第１８１話 ５７カ国目 イタリア 「あれから３年・・・。」  シチリア島を北上。エトナ山を横目にパレルモ目指した。
アラスカ出発 １９９２／４／１〜イタリア １９９５／４ イタリア出国までの走行距離 約６３７３７ｋｍ 
欧州・中東走行 １９９４／６／２９〜１９９６／２／１ 走行距離 約３４１３１ｋｍ 
イタリア走行 １９９４／１１／２２〜１９９４／１１／２８ １９９５／３／１２〜１９９５／３／２０ １９９５／３／２５〜１９９５／４／３ １９９５／４／１１〜１９９５／４／２４ 走行距離 約２７７７ｋｍ  |
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地中海の真珠、マルタ共和国を後にして、再びイタリアに舞い戻ったのは３月２５日。カターニアの宿の親父さんは、わざわざ部屋を空けて待っていてくれた。 イタリアのカターニアには午後に到着していたが、街でもう１泊してから、シチリア島の西部にあるパレルモの街向けて走り出す事にした。この日は明日の走行に備えて少々の食料の買出しする。
イタリア 再びカターニアの街に舞い戻ってきた。  翌日、ホテルのオヤジさんにありがとうを言って出発。シチリア島北西部のパレルモの街からは、間違いなくチュニジア行きのフェリーが出ているはず。その街から初めてのアフリカ大陸、チュニジアを目指す事になる。 パレルモまでどう走ろうかと考えたが、エトナ火山のすぐ裾野を通り抜け、シチリア島北部の海岸線に出る事にした。 この日私が目指したのは、パテルノと言う町。簡単にこのカターニアの街を脱出できると思ったが、なかなか郊外への道が見つけ出せない。近くにいた警官に聞き、やっと街を脱出。
イタリア パテルノの街を目指して走り始める。 
イタリア 大きなロータリー。信号はないようだ。  この日は日曜日。それも快晴とあって、郊外の道ではサイクリングを楽しむ人にロードレースの練習をする人。また、モーターバイクを唸らせながら走る若者に、乗用車に乗った家族連れなど、休日を楽しむイタリア人の姿が見受けられた。 出発してから何時間かが経ち、ふっと手元の時計の日付を見た。すると３月２６日。日本の家を出てちょうど３年目だ。 「あれから３年も経ってしまったのか・・・。」 家を出てから３年。あっという間の３年間。もう３年と言う月日が流れてしまったのだ。 「もう３年も経ってしまった。まだ半分の国しか訪れていないのに。」 どこか複雑な気持ちでもある。 きれいなエトナ火山の写真を撮りながら、アデラーノの街にやって来た。ここでイタリアンカフェを飲んでいこうと、適当な店を選んで中に入った。すると暇を持て余していた地元の人々に見事に捕まって、 「どこから来た？どこへ行くんだ。」 そんな質問を受け、終いにはコーヒーまでご馳走になってしまった。こんな陽気なイタリアの人々に出会ったとき、 「ああ、イタリアっていいなあ。」 と心底思う。やかましいクラクションや、マナーの悪い運転に激怒しても、彼らの笑顔を見ると全て帳消しにしてしまいたくなる。この明るさこそがイタリア人の魅力なのだ。
イタリア カフェに出向くとオヤジさんは笑顔で出迎えてくれた。  カターニアでギアなどの部品交換ができなかったのだが、そのために飛脚号は大ピンチに陥ってしまった。ペダル近くにあるクランクギアと呼ばれる部分にギアは３枚あるのだが、このうち一番大きいギアを除いた残りの２枚がほとんど使用不可能になってしまった。平地では重いギアもまだ使えるのだが、これが坂道となると、 「ガガガガッガッガ・・・」 と空回りをしてしまう。しょうがないので、クランクギアの内側２枚部分は使わずに走った。まるで切り替えのない自転車のようになってしまっていた。
