第３５話 ３カ国目 メキシコ 「ああ、イルマ先生」  サカテカスでお世話になったイルマ先生（３１）とオリン君（６）
アラスカ出発１９９２／４／１〜メキシコ１９９２／１０ 現在の走行距離 約１４４９１ｋｍ 
メキシコ走行 １９９２／８／１３〜１９９２／１０／１６ 及び １９９２／１２／２０〜１９９２／１２／３０ 走行距離 約４３３４ｋｍ  |
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ゴメスパラシオの町を抜けると、再び交通戦争は始まった。ボコボコの穴が多いアスファルトに黒い排気ガス。カナダで出会ったエリックは、メキシコシティはスモッグがひどいと言っていたが、これらの車が町中を走り回っているとなれば、相当ひどいものなのだろう。
メキシコ ボコボコのアスファルトを今日も駆けていく。  クエンカメという町を走り去り、少し南に行ったところに小さな村があった。 「今夜はどこかこの村で野宿でもできればいいけどな。」 村内をうろうろしながら野宿に適した場所を探していた。村の隅の方の空き地を一晩借りて寝ることに決め、通りすがりのおじさんに断りを入れると、 「ああ、問題ないよ。」 とのこと。早速テントを張って、野宿準備に取りかかることにした。私はすぐに眠るつもりでいたのだが、どこからやってきたのか、次から次へと村人が集まって来てしまい、そのうちに井戸端会議みたく、私のテントの周りで始まってしまった。おじさんたちは私がスペイン語を話せるものだと、容赦無く質問を浴びせてくる。 「どこから、どこへ？なんで自転車？・・・」 疲れて走ってきて、早く休みたいときに訳の分からないスペイン語で矢継ぎ早に聞かれる事ほどしんどいものはない。何とか応対をしていた。その中でも、真剣に私の目を見て話すおじさんがいて、 「うちのムチャチャ（娘）をどうだ？」 と、変なジェスチャー混じりで胸で十字架を切って、 「家に来なさい。うちの娘と・・・」 それは親の求婚だった。（らしい・・・）
メキシコ 私も夜の井戸端会議に参加。「うちの娘をどうだい？」  必死に誘ってくれたが、私も疲れており、テントも張ってしまっていたので、 「おじさんの言ったことは分からないよ。」 といった振りをしてしまった。日本人は金持ち、との印象が小さな村ではあるのか。しかし、確かにおじさんは、 「うちの娘とカッサールセ（結婚）してくれ。」 と、言っていた。 ヒメネスから狭まった道は相変わらず続いていた。車の風圧に凸凹のアスファルト。車はこれでもかとうるさいクラクションを「プップー」と鳴らしている。 「このー！！」 と怒っていたところ、それは、 「ガンバレー」 の合図らしく、助手席の人が後ろを振り向いて大きく手を振っていたりする。そして時には１台の車が止まって、 「これ、飲んで頑張ってよ」 と、昔懐かしい「ドクターペッパー」というジュースの差し入れをしてくれたりもした。運転はとんでもなく荒い。しかしながらもメキシコ人は温かく陽気で親切。 「車の運転さえよければ、きっともっといい国なのに・・・。」 メキシコを走りながら何度もそんなことを考えていた。
メキシコ 大き目の街、サカテカスマではもうすぐ。  フレスニージョの町を目指して走っていた日は最悪だった。坂に車に風にパンクと苦しめられ、 「あー、うー」 などの連続。結局目指したフレスニージョの町に着く事はできずに、町の手前にあった「アリエス１９」というレストランで夕食をとることにした。ここのレストランに入ると、彼らの対応がどこか違っていた。聞いてみれば、以前に日本人の太田さんというサイクリストが寄っており、一緒に食事をし、一泊して、更に日本に帰ってから写真をたくさん送ってくれたのだと言う。どうりで親切な訳だ。彼らと３時間も話し、スペイン語の勉強までさせてもらった。 「今晩隣の庭でテントを張ってもいいですか？」 とジェスチャー混じりで聞くと、 「ああ、いいとも」 と快く返事をくれた。
