第７９話 ２４カ国目 ペルー 「パトリッシア・バルアルテ（パティ）と２人旅」  初めて女性とのペアラン。パティ（ペルー人女性）と。
アラスカ出発１９９２／４／１〜ペルー１９９３／９ ペルー出国までの走行距離 約２７７８４ｋｍ 
南米走行１９９３／３／１〜１９９４／６／２７ 走行距離 約２１６９７ｋｍ 
ペルー走行 １９９３／４／２２〜１９９３／９／４ 走行距離 約３０４３ｋｍ（全南米走行距離の１４％）  |
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「まさか、このリマに再び戻ってくるなんて・・・」 リマの空港に降り立つと、タイムスリップしたような変な感覚に陥った。さっきまでいたクスコの、あのアンデスの雰囲気などリマには少しも漂ってはいなかった。 「リマかあ。」 ７月２０日。空港に到着した当日、私は早速大使館に電話を入れた。 「マチイツヨシと言いますが、日本から大き目の荷物が届いているでしょうか。」 「いいえ。」 そっけない返答。 家に確認の電話を入れてみた。 「荷物はいつ出してる？」 「あ、まだよ。」 「え？」 「まだ出来あがっていないみたいなの。」 「そうなんだ・・・。伝達が遅かったのかなあ。」 荷物は私がリマに到着して４日後の７月２４日に発送された事を後で知った。 「まあ、やることはたくさんあるからいいか。」 リマを出発してからマチュピチュまでの写真は５００枚程あった。キャプション書きに雑記まとめなど、山のような作業をとりあえず終わらせることにした。 ７月２８日に私は早速DHLのオフィスに出向いてみた。リマ東京間なら３、４日で着くと確信していたのだ。オフィスのお姉さんに聞いてみると、まだ到着していない様子。 「でも日本なら３日もあれば着くはずよ。」 そう言った。ちょっと早いのか。また電話でもしてみよう。この日はこれで引き上げた。私は大使館にも連絡を入れた。しかし、何もそれらしき荷物は着いていないと言う。 到着してから大使館とDHLのオフィスに問い合わせを続ける日々が約１９日間も続くなどとは、このとき誰が予想できただろうか。毎日大使館に直接出向いたり、DHLのオフィスにも電話をしたり。 「なんで着かないんだ？どうなってるんだ。」 私はもう呆れていた。 リマに来て２４日後の８月１２日。大使館に電話をするといつもとは違う女性の係員が電話に出た。 「マチイさんですね？DHLの方から書類が届いていますが、荷物は税関でストップしているそうです。少々ややこしい手続きが必要ですので、一度ご来館下さい。」 やれやれ、やっと届いたか。まったく。私は安心して大使館に出向いた。これでやっと走り始められると。 担当の方は私がプーノから送ったファックスを持っており、受け取りの準備をしてくれていたらしいが、どうもうまく連動しなかったようだった。と言うのも私のアルファベットの名前の表記が変ってしまっていたからだった。「マチイ・ツヨシ」が「ゴウ・マツイ」となっていた。このために何か手違いが生じたらしかった。 担当者の方は税関でストップしているというので、私は、 「それじゃ、現場に、税関に取りに行けばいいんですよね。」 と言うと、 「それがですね、リマの税関は私たちが行ってもたらい回しに賄賂の要求と、すごいんです。ましてやスペイン語の話せない人が行っても、それこそ・・・」 担当者の方はそう言うと、 「いつも我々がお世話になっている荷物の引取り会社を紹介します。」 「引取り会社？」 それはカジャオ地区にある、アドゥアーナサンホルヘという会社だった。そんな会社があるならありがたい。住所を手にした私はさっそくオフィスに向かった。 オフィスと言うよりは高級住宅と言った感じで、室内にはきれいな装飾品も飾られていた。書類を見せて、荷物のことを説明しようとすると、 「大使館から聞いていますよ。」 と言った。 「いつ頃引き取れますか？」 「そうですね、３日後には。」 「良かった。３日待てばいいのか。これでようやくか・・・。」 しかしこの３日間の長かったこと。３日後に再び電話をすると、 「いや、まだなんだよ。」 「え？じゃあ、明日ですね？」 「ええ。」 翌日も電話をかける。しかし、 「まだです。すみません。」 の返答。私はこのままリマにストップしてしまうのか？そう思い始めた頃には、クスコからリマに舞い戻って１ヶ月近くが経とうとしていた。 結局荷物が届いたのは８月２３日。日本から荷物が送られて調度１ヶ月後のこと。実際に荷物は１週間もしないうちに日本からリマの税関に届いていた。しかし、その後リマの税関で長くストップしていたようだった。 「こんなことならボリビアの首都ラパスに送った方が早かったのかもしれない。」 届かぬ荷物に１ヶ月。すっかり体もなまってしまっていた。
