第１８７話 ５９カ国目 イタリア 「またスイスの自転車野郎と・・・。」  ジェノバ近くの海岸線はアップダウンがすごかった。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜イタリア １９９５／４ イタリア出国までの走行距離 約６３７３７ｋｍ 
欧州・中東走行 １９９４／６／２９〜１９９６／２／１ 走行距離 約３４１３１ｋｍ 
イタリア走行 １９９４／１１／２２〜１９９４／１１／２８ １９９５／３／１２〜１９９５／３／２０ １９９５／３／２５〜１９９５／４／３ １９９５／４／１１〜１９９５／４／２４ 走行距離 約２７７７ｋｍ  |
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ローマ、バチカン市国を跡にした私は、この日タルキニアと言う町近くまで一気に北上。平坦な地だったので、距離も伸びる。夕刻まで走り、空き地にテントを張って一夜を過ごした。
イタリア タルキニア近くの空き地にテントを張った。  翌日も１００ｋｍ目指して走り始める。昨日もそうだったが、うまい具合に南東からの風が吹いてくれ、これに乗って走った。海岸沿いのハイウェイは平坦なのでグイグイと距離は伸びる。しかし景色的には今一つ。 山羊の放牧風景を眺めながら夕刻まで走り、この日も空き地にテントを張った。４月に入ってからはだいぶ暖かくなってきた。季節はもう春だ。
イタリア ローマから北上する途中で見た放牧の様子。 
イタリア 寒い東欧を走っていた冬がまるで嘘のよう。いよいよサイクリングシーズンの春がやって来た。  毎日確実に日が長くなっているので、長い時間走れる。しかしローマを出発してからは毎日走りに徹しているので、少々疲れ気味。海岸線をずっと走ったが、期待したほどの風景は現れなかった。 この日もうまいことに追い風。気持ちの良い天気の下を走り、草むらで休憩した。サンドイッチを食べていると、 「スルスルスル」 と、蛇がすぐ横を通る。 「うわっ」 気軽にどこでも野宿するのは考えもの。
イタリア ローマから北上し、目指すハフランス。蛇に驚きながらもとにかく北上。  イタリア南部ではそれほど見なかった近代的なスーパーも、高級そうな車も、イタリア北部では多く見かけ、明らかに豊かに見える。「北と南」はやはり違いがあるのか。 リボルノの町を通過して、やって来たのはピサの街。この街には有名なピサの斜塔が建っている。１年間に少しづつ傾いているというこの斜塔には、１９９０年以降、ツーリストは登れなくなってしまった。残念。しょうがないので、たくさんの観光客に混じって記念撮影を撮った。
イタリア ここが有名なピサの斜塔ある町か。 
イタリア 年間に何ｃｍか少しずつ傾いているのだそうだ。 
イタリア 自転車野郎とピサの斜塔。記念撮影。 
イタリア ピサで。 
イタリア それにしてもイタリアの建造物はなんと美しいのだろうか。 
イタリア 夕暮れの斜塔。 
イタリア ピサの街で食料の買出しを行う。  この日はスーパーで買出しをして、海岸の近くにテントを張った。
イタリア 野宿の好きな私。そのうち蛇に噛まれるのではないだろうか。  イタリア北部を毎日走っていてもペダルをひたすら踏んでいるだけで、触れ合いは少なかった。先進国ならこんなものなのだろう。 ルーマニアやブルガリアでは、走っているそのままの格好でレストランに入る事に抵抗はなかった。しかしどうもイタリアや先進諸国は物価も高く、入りにくい。雰囲気もどこか固いので、あの気楽な気持ちで走れた東欧が懐かしく思えてならない。 途中で銀行に寄って少し会話を交わしたくらいで、あとはサドルに乗って再び延々とペダルを踏んでいく。 ラスペチアと言う町に着く。ここから北はどうやら山間部が続いている様子。ゆっくりと坂を上り始めようとすると、前方からカップルらしきサイクリスト出現。 「おお！ハロー。」 喜んで道沿いに自転車を止め、彼らと話し込んだ。アメリカ出身の二人はロンドンを出発してすでに１１ヶ月。ヨーロッパ一周の予定でこの先のローマがゴールだそうだ。お互いに長旅と言う事もあってか、我々は、 「どこがきれいだった、あそこは雨が多かった、物価は安かった・・・。」 などと意気投合して盛り上がった。 「チュニジアでは、子供たちが石を投げてきたんだ。」 「え、君も？俺たちもモロッコでやられたよ。何なのかなあ、あれは。」 すっかり盛り上がり、ローマまで頑張ってと言いさようならを告げた。黙々とペダルしているときに、ふっと彼らのような同士に出会うととても元気が出る。同じ仲間に出会えたと言う嬉しさと、馬鹿をやって走っているのは私だけではない、と言う安心感があった。 ラスペチアから北の山間部はゆっくり上ったが、今まで平地で張り切りすぎたのか、どうも体がだるくて力が入らない。しかし周囲に見る木々や、緑、それに山の匂いがどこか日本を思い出させた。懐かしい思いで山中にテントを張って、この日夜を過ごした。