メキシコ フレスニージョの町の手前でお世話になったレストラン「アリエス１９」の家族の皆さん。  飯代を払おうとすると主人は、 「いらん、いらん。」 と手で「ノー」のサインを出した。太田さんが良くしてくれたお陰で、私まで良いおもてなしを受けてしまった。太田さんの印象はさぞ良かったのだろう。翌日、 「必ず写真を送りますから。」 と言って、レストランをあとにした。
メキシコ レストラン「アリエス１９」の家族。  走り始めたは良いが、どうもメキシコに入ってから辛いものが続いているせいか、腹の調子はすぐれない。時々道路端に自転車を止めては、サボテン林の中に駆けこむ始末。辛いものばかりではまずいと思いながらも、そんなメキシコ料理がうまいので、ついつい食べてしまう。 ８月の２８日、サカテカスと言う町に着いた。
メキシコ サカテカスの街に着いた。  ここで私は初めてスペイン語でのユースホステル探しに挑戦することにした。ユースの住所は控えているので、大体の場所は分かるだろうと予測していた。サカテカス市内をウロウロと探し回り、近くまで辿りついたものの、あと１歩というところでどうしても分からない。 「確かにこの辺のはずだが・・・。あ、ちょっと。」 調度目の前を通った３０前後のおばさんともお姉さんとも見分けのつかない女性に聞いてみた。 「ウステー、コノセ、エステアドレス？（この住所知っていますか？）」 「ノー。（いいえ）」 そっけない答えで行ってしまった。どうしようかと悩んでいると、さっき「ノー」と言った女性は再び戻ってきて、私に、 「英語は分かりますか？」 と言うので、 「ええ、少し。」 と答えた。 「旅をしているの？良かったら家に来ません？私はこれから学校の授業に行きますが、もし良かったらここに午後の８時にまた来てください。よろしい？」 「あ、はい。でもいいんですか。」 「ええ。それじゃ、また８時にね。」 そういうと彼女は去っていった。 「・・・。」
メキシコ 家に誘ってくれた女性。  考え直してみれば、このとき自分が交わした会話はまるでウソのような、できすぎた会話のようでならなかった。そんな簡単に見知らぬ人を誘うものだろうか？しかも彼女は女性だった。彼女は私の国籍も身の上も知らないはずじゃないか。それに初対面だ。そう考え直すと、自分の今した会話は信じられず、もしかしたら言葉だけで夜の８時になんて実際には来ないのかも知れない。 「待てよ、でも、本当に来るかもな。先生って言っていたな。」 私は彼女を疑っていいような、信じていいような、複雑な心境で午後の８時まで待つことにした。それまで時間はたくさんあったので、再びユースホステル探しを行うことにした。近くにいた青年が私の風変わりな姿を見て、興味深げに聞いてきたので、 「実はこの住所を探しているんだ。」 と住所を見せると、少年はその場に連れていってくれた。しかし、そこはユースではなく、何か違う施設にと変わってしまっていた。午後８時。薄暗くなった頃、約束の場所に彼女はやってきた。 名前はイルマ。３０歳。大学で講師をしていると言った。イルマ先生は私を連れて、歩いて１０分ほどのところにある自宅に案内してくれた。３人家族で、家ではオリン君という小学校１年生の子供が元気にはしゃいでいた。旦那さんは隣町のアグアスカリエンテスの日産の工場に研修に行っており、夜遅くに帰ってくるだろうと言った。私は英語を話せるイルマ先生に、ちょっとスペイン語を教えてもらうつもりでいた。それはちょっとで良かった。しかし、先生は容赦せず、 「英語とは別に考えなさい、これは女性名詞。これは男性名詞。いいですか。」 スペイン語の「ス」の字もかつて勉強したことのない私にそんな風に言われてもチンプンカンプン・・・。先生のスペイン語レッスンは夜１１時半ころまで続いた。 「いつ出発するの？明日、あさって？」 翌朝、私が起きるとイルマ先生は滞在を勧めてくれた。 「えーっと、じゃあ、明日に出発します。」 と私。昨夜帰ってくるはずの主人はどうしたのか、帰って来なかったようだ。彼女に聞いても、それを心配している様子はなかった。
