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第７４話 ２４カ国目 ペルー 「ナスカの地上絵」  「ハチドリ、ハチドリ！」 セスナを操縦しながらパイロットは日本語で叫んだ。
アラスカ出発１９９２／４／１〜ペルー１９９３／９ ペルー出国までの走行距離 約２７７８４ｋｍ 
南米走行１９９３／３／１〜１９９４／６／２７ 走行距離 約２１６９７ｋｍ 
ペルー走行 １９９３／４／２２〜１９９３／９／４ 走行距離 約３０４３ｋｍ（全南米走行距離の１４％）  |
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ペルーでの滞在は５月２５日から６月１５日。とんでもない長い期間だった。これを沈没と言うのかはさておき、リマに着いたことで私はすっかりくつろいでしまった。 リマの滞在先は、私は日本人宿、「ペンション西海」。ギィさんはホテル「エスパーニャ」。さすがに私も日本語が恋しかったので、リマでは日本人宿に泊ることに決めていた。 ギィさんとはリマ到着を祝い、祝杯を交わすことにした。私はワラスでの借りがあったので、日本食レストランにと誘うことにした。ここで寿司と鰹のたたきなどを食べる。高いのは知っていたが、それはもう、涙が出そうなほどうまく、すっかり私は日本食に感動してしまった。 ギィさんはもうしばらくリマに居るようなので、また明日にでも会おうと言うことになった。 このペンションでは私も色々と雑用が待っていた。キトから何もやっていない雑記のまとめにフィルムの現像。それにそれのキャプション書き。できるだけ早く済ませて出発しようと思っていた。 この宿には他にも数名旅行者が泊っていた。山登りの佐藤さん、アラスカから私と同じように自転車で南下してきた藤原さん。そしてエルサルバドルの日本人宿ガトネグロで出会った北田さんもいた。 「お、北田さんじゃないですか。」 「あらあら、元気でしたか。無事着いたんですね。」 我々は大いに盛り上がり、再会を喜んだ。もう一人の藤原さんはマウンテンバイクで走って来ており、メキシコのアホ犬に「ガバっ」と足を噛まれてしまったと嘆いていた。 こんな日本人の滞在する宿で私は雑用をこなし、トラブルのある飛脚号の修理などを終わらせることにした。 ペンション西海では管理人さんが毎晩日本食の夕食を作ってくれていた。子供のユウキ君はペルー生まれ、リマ育ち。 「最近は爆弾テロとかでお客さんも減りましたよ。」 と、上手な日本語を操った。彼の日本語検定能力は２級だそうだ。
ペルー ペンション西海のユウキ君。  ５月２８日、ギィさんはスイスに帰国すると言う。それじゃあ、と最後に夕食に出掛ける事になった。ガイドブックを見て、美味しそうなレストランに行こうと思ったが、町を歩きながら見つけようと言うことになった。 レストランで食事。そして、ビールで乾杯。 「今度会うのはチューリッヒかな？」 「でも、無事に辿りつけるかな、スイスなんてまだまだ先だもんなあ・・・。」 食事を済ませた我々は宿に帰ろうとした。しかし、ギィさんの方向音痴はここでも威力を発揮。私は来た道をそのまま帰れば良いと思った。ところがギィさんはどっちかはっきりしないのか、 「よし、地元民に聞いてみよう。」 ちょうど、その目の前を通った３人の若い女性に声を掛けた。 「プラサデアルマスはどっちですか？」 「あっちだけど・・・あなた方はどちらから？」 「スイスと日本ですけど・・・」 「私たちこれから食事に行くの、よかったら行かない？」 「食べてしまったから、行かない。」 などとギィさんは言わずに、 「どこへ行くの？」 などと聞いている。 「ミラフローレスって言う地区なの。」 「バモス！（行くぞ）」 ギィさんは張り切って私に言った。 こうして３人の女性と我々は一緒することになった。彼女の名前はビキ、チェラ、パティの３人。年齢は２０代。このうちの１人、ビキとギィさんは結局結婚して、スイスで暮らすことになってしまうのだが、そんな結末になるなんて、このとき誰が予測できただろう。ギィさんは方向音痴だったがために、素晴らしき伴侶を得られたのである。 我々はミラフローレスのレストランに入り、軽く食べた。そして、カラオケのようなところがあるというので、３人に連れられてそこに行く。