イタリア 今日は森の中で野宿。  翌日ジェノバを目指した。ローマ近くで走った道のように平坦な道はなく、まるで日本の西伊豆海岸のようだ。下っては上り、下っては上る繰り返しだった。
イタリア ローマ近辺の走行が信じられない。急勾配の続く山間部を駆け抜けて行く。 
イタリア 海岸沿いで見た美しい家々。 
イタリア 丘の上に建つ家々。 
イタリア 途中にはまるでお城のような建物も。 
イタリア アップダウンのきつい海岸線から美しい街を見下ろした。
イタリア イタリア北部の海岸線。  途中でイチゴなどを食べながら、見晴らしの良い所で休憩していると、リッチそうな婆さんが声を掛けてきた。 「どこから来たの？お金はどうしているの？」 などと質問を受ける。もしかして私を誘ってでもくれるのかなと嬉しく思ったが、変に納得した顔を浮かべると、 「頑張ってね。」 と言うような言葉を残し、去って行ってしまった。 ローマからずっと張り切って走っていたせいか、すっかりバテており、ジェノバでは２泊することに。１週間に１日くらいはこうした休息日があっても良いかもしれない。ジェノバの安宿を探して投宿。１泊１８ドル。少々高いが、 「こんなものだろう。」 と、妥協してここに２泊することにした。
イタリア ジェノバの街で。 
イタリア 安宿を探すと、１泊１８ドル。「こんなものだろう。」  翌日はジェノバで休息。朝日新聞に、経済新聞、ジェノバで買った日本語の新聞を楽しく読んだ。活字や情報に飢えるというのはこう言う状態のことを言うのかもしれない。あればほどほどでいいのだが、日本語も文字も身近にないとなると、とことん欲しくなる。不思議な現象だ。 日中はジェノバのマーケットなどに行き、この日はすっかりゆっくりとくつろいでしまった。
イタリア ジェノバの街で。  翌日４月２３日。宿の主人に、 「グラッツェ（ありがとう）。」 を言って出発した。この日もまた、雨にアップダウンと最悪。昼飯はパンにバナナ、オレンジなどのフルーツで済ませた。 午後の何時だったかは分からないが、一人のサイクリストが後方からやってきた。私のように荷物を付け、ヘンテコリンな格好をして走っている。 「いったいどこの国のどいつだ？」 私は同士に会えて、また嬉しくなってしまった。 彼の出身はスイス。名はウォーナー。３２歳。欧州一周を目指しているのだそうだ。彼の旅のスタイルは、テントで野宿、そして食事は自炊がメインだと言い、私と同じようなスタイルだった。 「良かったら、一緒に少し走ろう。」 と言う事になった。 スイスを出発してすでに３ヶ月。今回の自転車旅行のために、郵便局で働き、更にタクシードライバーもしたそうだ。もちろん、こんな風に働くのはスイスでは違法らしい。１日に１５時間働いて資金を蓄えたといい、資金調達の苦労もどこか共感するものがあった。彼の話を聞いていると面白かった。野宿地探しの苦労や、自炊ではストーブが調子悪くて、手はいつも真黒になるなど、彼の旅のスタイルはまるで鏡に写された私自身の姿を見るようだった。 この日は海辺のどこかにテントを張ろうと言う事になり、砂浜にテントを張った。二人で自炊の準備に取り掛かる。彼は一回で３５０ｇのパスタを食べると言う。私も大食いなら負けはしない。ふたりで大皿にパスタ３杯食って、大笑いしながら夕食を済ませた。 夕食は誰かと一緒と言うのが楽しい。大自然の中に身を投じ、静かにパスタを食べるのも決して悪くはないが、やはり話し相手がいるというのは楽しいものだった。
イタリア スイス人サイクリストウォーナーと海岸線にテントを張って過ごした。  翌朝、雨降る中、８時にテントをたたんで出発。イタリアから目指すはフランス、そしてモナコ。長かったイタリア走行にもようやく終止符が打てる。 雨の中を二人で黙々と走っていると、ウォーナーの後輪タイヤがパンク。近くにあった小さな店の軒先を借り、ここで修理を行う。 その後も再びアップダウンの多い海岸線をもくもく走る。カッパを着込んで走っていたので当然蒸れていた。 ジェノバからの海岸線は起伏が激しく、ビーチがあっては海岸線を上り、またビーチに下ると山道を走らされるという繰り返し。一人なら気が重いが、このときはウォーナーも一緒だったので、結構強気でペダルを踏んでいたような気がする。 イタリア出国も間近だったので、フランスに入る前に余っているイタリア通貨であるリラを使い切ろうと、途中の店でパスタなどの材料を買い込んだ。二人だと盗難などの心配もせずに安心して買い物ができる。 しばらく走って昼食タイム。雨の凌げる所で自炊した。
イタリア ウォーナーと浜辺で昼食。彼は折りたたみの椅子を持ち歩いていた。  午後の３時頃だった。ようやく前方にフランス国境らしき検問が見え始めた。 「来たか。イタリア走行も長かったな。」 目の前には大国フランスがある。自転車が盛んな国だけに、この国を走るのは本当に楽しみ。
イタリア 小雨の中、フランスに入国。 
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