第５０話 ９カ国目 アンティグアバーブーダ 「美しすぎたビーチ」  「ここは楽園！美し過ぎたビーチがアンティグアにあった。」
アラスカ出発１９９２／４／１〜アンティグアバーブーダ１９９２／１２ アンティグアバーブーダ出国までの走行距離 約１７５７２ｋｍ 
カリブ海走行 １９９２／１０／１６〜１９９２／１２／１９ 走行距離 約３７２５ｋｍ 
アンティグアバーブーダ走行 １９９２／１２／２〜１９９２／１２／５ 走行距離 約１０４ｋｍ  |
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２０００年１２月２日。セントキッツ島からアンティグアバーブーダへ向けて出発する。荷物の超過料金は無し。荷物検査はエックス線でなく手探りだ。タックスを払っていよいよ飛行機に乗り込む。 機体はまるでセスナ機のように小さく、こんなプロペラ飛行機でカリブの小島を行き来するのかと思うと恐ろしくもなる。ちょっと風が吹けば空中回転して機体がバラバラ。あっという間に墜落してしまいそうなそんな機体だ。操縦士は地元黒人パイロット。サングラスが良く似合っていて格好いい。 乗客数名は、パイロットの操縦する様子をそのまま見ることができるため、離着陸のときなどは彼の操縦に注目が集まる。搭乗客は通路側に身を乗りだし、離陸操作の一つ一つをまるで確認するように見入っていた。 機体は風にゆらゆらとあおられながら、カリブ海上空を飛んでいく。１時間も乗ってはいなかったかもしれない。高度を下げる機内から島を眺めると、完璧な美しさの「コバルトブルーの海と白い砂浜」が広がっていた。 「ここがアンティグアバーブーダって国か。…きれいだ。」 無事に滑走路に着陸すると、地元搭乗客らしきおばさんは拍手をして喜んでいた。 アンティグア島とバーブーダ島、それにレドンダ島からなる小国。私が降り立ったのはアンティグア島。一周しても走行距離は１００ｋｍにも満たないような小島だ。 イミグレーションでは滞在先だけのチェックを受け、無事に入国。税関職員の応対は最悪で、机の上に両足を「ドン」と乗せた男がふんずり返って受け答えをしていた。 「その大きなバックの中身は何だ？」 「自転車です。」 「自転車？」 「そうです。」 「まあ、いいだろう。行け。」 ってな具合で無事に通過。そして空港の外に出た。 観光客が多いらしく、割と開けた空港のようだ。自転車組み立てに１時間を要し、午後の４時に島１周に出発することにした。 レンタカーのオフィスで１ドル払って買った、簡素な手書きの可愛らしい地図を眺めコースを検討。島全域の図を広げてみても、とても小さく、手で雑に測っても南北が２０ｋｍ、東西もやはり２５ｋｍもない。１日費やせば隅々まで走れそうな手ごろな大きさだ。この小さな島に国家が成り立っているとはちょっと信じ難い気もする。 この島の通貨もセントクリストファー同様、イーストカリビアンドルという通貨が使われていた。買い物をする度にまたエリザベス女王の素敵な笑顔（？）にお目にかかれるのだ。
アンティグアバーブーダ この国の紙幣もやはりセントクリストファーと同じ。  走りながら野宿地探しに励むことにした。ひと気のない砂浜で星空を見上げ、さざなみに耳を傾けながら・・・。ここには楽園があるかもしれない。 私はできるだけ海岸に近い道を選びながら、時計回りで走り始めた。
アンティグアバーブーダ 島内の道。  ペダルを踏み出し、田舎道を走り出すと、子供たちが手を振ってくれていた。やはりこの島も黒人が多いようだ。 「メリークリスマス！」 と言いながら、一人の小学１年生くらいの少女が私の方に駆け寄ってきた。余り喜んで勢い良く走ってきた彼女は、途中で転んで泣いてしまった。せっかくの可愛い笑顔が泣き顔に・・・。何か手に大切な小さな紙切れを持っていたのだが、それも汚れてしまった。自転車を置いて、彼女を起してやると、 「ありがとう。」 と小さく泣きながら言った。クリスマス用のカードを渡したかったらしい。島の無邪気な可愛い少女との、素朴な出会いだった。 夕方５時過ぎに、海岸の、砂浜ではないが芝生の敷き詰められた、小さな牧場のようなきれいな土地を見つけた。 「こんなきれいな良いところにテント張って１泊できたらいいなあ。」 と思い、敷地内にいたオヤジさんに聞いてみた。 「自転車で旅行している者ですが、ここに１晩テントを張っても？」 「ああいいとも。」 とすんなりオッケーをしてくれた。男性の名はケイスブラウン氏。 「君は中国人か、それとも日本人か？」 「日本人ですが。」 と言うと、ボロボロの服を着たブラウン氏は、 「日本はたくさんのお金に、たくさんの車。それに服もいっぱいだな。テレビでも見たが、日本では犬や猫が服を着ているじゃないか。リッチカントリーだな。君も世界旅行でアジアやインドへ行けば、誘拐されちまうぞ。」 と笑って言った。 翌日、ブラウン氏に感謝を告げ出発しようとすると、パパイヤを持たせてくれた。 「気をつけてな。」 そう忠告してくれた。