夜１１時くらいまでは皆で一緒しただろうか。 外に出てタクシーを待っている間、私のところにおしゃれな花束を持った売り子がやって来た。 「セニョール、このきれいな花をセニョリータに買ってあげてはいかがでしょう。」 そのとき横にパティがおり、本人の目の前でそんなことを言われて、私も花束を、 「要らない！」 などとは言えなかった。しょうがなく彼女に花束を買ってあげた。するとパティは、 「こんなきれいなお花、今まで一度も買ってもらったことなどないわ。ありがとう。」 と言った表情で、それは喜んで、ビキとチェラに自慢して見せた。これが引金となり、パティとはその後も何度か会うことになってしまった。 ギィさんと私はこの日、固い握手をして別れた。 「チューリッヒで会おうな！」 私はリマで作業を続けながらも、久々の日本語を話しながら、楽しく過ごしていた。 ユウキ君の通う日系人学校の大運動会に出かけ、日本の国家とペルーの国家を歌う場面などを見たり、綱引きを見たり、リレー等を見たりした。ほとんど日本の運動会と変らない。 運動会も良かったが、私にとって嬉しかったのは、日本食の屋台。おにぎりに巻き寿司などがあり、もう、涙物。さらに感動したのは納豆を見つけたことだった。 「おー、納豆だー！」 大好物の納豆だが、果たしていつ食べただろうか。日本を経ってからは口にしていない。値段は多少高かったが、迷わず買った。１年振りに食べる納豆はもう、最高。 西海の近くには日系人の経営する「オクヤマ」という自転車屋があり、ここでリムの調達を試みた。すると、私の使っている１・１/２というサイズなどはなく、１・３/８と言うリムしか置いてはいなかった。これに変えてしまえば問題はないが、ボリビアに１・１/２のサイズのタイヤを４本も送ってもらっているために、簡単に変えるわけにも行かない。しかし、リマ中を探してみても私のサイズのリムは見つからなかった。 「どうしようか・・・。」 出発前に想像した最悪のシナリオは現実のものとなった。部品調達できずに現地でストップ・・・。それがリマで本当に起きてしまったのだ。
ペルー リマの街中の様子。  しょうがないので、私は自転車屋「オクヤマ」の日本語の話せる店長に、今までとは異なるサイズのリムを注文した。これで、私の自転車のタイヤサイズは前輪と後輪が違うサイズになってしまった。タイヤの予備もこれからは常に２種類持たなくてはいけない。最悪この上なし・・・。それでも、 「前進できるのだから・・・」 と妥協した。ボリビアで待っているタイヤは前輪にしか使えない。前輪だけに４本のタイヤを使ったら、３万ｋｍは余裕で持つ。と言うことは、ヨーロッパまでタイヤを持ち運びながら走らなければいけない？それは大変なことだ。しかし、このときはこうするしかなかった。 「やはり世界を走るならマウンテンバイクが１番良さそうだなあ・・・。」 と考えていた。 リマでの時はどんどんと過ぎていった。事実上の沈没だったのかも知れない。１年を過ぎて走り疲れたのか、１０日、２週間、そして２０日間と走行記録には「０ｋｍ」の数字が並んでいた。日本人とのひととき、雑記のまとめ、そして自転車のリムの交換作業。 早く出発しなければ。私は焦っていた。しかし、その裏にはもう少し休んでいこう、と甘んじる姿勢があった。
ペルー ペンション西海（左）。自転車野郎、ここで沈没か。  沈没の理由はパティにあった。（というと悪者扱いになってしまうが・・・）ギィさんと知り合ったときに住所交換をしており、私の滞在先にまで訪ねて来るようになった。ペルー人女性が訪ねて来てくれ、私も嬉しくて嬉しくて、ついつい、夜の街を彼女に誘われるがままに歩いていた。彼女は体操の教師だと言ったが、教えている現場は結局彼女と別れるまで見せてはもらえなかった。同じ自転車の藤原さんはパティがやってくると、 「またパティちゃんと？いいねえ。」 などと冷やかしてくれた。 これといって彼女は美人でもなく、普通の陽気なペルー人女性だった。しかし、 「明日、ここに行かない？５時にプラサデアルマスにね。」 と言われると、私もイヤとは言えず、 「分かった、５時だね？」 などと返事をしてしまうのである。これをきっと沈没というのだろうか。エルサルバドルとホンジュラスで出会った菊地さんの、 「長期滞在に気を付けて、沈没しないようにね。」 との言葉が私の頭にユラユラと浮かんでいた。 結局リマに滞在したのは、２２日間。雑用の期間を１週間としても、あとの２週間はのんびりと遊んでいたことになる。 私は自転車のリムも出来あがった頃、パティに別れを告げて出発することにした。１９９３年６月１６日、リマを後に出発することにした。 おいしかった日本食、楽しかった日本語。日本を離れて初めて日本の良さというものを実感できたような気がする。西海のおばさんに感謝し、リムを組んでくれた自転車屋「オクヤマ」の店長にお礼を言って出発した。
