第１９５話 ６１カ国目 イギリス 「ロンドンで過ごした日々・・・。」  「ロンドンの街にやって来た。」 テムズ川とビッグベンを目の前にして。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜イギリス １９９７／５ イギリス出国までの走行距離 約１００４０９ｋｍ 
欧州・中東走行 １９９４／６／２９〜１９９６／２／１ 走行距離 約３４１３１ｋｍ 
イギリス走行 １９９５／５／２６〜１９９５／７／６ 及び １９９５／７／１０〜１９９５／７／２１ １９９５／１０／３１〜１９９５／１１／１６ １９９７／５／３０〜１９９７／６／６ 走行距離 約２６７２ｋｍ  |
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フェリーデッキに出ると、気持ちよくドーバー海峡が見渡せた。 「ここを越えればイギリス。ロンドンはもう目の前だ。」 フェリーの中は団体の学生たちがおり、とても賑やか。私はしばらく船内を歩いて回った後、パリで買った数日前の日本の新聞を読んでいた。客室にはテレビもあったが面白いのはやっていない。が、しばらくするとミスタービーンが登場したので、新聞を読むのを止め、彼の番組をクスクスと笑いながら見ていた。 「もしかしたら、イギリスにはあんなひょうきんな人たちがたくさんいるのかもしれない・・・。」 そんな気持ちがなくもなかった。 手元の時計を１時間遅らせ、英国タイムに合わせる。４時間の船旅を終える頃には、太陽は海に沈みかけていた。東欧を走っている頃に比べれば、ずいぶんと日は長くなったものだ。デッキの上からは陸地が見え始めている。 「イギリスだ・・・。」 産業革命を起こした国イギリス。ビートルズを生み出したのもイギリス。きっと素晴らしい国に違いない。今までに走ったあのカリブ海諸国にベリーズ、ガイアナ、マルタなど、英国の統治下に置かれた国々はとても親しみやすく、親日の人々も多かった。フランスと競って多くの国々を統治してきたイギリス人は、人を使うのがとても上手だと聞いている。 「楽しみだなあ。」 フェリーはニューハブンの港に着いた。私は飛脚号にまたがり、颯爽とイギリス上陸。フェリーを出た所にイミグレーションがある。かなり入念に旅行者をチェックしている様子で、私も例に漏れずチェックを受けた。失業問題を抱えていた当時のイギリスは、旅行者に安い労働力で働かれては困ると思っていたのかもしれない。 入国審査官の二人は、早速質問をしてきた。しかし、至って紳士的。さすがはイギリスジェントルマン。 「君はいくら持っているの？どのくらい滞在するの？イギリスで働く予定はあるのかい。」 などと聞いてきたが、旅行小切手とクレジットカードを見せ、更に、自転車で世界一周をしているのでお金はあって、働くつもりはない・・・と「サアー」を付けて伝えると、簡単に入国許可をくれた。 「どうやってそんなに貯めたんだい？」 と聞く係官らに、自分のしていた運転手の仕事内容や働いていた時間帯を告げた。すると係官たちは顔を見合わせ、 「俺たちって給料いくらもらってた？」 と、ちょっとわざとらしくボケて首を傾げ、私を笑わせてくれた。こうしたギャグを言う英国係官が好きだ。最後には、 「気を付けて、良い旅をしてね・・・」 とも言ってくれた。所持している金額を聞いて、簡単に許可がおりた感じだったので、やはり物を言うのはお金・・・と言う事になるのだろうか。陸路で入国したのが良かったのか・・・。何の問題もなく６ヶ月の滞在許可が降りた。今までに出会った旅行者の話では、とにかく厳しいの一言だったが、事無く入国できて良かった。少し気が抜けたような思いでもあるが。
イギリス 「ニューハブン・・・」の港に上陸。  日本から走ること６５５２８ｋｍ。６１カ国目のイギリスだ。とても楽しみな国の一つ。しかし上陸した日はすっかり暗くなっており、走るのは明日から。この晩はニューハブンの町の近くにあった小さなキャンプ場に飛び込んだ。
イギリス イギリス初めてのキャンプ場で。 
イギリス これがポンド紙幣。多くの国の紙幣でも登場したエリザベス女王。本国でも再会。  ５月２７日、ロンドンを目指して出発。イギリスは日本と同じ左側通行。今までに走って来た国々の大半が右側通行なので、少し違和感を感じる。知らない間に右側を走っている事もあった。 イギリスに入国し、地図はまだ購入していなかったので、「ＬＯＮＤＯＮ」の標識を頼りにひたすら北上して行った。フランスも農場地が多く、美しい緑が目に入ったが、英国にも広大な気持ちの良い風景が広がっていた。今はちょうどいいサイクリングのシーズンかも知れない。