ペルー 再び戻ったリマで。宿で出会った平山さんと両替に出掛けた。そこで日本語を巧みに話し、日本人を騙すとして知られている有名人、リマのペペさん（右）に出会った。とても良さそうな顔をしているので、ついつい騙される？  リマでの雑用などとっくに終わっていた。リマに舞い戻ったことを知った新聞社の担当記者が、電話をくれとのことなので早速かけてみた。すると、 「お元気ですか？今リマにいるんですか？旅はどうなっちゃったのですか？」 「今はひたすら荷物待ちです。参りました。」 「これからも頑張って下さいね。」 リマでの１ヶ月はとても長かった。町の観光もしたし、することもなく、ひたすらリムの到着を待っていた。 しかし、リムを待っている間に、とある女性と落ち合う事が多くなっていた。以前にギィさんと一緒しているときに出会ったパティがその人。彼女に電話をかけ、 「やあ、こんにちは。クスコから自転車部品の関係で戻ってきたんだ。」 「あら、元気？久しぶりね。どこかで会う？」 「プラサデアルマスで。」 久々の再会だった。少し会ってちょっとだけ話そうと思ったが、彼女は、 「明日も暇？」 と聞いてくるので、 「荷物が届くまではずっと暇。」 と答えた。 「それじゃ、また明日ここで５時にね。」 そんな誘いに私もイヤと言わず喜んでオッケーした。 夕刻に彼女と出会ってはミラフローレス地区や海岸などに出かけた。私にとったらいいスペイン語の勉強になった。分からない単語はわかる単語で言い回しをしてくれる。私は誰かが冗談で言ったことを思い出していた。 「外国語を覚えるなら女性と恋に落ちるのが一番手っ取り早いよ。お互い伝えようとする気持ちが強いから、言葉の壁なんて無いに等しいのかもしれないね。」 これは本当だったような気がする。相手に伝えよう、伝えようと熱も入り、辞書も紙もペンも大げさなジェスチャーも使う。恥じらいも忘れて・・・。相手に伝えたいというその強い思いが、言葉の壁をきっと簡単に乗り越えていくのだろう。 彼女とは本当にリマでいい思い出を作った。そして荷物も届き、私も出発する時を迎えた。 「荷物が届いたんだ。やっと届いたんだ。これでようやくボリビアに行ける。」 私は彼女に伝えた。すると、 「・・・ヨシ、私も自転車旅行したいと思うの・・・。」 「・・・？？？。」 「チリのサンチャゴまで走ってみたい。あのきれいな町へ。ダメなら途中でバスで引き返すから・・・。」 「また、嘘ばっかり・・・。」 冗談にもほどがあると思った。しかし、彼女は本気らしい。 「一緒に連れてって。」 そう言った。 「行かないで！」とはメキシコで言われたことはあったが、まさか、「連れてって」なんて・・・私は余りにも唐突な彼女の発言に、自分の耳を疑った。仕事はどうするんだ、両親は？パスポートなんて持ってるのか？お金は？自転車は？私は、ペルー人と自転車で２人旅なんて間違ってもできるはずなどないと思っていた。しかし、 「ブエノ、バモス！」（オッケー私と行きましょう。） などと承知して言ってしまった。自転車も持っていない、機械体操だけができる女性である。 「本当に彼女は自転車旅行なんてするつもりなのか・・・。」 私は不安を抱えていた。でも、とても嬉しかった。海外で女性とペアランなんて、私の憧れでもある。ペルー人と一緒で不安と言うよりも、彼女と２人旅ができる、そんな気持ちの方が強かったことは確かだった。 そうと決まれば話は早い。自転車の件や、彼女のマドリーナ（育ての母）とも会って相談したり、結局彼女とチリへ走り始めることになってしまった。彼女のマドリーナは大賛成。 「あら、自転車旅行？それは素晴らしいじゃない。」 と軽く言っていた。 