第７８話 ２４カ国目 ペルー 「マチュピチュ遺跡」  以前からずっと憧れていたこの景色。ようやく辿りついた。
アラスカ出発１９９２／４／１〜ペルー１９９３／９ ペルー出国までの走行距離 約２７７８４ｋｍ 
南米走行１９９３／３／１〜１９９４／６／２７ 走行距離 約２１６９７ｋｍ 
ペルー走行 １９９３／４／２２〜１９９３／９／４ 走行距離 約３０４３ｋｍ（全南米走行距離の１４％）  |
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クスコで後藤氏に再会した私は、とりあえず町をのんびり観光をした。 プラサデアルマスからロレト通りを歩くと、高い大きな石組みの壁があった。日本のお城の石組みよりも遥かに頑丈そうで、ちょっとやそっとの地震では崩れそうもない。壁を実際に触ってみるが隙間が無い。「カミソリ刃１枚通さぬ石組み」と聞いてはいたが、やはり噂通り。感心しながら通りを歩いた。
ペルー ロレト通りのカミソリ刃１枚通さぬインカの石組み。気持ちいいくらいにしっかりと組まれている。 
ペルー 有名な１２角の石（写真中央）。４角で済むところをなぜか１２角にして作られている。 
ペルー ロレト通りの石組み。大きな地震が来たときも石組みはビクともしなかったそうだ。  石組みの技術には本当に感心させられた。昔はクレーンなどもなかったはずである。それなのに、こんな重いものを精工に組み合わせて作ってしまった。石を触りながらきれいな組み方を眺めていると、飽きが来なかった。街を一通り見学して宿に戻ると、 「待井さん、野球しに行かない。」 後藤さんと樋口さんが誘ってくれた。クスコで野球とはそりゃ面白そう。小学校時代に夢中になってやっていたことを思い出す。あの頃は野球が好きだったな・・・。 野球をした場所はサクサイワマン遺跡。ここに来てまたびっくり。街中の石組みで驚いたばかりなのに、ここのサクサイワマン遺跡の石は桁違いにでかい。私の身長以上の石がいくつもある。これこそクレーンも無い時代にどうやって作りあげたのか、まったく不思議でたまらない。 ３０００ｍを越える標高で野球などをすると、とてもいい運動？になった。樋口さんが投げたボールを後藤さんが打って、私は全速力でボールを追いかける。 「ハア、ハア、ハア、ハア。」 ここでランニングの練習したら本当に、いや、確実にマラソンの選手になれる。それくらいクスコの空気は薄く感じる。私はこのサクサイワマン遺跡の広場で童心に返って遊んだ。
ペルー サクサイワマン遺跡。とにかく大きな石が並んでいる。 
ペルー どうやって並べて組み合わせたのか？？ 
ペルー ここで後藤さんたちと野球大会。 
ペルー きっちりと組み合わさった石組みがなぜか魅力的。  宿に帰ってから、再び後藤さんと情報交換。しかし、私の行ったところは後藤さんは既に行ってしまっているので、私の方が情報をもらうばっかりになってしまった。 翌日、後藤さんは自転車を預けてあるアルゼンチンとボリビア国境の友人宅へバスで戻ることになった。私もバスターミナルまで見送りに行く。 「それじゃ後藤さん、気を付けて。」 「待井さんも、頑張ってね。」 普通の旅行者とは違う、何か共通するものが自転車野郎同士にはあった。それが何なのかははっきりしない。しかし、苦しい坂道を走っているときなどは、自転車仲間の頑張っている姿が目に浮かぶ事がある。きっと似たような苦しみや喜びを常に心の中に共有しているのだろう。目に見えない何かで繋がっているのかもしれない。 我々は手紙の交換を約束し、固い握手を交わした。 「気を付けて！」 後藤さんを乗せたバスは出発した。後藤さん、またいつか会う日まで。今度はきっと日本で・・・。 ７月１６日。いよいよ期待のマチュピチュ遺跡観光に出発することになった。このときクスコからはなぜか列車は出ておらず、オリャンタイタンボの集落から列車に乗ることになった。そこまではツアー会社のバスで移動。 駅に着いて切符を買う。売り場はもみくしゃの押せ押せ状態。皆我先にと譲りもしないので、私も大変。ツーリスト専用の切符はかなり高いようなので、一般客用の切符売り場で安切符を購入した。マチュピチュまでは約１５０円ほど。ようやく切符を買って列車に乗りこんだ。が、今では非常に後悔している。なぜこのときインカトレイルを歩かなかったのか。当時は危険だったのか。今度行くなら、是非あのトレイルを歩いてマチュピチュまで行ってみたい・・・。 駅では遠くに山々が見え、そして売り子たちがお菓子やフルーツなどを売り歩き、とても賑やかだった。