イギリス イギリスの南部。自然が豊かだ。 
イギリス なんと気持ち良さそうなところに住んでいるのだろう。  このとき走った道と言うのは、まるで高速道路のような片道二車線の道だった。ハイウェイのようなこの道には、なんと自転車専用道路も併設されている。感覚とすれば日本の高速道路を自転車で走っている感じ。広くてとても走り易い。安全面でも全く問題はない。周囲は緑に囲まれ、 「なんと気持ちの良い道なのか・・・」 そう感動した。ハイウェイにもかかわらず、ときどきウサギがぴょんぴょんと飛び跳ねて横断して行く。車にひかれやしないかと不安だが、大丈夫そうだ。周囲の美しい風景とハイウェイを駆ける野ウサギ、それに自転車道もあり、自然と人がうまく共生している、そんな魅力を感じた。日本の環境よりも１０年、いや２０年くらい進んでいる気がする。 良い天気に恵まれ、スタンドに寄ってパイなどにかじりついてロンドンを目指した。少し休んでは再び走る。ロンドンはすぐ３０ｋｍ北にあったのだが、この日はロンドン入りせずに、郊外のスットンと言う名の街でキャンプをして夜を過ごそうと考えていた。しかしロンドン郊外のせいか、気の効いたキャンプ場施設など見当たらず、周囲は住宅地ばかり。 「これは困った・・・。」 薄暗くなるまで走り、結局ラクビー場のような広い所の横を借り、そこでテントを張って一夜を過ごす事に。場所が決まったので、街のスーパーに夕食を何か買おうと寄ってみた。すると、そこにはカップラーメンが。 「お、これはカップラーメン・・・。」 日本製ではなかったが、海外で売られていたカップ麺に大いに喜び、早速この日の夕食の足しにする。久々に食べたインスタントカップラーメンの味は、もう最高。
イギリス ラクビー場のような所でテントを張って野宿をした。  ５月２８日。朝方は少し雨に降られたものの、出発する頃になると天気は快晴にと変わっていた。ロンドンに向けてはそれほど迷う事もなく、ひたすら「ＬＯＮＤＯＮ」の標識を追いながら走った。野宿地からは、わずか３０ｋｍの道のり。とくに迷う事もなく進む事ができた。ロンドン郊外にやってきた所で、二人の青年サイクリストが声をかけてくれた。 「どこから来たの？」 私が、 「ロンドンの中心街に行きたいんだ。」 と言うと、 「付いて来な。」 と、わずか５分くらいの間、私を先導してくれた。複雑なロンドンの街の中心街も、彼らが先導してくれたお陰であっという間に着いてしまった。目の前にはテムズ河の流れが見えている。彼らに礼を言ってそのまま別れた。 「ここが、ロンドンだ・・・ついにやって来た。」
イギリス ビックベンとテムズ河。
イギリス 国会議事堂とビックベン。 
イギリス ようやくロンドンの街にやって来た。  街のインフォメーションセンターでロンドンの市街地図をもらい、早速ユースホステルへ向かう。一番安いユースは１１ポンド。ハイゲイトユースホステルというのがそれだった。ロンドンの街中から走って行くと、急坂の途中にあり、ちょっと不便そうだが、自転車で移動する私には特に問題はなさそうだ。 ユースの管理人はメラニーさんと言うニュージーランド出身の女性。とてもアットホームな感じの経営をされている。 建物自体は小さく狭いが、裏側には７０坪くらいの広いガーデンがあり、寝転がったり、バレーボールなどもすることができる。こんな気持ちよい空間で紅茶でも飲みながら本を読んだら、旅の疲れなど吹き飛んでしまいそうだ。ユースには自転車専用の鍵付きの倉庫もある。もちろんキッチンもあればテレビもある。
イギリス 右側の小屋が自転車用倉庫。  決して安いとは言えないが、最高の滞在場所だった。野性的に野宿ばかり繰り返して来た自分には、絶好の保養地にも思えた。居心地は抜群に良かった。管理人のメラニーさんは日本に滞在した経験があり、親日派。 しかし、ロンドンでは安い宿という事で、いつも混んでいる。部屋の中には２段ベッドがぎっしり並び、旅人にとっては本当に寝るだけといった感じの所。シャワーもあるが、宿泊者が多いと混んでいてなかなか使えない。そんなハイゲイトユースだが、私にはとても快適な空間だった。 シャワーを浴びた私は荷物を置き、ロンドンの街を少し走った。車の通りの多い所は確かに多いが、緑が豊富で大きな公園もあり、まるで森の中にすっぽりと大都会がおさまっている、そんな感じがした。