第７７話 ２４カ国目 ペルー 「後藤さんとの再会」  「まさかこんな所で？後藤さんと再会。」
アラスカ出発１９９２／４／１〜ペルー１９９３／９ ペルー出国までの走行距離 約２７７８４ｋｍ 
南米走行１９９３／３／１〜１９９４／６／２７ 走行距離 約２１６９７ｋｍ 
ペルー走行 １９９３／４／２２〜１９９３／９／４ 走行距離 約３０４３ｋｍ（全南米走行距離の１４％）  |
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フリアカに一晩泊った私は、早起きをして食堂に出かけるが、朝の６時半とあらば街の食堂はまだどこも開いていない。しょうがないので小さな商店でパンに玉子、それに小さなジャムを買って食事することにした。これで２５０円。これがそのまま朝と昼の食事となる。 フリアカの銀行で両替をしたかったので、朝食のあと銀行に出かけて旅行小切手をペルーの通貨ソルに換金。しばらく両替していないうちにまたソルの価値は下がっていたようだった。 この日はわずか４０ｋｍ先のプーノまで走ればそれで良かった。プーノに着けば私はしばらく飛脚号とも別行動。マチュピチュ、クスコへはバスと列車で向かうことになる。 プーノへ向けて走り出すと、早速子供たちがやってきた。標高は３８００ｍあるフリアカの道で、子供たちは元気に私の後を走って付いてくるではないか。すごい肺だ。すぐに諦めるかと思ったら、５分以上は私と一緒に走ってくれた。根性だ。私だったら１００ｍも持たないかもしれないのに・・・。こんな子供たちがマラソン選手にでもなってしまったら速そうだ。子供たちは息を切らせながら私に聞いてきた。 「ハアハア、シュスタニに行くの？」 「ああ、そうだよ。もう近いんだよね？」 「ハアハア、あと５ｋｍだよ。」 私も走行を中断し、せっかくだから子供たちの写真を撮らせてもらい、別れを告げてシュスタニに向かった。
ペルー 「シュスタニの遺跡まではあと５ｋｍだよ」と教えてくれたフリアカ近くに住む子供たち。将来はマラソン選手に？  シュスタニ遺跡はこれまた独特だった。小麦色の広い芝生にまるで石の灯台のような建物が建っている。その周辺では牛や羊の放牧がなされており、小さな野外博物館のような感じだ。どうやって積み上げたのか、大きな石が３、４ｍくらいの高さで積み上げられている。その向こうには真っ青な湖があった。 「きれいな場所だ・・・。」 標高のせいだろうか。湖の色も高原の空気も空の色も、全てが違って見えている。しばらくの間、この遺跡周辺をゆっくりと歩いて見て回った。
ペルー シュスタニ遺跡で。 
ペルー シュスタニ遺跡から見下ろす湖。 
ペルー 空気の匂い、この世の物とは思えない空と水の青さ。かつて見た事のない空間がそこには存在していた。  シュスタニの遺跡を見て周り、その後はプーノの町へ向かった。ようやくプーノ、やっとプーノ到着だ。ここから１００ｋｍ、１日自転車で東へ向けて走ればそこにはボリビアが待っている。何か元気が出てくるようだった。次の国境はすぐそこにあるのだ。 プーノの町並みを実際に見下ろしていると、なにか次の目標のようなものが見えたようで嬉しかった。
ペルー プーノの町並みを眼下に眺めた。チチカカ湖畔に面した町。もうすぐボリビアだ。 
ペルー プーノの町並みとチチカカ湖畔。  プーノではホテルロスウロスという宿に投宿。１泊４５０円。受付の兄ちゃんに、 「お湯は出るの？」 と聞くと、夜の７時から１０時までだけとのこと。時間は限られてるにせよ、お湯が出ればそれでいい。旅行者もたくさんおり、荷物を預けても大丈夫そうだったので、ここに泊ることにした。 この日の夕食は外で外食。もちろんメニューは例の「焼肉ジャガイモ串焼き」。すっかり病みつきとなってしまい、こればっかり食べていた。寒い中で、 「フーッフー」 などとやって食べると格別の味。私はプーノ到着を祝って、レストランでビールで乾杯。小さなビールを頼んだのに大きいのが来てしまい、寒いレストランで震えてビールを飲む始末。やはりビールは暑い中、汗をかいた後に飲むのが一番。標高３８００ｍでは寒くて飲み応えも今一つだった。 プーノに着いたこの夜、私は日本に電話を入れた。ペルーでは手に入らないリムを送ってもらうためだ。 「あー、もしもし、元気？ツヨシだけど、リムの件で・・・・。」 口で言うよりはファックスの方が早く、安い。早速両親にファックスを入れた。リムのサイズ、スポークの数など。これを地元チノサイクルさんに渡してもらうようお願いした。部品の送付先はリマの大使館。送付手段はDHL。送ってもらう時間など、早さを考えたら、日系人の多いペルーの方がボリビアのラパスに送るよりも確実に早いと考えたためだった。 ボリビアのラパスの方がプーノからは近いが、マチュピチュへ行くとすれば、クスコからリマへ向けて簡単に空路の往復ができる。DHLなら日数を多く見積もっても、１０日も掛からないだろうと考えた。このとき、私の頭の中ではお金よりも時間を優先させ、すべて事を運ばせていた。ところが、この送付先の選択が大間違い。まさかの結末がリマでは待っていた。 １９９３年６月１０日。プーノでは雑用及び観光をした。自転車バックから衣類などをまとめて手洗い。