第１９２話　６０カ国目　フランス

「ポルトガル人の温かな心・・・。」

それはまるでデザインされたような美しい牧草地だった。

アラスカ出発　１９９２／４／１～フランス　１９９５／１１
フランス出国までの走行距離　約７５３２６ｋｍ

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欧州・中東走行　１９９４／６／２９～１９９６／２／１
走行距離　約３４１３１ｋｍ

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フランス走行　１９９４／１０／１８～１９９４／１０／２０
及び　１９９５／４／２４～１９９５／５／２６
１９９５／１１／１６～１９９５／１１／２７
走行距離　約２１５４ｋｍ

　目を覚ましテントの外に出ると、目の前の小沼ではマガモや水鳥がバシャバシャとやり、空には気持ち良さそうにツバメが飛び交っていた。足元を見れば大きなカタツムリがゆっくりと移動している。先進国フランスの小さな片田舎の、賑やかな自然の営みを見るととても嬉しく思えた。
　田舎道を北上し、フランス第３の商業都市と言われるリヨンを通過して行く。滞在する予定はないので、早目に街を抜けて行く事にした。日曜日という事もあり、車の通りは少なそうだ。中世を思わせる古風な建物と優雅な川の流れが目にとまった。

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　フランス　リヨンの街で。ゆったりとした川の流れが気持ちよい。

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　フランス　川面から見るリヨンの町並み。

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　フランス　歴史的な建物と、どこか未来を思わせる近代的な建物が建っていた。

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　フランス　まるでお城のようなリヨンの街の建造物。

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　フランス　あの建物の中に人は住んでいるのだろうか。

　リヨン市内を通過してそのまま北上。目指すは花の都パリ。ルートは出来るだけ田舎の、交通量の少なそうな道を選ぶ事にした。
「今日もどこかで野宿をしなければなあ。」
宿の心配をしながら走っていたこの日は日曜日。ガソリンスタンドも食料品店なども、営業してる所はなかなか見つからない。これでは買出しもままならない。日本のようにその辺にセブンイレブンでもあれば楽なのだが、そんな店はまず見当たらない。いくら日曜日と言っても、どこか１軒くらいは開いているだろうと思いながら走ったが、営業している商店はついに見つける事はできなかった。
　リヨンからどのくらい走っただろうか。チェシーという名の街にやって来た。今までの町と違って、どこか歴史の古い建物があり、ペダルを踏むのをやめて、ちょっと休んで歩いてみたくなるような、そんな感じの町。
「よし、この町のどこかで食料と水を調達しよう。」
そう思って、街中の食料品店をウロウロと探すが、それらしい所はやっぱり１軒も見当たらない。

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　フランス　チェシーの町で食料品店を探したがみつからなかった。

　町の真ん中に小さな水汲み場のような所を見つけた。どうやら清水が流れているらしく、飲料としてもまったく問題なさそう。
「これはちょうどいいや。」
私は５リットルの水タンクに水を汲み始めた。
「よし。これで今夜の自炊用の水はオッケー。」
水がタンクいっぱいに溜まったので、飛脚号に取り付けようとすると、老夫婦が声を掛けてきた。フランス語のような、そうでないような。何か言ってくれているが、どうもよく分からない。そのうちに、
「モロッケ？モロッコ？」
とか何とか聞いてくるではないか。どうやら彼らは、私がモロッコ出身の男だと思っているらしい。顔が日焼けして黒いので、ベトナム人とか、インドネシア人、フィリピン人と言われた事はあるが、モロッコ出身？と言うのはさすがに初めて。
「ジュスイジャポネ」（私は日本人です。）
と慣れない発音のフランス語で言うと、
「あー。」
と、彼らは納得した様子。フランス人とは少し感じが違っている。老夫婦はジェスチャー交じりで、
「良かったら、カフェでもどうだ？」
そう誘ってくれた。どうやら、
「家に来ないか？」
と言ってくれている。私は遠慮もせずに、
「ウィウィ。」（はいはい）
と、彼らのお宅にお邪魔して行く事にした。

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　フランス　見知らぬ地元の人に誘われたのだが・・・。

　こんな田舎の町だから、私のような自転車野郎も珍しいのかもしれない。
「・・・でもフランス人とはどこか感じが違うなあ。」
そう思いながら家に入ると、彼らは聞き覚えのある言葉を話し始めた。
「これはポルトガル語・・・この人たちはポルトガル人なのか・・・。」
家の中に入ってしばらく皆さんと会話をしていると、近所から他のポルトガル出身の人々が集まってきた。ベルリンで出会った上野山さんにもらった「ワイン玉ねぎポルトガル」の本を思い出す。あの本には、ポルトガル人の多くが、仕事のある欧州各国へ出稼ぎに出ていると言う内容の事が書かれていた。ブラジル人も日本では多く見るが、出稼ぎをすることは、ポルトガル語圏では日常的に行われているのかもしれない。
　老夫婦に誘われ、陽気で明るい近所の人々と一緒に、ワインやパンをご馳走になった。私は、さっき飛び入りで家にやって来たばかりなのに、何とおおらかに迎え入れてくれるのだろう。彼らにとって、私は、今さっき出会ったばかりの、本当に見ず知らずの他人のはずなのに。
　結局ここで、夕食を頂く事になってしまった。豚肉にパンにハム、コーヒー２杯に、ワインも２杯。遠慮気味に食べていると、
「なんだ？それしか食べないのか。もっと食いなさい。」
ポルトガルの温かな人々の志を遠慮なく受けとった。温かな志と言えば思い出すのはブラジルでの出会い・・・。
「ウエタさんや、マリンガの皆さんは元気だろうか。」
知らない人を家庭的に温かく持て成してくれる・・・これもポルトガル語圏では日常的な振る舞いなのかもしれない。
　フランス国内で、フランス人と触れ合う機会はそれほど多くは無かったように思う。そんなフランスの田舎で出会ったポルトガル人の印象は、とても強く心に残った。

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　フランス　陽気なポルトガルの皆さんに誘われた。

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　フランス　お爺ちゃんもお婆ちゃんも、皆さん、とてもアクティブ。

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　フランス　おじさんのお髭がなんと見事なこと！

　わずか２時間ほどの触れ合いだったが、ポルトガル人の温かな心に触れられた気がした。それは懐かしい家庭の味でもあった。写真を撮り、住所交換をし、
「また写真を送ります。」
そう告げた。すると彼らは、
「またいつでも来なさい。」
ポルトガルがどんな国なのか、今からとても楽しみになる。彼らに礼を行って再び走り出す。
　楽しい道草を食ってしまったので、この日は夜の８時まで走って、田舎の橋の下にテントを張った。

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　フランス　この日は橋の下で野宿。

　翌日５月１日。野宿地を出発すると、朝から何台も自転車に乗った人々とすれ違った。７０歳を過ぎた爺さんが、ピシっとしたレーサージャージを身に付けて走る様は実に気持ちがいい。
「私も年をとっても、ああでなければいけないなあ。」
筋肉隆々の年配サイクリストに、思わず憧れてしまった。
　田舎の森の中の道を軽快に走った。快晴の空の下、暑くもなければ寒くもない、一番気持ちの良い季節。新緑の緑も目に眩しく、まるで天国。小鳥の鳴き声も聞こえ、ルンルンと口ずさみながらのサイクリング。ラクラジェッテ付近からは牧草地が見え始め、のんきに草を食む牛たちの姿が目に入った。

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　フランス　４月のフランス。暖かくなってきたので、とても走り易い。