「女性とのペアランなんて・・・」 自転車のリムを片手に、１ヶ月振りにリマを後にすることになった。アレキパまでは飛行機で移動。そしてそこで自転車を購入。更に鉄道と車でプーノへ移動する事になった。自転車など乗ったことのない彼女が、果たして私と２人旅？それもボリビアという悪路の多いハードな道を・・・。大丈夫だろうか。本当に彼女は私とサイクリングするのか？１週間くらいしたら、きっと先に行ってなどと言われるのではないか。様々な不安が私の胸に湧いていた。 こうしてペルー人女性、パトリッシア・バルアルテ（パティ）と共にボリビア向けて目標のチリの首都サンチャゴへ走り出すことになった。 １ヶ月以上も離れ離れだった、プーノに置きっぱなしの飛脚号に再会。ちょっと埃をかぶっていた。 「待たせたなあ。これからは賑やかな旅が始まりそうだぞ。」 ギィさんと離れ、そして今度は女性のパティと一緒。不安と期待が私の心では入り混じっていた。 宿に着いて自転車のリムを取り付け、タイヤも代える。ようやくこれで進める。１ヶ月も走っていないなんて信じられない。体力は大丈夫だろうか。 準備作業を済ませ、パティと私はチチカカ湖に浮かぶ、アマンタニ島とタキーレ島に観光に行くことにした。自然がいっぱいの島で電気や水道は無いのだと言う。どんな島なのか、一目見ておきたい。琵琶湖の約１１〜１２倍という大きさの湖を船はゆっくりと進み出した。
ペルー チチカカ湖で。船に乗りこむパティ。  オンボロ船で最初に目指したアマンタニ島へはなんと３時間もかかった。ゆっくりと湖上を進むと、気持ち良く帆掛け舟が進んでいた。きれいな湖だった。パティも周囲の済み切った空と、真っ青な空には感動している様子。乾燥しているので、パティはリップクリームを手放さずにいた。
ペルー チチカカ湖で美しい帆掛け舟。  アマンタニ島は次第に近くに見え、港付近に船はやって来た。港には民族衣装を身にまとった女性や男性がいる。 「おおー」 他の乗客から驚きの声が漏れていた。 港に着いて船を降りると、島民が私たちのところにやってきた。この島には旅館やホテルは無く、一般の民家を宿として開放しているとのことだった。多くの島民が、 「家に来なさい、来なさい。」 と勧めてくれる。欧米のツーリストもそんなシステムを知ってか、それぞれのお宅に散らばっていった。我々も島民の一人に誘われた。彼の名はアンドレス・クーリさん。彼が、 「まあ、付いて来なさい。」 と言うので、そのまま彼の家に行った。アマンタニ島内は細い道が急勾配でそこらじゅうにある。この坂道をとても早く歩くものだから、我々はとてもじゃないが付いていけない。ここは世界でもっとも高い淡水湖なのだ。「ハアハア」と、息を荒くして二人で付いていった。 彼の家は島の中では結構大きい感じだった。アドベと呼ばれる日干しレンガで家は作られている。電気、水道はなく、ローソクと井戸がそれに代わる。
ペルー アンドレス・クーリさん宅。  着いたときにはお昼が早速出された。チチカカ湖味？のスープに固いパン。卵焼きにパサパサご飯と言った内容。 我々は宿泊値段も聞いていなかったので、心配になり、彼に聞いた。すると、 「３食付いて１泊７ソル（約３５０円）。」 とのこと。こんな収入と農業で生活しているのか。ちょっと不安になってしまうくらい安い。インフレの激しいペルーで、しかも、こんなに高地の離れ小島でペルー通貨「ソル」を受け取っても、プーノに買い出しに行く頃にはきっと価値がなくなってしまっていたりするのでは？などと余計な心配をしてしまうのだった。 昼過ぎからパティと島の散策に出かけた。自転車もなければ島での移動手段は徒歩のみ。電気も水道も無いこのアンデス高地に浮かぶおおきな湖の離れ島で、自然と共に歩んできた島の人々はきっと、たくさんの生活の知恵を見出したに違いない。人々は自然と共生する素晴らしい生活を営んできたはずである。そんなことを思いながら歩いていると、この島の偉大さを感じ取れる気がした。
ペルー 自給自足の色濃いアマンタニ島。 
ペルー アマンタニの島中に見事な段々畑がある。全部石の壁で区切られていた。  島の民芸品売り場のようなところがあり、ここも見学した。すべて島民の手作りで１００円から３０００円まで色々と品揃えはある。美しい刺繍を施した品々が私の目にとまった。中でもファッハと呼ばれる荷物運びの為に使うベルトは美しく、おでこに当てて荷物を持ち運ぶのだと言った。