イタリア チェーンを「ガガガ」と言わせながら山を駆け上っていく。  あまりにも急勾配があると、そこは自転車には乗れなかった。外側のギアに入れれば重すぎてとてもじゃないが漕げたものではない。しょうがなく押して歩く。 「予備の部品は持ち歩いているに越した事はないな・・・。」 エトナ火山東側には海岸線に沿って多くの家並みがあった。しかし内陸に入り、山の西側にやってくると住宅地は減り、代わりに雄大な谷間が広がり、美しい風景を見せてくれていた。
イタリア エトナ火山の裾野で。北上中に雄大な眺めに出合った。 夏はおそらく内陸は暑いので人々も多くはこちらに住まないのかもしれない。この時期はまだ春先。私のすぐ目の前にはサボテンが生え、エトナ火山には残雪があった。周囲が温暖気候のせいだろう。梅に花にサボテン、いい季節に素晴らしいコースにめぐり合えた。このシチリア島のエトナ西部半周の道はお勧め。
イタリア エトナ山。 
イタリア すぐ道路脇にはサボテンがある。その向こうには雪山。 
イタリア エトナ山をバックにして走行写真をパチリ。  ブロンテと言う町に着くと地元の若者たちに捕まった。皆とてもいい感じの、格好いいイタリア青年である。 「どこから来たの？」 そう聞いてくるので、私はいつものように今まで走って来た国を告げた。ついでにガイドブックを片手にイタリア語で、 「ここからチュニジアに行きたいんだけど、フェリーは？」 と聞くと、 「たぶんあるだろう。」 そう教えてくれた。英語を話す若者はここにはいなかったが、何となく彼らのイタリア語を理解する事ができた。
イタリア 陽気に接してくれたブロンテの町の青年たちと。  小さなブロンテの町でガソリンを買い、水をもらい、その後もエトナ火山の裾野を走り続けたが、西側から見るエトナ山の美しい事。まるで日本の春のようだ。少し走っては写真をパチパチと撮っていた。
イタリア これは梅の花？ 
イタリア シチリア島は気持ちの良い春だ。 
イタリア ピンクの花が美しい。 
イタリア 夕暮れになると気温はぐっと低くなっていった。 
イタリア エトナ山はあんなに遠くに行ってしまった。  標高１０００ｍ、サセロの村に着く手前でテントを張り野宿する事にした。この日もスパゲティで自炊をする。
イタリア 標高１０００ｍの所にテントを張って一夜を過ごした。  翌日３月２７日。目を覚まし、エトナ火山のある方角を見ると、山頂付近にだけポッカリと雲が被っていた。山頂以外の空に雲はなく快晴だ。真っ青な気持ちの良い青空が広がっている。野菜炒めにパンなどで朝食を済ませ、気持ちよく出発する。 「よし、今日も走るか。」 天気が良いので思わず気合いも入る。こんな南のシチリア島でも、標高１０００ｍで野宿するとテントには霜が降りた。 １０００ｍの野宿地から更に走って標高１５００ｍまで進んでいく。重いギアでペダルを踏んでいくが、何とか進んでくれる。 「パレルモまではもう少し。なんとか持ちこたえてくれ。」 自転車とギアは保っても、私のひざにはかなりの負担がかかっていた。
イタリア 軽いギアの使えない自転車・・・自転車よりも私の足にガタが来そうだ。  頂上近辺から見るエトナ火山の裾野は、まるで模型のようだった。気温は１５度。１５００ｍの所でスパゲティをさっと茹でて昼食とし、その後は海抜０ｍへ向け、３５ｋｍもの長いダウンヒルを下って行く。遥か前方にはティレニア海も見えている。これだけ長い下り坂が続くとさすがに気持ちがいい。付近に建っている家は、なぜか小高い山の頂に密集しており、それらがまるでお城のように見えた。
イタリア 何もあんな所に家をわざわざ建てなくてもいいのに・・・と思ってしまう。 
イタリア 峠を下る途中で一休み。 
イタリア 山の尾根に造られた町。ティレニア海を一望できる眺めのいい所だ。 
