客は我々のみ。マイクさんにはイギリスの失業率が高いと言う話や、スコットランドの見所、そしてアイルランドの人々の事、サイクリング事情等、色々と話を聞く事ができた。結局コーヒーを飲みながら、１２時頃迄話していた。
イギリス ここで元カメラマンのマイクさんに出会った。 
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