ペルー 「カサ・オクヤマ」の店と店長。  目指すはナスかの地上絵、クスコにマチュピチュ。しかし、またあの４０００ｍのアンデスに上って行くのかと思うと、少し気が重かった。いつも前方を走っていたギィさんはもう、私の前を走っていない。これからはまた１人旅。 リマの町を抜けるのには難儀した。何回も町の人に聞いてようやくパンアメリカンハイウェーに合流。久々の飛脚号のサドルの上で、どこか気分も一新していた。
ペルー パンアメリカンハイウェーの標識。目標のアレキパまではまだ１０００ｋｍ。  途中のレストランで道の情報収集。ナスカからアバンカイ付近のことを聞くと、あまり言い顔はしなかった。ナスカからやはり直接クスコに向かうのは危険な様子。 「わしらもクスコに行く場合は、あのアバンカイは経由せずにアレキパ、プーノ、そしてクスコに行くのだよ。」 と言った。地元の人が言うくらいだから、やはり言う通りにプーノを経由してクスコに向かうべきだろう。そうするならば、クスコ、マチュピチュへは電車かバスと言うことになりそうだ。 この日はアシアという町の浜辺に野宿した。
ペルー 久々の野宿。海岸沿いの町、アシアでテント。  翌朝は早く起きて出発。午後はたいがい強風が吹き出すので、その前に何とか距離を稼いでおこうと張りきって走り出した。片道２車線から１車線になり、対向車の風ももろに当たるようになっていた。 前方から１台のバス。後方からも１台のバス。前方のバスが私とすれ違うまでは後方のバスは私を追い抜けずにいた。私はアスファルトの横が砂地だったので、ちょっと端に寄って走っていたくらいで、車のことは気にはしなかった。ところが、後方のバスが私を追い抜くときに、 「バシ！」 と、助手か誰かが雑巾のような布を投げつけてきた。 「何をする！！このバカ野郎！！」 などと怒ってみても、投げつけたバスはとっくにスピードを上げて走り去ってしまっていた。 「文句があるなら降りてこーい！！畜生ー！！逃げるなー！！」 悔しいやら情けないやらで、懸命に走ってみても追いつくはずもなく、結局そのまま奴らは行ってしまった。 このとき私は単純にペルー人を大嫌いになった。しかし、改めて考えてみれば、こんなところを自転車で走っている方がおかしいのだ。私がバスで移動すればこんなトラブルも起きはしないのだが。自転車と車のトラブルを考えるときいつもそんな風に思ってしまう。それにしても、車のくせに、逃げるとはけしからん！
ペルー こんな道を走っていると、バスに乗った奴が雑巾を投げてきた。けしからん！  ６月２０日、砂漠の中から突然現れたオアシスのような町、イカに着いた。ホテルに投宿して夕食を食べてリラックス。ちょっと頭が痛いのが気になったが、そのまま横になった。 翌朝、起きてみると頭がガンガンする。何がどうなったのか、生まれてこの方経験したことのないような痛みが走っていた。出発の準備をするが、動くとガンガンと痛い。原因は不明。リマでストップして急に走り始めたせいかもしれない。この日私はイカのホテルで休んだ。昼も夜も食欲がなく、食事は摂らず終い。体だけが丈夫な私なのにと、少しショック。 翌日は痛みはあるが、昨日よりは多少マシになっているようだ。しかし、ボコボコのアスファルトがあるたびに腰を上げて振動がこないように走った。 町を出るといつもの砂漠の中の道が始まる。どこまでも黒いアスファルトは伸び、前方の蜃気楼の中にと消えている。ガンガンと頭に響く頭痛。堪えきれなくなり、自転車を降りて道路端に座りこんでしまった。 「このまま永遠にこの痛みが続いたらどうしようか。２、３日で本当に回復するのか。」 とにかく早く治ってくれればいいのだけど・・・と、私は遥か南のチリやアルゼンチン、フェゴ島のことを考え始めていた。 「あんなに南まで本当に走れるのかなあ・・・。」 精神的に落ち込むときは徹底的に落ち込んでしまうもので、砂漠の中で掴み所のない物を一生懸命に自分は追いかけている、そんな錯覚に陥っているような気がした。砂漠を舞うゴミが私の後方から前方にと飛んでいく。 「良かった、今日は追い風だったか・・・。」 距離も伸びたこの日はパルパという町の、小さな宿に投宿した。１泊２００円也。