イタリア ティレニア海が見えた。  海岸まで一気に下ってしまうと、再び平坦な道が伸びており走りやすくなっていた。気温は２８度くらいにまで上がっている。季節もまるで夏のよう。 私はガムシャラにパレルモ目指し走っていた。坂道も無いので重いギアにしても平気で走れる。気合いも入ったせいか、距離はグングンと伸びた。 しばらくしてチェファルーという名の町に着いた。海岸からすぐの所に家が建っており、どこか美しい街並だったので少し見て歩き、写真も撮っていく。 この日はチェファルーの街を過ぎた所で見つけた林の中にテントを張った。
イタリア チェファルーの海岸線。 
イタリア 打ち寄せる波、昔風のイタリアの家が哀愁をそそる。チェファルーの海岸線で。 
イタリア チェファルーの街で。なぜか分からないが、イタリアの物干しの図が私は好きだった。 
イタリア チェファルーで。所狭しと建ち並ぶ古い家。 
イタリア この日はチェファルーの街を過ぎてからテントを張った。  翌日は天気が一転。西からの強風の向かい風に悩まされてしまった。２日間続いた快晴の空の下の気持ち良いツーリングも、この日は最悪。お昼前には雨まで降り出し、更に状況悪化。時々目の前にやってくる急勾配の海岸線を重いギアで走っていると、 「ガガガガッガッガ・・・」 と再び空回り。飛脚号のギアはもう限界。パレルモまではもう少し。何とか持ちこたえてもらいたいものだ。 道沿いで昼食を済ませ、その後も黙々と走り続けた。テルミニと言う町を過ぎると、ようやくパレルモに到着。 「やっと着いたか・・・。」 大きな街パレルモでの安宿探しは、ちょっと難儀。宿と言う宿に聞いてみるが、３０ドル、４０ドルと高いホテルばかり。 「そんなにするんですか？」 と、あっちこっち街中を探し回った。 「７万リラ・・・ダメだ。４万リラ・・・まだ高い。」 １５件ほど手当たり次第に安そうな宿を訪ね歩き、結局１泊３万リラ、１８ドルほどの宿に落ちつく事になった。少し高いが先進国ならばこんなものかも知れない。 「やれやれ。明日は街の自転車屋を探さねばならないなあ。」
イタリア この建物の中に安宿を見つけた。  翌日はホテルに滞在し、雑用を行った。自転車屋を探し、パーツを手に入れ、アフリカ最北の国チュニジアへの予定も立てた。 どうやって探そうかと考えていた自転車屋も、宿のすぐ近く、１ブロック向こうに偶然発見。何でも揃っていそうで、主の愛想も良かったので、早速ここで部品調達。片言の英語で主とやり取りした。分からない部品名は自転車を指差し、 「これが欲しい。」 と告げると、主はチェーン、ブレーキシュー、ワイヤーなど次々に部品を並べてくれていた。 前後輪のスポークの交換も行いたかったので、これも含めてのお買い上げ金額は１５０ドル。これでまた何千ｋｍかは前に進めるのだから、考えようによっては安いのかもしれない。 「午後の５時にはスポーク交換が仕上がるから、また来ておくれ。」 との事。それまでは街のインフォメーションセンターなどに出向いてチュニジア行きのフェリーの時間帯や値段を聞きに行った。フェリーの出航地はシチリア島西部のトラパニだと言う。ここからまた少し西に走らなければならない。 翌日３月３０日。この日は飛脚号の徹底整備。昨日買い込んだ消耗品などの部品交換を行った。丸１日かけ、宿の部屋にシートを敷いて、手を真黒にしてあっち変え、こっち変えしながらやっていると、あっという間に夜の９時。クランクもホイールもリムもすべてオッケー。ガキガキと音を立てながら走った飛脚号も、駆動部は新品同様。これでチュニジアも気分良く走れる。 ３月３１日。自転車屋さんにお礼を告げ、記念写真を撮ってトラパニへ向けて出発することにした。
イタリア このパレルモの自転車屋で消耗部品を購入。店主にスポークを組んでもらった。  気持ちよく快晴の空の下を走っていると、３０代後半くらいの男性が声を掛けてきてくれた。ジロデイタリアの練習をしているのだと言う。パワフルなペダリングをする彼とわずかな時間一緒に走った。イタリアもやはり自転車が盛んなのだろう。こうした地元の人と気軽に会話が出来ると言うのも自転車旅行の魅力の一つだ。 しばらくその男性と走って、また一人ペダルを踏んだ。次第に雲行きが怪しくなり、大粒の雨が降ってくる。さっきまでは調子よく走っていたのだが、このときは震える寒さ。参った。