コンクリートジャングルと言った日本の都会とはイメージがかなり違っている。きれいな、緑の多い都会だ。 街中では、アフリカ系の人々にアジア系の人々と、様々な人種を見掛ける。ガイドブックにも書かれていたが、まさに人種のるつぼ。 そんなロンドンの街中では嬉しい発見があった。街の中心街には「ジャパンセンター」と言うショップがあり、ここで各国のガイドブックや、本や雑誌などを買うことが出来た。高いので「買う」よりは立ち読みをした。アフリカのガイドブックは余り見当たらなかったが、ＪＴＢの「フランス語自由自在」や、「フランス語１・２・３」更に「ロシア語辞書」や「トルコの歩き方」などが置いてあり、これからの中東、西アフリカの旅に備えて、役に立ちそうな本や情報を日本語で手に入れることができそうだった。 ジャパンセンターは一階が本屋。地下は小さなスーパー。色々と日本の食材が売られていた。バーモントカレーにそば、お茶漬け、ペヤング焼きそばや日清カップヌードルなど、嬉しい品々が所狭しと並んでいた。更に、 「おお！これは、な、な、納豆じゃないか。」 冷凍ではあるが、確かに納豆だ。本物の納豆を発見したのだ。涙が出るほど嬉しかった。ところが値段を見ると、３パックで５００円もする。日本の５倍もするなんて馬鹿げている。これなら１日1個食べて栄養を付けようなんて贅沢はとてもできない。今回はロンドン到達記念に３パックのみを購入。 日本を離れた私には、このジャパンセンターはオアシスのような所だった。高級食材が山と並び、見ているだけでお腹が膨れそうだった。納豆とカレー粉を買って大満足になった私は、ハイゲイトユースへと戻った。 翌日５月２９日。ロンドンでは、これから旅を継続させるための色々な雑用をこなさなければならなかった。飛脚号の整備、さらにアフリカ行きの準備・・・。朝飯を食べ、早速飛脚号と共に意気揚々とロンドンの街へ出掛けた。ところが街中は静まり返っていた。 「あれれ？」 その国のホリデーなどを把握していないと、こう言う事がよく起こった。この日はスプリングバンクホリデーとか言う日らしい。作業は明日に持ち越し。 翌朝、キッチンで朝食をとっていると、ノルウェーからやって来たという少年たちが自転車で走り回っている私の事を聞き付け、話し掛けてきた。少年たちは英語ペラペラ。私の方がタジタジになってしまうくらいだ。 「今日の９時にはキッチンにいますか？良かったら話を聞きたいんです。」 とノルウェー少年たちは言うので、 「夜の９時にまた会おうね。」 と伝えた。積極的な彼らに感心しながらも、私は雑用をすべく、ロンドンの街を駆け回った。 パスポートの更新（作成）に新しいキャンプ用品の調達のためのショップ探し。さらに飛脚号のオーバーホールの為の自転車屋探しなどなど。またアフリカ縦断の準備あれこれ。やる事は山積している・・・。 真っ先に行ったのは日本の領事館。パスポートの有効期限は５年で、出発してから一度パナマで増補しているものの、６１カ国を越えた今では限界。ページ数がすっかり残り少なくなってしまっている。５年間有効なのでまだ使えない事はないが、入国印などを押すページがなくなっている。そこでロンドンで新しいパスポートを取得しようと企んでいた。
イギリス 出発から使ってボロボロになってしまった１冊目のパスポート。「君の役目はロンドンまでだ。」  申請に必要な物は写真や戸籍抄本など。パスポート写真は例のハンガリーで撮った写真を使う事に。半年以内に発行された戸籍抄本が必要と言う事だったが、これはあらかじめ両親に言って、ロンドンに送ってもらっていた。申請の手続きをすると、パスポートは７日後くらいには新しくできるとの事だった。
イギリス 新しく作ったパスポートの一部分。旧タイプと違って写真は完全に紙の中に埋め込まれてしまっている。シールにはまったく凹凸もない。これならマケドニアの時のような入国トラブルはまず起きる事もないだろう。  領事館で手続きを済ませ、今度は自転車屋さん探し。ローマで出会った英国人エイモスが、グッドな自転車屋がロンドンにあると教えてくれていたので、その住所を探し歩いた。確か「コンドルサイクリング」とか言った自転車屋さんだった。ここでワイヤー類や、シフトレバー、更にはインフレーター（空気ポンプ）も新しく買うことにした。アフリカに向けて大掛かりな飛脚号整備を行うつもりだ。しかし、買出しも整備もキャンプ用品選びも、大都会ロンドンではなかなか上手い事進まない。