メキシコ イルマ先生と子供のオリン君。  「洗濯物は？」 と、イルマ先生は言うので、私は遠慮無く、彼女に洗濯物を渡してしまった。オリン君が学校に行ったあと、私はイルマ先生の案内でサカテカスの街の観光をすることになった。石畳の情緒ある町を歩き、きれいな博物館に行き、彼女の勤める学校にも足を運んで案内してくれた。
メキシコ サカテカスの街中の案内を受けた。 
メキシコ イルマ先生は、大学の講師だった。 
メキシコ 街を案内してくれたイルマ先生。  お昼には安レストランでチキンを食べ、路地裏の野菜屋ではデザート代わりにサボテンの実を食べた。最初は何かと思った。まるでキューイのように甘く、そしてよく冷やされており、 「うまい、うまい。」 と夢中になって食べたが、このサボテンの実を食べ過ぎたら、腸に種がつまって大変な目に合うのだと後で知った。値段は５個で８０円。夕方までくたくたになるまでイルマ先生は町を案内してくれた。やはり、ゆっくり町を見て滞在するのはいいなあ。いつも「前進、前進」と、走ってばかりの私は、たまにはこうしたのんびりの観光もいいと感じた。 翌日、８月３０日。結局私はイルマ先生の旦那さんと顔を会わせることなく、サカテカスを離れることになった。主人がいない間に見知らぬ自転車野郎がお邪魔したというのもなんだか変な話だ。 「それじゃ、お世話になりました。御主人にも宜しく。写真は必ず送りますから。」 するとイルマ先生は、 「行くの？」 と、やはり悲しげな顔をした。こうして悲しんでくれるのはメキシコ女性の常なのか？と私は思いつつも、 「ええ、ゆっくりさせてもらいました。」 イルマ先生は、 「町の中は分かりずらいから、途中まで送っていってあげる。」 と言った。 「いえ、大丈夫です。」 と言ったが、見送ってくれるというので、私は彼女に従った。 「これから南に行くのね。オアハカと言う町にはきれいな遺跡があるの。マチュピチュみたいな、きれいな遺跡よ。」
メキシコ イルマ先生の住んでいた家。  町外れまで歩いて送ってくれるイルマ先生の姿は、どこか少女のようで幼さが感じられ、６つも年上とは思えないほど可愛げがあった。とても大学で物を教えている人には見えない。 先生の家を歩き出し、既に４０分程が経過していた。大きな分かれ道に立つと、イルマ先生は、 「・・・アディオス」 そう名残惜しそうに言った。別れの挨拶の時はやってきた。よくメキシコ人が町で交わしているアラブ人同士のやり取りをイルマ先生とした。彼女の右頬に私の右頬を、彼女の左頬には私の左頬を。それと同時に彼女の背中を両手でポンポンと軽く叩いた。頬っぺた同士の普通の挨拶で終わると思ったその瞬間、イルマ先生は私の口に、 「チュっ」 っと軽くキスをした。なんだか、すっかり私は照れてしまったが、これはメキシコでは普通の挨拶なのだと納得していた。私は大きく手を振り、イルマ先生に別れを告げた。中南米の挨拶のことを詳しく知ったのはそれからしばらくしてからだった。頬っぺたと頬っぺたを合わせるのは普通だが、唇と唇は恋人同士しかしないのだと言うのだ・・・。 「それじゃ、私がイルマ先生と交わした挨拶は？」 彼女にとっては私は意味深げな存在だったのだろうか。その話を聞いたときはしばらく考え込んでしまった。イルマ先生は、私の一筆帳にこう書いてくれた。 「この家はあなたの家。いつでも好きなときに戻って来なさい。」 今度は私の家族を引き連れて是非、訪れてみたいと思っている。 それにしてもメキシコに入ってからは、フレンドリー過ぎる人々に出会ってばかりだ。毎日がハプニング続きじゃないか。 リンコーンデロモスと言う町に着いてからも出会いは続いた。ホテルを決め、たくさんの自転車の荷物を運んでいると、 「君、英語は話せるのかね？」 ４０代のおじさんが私に聞いてきた。 「はあ、少し。」 「どこから来た？日本か？そうか、それじゃ、私は隣のアグアスカリエンテスに住んでおる。明日、町に着いたら電話をしなさい。私が日産の方とコンタクトを取ってあげるから。」 アルトロさんというそれは元気なおじさんに出会ったのだった。 翌朝、そろそろ限界だろうと、後輪タイヤの交換を行うことにした。アメリカのフラッグスタッフで交換したタイヤだ。出発してこれでタイヤ交換も４本目と言うことになる。