ペルー パティが持っているのは子供服。 
ペルー これは島の観光収入源か。  我々が展示場を離れると、待ち構えていたのは子供の楽器隊。 「あなた方の為に音楽を・・・」 そう言うと勝手に演奏を始めてしまった。ケナやサンポーニャと呼ばれる楽器で演奏してくれた。シャワーもないこの島に生きる子供たちの手は真っ黒だった。そんな手で一生懸命に演奏していた姿が印象的だった。
ペルー 民芸品売り場を離れると、そこには子供たちが待ち構えていた。 
ペルー うまくはないのだが、演奏されると聞いてしまうではないか。  しばらく見入ってから、案の定、少年たちはお金を要求してきたので、少々の額を渡した。その後は民芸品を作っている現場へ行って見学。おばさん方の器用な手つきを眺めさせてもらった。
ペルー カラフルな民芸品を作る女性。 
ペルー 畑の隅でこうした手作業を行う。  我々は島の観光を終えて、アンドレスさんの家に戻った。ここで夕食を食べていると、６人の子供たちが部屋にやってきた。やはり楽器を持って演奏にやってきたのだ。押し売り演奏などと言っては可愛そうなので断らずに演奏してもらう。
ペルー 突然夜に演奏にやってきた子供たち。  決してうまいとは言えないが、 「こんな夜遅くまで小遣い稼ぎとは頑張っているじゃないか。」 私も聞き入って拍手をしてあげた。パティはこの中の一人、ジョニー君とダンスをして喜んでいた。どちらも同じペルー国民とはどうしても思えなかった。島の子供たちはとても働き者に見えた。
ペルー パティは喜んでジョニー君と踊っていた。  車も走らなければ、電気もない、水道もない。ということは公害の心配なんて何もないのかもしれない。畑を耕し、家畜を放牧し、湖で魚を獲る。本当に自給自足の暮らし振りがここにはあるように見えた。自然と仲良く暮らすこと、それはいつも貧困と隣り合わせなのかもしれない。便利さを追求していくことは、どこかできっと自然に害を与えている。私は島を歩きながらそんなことを考えた。
ペルー 子供も大人も家族総出で農作業。和やかな風景だ。  「リマとはえらい違いだね。どう思う？この島の暮らしは。」 私はパティに聞いた。 「こんな島の暮らしの方がいいと思う。でもやっぱりリマの都会に育っちゃったからダメね。」 島では７歳くらいの子が、羊の世話から赤ちゃんの世話、そしてバケツ両脇に抱え歩いている。そんな姿を見ると、私はこんな所でのんきに旅行などしている場合だろうか？と罪悪感が湧いた。 島の暮らしは決して豊かではない。しかし、チチカカ湖の自然の中に溶け込んだ暮らしを見ていると、羨ましくも思えた。先進国からやってきたからそんなことを思うのだろう。ともあれ、いつまでも自然と仲良く暮らす姿がここに残っていて欲しい、そう感じた。 アンドレスさんのお宅で食べたパサパサのお米は、忘れられない「チチカカ湖の味」だった。
ペルー アンドレス・クーリさんと奥さん、右のおまけはパティ。  ８月３０日。我々はもう一つの島タキーレ島に向かうためアンドレスさんに別れを告げた。 「また、いつか来ますよ。」 と。
ペルー アマンタニ島の浜で。  船で１時間ほど揺られ、タキーレ島に到着。港から町の中心のような集落に歩いて向かうが、かなり急勾配を登るので、「ハアハア」と息を切らせながら登った。考えてみれば富士山よりも高い地点を歩いているのだから疲れる訳だ。
ペルー タキーレ島の道。この島も石の囲いが多い。  ようやくそれらしき島の広場のような所に着いたので、近くにいた青年に尋ねた。 「この辺が島の中心？」 「そうだよ。」 答えてくれた地元の青年はおしゃれな格好をしていた。彼らのチョッキや赤い帽子などは、アマンタニ島では見なかった。タキーレ島独特のデザインのようだ。可愛い絵柄もついていたので見させてもらうと、これは絵文字になっているのだと言った。 宿が見つからなかったので小さなレストランでヘペレイと言う魚を食べ、一時的に荷物を預かってもらって島の散策に出かけることにした。 少年たちは凧上げやこまなどをして遊んでおり、のどかな風景。子供たちはほとんどが裸足で島を歩いている。これなら健康だろう。体に良さそう。出会う人は笑顔で挨拶してくれた。
