第１７９話　５７カ国目　マルタ

「地中海の真ん中・・・。」

真っ青な地中海に浮かぶ島。
そこには真っ白な石灰岩の家が良く似合う。

アラスカ出発　１９９２／４／１～マルタ　１９９５／３
マルタ出国までの走行距離　約６２２７０ｋｍ

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欧州・中東走行　１９９４／６／２９～１９９６／２／１
走行距離　約３４１３１ｋｍ

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マルタ走行　１９９４／３／２０～１９９５／３／２５
走行距離　約１７１ｋｍ

　最新式の飛行機はマルタ上空にとやって来た。真っ青な地中海にポツリと白く浮かんでいるマルタ島は、本当に真珠のように見えた。
「あれがマルタ共和国か・・・。」
マルタ島にゴゾ島、そしてコミノ島と、主だった三つの島からなっているマルタ共和国。
「この国は学校の教科書に出てきただろうか？」
実は私はこの国についてはほとんど知識がない。何も知らないまま訪れるというのは恐いものだが、ガイドブックなどを持たない分、先入観も生まれない。そうした訪問もまた楽しそう。間違ってもこの国はあのアルバニアのような事はないだろう。
　島の面積は淡路島の半分ほど。地中海のほぼ中央に位置しているのだが、驚いた事に北緯３６度、私の地元信州の諏訪湖とほぼ同じ緯度に当たる。
　空港に到着し、イミグレーションへと進む。入国審査官にパスポートを渡すと、無言で入国印をポンと押してくれた。５７カ国目に無事に入国。
　自転車を受け取り、少ない荷物を括り付け空港の外に出ようとした。すると、ポリスマンらしき男が近寄ってくる。何か悪い事でもしたのかとびっくりしてしまったが、彼は私の旅について興味深く聞いた後、マルタの独立の歴史などについて、
「１９７９年にイギリスから独立して、今月の３月３１日で独立１６年目を迎えるんだよ。」
と説明してくれた。宗教はほとんどがカトリックだそうだ。島で見る家並みがどこかアラブ風なので、イスラム教のような感じもするがそうではないと言う。ポリスマンという事で私が治安の事を聞くと、
「治安は良いとは言えない。人種も色々だから、気をつけた方が良いかもしれないね。」
そう忠告してくれた。
「日本人も多いのでしょうね？」
と聞くと、そんなにでもないと言う。言葉は英語とマルタ語だが、英語がほとんど問題なく通じるようなので安心した。

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　マルタ　美しい空港はまるでどこかのショッピングモールのようだ。シンプルな空港である。

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　マルタ　マルタの紙幣。

　空港で両替なども済ませ、とりあえず首都のバレッタを目指す事にした。イギリスの統治下にあったので、交通法規はどうやらイギリスを見本としているらしい。日本と同じ左側通行。長い事右側通行の旅が続いているので、左側通行にも少し違和感を感じる。
　空港もそうだが、何の材質で出来ているのか建物の色は皆クリーム色やベージュで、太陽の光が反射して目に眩しいくらい。家の屋根には面白いくらいにテレビアンテナが立っており、これも愉快な光景だった。
　マルタでは今までに見た事もないような家々が建ち並び、あまり期待してはいなかっただけに、どこか楽しみとなってきた。

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　マルタ　マルタ島の東海岸に首都バレッタはある。

　バレッタ市内に着き、ちょっとした買い物を行う。まず本屋で地図を購入。それに缶詰やチーズやらの食料も購入。買い物をして接する限り、人々は皆英語を上手に話すので、イタリア語に比べるとだいぶ楽になった。
　今回、島ではホテルに泊まらずキャンプして何とか過ごそうと考えていた。出来るだけ安く、そして島のあっちこっちを走り回ってみたかった。安宿はありそうだが、この日は街の隅にテントを張らせてもらった。

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　マルタ　初日からこんな所で野宿。

　翌日、どこからか地元のおじさん方がやってきた。近くに仕事場があるらしい。
「どこから来た？よかったらコーヒーでもどうかね。」
そう誘ってくれる。途上国で触れ合ったような人たちとは違っている。こんな風に言ってしまうのも何だが、「普通の大人」たちだ。旧東側でも途上国でも、まるで子供のような大人に会った事が何回かあったので、こうした人々に出会うと、
「この国は普通の大人たちがいる国なのか。」
と変に納得してしまう。私も長い事旅をしているのでどうも変な考え方になってしまったらしい。
　彼らの話していた言葉はアラブ語に近いと言われるマルタ語らしかった。これは耳をすましていてもさっぱり分からない。しかし私に話し掛けてくるときは、皆さん英語で聞いてくれた。