ペルー パルパの２００円の宿で。さすがにこの日は頭痛で元気もなかった。  ６月２２日、心配種の頭痛は消えてくれた。本当に良かった。すっかり元気になった私は地上絵を見るべく、ナスカに張りきって進んだ。 パルパの町から走ること２５ｋｍ。どうやらナスカの地上絵の近辺に到着したらしい。近くの看板には、「道路から出て、外側を走れば２０００ソルの罰金、もしくは５年の牢獄行き」とあった。
ペルー ナスカの地上絵の書かれているところにハイウェーをそれて入ったら、約１０万円の罰金らしい。  しばらく走ると、ミラドールと呼ばれる見晴台が建てられていた。かなり高く、私が今まで走ってきた道と、これから走ろうとしている道が砂漠の中に小さく消えている。 肝心のナスカの地上絵の方はと言えば、３０種あるうちの、２種が見えたのみ。それは「木」と「手」。これじゃあとてもじゃないが、 「地上絵を見たんだぞ！」 とは言えない。やはりナスカの地上絵は上空から見るに限る。
ペルー これは「木」か？地上のミラドール（見晴台）からわずかに見えた地上絵。 
ペルー パンアメリカンハイウェーは遥か彼方に小さく消えていた。  ミラドールから降りて自転車のある地上に戻ると、修学旅行の団体のような、観光客のような年齢不祥の女性陣が私のところに集まってきて、色々と質問を浴びせてきた。 「ええ、どっから来たの。日本、アラスカから走り始めているの？」 「あなた方はペルーの旅行者ですか？」 と聞くと、 「ええ、そうよ。大学の・・。」 「え？大学の？」 それにしてはふけた人が多いんだなあと思っていると、次々に握手を求められ、ついでにと、私の名前を日本語で書いてとせがまれる。１人に書いてあげると、私も私もと、次々に言い寄ってきて大変。別れ際には、その大学生とも、おばさんとも見分けのつかない女性陣から別れのキスの嵐。これにはさすがの私もびびってしまった。せめて２０才くらいに見えれば・・・。
ペルー 別れの挨拶（キス）をしてくれた女学生？  ホスタルナスカに投宿して早速安いセスナツアーを探す。ガイドブックには４０ドルと書いてあるのに、実際は６０ドル。これにはびっくりして、 「高いなあー。」 と一言。 翌朝は人が集まれば飛ぶとのこと。この日は結局人が来なかったので、飛ばず。そして翌日の１０時、カナダ人、イスラエル人など計４名を乗せたセスナは飛び立つことになった。 セスナの操縦士は、まるでタクシーを発進させるかのように、ヒューっと離陸。そして、上空からの案内をしてくれた。日本人観光客が多いのか、操縦士は、 「テ、キ、トカゲ」 などと日本語でも説明してくれる。日本語の虎の巻を見ながら私に言ってくれている。親切なのはいいが、ちゃんと前を見て操縦して欲しいものだ。 私は夢中でシャッターを切った。感動したのは、私の走ってきた道、黒きアスファルトだった。ひと踏み、ひと踏みと進んで来た道が南北に消えて見えなくなるまで伸びている。私はあっちから走ってきて、そしてまたあの彼方に走って行くのだ。そう考えると、気が遠くなると言うより、これからも気長に進んでいこうと、嬉しくなってくるのだった。
ペルー 私の走る道。どこまで続いているのか。  リマで出会った藤原さんは言っていた。 「あまり無理せずに。いくら片意地はっても、１週間で世界一周などできないのだから。」 焦らずゆっくり走って行けば良いのだ・・・。黒い道を見て、そう確信した。 操縦士の日本語は続いていた。 「サル、サル、イヌ、ハチドリ、ハチドリ！」 ハチドリは見事だった。こんな大きな絵をどうやったら真っ直ぐに描けるのか。その正確さが正確さだけあって、不思議でならなかった。
ペルー 「イヌ」。 
ペルー これはサル？ 
ペルー 「ハチドリ」。 セスナが遊覧飛行を終えて着陸する頃には私はもう、限界だった。あと３分遅かったら、「ゲロゲロゲローっ」だったかもしれない。やれやれ。ファインダーの覗き過ぎか、こんなにも酔ってしまうとは。 地上絵を見終わり、早速走行開始。この日は向かい風を受けてたったの３４ｋｍ。何もない砂地にテントを張って自炊。
