第１９０話 ６０カ国目 フランス 「突然のトラブル・・・。」  コルデラカヨーレの峠で野宿。 やはり私は高い所が好きらしい。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜フランス １９９５／１１ フランス出国までの走行距離 約７５３２６ｋｍ 
欧州・中東走行 １９９４／６／２９〜１９９６／２／１ 走行距離 約３４１３１ｋｍ 
フランス走行 １９９４／１０／１８〜１９９４／１０／２０ 及び １９９５／４／２４〜１９９５／５／２６ １９９５／１１／１６〜１９９５／１１／２７ 走行距離 約２１５４ｋｍ  |
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翌朝、目が覚めたのは午前６時。テントのジッパーを開けると外は吹雪いており、期待した天気の方はどうやら大ハズレ・・・。 「やはりなあ。これも日頃の行いと言うやつだろう。悪い行いをした覚えはないけど・・・。」 コッフェルに雪を入れて溶かし、紅茶を沸かした。どこか晴れそうな感じがしない事もなく、外の天気が気になるので、朝食を食べながら時々ジッパーを開けては様子を伺っていた。 コッフェルに入れた雪が溶けて沸騰しだした頃、外の天気に変化が見え始めた。今まであった雲は瞬く間に消え去り、真っ白な雪と雲、それに青い空が広がり始めた。頬に当たる風は冷たいが、その景色に息を呑んだ。 「うわー・・・」 私はガソリンストーブの火もつけっ放しにして、カメラ片手に神秘の世界をパチパチと撮った。
フランス 今日の天気はどうやら快晴のようだ。 
フランス 早朝の美しい銀世界。こんな風景を眺めながら熱い紅茶を飲みたかった。 
フランス 雄大な眺めを目の前に。 
フランス 周囲に見る山々。 
フランス テントを張った周辺で。 
フランス 遠くに雲海が見えた。
フランス ここで１泊。雪上野宿も装備さえきちんとしていれば全く問題はない。 
フランス 気持ちの良い朝を迎えた。  朝食を済ませ、出発の準備。この時期の峠山頂の野宿は寒い。しかし、こうした神秘的な風景に出会えるからやめられない。 峠を下り始めても、天気はほとんど変わらず快晴。 「春のプロバンスは最高だ。」 などと思いながらダウンヒルを楽しんだ。周辺はフランスでも国立公園に指定されているだけあって、眺めもたまらなく美しい。このまま豪快に麓まで下ってしまうのはもったいない気持ちになってしまう。
フランス 道路上の雪は除雪してくれてあった。 
フランス 周囲の山々の風景を楽しみながら下って行く。 
フランス 走行途中で記念写真。 
フランス 雲が手に届くようだ。 
フランス 途中の風景。 
フランス 下り途中で。 
フランス 気持ちよく駆けて行く。  気分良くアルプスのダウンヒルを下っていたのは良かった。ところが、全く予期せぬトラブルが愛車飛脚号に起きた。長い下りを走っており、途中に平地があったのでここでペダルを踏み込んだ。ところが、 「・・・あれ？」 ペダルを踏んでも進まない。空回りしている様子。 「あれ、チェーンでも外れたかな？」 駆動部を見てみるが、チェーンも外れていないし、特に問題はなさそう。もう一度ペダルを踏んでみるが、やはり踏み込んだ力が後輪に伝わっておらず、どこかで空回りしている。まるでペダルを逆に回転させたときの空回りとそっくりだ。私は慌てて自転車を止め、どうなっているのかチェックして見た。しかしいくら見ても原因は分からない。手持ちの工具だけでは分解もままならない。 「こんなトラブルなんてありなのか・・・。」 困ってしまった。しかし、考えてもみれば、アラスカ、いや日本を出発してから約６万４千ｋｍ、３年間以上もの間、この後輪のハブは一度も交換していない。問題が起きて当然かも知れない。パリかそれかフランス国内で、徹底的な飛脚号のオーバーホールが必要だろう。 