アンデス山中の走行で全て砂埃で真っ白。汚れまくっていた。滞在中はいつもこうした大洗濯に励まなくてはならない。 翌朝はチチカカ湖畔から小さな島、ウロス島へ行こうとホテルのフロントに行く。すると、 「どこか行くのですか？今日は外へは出られませんよ。」 などと言う。 「え、どうしてですか？」 「センソですから。」 「センソ?」 「ええ。」 慌てて辞書を引くと、センソとは国勢調査。でも、国勢調査で外国人も外出禁止？というのも考え物だが、ホテルにおとなしくしていなさいという事なので、言われた通りにする。新聞記者や警察以外の人は外に出てはいけないらしい。外を見ても、人がいない。時々係員らしき人々が家々を回っているくらいだ。日本では紙に書いてもらって調査するのに・・・。そのことを言うと、 「前回は紙で書いてもらったけど、それじゃ問題があるみたい。」 とのこと。同じ時間にペルー全土で国勢調査をやっているのか？と思うとおかしい気もした。係員も大変だろう。 この日は私ものんびりと飛脚号の整備、クリーンアップをした。作業をしていると、私のところにも調査係員はやってきた。 「えーと、あなたは旅行者ですね？名前、国籍、入国目的、入国日、独身か、宗教、両親の住んでいる場所は？」 などと聞かれた。約３０００万人近い人口で日本の面積の約３倍。いったいこの調査で何人の人間が必要なのだろう。気の遠くなる作業だ。 翌日の７月１２日、私はいよいよクスコに向けてバスで移動することにした。出発は午後４時過ぎ。それまでは時間があったので、チチカカ湖に浮かぶウロス島を見学。 プーノからは船で３０分。普通の素朴な島かと思ったら、島全体がトトラ（葦）でできているのだと言う。葦を切っては積み重ね、切っては積み重ねているうちに島になってしまったのだそうだ。とても人工島には見えない変った島。徒歩で１０分もあれば島の隅々までを見て歩けるほど小さいが、ここにもちゃんと学校があり、そして５、６家族が住んでいるのだと言う。子供達は観光客が来ると、 「モニー、モニー（お金、お金）」 と言ってねだってくる。湖ではマスも獲れるので、漁と観光で成り立っている小さな小さな島なのだろう。
ペルー ウロス島は全て葦でできているのだそうだ。 
ペルー 葦の島ウロス。マスがたくさん獲れるとのこと。 
ペルー 葦の島で土産物を売るおばちゃんたちと。 
ペルー 葦で出来た人工島。学校もあれば、家族も住んでいる島。 
ペルー 葦で作られた素晴らしい小船。  島を見学してプーノに帰り、宿の兄ちゃんに自転車を預かってもらい、私はクスコ行きのバスターミナルへと向かった。クスコまではバスで砂漠の中の道を約５００ｋｍ。砂漠の中とあってか、これが結構ハードな道程で、午後の４時から朝の６時まで１４時間も掛かる。いくらサドルの上に乗るのに慣れているとはいえ、１４時間は辛そう。広い空間で眠れれば良いのだが。 バスに乗って自分の座席ナンバーに行く。２４番。 「ああ・・・」 なんと太っちょのインディヘナのおばさんが私の隣。間違いなら良いのにと期待したが、やはり２４番は２４番。私はこの席で押し潰されそうな思いをしながら、１４時間過ごした。自転車よりもバス旅行の方がつらいのでは？と、この時痛感。参ってしまった。 起きたり眠ったりしながらバス内の１４時間が経過。運賃も６００円と言う値段なので質も最低で、暖房などは当然なし。クスコに到着する頃は、私の足もかなり冷えてしまっていた。隣の太っちょおばさんを見ると、毛布をグルグル巻きにしており、いったい何者かと思ってしまった。 バスでクスコに着いてしまったので充実感に欠けるが、狭い座席から開放され、気分はすこぶる調子良かった。
ペルー クスコの町のプラサデアルマス。とても「強盗の良く出る町」には見えないが。  朝のクスコの町は特に危険と聞いていたので、早速タクシーに乗る。そしてプラサデアルマスに行き、そこでタクシーを降りて日本人宿、「ペンション花田」に向かった。１泊４ドル程で泊れる安宿で、これからの南下情報も仕入れなければならない。 「こんにちはー。」 大きな中庭のある落ち着いた作りの建物だ。私は宿帳に名前を記入。すると、 「！？」 ふと上記の欄を見ると見覚えのある名前が書かれていた。 「後藤・・・あれ、後藤さんじゃないの？まさか・・・。」 テーブルに座っていた日本人旅行者に聞いてみた。 「あの、今、この宿に後藤さんって・・・」 「ええ、チャリダー（サイクリスト）ですよね。いますよ。」 しばらくするとやって来た。後藤さんだ。 「後藤さん、こんちは！」 「あー待井さーん！」 カナダで出会って以来だ。１年と１ヶ月振りに後藤さんと再会できた。こんなに嬉しいことはない。その後の旅の話は手紙ではやり取りはしていたが、やはり実際に会って話しするのとでは違う。我々はこの晩酒盛りを交わし、大きな南米地図を広げて情報交換。思い出話に花を咲かせ、延々と話した。 今頃はヨーロッパだと思っていたのに、こんな所で再会できて本当に嬉しかった。
ペルー カナダで出会って以来、１年半振りに後藤さんに再会。南米地図を広げて夜中まで語り合った。
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