第５１話 １０カ国目 ドミニカ 「バナナと椰子の実の差し入れ」  「海岸の野宿地で。珍しがって見学にやって来たおじさん。」
アラスカ出発１９９２／４／１〜ドミニカ１９９２／１２ ドミニカ出国までの走行距離 約１７６７１ｋｍ 
カリブ海走行 １９９２／１０／１６〜１９９２／１２／１９ 走行距離 約３７２５ｋｍ 
ドミニカ走行 １９９２／１２／５〜１９９２／１２／８ 走行距離 約９９ｋｍ  |
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１９９２年１２月５日。ドミニカに入国。以前行ったイスパニョーラ島の「ドミニカ共和国」とは違う、もう一つのカリブ海の小国、「ドミニカ国」。ここへ来て訪問国数も１０カ国目となった。 今まで行った飛行場の中では、このドミニカ国のカンフィールド空港が１番小さい。気持ちのいいくらい小さな空港だ。大きな農場に近代的な馬小屋が建っているような図に見えなくもない。 入国手続きも難無く通過。いつものように自転車を組み立て、インフォメーションで小さな地図をもらい、早速時計回りで走り出した。島での滞在予定は３泊４日。「のんびり一周」と行きたいがそれほどゆっくりできそうもない。
ドミニカ まるで田舎の駅のようなドミニカの空港。  走り出して、最初だけかと思った海岸の急勾配は長く続いた。アンティグアのような砂浜海岸は、いくら走っても見えて来ない。カリブ海のリゾートと言うイメージよりは、熱帯ジャングルといった感じの島だ。
ドミニカ カリブ海の青き海と美しい緑の海岸線。  途中の小さな商店に、お馴染みのマルタジュースを買いに寄った。するとそこのおばさんは、 「どこ行くの？一周？この島の水は全部飲めるわよ。」 大抵は私が東洋人だと言う事で珍しがって構えるのが普通なのだが、ここのおばさんに限っては、特に警戒する訳でもなく、地元民のように接してくれたので嬉しかった。島を１つ越えると日本人のイメージも変ってくる気がする。 初日のこの日は夕方の５時まで走り、海沿いの浜辺の空き地でテントを張らせてもらうことにした。道路脇の屋台で１人の女性がチキンを焼いていて、その匂いがたまらなくうまそうだったので、フラフラと買いに行った。腹が空いているときにああいうチキンを見るとつい食べすぎてしまうので要注意だと思いながら、結局２つ、２００円分食べる。 ここで店番をしていたのは２４歳の黒人女性で、 「以前にスイス人が私をスイスに連れて帰りたいと言ったわ。でも、スイスではブラックピープルなんて受け入れないでしょ。そう言って断ったの。日本も同じでそういう差別はあるのかしら。」 「んー、どうだろう。人それぞれかな。」 チキン屋の娘とそんな会話をした。 翌日、珍しがって近くにやってきた地元のおじさんたちと、記念撮影。彼らは何を食べてどんな仕事をしているのかと思うくらい、いい体をしていた。固い握手をして別れる。
ドミニカ キャンプ道具を片付けていると地元の猟師らしき人々が様子を見にやってきた。  ８時に軽快にペダルを踏み出した。隣の国のあの平坦な浜辺が嘘のように、このドミニカと言う島は起伏が激しい。昔走った伊豆の海岸にも似ている。
ドミニカ 昔走ったことのある、伊豆の海岸線のようだ。  更に森の中を進んでいくと、そこに一軒の商店があった。喉が乾いたので寄っていく。店主は「日本車」の大ファンで、壁にはそのパンフレットがあっちこっちに張ってあった。子供たちに囲まれ、私は旅の話をした。特にキューバ行きの話などは盛り上がった。 「あそこに行ったのか。どうだった？嫌な国だろ。」 「いや、良かった、すごく良かったですよ。フレンドリーで。」 そう伝えると店主は意外そうな顔をしていた。
ドミニカ 店主とはキューバの話で盛り上がった。  しばらく休憩した後、再び海岸線とも山の中とも分からぬ起伏の激しい道を進んでいった。途中で落ちているヤシの実を見つけたので、私は喜んで、そいつをナイフでこじ開け、ゴクゴクと飲んだ。するとそこに地元のおじさんがやってきて、 「やあ、自転車で島１周かい？大変だなあ。」 「この島の椰子の実はうまいですねえ。落ちていたんで飲んじゃいました。」 「え、落ちていたやつを飲んだのか。腹を壊すぞ。」 その後、腹を壊すかと不安だったが、何ともなかった。