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　マルタ　野宿をしていた所にやって来た地元の男たち。

　バレッタの街にある建物のほとんどは、国内で産出される石灰岩でできているのだそうだ。レンガのようにきっちりと組み合わされており、とても強固な造りに見える。クリーム色で統一感があり、真っ青な地中海の海の色と絶妙なバランスをとっている。建築物の美しさには目を見張るものがある。私は暖かな日差しを受けながら、街中を走り回った。

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　マルタ　真っ青な海と白い家々。

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　マルタ　街中の一軒一軒の建物がとても見応えがある。

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　マルタ　街路は格子模様を描いて海へと傾斜している。

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　マルタ　聖ヨハネの教会堂や宮殿などの歴史的な建物が多い。

　マルタ　石灰岩で造られた家々。

　マルタ　港の建物も石灰岩。

　マルタ　飛脚号と。

　マルタ　近辺を少し歩き回って観光。

　マルタ　この細い壁の中に人は住んでいる？

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　マルタ　細い建物の海岸側はこうなっている。ちゃんと窓もある。

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　マルタ　各家庭にはテレビのアンテナ？どこか愉快な光景でもある。

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　マルタ　バレッタ市街の海岸線。

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　マルタ　街中の細い路地で。この古風な雰囲気がたまらない。

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　マルタ　半島先の要塞を歩いてみた。

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　マルタ　衣類や食品などがあったマーケットで。

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　マルタ　色々な人種の皆さんがいらっしゃる。

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　マルタ　石灰岩のとれる島でも野菜は作られているのか。

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　マルタ　「さあいらっしゃい。安くしとくよ。」活気あるオヤジさんの図。

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　マルタ　この色といい形と言い、統一感があって見事な家。

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　マルタ　サボテンとマルタの家。

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　マルタ　きれいな畑だ・・・。

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　マルタ　街を出るとすぐに田舎になってしまう。

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　マルタ　こんな感じで石灰岩の家は建って行く。この形や色にどこか魅力を感じるのは私だけだろうか。

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　マルタ　マルタの港で。

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　マルタ　底まで透き通る美しい海。

　バレッタを自転車で走り回り、その後まるで迷路のような島内の道を走り始めた。左側通行という国なので、時計回りで走る。これだと道路を挟まずに海を眺める事ができるからだ。
　島には見応えのある場所がいくつもあった。古代の遺跡ハガールキムに、絶壁から眺めるアーチ型の岩、観光名所ブルーグロット。マルタ島のありとあらゆる物が、今までに見た事のない風景ばかりで、私は興奮しながら写真を撮りつつ走り回っていた。
　マルタの地図は持っていた。でも載っていない細い道もあるようで、それらはどこに伸びているのかが今ひとつ把握できない。迷路のようなので、旅慣れしている私もさすがに困ってしまった。数多くの欧米観光客がいたのだが、たくさんの人に道を尋ねられたりもした。

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　マルタ　これも石灰岩だろうか。

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　マルタ　高台に登ると、区分けされた広い畑が見渡せた。

　スリエクと言う町で小さな商店に寄ると、店主が声をかけてきた。
「どうだね？マルタは？」
この質問は旧英国領に圧倒的に多い。ジャマイカやガイアナでも同じような質問を受けた事がある。「どうだね我々の国は？」相手の抱いている自国の印象が、とにかく気になるらしい。紳士の国、イギリスが統治すると、どうもそうなるようだ。
「きれいで人々もとても接し易いですし、今まで訪れてきた国とはまったく異なった美しい国ですね。」
と言った。すると主は、
「今はまだ冬だから涼しいが、夏は暑いんだぞ。」
「今は冬・・・？昨年の夏の気温はどれくらいあったんですか。」
「５５度だ。」
「５５度って？」
このときは、ラジオでも、
「外に出ずに、家の中にいるように。」
と注意報が出たそうだ。夏は観光も避けるべきだろう。
「良かった、この時期に来て・・・。」
　おじさんの店で少しの買い物をして、パンにミネラルウォーター、それに缶詰を抱え、再び海沿いの崖を見つつ島の南側を走った。

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　マルタ　観光地ブルーグロット。