メキシコ タイヤもここまで使う。  出発して４０ｋｍほど走ると、そこはアグアスカリエンテスという大きな町だった。直訳すれば「熱い水」あるいは「温泉」という名の町になるらしい。ここには大きな日産の工場がある。昨日の約束通り、私はアルトロさんに電話をしようとした。しかし、どうせならと、私は直接訪ねてみることにした。彼の家は小さな工場で、日産の工場に知り合いがいるとはまず思えない。しかし、彼はどのようにコンタクトを取ったのかは全く分からないが、市内の福地さんという日本人のお宅に案内してくれることになった。どうも日産に知り合いがいると言うのは嘘で、 「日本人が自転車で走っているから、どなたか泊めてあげてくれないか？」 ということを日産の大きな工場に電話したというのだ。そこでつながったのがメキシコ人女性と結婚した福地さんだった。日産でスペイン語通訳をしている福地さんからアルトロさんの気配り話しを聞いたら恥ずかしくなってしまった。忙しいのに、旅行者の面倒をわざわざ見てもらうなど申し訳がない。しかし、そこはあたたかなメキシコ人。自転車で旅している人を助けて上げたいと思ったのだろう。やはり優しい人が多いのだ。お世話になった福地さんは昔ベネズエラの日本大使館でも仕事をしていたと言い、中南米事情については色々と詳しかったので、いい情報収集にもなった。今でこそ違うが、福地さんがメキシコに来た頃は、日本人は神様のような存在だったそうだ。日本人はとにかくもてはやされたという。 そんな「メキシコ竜宮話」を聞くと、私が田舎オヤジに結婚をせがまれたことも、デリシャスの少女やサカテカスの先生が良くしてくれたことにも納得がいく。 「・・・そうか、日本人はもてたのか。」 福地さんは、 「今晩ちょうど、メキシコ人課長のお宅でパーティがあるんですよ。一緒に行きましょう。」 と誘ってくれた。まさか、こんな一夜になるとは思わなかった。この日は福地さん宅のベッドで横になった。 翌朝、福地さんのメキシコ人奥さんは、なんと、ご飯、味噌汁、卵焼きと言った日本食を出してくださった。日本食、味噌汁はカナダ以来だろうか。半年振りのその朝食はうまかった。懐かしい日本の味がしたのだ。 福地さんにお礼を言って、今日も出発。メキシコシティに向け気合も入る。
メキシコ まだ建築中の福地さん宅でお世話になった。ゆくゆくは日本食レストランをやりたいとのことだった。  日産の工場の横を通ったが、２８ミリのレンズなどではとても端から端までファインダーには入らない、馬鹿でかい工場がそこにあった。これだけの工場で働くメキシコ人の雇用を生み出しているのだから、日本人が好かれるのは更に納得がいく。
メキシコ 右側に大きな日産の工場がある。  イラプアタと言う町からは、再びアウトピスタと呼ばれるおおきなハイウェーが出現した。しかし、自転車は通行禁止と表示が掲げてある。
メキシコ まるで高速道路のよう。  「すみません、メキシコシティに行きたいんですが・・・」 係官にそう言って、通してくれないか聞いてみると、 「自転車で？んー、まあ、いいだろう。」 と、軽く許可してくれた。この程度の規則なので、安心するやら不安になるやら。 フアレスの町に着き、ここで１０００円と言う宿を見つけ投宿した。が、ここは汚いの極地で、洗ったかどうか分からないシーツにトイレシャワーが共同で外から丸見え。これで１０００円は高いなと感じた次第。