ペルー こんな砂道をひたすら走る。 
ペルー 何もない砂地にテントを張って自炊。  アレキパに向けて、必死にペダルを踏んだ。どんよりとした曇り空の中、車が通るたびに砂埃が目に舞って来る。砂地の中にずっと真っ直ぐにのびるパンアメリカンハイウェー。この先にはいったいどんな世界が広がっているのだろうか。ひたすら走った１日は終わった。
ペルー 真っ直ぐな道、この先には？  毎日海岸線の殺風景な道は続いていた。唯一くつろげる空間は、途中にあるレストラン。そこに地元のお客などがいると、日本の話しで盛り上がる。 「私の親戚が日本で頑張ってるんだよ。」 または、 「日本語を教えてくれないかあ。」 など。すぐに打ち溶けて一緒に食事などができるところが楽しい。砂漠の中の寂しい道を走ってきた私には、レストランはまるでオアシスのような存在だった。
ペルー ようやく辿りついたレストランで地元のおじさんと。  同日の午後、やはりレストランに入って食事をしていると、 「ガガー、ガッシャーン」 しばらくすると、砂埃が降ってきた。外を見ると、車がレストランに突っ込んでいた。運転席にはビール缶。大した怪我ではなさそうだったのでよかったが、いきなりびっくりした。レストランではおばさんが、 「次の町まで遠いから、ここでテント張ったら？」 優しい好意に甘え、私はレストラン横でテントを張らせてもらった。ワラスで出会ったルースラおばさんは、「南部の人には気を付けて。」と言っていた。しかし皆、いい人ばかりじゃないか。それとも単に私の運が良いだけなのか？ 翌日もいつものように走り出す。相変わらずの砂地の海岸線は延々と南に続いていた。
ペルー うっすらともやのかかった海岸線は遠く南へと続いていた。 
ペルー 今にも砂で覆い尽くされてしまいそうな海岸線を走るパンアメリカンハイウェー。 
ペルー 海岸線の砂漠に立つ私。  リマから約８００ｋｍ続いた海岸線も、カマナの町でようやく終了。ここからは標高約２３００ｍほどのアレキパの町へ、再びアンデス山中に向かって行くことになる。カマナでは宿に投宿し、また明日からの山岳走行に備えることにした。 アレキパとカマナの中間にある、タンビーヨをこの日は目指した。ゆっくりと坂道を上っていく。追い風は良かったが、これに便乗してやってくるのがハエ。顔の周辺をプンプンと飛んでいてうるさくてしょうがない。坂道を時速６ｋｍほどで走り、まとわり付くハエを片手で払いながら進んだ。海岸線はずっと灰色や白、青といった世界だったので、久々に見たこの日の緑は目に眩しかった。タンビーヨでは町の公園にテント。出発時は子供たちと写真を撮った。
ペルー タンビーヨの町でテント。  「アレキパには、うまいビールと美味い食事が待っているのだ。」 タンビーヨを走り出して考えることと言えば、アレキパでの休養生活のこと。 「街に着いたら何を食べようか。」 もう、早く町に辿り着きたかった。坂道を上る途中にはアンデスの山々が再び顔を出し、そして緑も顔を出した。やはりこう言う緑のある光景をみると心が和む。人の豊かな暮らしがそこにあると、確信するからだ。
ペルー タンビーヨを過ぎて標高を上げていくと次第に緑が目に入るようになっていった。 
ペルー アンデスのトウモロコシ畑と少年。  チャンカイの町に投宿して、アレキパまでは残す距離７０ｋｍ程となった。 「もうすぐだ、もうすぐでうまいものが食える。」 長い峠、２日間かかって上った標高２３００ｍほどのアレキパの町。ここでまた一休みだ。まだまだ、これから４０００ｍまで標高を上げていく。先は長い。 アレキパには「アレキペーニャ」というおいしいビールがあった。これと牛肉入りのコンビナードと呼ばれるペルー風ヤキソバに、チキンご飯、それにピザを食べて、ようやく気が修まった。もう溜めていたものが爆発したかのように大食いをしてしまうのだった。 アレキパの３００円の宿で安心、ほっと一息。これからの予定を考えながらベッドで横になった。
ペルー 標高約２３００ｍのアレキパの街。大きなプラサデアルマス。体をゆっくりと休めるに素敵な町。 
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