ペルー タキーレ島で出会った子供と女性。  島の小さな小道を歩いていると、前方から１人の少年がやって来た。何か手を素早く動かしながら歩いている。どうやら手編みをしているらしかったが、そのスピードがまた早い。彼は１１歳、ペドロ君。８歳の頃から編物を教わったそうだが、その早さは並大抵でない。タキーレ島では男性が編物をする習慣があるのだとこの後知ることになる。
ペルー 写真では分からないが、ペドロ君（１１歳）の手編みの早さは半端でなかった。  この日我々は学校の庭にテント。パティはどこか宿が良いと言ったが、私はせっかく持ってきたのだから、この島でテントを張りたかった。広い学校の庭に張らせてもらい、ここにいた子供たちと遊んだ。テントなどを張っていると、我々の方を興味深く見ていた。小さな子供が寄ってきて、ケチュア語で言った。 「コルキータコワイ。」 それは「お金欲しい」を意味するそうだ。他にも「ダメドゥルセ（甘いものちょうだい）」などと、物乞いを受けた。多くのツーリストが子供たちに上げるので癖になってしまっているのかもしれない。しかし、リマで１５円のチョコもここでは５０円。子供たちは本当にガムやチョコが欲しいのだろうと思った。人情深いパティはガムを子供に上げていた。
ペルー 真中の少女が「コルキータコワイ（お金欲しい）」と言った。 
ペルー チチカカ湖、タキーレ島の子供たち。 
ペルー 青年はタキーレ独特の民族衣装を着ていた。皆で記念撮影。 
ペルー こんな学校の石の上でテントを張って１泊。青年と記念撮影。  この学校で泊った翌日も、彼らの民芸品作り売り場を見学。絵文字柄の刺繍を根気良く編んでいた。この島では男性も暇があればもくもくと編物をしている。民芸品売り場でも商店でも、おじさんたちは編物をしていた。どうしてこんな習慣が生まれたのかは分からないが、その作業を見ていると、こっちまで疲れてしまうほど、集中して編物をしていた。
ペルー マメな作業をするタキーレ島の女性。 
ペルー 暇さえあれば所構わず編物をするタキーレ島の男性。  タキーレ島を見て歩いた我々は、船で再びプーノに戻った。 １９９３年９月１日。ボリビア、チリに向けペアランを始める。不安げな表情のパティ。 「今日はのんびり行けばいいよ。」 朝食はホテルでパンとコーヒーとした。でも、本当にサンチャゴまで彼女は走れるのだろうか。途中にはアタカマ砂漠だってある。「サンチャゴまで走る」といった彼女の言葉を本気にはしていなかった。 ボリビアを前にして、気になっていたのはビザの件。日本人ならば３ヶ月は必要無い。しかし、ペルー人はどうなのか知らない。パティも知らないと言うので、早速２人でボリビアの領事館に出かけた。すると、 「北朝鮮、中国、他わずかな国を除いては必要ないです。」 との答え。ほっとした。そんな手続きの確認を行い、ようやく出発。長い間飛脚号を預かってもらったウロスの宿を後にした。いざ、ボリビアへ。
ペルー ペルー人女性とペアラン？？いざ、ボリビアへ。 記念写真を撮って出発したのは良かった。しかし、５０ｍも進まないうちに、 「ヨシ、荷物が足に当たるんだけど。」 などと言うので、直す。そしてまた少し走ると、今度は、 「サドルはもう少し上の方がいいかも・・・。」 と言うので直す。しばらくすると、スイスイと走り始めてくれた。しかし、町を抜ける頃になると、今度は、 「尻が痛い。」 などと言い、出発して１０ｋｍも走らないうちにストップが３回も４回もかかってしまった。こんな調子でサンチャゴまではまず無理だろう。きっとラパス止まりだ。私は早くも彼女との長期ペアランは諦めていた。口数は多く、文句も多い。しかし彼女の取柄は、そんなやかましいくらいの元気さにあった。 この日は出発してなんと３４ｋｍで野宿。アコーラと言う集落の空き地にテントを張った。米を炊いて自炊。色々と作業をやってくれるので、私は焚き火でもして見ていればそれで良かった。女性がいると手伝ってくれるので楽だ、と感じた。しかし、他の走行のことでは気を使い、はっきり言って重荷。私の荷物が更に５０ｋｇ増えたような、そんな感じがしないでもなかった。しかし、そんな重みがあってもやはり連れがいて、２人旅ができるというのは嬉しい。もうちょっと走るのが速ければ・・・。