あっという間に１日は終わり、ノルウェーの少年たちと約束した時間がきてしまい、夜は彼らと話をする事になった。 「どうして世界一周に出たのか。今までで一番きれいな国はどこですか？今までどこの国を走って来たのですか。」 子供らしい質問が多かった。感心したのは、彼らのその積極的な対応だった。日本の同世代の子供たちも同じように外国人に接する事ができるのだろうかと思うと、彼らが偉大に見えてしまう。兄がリレハンメルオリンピックに出場したんだと言うと、彼らはびっくりしていた。私は、ノルウェーを走った感想を言った。自然の美しかったこと、緑がきれいだった事、多くの水力発電があって海外に発電したエネルギーを輸出していた事。すごい国だったと伝えると、彼らも誇らしげに微笑んだ。それにしてもしっかりとした少年たちには感心させられる。最後には住所交換をして、 「また長野に来る機会があれば、是非遊びに来てね。」 と伝えた。ユースホステルならではの出会いだった。
イギリス 明るく元気なノルウェーの少年たちと交流した。  翌日、コンドルサイクリングに出向き、ブレーキにボトムブラケット、チェーンレバー等を購入する。この店でなかった部品があり、店員に尋ねると、 「もう一軒近くに自転車屋があるから、そっちも行ってみたらどうだろう。」 と勧めてくれた。その店の名は「ＢＩＫＥＦＩＸ」（バイクフィックス）。店長はスチューエット。ツーリング好きで、感じはとても良かった。私が飛脚号のトラブルを告げると、相談にのってくれた。 今まで使っていた６５０Ｂのホイールは６５０Ａというサイズに思い切って変えることに決めた。海外でも国によってタイヤの入手事情は異なるが、やはり６５０Ａの方が良いと考えた。ドイツ製の持ちのいいコンチネンタルのタイヤも使える事になる。本当はマウンテンバイクが良かったが、それだとキャリアの台座も溶接しなおさなければならない。いくらなんでもそれは無謀と言うもの。とにかく６５０Ａのサイズに飛脚号を変える事にした。という事でリムもハブも全部新しいのに交換。ホイールをそっくり注文する事になるから、とても高くつく。しかしこれから中東やアフリカに向かうのだから、ここでせこくケチってもしょうがない。後で痛い目に遭うかもしれない。この際だと、多額の出費は覚悟していた。
イギリス ヘンテコリンなハンドルが出来上がった。「なんじゃこりゃ？」の世界だ。これでアフリカを走った・・・。 
イギリス 破損しかけていたキャリアの台座を修理してもらったが・・・これはセネガルまでしか保たなかった。 
イギリス 中心部のキャリアには本当は長い棒があったが折れてしまった。これはドミニカ共和国の山越えで折れてしまったもの。走行に支障はないが。  バイクフィックスの店長、スチューエットとトニーもツーリング好きで、世界旅行をしている私にお勧めのマップショップがあると教えてくれた。早速その店に足を運ぶと、あるはあるは世界の地図がずらりと並んでいる。ガイドブックも最新のアフリカ版などが揃っている。私は感激して、アフリカ周辺の地図の置かれている所を見た。するとほとんどの西アフリカの地図が揃っている。こうした地図さえあれば、アフリカ走行のルートも苦労なくチョイスできそう。何かまるで世界を手中にしてしまったような、そんなリッチな気分にもなれた。暇があればこの店に出掛け、必要な地図を買ったり見たりした。最高の店を紹介してもらえ、本当に良かった。 バイクフィックスのスチューエットやトニーとは気が合い、その後も仲良しになってしまい、一緒に皆で１泊ツーリングに行ったり、また彼らは自宅に夕食にも誘ってくれた。
イギリス バイクフィックスのスチューエット（左）とトニー（右）。 
イギリス タンデムに乗っていたスチューエット。  長くロンドンに滞在すると、こうした出会いが生まれるので本当に楽しかった。トニーは、 「アフリカにいつ行くんだ？なんだ中東に行って、またロンドンに戻ってくるのか？そうか、困ったらいつでも連絡しな、部品でも何でも送ってやるから。」 そうも言ってくれるのだった。 アフリカ行きの準備に関しては、まだまだやる事はたくさんあった。キャンプ用品の調達もその一つだ。マットレスには穴が開いていたので、これをパッチでふさぐ。パリのキャンプ場でローソクを倒して穴が開いてしまっていたので、これも修理。さらに、テントは雨漏りがするので、シームシーラーで縫い目の防水加工を施したりもした。ガソリンストーブも不調なので、噴射部のニードルを注文し、テントのポールもアフリカで折れることを想定して予備を購入した。