第３７話 ３カ国目 メキシコ 「ユカタン半島へ」  「お、メキシコ富士だ？」 プエブラからオアハカに向けて
アラスカ出発１９９２／４／１〜メキシコ１９９２／１０ 現在の走行距離 約１４４９１ｋｍ 
メキシコ走行 １９９２／８／１３〜１９９２／１０／１６ 及び １９９２／１２／２０〜１９９２／１２／３０ 走行距離 約４３３４ｋｍ  |
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メキシコシティから、南東約１３０ｋｍのプエブラと言う大きな町を目指した。予備タイヤを２本抱え、飛脚号のペダルも幾分重くなったような気がする。しかし、ギアなどを交換したせいか、私の踏む力が以前よりもしっかりとペダルからチェーン、駆動部、後輪タイヤへと伝わっているようで、走り心地は極めて快調。 プエブラへ向かう途中は、３０００ｍ級の大きな峠があり、無理せず、この峠の山頂付近でテントを張って過ごすことにした。松林のような一帯は、メキシコのイメージとはまた少し違っていた。久々の高所のキャンプは震えるほど寒く、北米走行を思い出しながら寝袋にくるまって夜を明かした。北米が懐かしい。
メキシコ プエブラに向かう途中の３０００ｍの峠で野宿を決行した。  翌日、峠から下る途中で雨に降られ、湿ったゴアテックスのジャンパーを着込み、体をガチガチと震わせながら走った。しかし標高が下がるにつれ、気温も温かくなり、しばらく下っていると、無事に止んでくれた。プエブラでは宿泊の予定はなかった。郵便局に行って、出しそびれた手紙を出そうと思っていた。 街の中心地に着き、その辺の人に郵便局の場所を聞くと、 「ついて来なさい。」 そう言うと、自ら郵便局に案内をしてくれた。こんな人に出会うからまたメキシコ人を好きになってしまう。
メキシコ プエブラの街中を抜けて郵便局に向かおうとしていた。  郵便局から出て、走り始めようとしたその時、外で１人のスクーターにまたがった５０代そこそこのおじさんが、私の方を興味深く見ていた。どうも何か聞きたい様子で見つめているので、私が、 「こんにちは。」 と言うと、 「どこから来たんだね？いつもどうやって寝ているんだね。」 と聞いてきた。更に、 「今日はどこに泊まるんだ？」 と言うので、私は、 「今日はこの町を出て、どこかにテントを張るんですよ。」 そう言うと、 「今から街を出るのか？もう、こんな時間だぞ。良かったら家で泊まればいいじゃないか。」 おじさんは自分の時計を見つめながら私に告げた。上田さん宅ですっかり甘い汁を吸ってしまい、プエブラでもこんな調子で良いのだろうかと考えながらも、 「それでは、お願いします。」 と、結局お世話になることに決めた。メキシコではこうした出会いが、なぜこんなにも多いのか不思議でならなかった。すぐに人を招き入れてしまう国民性なのか。それとも日本人のみに対してだろうか。
メキシコ プエブラに住むベニテス氏に誘われた。  彼の運転する８０ccのバイクのあとを私はついて行った。ベニテス氏の家は４人家族で、奥さんと２人の娘さんがいた。１５歳と２０歳という学生。夜はお父さんをほったらかして、英語の話せる娘さんの車に乗せられ、レストランに行き、サンドイッチをご馳走になった。 今まで訪れた美しい場所や、アラスカでの雪の中での走行の思い出話等をして、再び彼女の運転で１１時半に家に戻った。帰ってからもベニテス氏に色々と聞かれるが、疲れているせいか、あくびが何回も出て仕方なかった。せっかく招待してくれるので、こちらも旅の楽しい話を提供しなければならないのだが・・・。当時は早寝早起きと言う自転車野郎特有の生活の日々だったので、遅くまで起きているのは結構辛いものがあった。しかしながらも、こうした触れ合いを繰り返していたこともあって、スペイン後は少しずつ、片言だが話せるようになっていった。 翌朝、ベニテス家の娘さんたちは、忙しそうに学校へと出ていった。日本の一般家庭と少しも変わらない、和やかな家庭の生活風景だった。朝食も頂いてしまった私は、よくお礼を言って、プエブラの町を後にした。
メキシコ 朝の多忙な時間帯「メキシコの朝」。学校へ行く前の娘さんも一緒に写真を撮らせてもらった。  交通マナーの悪さと言うか、非常識な運転が始まったのはこのプエブラを過ぎてからだろうか。もう最悪の運転マナーと言う他無かった。特にトラックなどは、私の横３０ｃｍから５０ｃｍの幅で駆けぬけていく。その運転する様は、まるで、 「ほらひくぞ〜」 と言わんばかりである。１台の車だけならまだしも、多くがそんな感じで走っていくからたまらない。 「バカ野郎ー！」 悪すぎるのにもほどがある。まるで酔っ払っているようじゃないか。ベニテス氏の娘さんの運転もそうだったが、歩行者がいても、強引に突っ込んでいくのは常のようで、完全なる歩行者非優先の交通社会がメキシコにはある。いい人たちなのに、なぜ運転が悪いのか。とにかく不思議。