ペルー アコーラでキャンプの後、出発の準備をするパティ。周囲には雪が。  翌朝、８時半に準備を済ませて出発。チチカカ湖畔沿いの平地をのんびりサイクリング。パティにはきっと調度いい手ごろなコースだろう。大きなきれいなチチカカ湖畔沿いを気持ち良くスイスイとサイクリング・・・と言いたいところだが、パティの口からは相変わらず、 「尻が痛ーい。」 「荷物が重ーい。」 まったく、どうなることやら。
ペルー 文句を言いながらも、こんな長い地平線を走ってしまうパティ先生。  「まだ２日目だ、のんびり行こうよ。トランキーロ、デスパシート。」 この日はチュカスヨの村にテントを張った。村から少し離れた所だったので村人に断りを入れなかったのだが、それがまずかった。 月明かりがきれいな夜だった。外でテントマットを敷き、自炊をしながらご飯を食べたりしていた。夜の何時だったか、夕食を終え、銀色のテントマットをテントの中に入れようとしたその瞬間だった。 「ピー、ピー、ピー。」 大きな笛の音がした。危険を知らせるような、村中に響くような笛の音だ。しばらくすると、村の電気が灯り始め、村人が鍬や大きなナイフのようなものを持ってこっちに集団でやってきた。 「なんだろう？」 「さあ？」 警戒気味に近寄って来た彼らは、どうやら我々が危険な人物と思って勘違いしたらしかった。私が銀マットをひるがえした時に銀色の光が目に入り、 「あれはナイフだ！」 と思い、そこで、危険を知らせる音を、 「ピー」 と鳴らしたと言うのだ。夜も遅いと言うのに、銀のテントマットですっかり村の人たちに迷惑をかけてしまった。 「すみません、すみませんでした。」 と謝ってテントに潜りこんだ。 翌朝、チュカスヨの村人たちは我々を見送ってくれたのだった。
ペルー 大変なご迷惑をおかけしてしまったチュカスヨの村人と。パティは仔山羊を抱いている。  私一人の場合は途切れてしまうスペイン語の会話も、パティがいると、会話は結構続く。テロの話し、ケチュア語の話し、放っておけば１時間でも２時間でも話している。ありがたいやら困るやら・・・。 チュカスヨからポマタに進み、ここの集落でお昼にチチカカ湖で獲れたマスのフライ料理を食べる。ジャガイモにサラダなどが付いて１５０円。パティは 「リマではマスなんて手に入らないわ、それにとても高いのよ。」 と、うまそうにムシャムシャ食べていた。
ペルー チチカカ湖とロバの親子。  走行３日目、地元で出会う少年たちが、 「どこから来たの、どこ行くの？」 と聞いてきた。出発してから人に出会う度にこの質問に答えているパティは、早くもうんざりしている様子。私は毎日こんな質問を各地で受けること１年半・・・。
ペルー 放っておくと、きっと彼女は何時間でも村人と話し続けるかもしれない。  「私はいつもこんな受け答えを、年中行く先々で交わしているんだぞ。」 と言うと、笑っていた。 国境近くで地元のおじさんと話す機会があった。私はボリビア人について聞いてみると、 「あー、そりゃボリビアとペルーなんて兄弟みたいなもんさ。ボリビア人の方がペルー人よりも良い人だよ。」 そう言った。 ボリビアは楽しみだ。この日はボリビアとペルー国境の町、ユングーヨにテントを張って２人でキャンプをした。
ペルー 「おい、何作ってんの？」 「まあ、見てなさいよ。」  翌日我々はボリビアの国境へ向かった。午前１１時。２人ともペルー国境は無事通過できた。
ペルー あの向こうにペルー・ボリビア国境が。  「あの向こうはボリビアか。」 日本を出て２７７８４ｋｍ。国数はやっと２５カ国目。ようやくペルー脱出。一人おまけがいるけれども。長い長いペルーの旅は終わりだ。結局私はペルーと言う国に１３５日間も滞在していたことになる。なんとびっくり。これは「ペルーで沈没しかけた」と言うのかもしれない。
ペルー ペルー・ボリビア国境で記念写真。  さあ、アンデス高地の国、ボリビアへ。
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