アンティグアバーブーダ 「日本では犬や猫が服を着ているじゃないか。」そう言ったブラウン氏。  島の北東、ダイアンベイリゾートに着くと、 驚くばかりの白砂ビーチが広がっていた。その奇麗さには「ウー」とか、「ウワー」とか「ヒャー」といった言葉しか出てこなかった。私はそこで泳がず、腰をかけてのんびりした。
アンティグアバーブーダ 見ているだけで、それで満足できる美しい海だった。 
アンティグアバーブーダ まるで楽園のような島。 
アンティグアバーブーダ 木陰で一休み。  しばらくして、海岸から再び内陸の道に戻り、島南部のイングリッシュハーバー目指して走った。 途中のベセスダという集落で、食料を買うため小さな商店に入ったのだが、警戒の眼差しを浴びた。店の番頭と目が合ったので私は軽く会釈をした。すると彼らはちょっと笑ったかと思ったら、私の真似をしてぎこちなく会釈を返した。
アンティグアバーブーダ こんにちは、と会釈をすると笑われた。  「日本人？中国人？」 初対面で国籍を問われるのはしっくり来ないが、 「日本人です。」 と言うと、 「オオー、インテリジェンス、ハイテクノロジー。」 といった言葉を連発した。 「中国人の印象は？」 と聞けばなぜかは知らないが、余りいい印象は言わなかった。ようやく着いたイングリッシュハーバーには、白人連中がうようよしていた。そして、予想した通りたくさんのヨットが寄港していた。
アンティグアバーブーダ 欧米のヨットがゴロゴロしているイングリッシュハーバー。 
アンティグアバーブーダ イングリッシュハーバー。 
アンティグアバーブーダ 海岸線の風景。  ハーバーから更に内陸に入り、再び海岸線に出る。浜辺で戯れているのは欧米の若いカップル。それに老年のカップルもいる。孤独な自転車野郎に白砂ビーチはどうも不似合いだ。一人でこんな所に来るのはとてももったいない気がしてならなかった。 「私もいつかは連れ合いと・・・。」 きれいな海を見ながら、美しさに感動するよりは、孤独な寂しさを感じてしまうのだった。
アンティグアバーブーダ 美しいのは良かった。でも一人で寂しくないと言ったら嘘になるかもしれない。 白い砂浜を見つめながら、トボトボと海岸を歩いたりして時間を潰した。この夜はのどかなセントジョン近くの牧草地にテントを張って一夜過ごした。 １２月４日。セントジョンズの町を見学。中国系の人間も多い。英国の植民地時代の面影が、建物に現れている。独特な家の作りだ。
アンティグアバーブーダ セントジョンズの街並み。  こうした街で過ごすよりは、どこかの浜で旅の雑記でもまとめようと思い、島北西のランナウェイベイに向かった。
アンティグアバーブーダ 美しい海岸線はどこまでも続いていた。  俗化してない、古びたレストランを見つけたので、そこで断りをいれ、早速テントを張って陣取った。 テーブルを借り、 「海を見ながら雑記を書くのだ。」 と張りきって紙とペンを取り出してはみたものの、 「こんなところまで来て、雑記を書くなんてもったいない。」 と、勝手に休息日に変更。レストランでビールを買って砂浜でググっとやった。 「もうすぐクリススマス、それが終われば正月かあ。みんな、何やってるんだろう。元気かな。」 ３泊４日のアンティグア島一周は終わった。確かに美しい快適な島だった。しかし、自転車野郎一人ではもったいない。もう一度訪れるチャンスがあればそれはきっとハネムーンか・・・。いや、こんな遠くの島にはもう２度と来る事もないのだろう。 また一つの国を後に、私は１０カ国目のドミニカに駒を進めることにした。
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