メキシコ 遠くにまるで富士山のような山が見えた。  この最悪の交通社会を経験しながら、私はテカマチャルコという小さな村でテントを張らせてもらった。小さなガソリンストーブ（自炊用）を出して料理していると、村人がトルティーヤの差し入れをしてくれた。車の運転に腹を立てていたのが、嘘のように穏やかな気持ちとなった。村人の優しさに触れることもあれば、腹が煮えくり返るほど乱暴な運転をする人にも出会う。いずれも同一国民なのだ。もうちょっと運転マナー向上に努めてもらいたい。メキシコは良いような、悪いような。２ヶ月足らずでこの国を把握しようなどとは甘い考えかもしれない。
メキシコ 田舎の村でテントを張った翌朝、村人は私にパンを持たせてくれた。ありがとう。 
メキシコ サボテンの茂る中、道はまっすぐに伸びている。  ボコボコのアスファルトを走り、テウワカンという町に着いた。ここの町中でちょっと方向を失い、迷子になった。完全なる迷子ではないが、標識が消え、一本道を間違えて分からなくなってしまったのだ。周囲に目印の山などが見えなくなると、方向を失い易かった。１軒の店に入って主人にオアハカ方面の道を聞いてみた。 「え、オアハカに行くのか？あの道は山賊がでるぞ。」 そう、言わんばかり、ピストルで「バン」の仕草をするではないか。 言い方からしてどうやら本当らしい。 「でも、夜だけだ。」 との言葉にちょっと安心。 この日、コーカトランという小さな村に泊まることにした。いつものようにどこか民家の土地にでもテントを張らせてもらおうと思い、１軒の家を訪ねると、フレンドリーそうなオヤジさんが出てきた。 「今夜ここにテントを張らせてもらいたいんですが。」 私はすっかり言い慣れたセリフをおじさんに言った。 「ああ、いいよ、どこから来た？」 「日本です。」 彼の事を特に不安に思うわけでもなく、私はテントを張り、貴重品のみを持って近くのレストランに出向いた。３０分ほどで夕食を済ませて戻ってくると、主人は、 「２万５千ペソ払え。（約１０００円）」 と言う。 「？」 どうしたのだろう。あんなに親切そうだった主人の態度は急変していた。 「お金払うんですか？」 「そうだ。」 「どうして・・・。」 「ここは私の土地だからだ。」 急変した態度の主人に頭にきた私は、 「それじゃあ、移ります。」 すると、 「まあまあ、行くな行くな。」 私も言ってしまった手前、真っ暗な夜の８時位にテントを畳み、その場から立ち去る事にした。先ほど行ったレストランの脇の空き地を借りてテントを張らせてもらうことにした。ところが、荷物をまとめていると、あるものがないことに気がついた。 「・・・あれ、ない。」 それは２回目の盗難だった。いくら田舎と言えど、テントから３０分も目を離すなんて・・・主人を信用していたのがまずかった。私の大切な５リットルの水タンクは消えてしまっていた。主人に聞いても、 「そんなものは知らん。」 の一点張り。特注のボトルのキャリアにはあの日本から持ってきたボトル以外の物はぴったり合わない。全く同じボトルをメキシコで買うなど不可能。証拠もないのに、まさか主人を疑う訳にもいかない。目を離した私がバカだった。値段にしたらわずか５００円くらいかもしれないが、自転車旅行をしている私にとって、そのボトルの価値は１万円払っても惜しくない、それくらい重要な品だった。
メキシコ 盗まれてしまったボトル。キャリアにスッポリとあう５リットル水タンクはメキシコではまず入手不可能。  「やってしまったかあ。」 とりあえず、レストランの青年に訳を話し、コンクリートの場所でテントを張らせてもらった。
メキシコ 場所を移動してレストランの隣にテントを張らせてもらう。  翌朝、青年は私の為におじさんのところに一緒に抗議に行ってくれた。しかし、おじさんは、 「知らん、知らん！」 の繰り返し。青年の言うには、 「彼が絶対持っているだろう。」 と言う。結局、飛脚号専用ボトルは戻って来なかった。この２回の盗難で、メキシコの印象はかなり変わった。しかし、考えてみれば、わずか４０日間の間で２回の盗難だから、これはやはり盗難に遭う率と言うのは相当高いものなのだろう。ドロボーはやはり多い、と言うことになってしまう。 オアハカまでもう少しというクイカトランの町で、一休みすることにした。小さな商店に入り、買ったジュースをその場で飲んでいると、 「ここから先１０ｋｍ行ったところに村がある。ドロボーが出るから気をつけるんだ。」 そう言った。でも、変な話だが、それは警察だと言う。 「警察がドロボーなの？」 と、聞くと、そうだという。 「？」 しばらく走っていると、どこからか自転車に乗った少年が一緒に走りにやってきた。彼は、踏み切りの所に立っていた警察を指差して、 「奴らが、夜、ドロボーに変わるんだ。」 といった。ちょっと信じられないが、そう言う事らしい。 クイカトランの町で、商店に寄って、自炊をするための飯の材料を買うことにした。缶詰や牛乳にパン等を購入していた。そこで仕事帰りのおじさんにつかまり、とにかくビールを飲め飲めと、勧められるがままに頂くことになった。私の片言のスペイン語がおかしいのか、陽気な客や主人と、皆で酒を飲んで笑った。商店での時は過ぎ、いつのまにか夜の９時。おごってもらったビールの本数は６本。こんなに地元の方と楽しく酒を飲んだのは、このときが初めてだった。