ドミニカ 島内の道を走っていると、色々な自然の恵みにありつくことができる。  この日の夜も、薄暗くなるまで走っしまった。そこでキャッスルブルース手前の道沿いでテントを張ることにした。誰もいないところでは不安だったので、地元の人々が住んでいる集落のコンクリートの上でテントを張ることにした。 組み立てていると、「ボキ」っと嫌な音が聞こえた。見ればポールのつなぎ目が割れてしまっている。出発して８ヶ月。野宿の回数も余裕で１５０回は越えているだろう。２年は持つと予想していたが、こんなところでポールの破損とは予想外だった。変形したテントの中で私はうずくまって寝た。 翌日、雨の中の濡れたテント内で最悪の朝を向かえた。どこからか雨水が漏れ、テント内はびしょびしょ。テントは壊れる、雨には降られるはで、たかがポールの１部分が壊れただけなのに、ショックは大きかった。 濡れたテントでパンにかじりついていると、地元のおじさんがバナナ１房にヤシの実を３つも差し入れに来てくれた。１つの椰子の実は飲み干し、もう２つは私の自転車ボトルに入れてもらうことにした。辛いときにこうした地元民の優しさはたまらない。心底感謝してしまう。また、私がテントを畳みながら折れたポールのことを心配していると、おじさんも気遣ってくれたりした。
ドミニカ 嬉しかったバナナと椰子の実の差し入れ。  こうした地元民の優しさに出会えるから、また元気が出て走れる。 島でみるフルーツはたくさんあった。これを採って食べればしばらくはこの島でも生きていけそうな、それほどたくさんのフルーツを目にした。栽培しているものから、自生しているものと色々だ。
ドミニカ 道沿いからは多くのフルーツを見ることができる。 
ドミニカ この国は坂が多くとても険しい。生い茂った緑が印象的だった。 
ドミニカ こんな風変わりな植物も目にした。 
ドミニカ 島の道路脇から見る小さな風景。そのまま飲めそうな気もする。  パパイヤ、マンゴー、グレープフルーツにバナナに椰子の木。恵まれた、自然豊かな島であることが伺えた。一方、走る道はカリブの島の中でもドミニカ共和国の山道についで、険しくハード。もちろん舗装はされているので、その点は楽だった。苦しかった坂は、腰を上げて思いっきり渾身の力を込めて走っても２００ｍ続かず、途中で足をついてしまったほどだった。
ドミニカ 緑の多かったドミニカの道。  途中、グレープフルーツの木を発見。自然になっているように見えたので、これをもぎ取って汁をチュウチュウとすすった。種がいっぱいで、さすがに店で売られているようなおいしいものではなかった。でも、とてもナチュラルな味がしていた。 もっと時間があれば、自然いっぱいのこのドミニカ国をくまなく見て歩きたい。しかしあっという間に一周も終了。わずか３泊の旅も終わり。再びカンフィールドの空港に戻ってしまった。楽しく充実した時間と言うのはこんなものだろうか。 空港すぐ近くのホテルに陣取って、私は心配種のテントポールの修理作業を行うことにした。首都のロゾーへ行き、ここで大工さんが使うドリル、あの先端の交換ドリルをテントのポールの接続部に補い、これでしばらくテント設営を行うことにした。あてがってみると、なんとか使えそうなので安心した。更に補強するために針金もグルグル巻いた。 宿ではオーストリア出身のゴンタ氏と出会った。本当にこの「ゴンタ」という名前らしい。だからゴンちゃんと私は呼んだ。 彼の自転車のスポークが破損していたため、２人で必死に直そうと試みたが、特殊工具がないので無理だった。 レストランで２人で食事しながら旅の情報交換をした。彼は帰国したらスキー場で仕事をして金を貯め、今度は南米を走りに行くのだと張りきっていた。南米のどこかでまた会えるといい。
ドミニカ オーストリア出身のサイクリスト、ゴンタ氏に出会った。 
ドミニカ 宿を出発するゴンちゃん。  翌朝、ゴンちゃんが私の部屋をノックした。これから南方目指して、島を走り始めるのだと言う。それにしてもこんな小さな島を私と同じように４つものバックをつけて走るサイクリストに出会えるとは嬉しかった。彼と記念写真を取って、お互いの旅の検討を祈り、ここで別れた。 私は短かったドミニカ走行を振り返りながら、次なる国、セントルシアにと向かった。もっとゆっくり走りたい。でもそんな走り方をしていたら２０年たっても自転車世界一周は終わらないかもしれない・・・。
ドミニカ カリブ海の島々は本当に早足で駆け抜けていった。 
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