ペルー マチュピチュへ向けて列車に乗りこむ。 
ペルー まるでスイスのような風景。ここから列車でマチュピチュへ向かう。  列車は出発。静かになるかと思ったら、車内はこれまた賑やかで、荷物を抱えたインディヘナのおばちゃんたちはコーヒー販売を始め、即席の弁当屋に変身した。直径５０ｃｍほどの鍋の中には炊きこみご飯。鶏肉にニンジン、ジャガイモなどが入っている。とにかく賢いというか、商売熱心。汗を拭きながら必死で売り買いしている姿に感心させられてしまった。きっと昔のインカ帝国もこんな風に活気に溢れて栄えていたに違いない。いつの間にか列車の通路も座席も人と荷物で埋め尽くされていた。トイレに行くのも大冒険と言った感じである。 何時になったのか、マチュピチュに一番近い駅、アグアカリエンテス駅（お湯の駅）に到着。クスコを出て既に６時間が経過。この駅の近くに温泉がある。それできっとこの名なのかもしれない。 観光で成り立っているのだろう、駅には商店、ホテル、レストランが長屋のように連なっている。各国の観光客で賑わいを見せていた。 午後の１時頃から、早速ガイドブックを頼りに葛折りの道を歩いて登り始める。遥か上にそれらしき遺跡のようなものは見えるが、あんなところに遺跡があるのか？くらいにしか見えない。葛折りの道なので、もちろん最短の近道を登った。とてつもなく急勾配だったが・・・。
ペルー 下からみたマチュピチュ遺跡。何なのかほとんど分からない。あそこまで徒歩で登る。 
ペルー 葛折りの道を登って行くとマチュピチュ遺跡に辿りつく。  「マチュピチュだ。マチュピチュだ。」 ポスターの写真でも、ツアーのオフィスでもパンフレットでも、日本でも何度も見たマチュピチュ。しかし、本物は違うのだと、私は息を切らせて坂をよじ登っていった。結構辛い。しかしギィさんと行ったワラスのトレッキングに比べれば楽なもんだ。 今晩は宿に泊るのだから、ゆっくりと明日の朝からにでも見れば良いのだが、そうも行かない。今日も見て、明日も朝一番で見るのだ。私はとことん張り切っていた。 徐々に上に登って行く。１時間半も掛かってしまった。最初に遺跡の一画が見えた。 「マチュピチュか？」 見えたのは入場ゲート。 「いよいよかあ。」 外国人の入場料は１０ドル。これは高い。ビデオなどを持っていくともっと高くなるらしい。遺跡内に入り、まず、高台をめざした。遺跡が一望できるあの景色を最初に見たい。 「来たぞ、来たぞ。」 見晴らしの良いほうに足を進めていくと、徐々にそれらしい風景が見えてきた。そして、高台に立つと、見えた。 「・・・来た。ここだ・・・。すごい・・・。」 言葉にはならなかった。メキシコのモンテアルバンもチツェンイッツァも、グアテマラのティカル遺跡も美しかった。でも、インカのこのマチュピチュの遺跡の美しさは別格、さすが世界遺産。私はしばらくの間、立ち竦んでしまった。ひっそりとたたずむ遺跡を見入っていた。
ペルー 「ここだ、ここがマチュピチュ遺跡だ・・・」 完璧な石組み、まるで芸術的に生える芝生、後ろに聳えるワイナピチュ峰。パーフェクトと言った景色。私はしばらく遺跡内を歩き回り、また明日は朝早くに来ようと決めた。１時間半かけて登った坂を帰りは３０分で下る。バスに乗らなかったので往復で７００円の節約。せこいがその分ビールを飲むことにした。１００円の温泉に入り、ビールを飲んでマチュピチュ観光とはなんと贅沢な旅だろうか。罪悪感が湧いてしまった。それにしても温泉とは贅沢・・・。 翌朝、５時半には宿を出発して、昨日と同じ山道を登り始めた。２日続けてマチュピチュへの登りはしんどかった。勾配がきついので昨日の登りで既に軽い筋肉痛を引き起こしていた。 日の出に期待したが、残念ながら天気は曇り。しかしこの曇りが最高の演出をしてくれることになる。 １日目は１０ドルの入場料。２日目は７ドルとのこと。高い出費だと嘆きながら霧の遺跡の中を歩いた。昨日とは違い、霧に隠れてしまい、ほとんど見えていない状態だった・・・。