メキシコ １０００円の宿。 
メキシコ この壁にこのベッドあり。アフリカの宿はもっとすごいのだろうか。  そんなフアレスの町からようやくケレタロの町に到着した。ユースホステルを探すべく、町をウロウロし、その辺にいたタクシーの運転手に聞いてみた。 「この住所を知っていますか。」 すると運転手は、 「この道をあっちだ。」 と言うので、 「あっちですね？」 と言って、私は走り出そうとした。すると運転手は不安に思ったのか、 「オレについて来い」 とジェスチャーで示した。まったく、親切な人ばかり。大きな教会の横の大きなスポーツセンターの中に入っていくと、やっとケレタロのユースに辿りつくことができた。タクシー運転手が面倒をみてくれなかったら、とてもじゃないが一人では辿りつけなかっただろう。 ユースに到着すると、同部屋に香港人が泊まっていた。名はフォンチュンさんという。すっかり気が合い、我々はスペイン語やメキシコについて話した。 「いや、日本人にとったら、聞き取りやすいし、話しやすいよ。」 文法はともかく、発音に限って私がそう言うと、フォンチュンさんは、 「いや、スペイン語発音は難しい、ブエノシュディアーシュ・・・」 彼らにとったらスペイン語の発音と言うのは結構大変らしかった。
メキシコ ケレタロの街の様子。  このケレタロで新聞社への雑記をまとめることにした。家への連絡も久々にしようと電話もかけることにした。 「あー。もしもし？オレオレ。」 「！！あら剛？剛？元気？無事だったのね。」 「元気だけど？」 「今、５分前にメキシコ大使館に電話したところなのよ。」 「どうして？」 「だってもう、２ヶ月近くも連絡がないんだもの・・・」 １ヶ月毎に家には連絡を入れる予定、いや約束をしていたのをすっかり忘れていた。それで、つい５分前に領事の方に連絡したと言うのだ。私はその直後に家に電話をかけたので、母は、 「これって、きっとテレパシーって言うのかしらねえ、やだよー、良かったわーほほほー。」 と電話の向こうから聞こえてきた。私も領事の方に「自転車旅行者が行方不明！」などと言われるのは困るので、早速電話を入れたのだった。 同部屋だったフォンチュンさんは旅好きで、既に４０カ国を旅しているという人。パスポートを盗まれた話や、イランやクウェートの話しは興味深かった。中でも、北欧の美しさは強烈だったらしく、 「あそこは美しすぎる・・・」 と言っていた。今から楽しみだ。 ケレタロでは雑記書きなどの雑用も行っていたため、４泊の滞在となった。そしていよいよ、メキシコシティへと向かっていったのである。北部と違い、昨今のアウトピスタは走りやすく、おまけにメロン山積みのトラックが走り去ったときなどは、「プ〜ン」とメロンのいい香りがして、私の走る気力をもかき立ててくれた。 メキシコシティへと向かう途中で、一軒のレストランに寄って昼食を食べた。ここで同じ時間帯に食べていた、修理工のおじさんに見事につかまり、スペイン語レッスンが始まってしまった。まさかと思ったが、おじさんは色々と私に聞いてくる。走りよりも触れ合いや会話が優先、と私もおじさんを必死に相手する。結局、紙と鉛筆で２時間を費やしてのコミュニケーション。最後には近くにいた少年も、 「これを持っていってよ。」 と、１ｋｇ弱はあるような鉄の灰皿を思い出に持って行けという。面白い、というか面倒見の良い人が非常に多い。この日、メキシコシティには着けずに、６０ｋｍ手前でテントを張って過ごすことにした。
メキシコ シティ手前６０ｋｍの所にあったレストランの空き地でテントを張らせてもらった。  メキシコ人はとにかく陽気で明るく、親切。盗難もあったが、私は次第にこの国が好きになっていった。 そして、１９９２年９月１０日。メキシコに入国してほぼ１ヶ月。首都メキシコシティに到着したのだった。
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