それにしても、峠の下り途中でペダルを踏んでも進まない自転車に変わってしまったのは困りもの。でもこれがモーリタニアの砂漠でなく、先進国フランスの、それもアルプスのダウンヒルの途中だったのは、不幸中の幸いだったと、胸を撫で下ろした。 私はペダルを踏んでも進まない飛脚号にまたがって、坂道はそのまま下った。所々に平地があって進めないので、横乗りをして地面を足で蹴って進んだりもした。途中で出会った人々は、 「なんで横のりをしているのか？」 と言った感じで、変な目で眺めている。・・・でもしょうがない。 「あ、そっか。」 と、突然思いついた。何も歩いたり横のりしたりしなくても、空回りしているハブとホイールのリム部分を、針金か紐か何かで固定してしまえばいいのだ。坂道は上れなくても平地なら何とか進めるだろう。取り急ぎの応急処置を施す。
フランス アルプスを下っていると、突然空回りトラブル・・・。かつて無いトラブルにどう対処していいのか悩んでしまう。 
フランス 針金でフリーギアとリムを一時的に固定した。強くは踏み込めないが、とりあえずは何とか進める・・・。  これなら強くはペダルを踏めないにしても、一応進んでくれる。固定してしまって空回りは効かないが、進まないよりは良いだろう。ペダルの踏む力がそのままリムに伝わると言うのは考え物だが。
フランス 自転車トラブルに遭いながらも、小さな村をのんびりと眺めながら、アルプスを下って行く。 
フランス 緑溢れる土地。もうすっかり南仏には春がやってきている。  このときは運が良かった。峠を降りた所に、バルスロネットという街があった。割りと大きな街で、ここならまず大丈夫だろうと思った。 街に着いたのは昼過ぎ。大半の店は昼食中なのか閉店している。歩いている人々に自転車屋さんがどこなのか聞き、１軒の店を見つけた。店内は暗いが、見れば品揃えは良さそうなので、修理も多分大丈夫そう。
フランス 「よし、ここの店ならきっと大丈夫だろう。」リベリアと言う名の自転車屋で。  フランスの昼休みはこんなにも長いのかと呆れるくらい、外で待たされてしまった。ようやく店が開いたのは午後の３時。こんな時間まで昼飯を食べていたのかと、変わった習慣がとても愉快に思える。 ギアのトラブルを主人に告げる。 「ここの中が、きっと壊れていると思うんです。」 私は英語とジェスチャーで伝えた。すると、主人は、 「ギアごと新しいのに変えなくても、この中だけ替えれば大丈夫。この部品ならうちにもあるからね。」 と言ってくれた。もう１時間したらまた来てくれと言うので、一安心。こんな田舎の街で修理してもらえるのだから、やはりフランスは凄い。 修理が終るまでは時間もあったので、しばらくバルスロネットの街を歩くことにする。ポジフィルムなども買ったりした。
フランス 飛脚号の修理が終るまで、しばらくバルスロネットの町を歩いた。  １時間後主人の所に行くと、飛脚号は以前のように戻っていた。酷使したフリー内部のパーツはかなりいかれていた様子。そのまま主人に渡してしまったが、今思えばなぜあの部品をもらって保存しておかなかったのか、ちょっと後悔している。６万ｋｍも旅を共にし、活躍してくれた貴重な部品だったのにと。 パーツも含め、修理値段は１４０フラン。約２８００円ほどだ。私はてっきり５、６０００円はすると思っていたが、助かった。主人にお礼を告げて出発。今回のトラブルがフランスで起きた事は本当に不幸中の幸いだった。これが峠の上りの途中、或いは西サハラの砂漠のど真ん中だったら、或いは何日も人の姿を見ぬようなかつての南米アンデス山脈だったら・・・恐ろしい。これから走るアフリカ大陸に向けては万全の準備で望まねばなるまい。 この日はバルスロネットから２０ｋｍほど西に走り、サンバンサンの近くの山の中でテントを張って野宿した。
フランス 「今日も静かな森の中に野宿だ・・・。」 
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