イタリア 海岸線を眺めながらトラパニを目指した。 
イタリア シチリア島北部で見る風景。 
イタリア 途中の海岸沿いで見た街。 
イタリア 海岸沿いに密集した家々。  小さな村の商店でひき肉を４００ｇ買う。それにミネラルウォーターとパンも買って夕食に備える。トラパニにはもう１０ｋｍも走れば着いてしまうのだが、この日は街に入る手前で野宿をすることにした。
イタリア シチリア島北部の海岸線で。 
イタリア あれはトラパニの街だろう。 
イタリア トラパニに着く前に野宿を決行した。  翌日１９９５年４月１日。アラスカのアンカレッジを出発した日からちょうど３年が経った。３年で進んだ国は５７ヶ国。距離は６万２６８０ｋｍ。予定よりも遅れてしまったので少し焦る気もする。 チュニジアに向かうフェリーは４月３日の月曜日発。トラパニの街には土日曜日は自動的にストップすることになった。小さな港町でゆっくりとできるので、丁度良いかも知れない。トラパニでは１泊１５ドルの宿を見つけ、ここに投宿。
イタリア トラパニでは１泊１５ドルの宿に投宿。  寝場所が決まったので、私はすぐに街へ買出しに出掛けた。と言うのもイタリアでは日曜日はほとんどの店が閉店してしまうためだ。宗教上の理由なのかどうかは分からないが、信じられないくらいに店は営業していないのだ。チュニジアに行くのは月曜の朝９時だから、買出しするのは土曜日しかない。街の商店で野菜やパスタなどを買い込む。 港町トラパニはとても素朴な雰囲気が漂っていた。子供たちが駆け回る漁港には、魚の匂いがぷんぷんとしている。路上にあるマーケットでは新鮮な魚も売られ、トラパニの奥様方が「今日は何にしましょうかしら・・・」といった表情で食材選びをしているのだ。土日曜日は、この素朴な港町トラパニを歩いて見て回った。
イタリア トラパニの街を歩いて・・・。 
イタリア 道の角に建つ三角の家。 
イタリア トラパニの漁港で。  夕刻に港の路地を歩いていれば、爺さんが船の修理を行っていた。船の修理をする風景と言うのは、素朴さがあって美しく見える。爺さんの真剣な眼差し。その爺さんの作業を見守るかのように、周囲を男たちが囲っていた。シチリア島の田舎町も、いい雰囲気だった。
イタリア 漁港のすぐ近くでは爺さんが船体の修理を行っていた。 
イタリア その様子を伺う近所の人々。 
イタリア じいさんの修理の模様は何時間見ていても飽きはしなかった。  この日はアラスカを出発して丸３年。１リットル２００円のテーブルワインで３周年を一人祝った。ほど良く酒が入ってくると日本が恋しくてならない。 「あれから３年も経ってしまったのか・・・。」 翌日４月３日。朝の７時にフェリーのチケットを買いに行くと、早くも地元の人々が並んで待っていた。ここに待つこと２０分。片道のチケットを買った。これでチュニジアに入国できる。乗り場にはイミグレーションがあり、ここでイタリアの出国スタンプをもらった。チュニジア入国に際しては日本人はビザは不要だ。 フェリーに乗ると、何かワクワクゾクゾクするものがあった。まだ本格的にアフリカ縦断を目指す訳ではないが、初めて足を踏み入れる未知のアフリカ大陸。チュニジアはわずかな期間の走行となるかもしれないが、いったいどんな国なのだろう。 「初めてのアフリカ大陸か。」 アラスカから走り出して３年目、この日私は２７の誕生日を迎えていた。
イタリア トラパニの港を後にして初めてのアフリカ大陸へ。 
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