ペルー 朝方はマチュピチュ遺跡近辺は霧。ちょうど日の出を迎えようとしていた。  ところが、霧は時間が経つに連れ、次第に引けていった。晴れそうだ。霧のベールを脱ぐのか？期待して私はじっと待っていた。すると徐々にその姿を現し始めた。
ペルー 晴れてくれー霧よ。 
ペルー それは霧の中に浮かぶ、まさに「空中都市」だった。  「うわー、なんて素敵なんだろう・・・。」 私は夢中でシャッターを切っていた。それはまさに、霧に浮かぶ空中都市だった。
ペルー 夢の中にいるようだった。最高の演出を見せてくれた霧。  期待した通りの美しい姿を見れて良かった。私は感激しながらも再び遺跡内の写真を撮って歩いていた。
ペルー マチュピチュ遺跡の全景。２８ｍｍレンズだと少し欠けてしまう。  私は前方にあるワイナピチュにも登ることにした。高いところは大好きなのでここからも遺跡の姿をカメラに収めることにした。このワイナピチュから見る遺跡はまた違って面白い。これがマチュピチュの遺跡だ！と言われてもピンと来ない風景になってしまっている。
ペルー ワイナピチュから眺めたマチュピチュ遺跡。また違った雰囲気がする。 
ペルー ワイナピチュの山頂から見たマチュピチュの遺跡。（写真中央のやや下） 
ペルー マチュピチュもやはり石材建築。がっちりとした作りに安心感が生まれてくるようだ。 
ペルー 何やってんだ、こんなところで？「モデルのつもり？」かわいいラマ（リャマ）。  何か、私の旅の中で大きなイベントが終わったような、そんな感覚があった。 「見れて良かった。本当にここまで来れたんだ。」 そんな充実感にも溢れていた。 「また、いつの日か、ここに。」 そんなことを思いながらマチュピチュ観光を終え、午後４時発の列車に乗るために駅に向かった。しかし、列車が来たのは５時半。海外ならこんなもんだろうか。 オリャンタイタンボに着いたのは、夜の９時近く。クスコには戻らず、安ホテルを探して、明日はピサック遺跡に向かうことになる。ちょうど日曜日なので、ピサックの日曜市も見学できるというのが嬉しい。ピサック行きのバスの時間は朝の５時とのこと。早起きをせねばならない。 翌朝はピサックの市の見学。その前にピサックの遺跡も見て歩いた。
ペルー ピサックの遺跡。まるで段々畑のよう。 
ペルー ピサック遺跡方面、高台からピサックの町を眺めた。  日曜のピサックの活気ある風景を眺め、フラフラと歩いた。 「ちょっと、ちょっと、お兄さん、あなた知ってるわよ。」 一人のおばちゃんが声を掛けてきた。良く見たらクスコでもセーターを売っていたインディヘナのおばちゃんだ。 「あ、こんにちは。」 こんなところにまで出向いて商売しているのか。元気が良くて相変わらず商売熱心で、私にセーター買え買えと勧める。このおばちゃんとなぜか気が合ってしまい、うまく乗せられてめったにお土産など買わない私が、アルパカの薄手のセーターを買ってしまった。いや、買わされた。おばちゃんの商売上手には負けた。しかし、これからボリビアの高地の走行も続くし、まあ買って損はないだろう。１着６５０円也。
ペルー ピサックで偶然見たへんてこな踊り。インカに伝わるなぞの儀式か？・・・そうではなさそう。 
ペルー アルパカのセーターが安く売られている。とても温かいのだ。 
ペルー ピサックの日曜市を見て歩いているとあれも、これもみなと、全部買いたくなってしまう物ばかり。  クスコのペンション花田に再び戻り、私はリマ行きの準備を行った。 「もしかしたらもう、リムは大使館に着いているかもしれない。よし、とんぼ返りだ。」 飛行機に乗ってリマに部品を取りに行くなんて、なんて格好いいんだろう。ちょっとした冒険家気分。贅沢な行動だ。しかし、長旅を続ける場合ケチってもいいお金とそうでないお金がある。このときは時間を優先させたので、ケチらなかった。「緊急出費」という名目になるのだろうか。長旅を続けるが為に生じた大出費。しょうがない。 １９９３年７月２０日。私は自転車のリムを取りにリマにと舞い戻った。
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