とにかくアフリカではどんなトラブルが起きても対処できるようにと準備を進めた。 ユースでは毎日色々な人と出会えた。アフリカに行ってきた、そんなハングリーな旅をしている人は少ないが、一人の野宿のときとは違って毎日誰かとコミュニケーションがとれて、とても楽しかった。中でも嬉しかったのは、ユースの受付の子がとても愛想が良く、可愛かった事。彼女の名はシンディー・イセリー。オランダ人女性で、「英国人よりも上手に英語を話した・・・」と言うのはよく聞く冗談だが、彼女と毎日顔を合わせていると、私もなぜか嬉しくて、ときめいてしまうのである。１９歳とは思えないほど、しっかり者だった。 滞在中、アメリカ出身の５４歳のサイクリスト、マイケルと出会った。とても元気の良いおじさんで、欧州１周に挑んでいると言った。そんなマイケルと、ハンガリーの国立銀行に勤めていると言うチャパ・パパティさんらと私の４人で、話したり夕食を共にする日が何日かあった。日本酒とパンと納豆と言う、妙なつまみを食べながら、夜の１２時頃まで彼らと語り合ったりした。
イギリス マイケル（左）、酒とパスポートを持っているのがハンガリー出身のチャパ・パパティさん。ユースで１杯飲んで、すっかりくつろぎ気分の私。  ロンドンに滞在している間に、中東のルートの方も固まっていった。一時はトルコ方面に行って、そこから中東を走り、ロンドンに戻ってくると言う予定だった。が、起点をトルコからもうちょっと北にして、エストニアに飛び、そこから旧ソ連のラトビア、リトアニアを経由して南下し、中東に向かう事に決めた。バルト３国から南下して終着地はエジプトのカイロ。かなり奇抜なルート選択だが、先が良く見えないというのが、また面白そうでもある。とにかくイギリスとアイルランドを走ったら、旧ソ連のバルト３国と中東を目指して走るという事で、考えはまとまった。 私はチケットを買った。ロンドンからフィンランドを経由してエストニアに飛び、エジプトからまたロンドンに戻るという、何ともなチケットだ。こんな非効率な走り方をしなくても・・・と言われそう。でも、このときは円高だった。ロンドンからタリンは３１７ポンド。カイロからロンドンは１９７ポンド。当時は１ドルが８０円の最高値を付けており、出発当時は１ドルは１３０円だったから、単純にドルから換算すると出発時の約３分の２という価格。この時期なら多少高いチケットも安目と感じていた。 自転車やキャンプ用品も準備をしたが、アフリカ行きの準備と言えばもうひとつ。予防接種を受けなければならなかった。ロンドン市内の英国航空のビルに、トラベルクリニックと言うのがあり、ここで予防接種をしてもらう事にした。信じられないくらい高い価格だが、その値段の高さと英国航空付属と言ったネームバリューが逆に安心感を与えてくれた。破傷風に狂犬病、急性肝炎に腸チフス。医務の人は、丁寧に、 「あの国は行くのですか？あそこは？」 と次々に訪れる予定のある国を聞いてくれる。アフリカの深部も走ると言うと、医務の人は、端からお勧めの予防接種を教えてくれた。全部１回に予防接種は打つ事はできないので、今回のロンドン滞在時に１回、イギリスとアイルランドを走り終え、ロンドンに戻ってきたときに１回、更に中東走行を走り終えてロンドンに戻ってきたときにまた１回・・・と言った具合に接種を受けると、だいたい一通りの希望する予防接種が打てる事になる事が分かった。 自転車飛脚号の準備も終え、今後のルートも決まり、アフリカ縦断の準備もなから終え、気分的にもリフレッシュ、完璧に準備が整った。 マイケルは私よりも先に出発することになった。 「オクスフォードのユースに向かって走って行くよ。」 「私もあっちに向かうんですよ。また会えそうですね。」 そんな会話を交わして、彼を見送る事になった。 「気を付けて！」
イギリス ヘルメットをして安全走行のマイケル。 
イギリス 「またオクスフォードで会いましょう。」出発するマイケル。  準備を終えた私も、いよいよロンドンを後に出発して、イギリスとアイルランドサイクリングを開始する事にした。向かうは遥か北のスコットランドだ。 メラニーさんやシンディーにさようならを告げて、北上を開始したのは６月１７日。ロンドンのハイゲイトユースホステルに到着して、なんと３週間が過ぎようとしていた。
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