メキシコ 小さな商店でビール６本。楽しく酔ってしまった。  商店の主は、 「今夜どうする？」 というので、 「どこか村の隅にでもテントを・・・」 と言うと、 「危険だから、私の家の中でテントを張ればいい。」 と、家の中のハンモックを吊してある、いい場所を提供してくれたのだった。
メキシコ 主人の好意で店の中の一角でテントを張らせてもらった。  この近辺はどうも本当に「山賊」が出るらしく、地元の人もしきりに、 「ドロボーに気をつけろ、気をつけろ。」 と教えてくれる。ただ、それは夜だけの事らしいので、私はその言葉を信じて、暗闇走行は避けた。
メキシコ お世話になったクイカトランの商店と主。  翌日もひたすらオアハカ目指し走った。クイカトラン南には予想しなかった、途轍もない長い峠があり、走っても走っても峠の頂上が見えてこないのでくたくた。道沿いですれ違う地元民に、 「山の頂上へはどのくらいですかね？」 と聞くと、 「だいたい２０ｋｍ位じゃないか。」 と、言った。峠の山頂らしきところからも、上ったり、下ったりしていると夕方の６時を回ってしまった。やっとレストランを見つけ、ここの広い空き地でテントを張らせてもらうことにした。温かい夕食を胃袋に入れると、 「うまい・・・。」 思わず言葉がもれた。それと共に、上りの疲れがどっと出た。 夕食を済ませテントを張っていると、おばさんがやってきて、 「地面が凸凹だから・・・」 そう言うようなことを言って、私に厚手のござを持ってきてくれた。これを敷くと凸凹も少し緩和された。気配りの効く優しいおばさんに感謝。
メキシコ ほとんど山の山頂付近にあったレストランで。 
メキシコ 山頂付近のレストラン。とても温かなおばさんがいた。 
メキシコ レストランの前で。  イルマ先生の勧めてくれたオアハカに到着したのは、１９９２年９月２２日。今回は険しい山道をずっと走ってきたので、少々疲れ気味だが、この町で洗濯に手紙書き等を行うことにした。お湯も出なければ電球も切れている宿で１４００円。なぜこんなところに投宿を決めたのか納得いかないが、ここの宿で雑用を済ませた。 ここオアハカでは盗まれてしまった５リットルポリタンクの代わりになるようなボトルを探さなければならない。インディヘナがたくさんいる活気ある市場の売場をくまなく見て歩いたが、今ひとつしっくりくる物は売られていなかった。 オアハカでもやはり出会いはあった。それは、たまたま入ったレストランでのことだ。
メキシコ 小さなレストランでタキートスを食べに寄った。  ここで食べたタキートスは絶品で、病みつきになってしまった。直系は１．５ｃｍくらいの円柱の、いわば「メキシコ版春巻き」といった感じの食べ物。長さは１０ｃｍくらいだろうか。中にはひき肉や玉ねぎ、アボガドやメキシコ独特のスパイシーチリソースも入っている。１本４０円と安く、私は一度に１２本も食べてしまった。
メキシコ 絶品のタキートスは絶品でストランカリフォルニアにて。  ここの主人は以前にアラスカに行ったことがあると言い、名前はホセヒメネス氏。彼とは旅の話で盛り上がった。 「私がアラスカにいるとき、やはりアメリカ人に親切にされたよ。」 そう言うと主人は、 「明日ホテルを出てここに来なさい。小さな寝場所があるから、ここで寝ればいい。モンテアルバンにも観光に行くんだろう？」 私はホセさんの好意に甘えることにした。
メキシコ カリフォルニアの主人の好意でここのベッドで寝かせてもらった。  オアハカからちょっと山を上っていくと、モンテアルバンの遺跡を見ることができる。荷物を付けずに自転車で軽いサイクリング気分で出かけた。古代都市モンテアルバンの遺跡は、北米の大自然の美しい地形などとはまた違う、古代の神秘の魅力を私に見せてくれていた。遺跡に、敷き詰められたような芝生の緑と、どこまでも続く空。古代のロマンの世界へと引き込まれて行く思いがした。
メキシコ モンテアルバンの遺跡で。 
メキシコ モンテアルバンの遺跡。 
メキシコ モンテアルバンの遺跡。 
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