第３０話 ２カ国目 アメリカ 「国立公園巡り」  グランドキャニオンからジャコブレイクへ向けて。 イギリスのナイジェル（１９歳）と。
アラスカ出発１９９２／４／１〜アメリカ１９９２／８ 現在の走行距離 約１０６９０ｋｍ 
アメリカ走行 １９９２／５／３１〜１９９２／８／１３ 走行距離 約５３２６ｋｍ  |
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モニュメントバレーでキャンプしたその翌朝、日の出の写真を撮ろうと５時半に起床した。 「あ、おはよう。」 昨夜一緒に話したスティーブも写真を撮るべくすでに構えていた。昨日の夕日よりもくっきりとオレンジが出てくれたのが良かった。しかしモニュメント全体の色の変化は、朝日よりも夕日の方が角度的には見がいがあったかもしれない。
アメリカ 朝日の瞬間を狙ってみたが、今ひとつ？ 
アメリカ 昨日の日没の方が写真を撮るには良いアングルだったかも。  写真を撮りながらスティーブは、 「もし良かったら、ベルギーにも寄ってくれよ。」 そう言ってくれた。一晩だけの付き合いだったが、楽しく過ごせた。 日中は暑くなることは分かっているので、朝方にモニュメントバレーの中？と言うのか、テーブルマウンテンのような岩の麓を走ることにした。車道もあり、砂は多いが自転車でも充分走れる道だ。荷物は置いていったので楽な走行だった。
アメリカ モニュメントバレーのダートを走った。 
アメリカ 気分は西部劇。 
アメリカ ここの舞台に自転車と立ちたかった・・・。 
アメリカ ここがモニュメントバレー。  麓の走行を終えキャンプ場に戻って出発したのは午前１１時。気温は２５度。この時間帯にしては意外にも暑くなかった。
アメリカ キャンプ場を後に酷暑走行を始めることにした。  走り始めてすぐにアリゾナ州に入った。南にやって来るにしたがって日中の気温はどんどん上がっていく感じがする。アリゾナの看板だけを見ても本当に暑そうでたまらない。
アメリカ グランドキャニオンステイト、アリゾナに入る。 
アメリカ アリゾナ州へ。西部劇の舞台に立った思いだ。  途中で休憩などを取りながら、カイェンタとチュバシティの中間くらいの、何もない砂地にテントを張って過ごすことにした。この頃の私はあまり野宿することはなかった。しかし、このときは調度いい町もなかったので野宿を決行したのだ。主要道からは離れ、誰も来る気配はなさそうだったが、テントを張って間もなく、インディアンらしき地元民がやってきた。
アメリカ 野宿をしていたらナバホ族の人か、インディアンの顔つきをした男が声をかけてきた。  「ハロー」 「ハロー。」 しかしその後はどうしても言葉は聞き取れなかった。おそらくナバホの人だろう。私の顔は結構日焼けもしていたし、彼らの顔もアジア系に似ていないこともないので、きっと地元ナバホの少年に間違えられたのかも知れない。あの言葉はどう聞いても英語ではなかった。 野宿地からグランドキャニオンレクリエーションエリアに向かう途中の１２０ｋｍの区間は、ダートで車の通りも少ない。
アメリカ 怪しい天気の中を走って行く。  近辺は前述の通りのインディアンリザベイション区域で、砂埃舞うカイビトという町に着き、商店に入るとそこはまるで異国だった。周囲はインディアンだらけ。コロンブスが大陸を発見する以前は彼らがこの陸地を制していたのか・・・。今では白人に追いやられ、酒に溺れる人間も少なくないと聞いている。 インディアンリザベイションを過ぎてペイジの町に着くと、ボロボロ仕度のインディアンが私の方にやってきて、 「私はヒッチハイクでやってきた。２ドルくれ。」 と言う。私は何も言えず、彼から逃げるように立ち去ってしまった。欧州から白人がやってこなければ、今ごろ彼らはどんな暮らしをしていたのか。ふと考えてしまった。 ペイジの町から更に北西の方角に進路を取り、一路、ブライスキャニオンを目指した。かなりきついダートを経由し、今日もどこかで野宿だなあと考えながら走っていると、一台の車が私の走る姿をビデオカメラで撮っていた。しばらくして前方で停まり、 「コーク一杯、どう？」 冷えたコカコーラをくれた。暑い中で極冷えの缶ジュースはたまらず、一気に飲み干してしまった。この区域にはツェツェバエのような虫がたくさんおり、それらをパシン、パシンと潰しながら、ブライスキャニオンへの道を走っていった。
アメリカ ブライスキャニオンへ。  ブライスキャニオン国立公園は、赤茶色の侵食された岩がまるで作られた芸術品のようにある。あまり期待していなかった私は、このブライスキャニオンの美しさには絶句してしまった。
アメリカ 期待していなかっただけにその美しさには驚かされてしまった。 
アメリカ ブライスキャニオン。 
アメリカ 雄大な侵食の風景が目の前に。  中でもインスピレーションポイントの眺めには、 「ウォー。」 地元のアメリカ人も、 「ウォー」 と唸っている。グランドキャニオンを前にして早くも興奮してしまった。ここに２泊して山頂までの往復を走った。標高は２７００ｍ。荷物無しで軽快に山道を楽しんだ。
アメリカ インスピレーションポイントから見たブライスキャニオンの眺め。  ブライスキャニオンから南西に６０ｋｍ程行くと、ザイアン国立公園がある。ここに向かう途中でサイクリングツアーの一向に出会い、招待を受けた。キャラバンがサポートと休憩所の役割を果たしており、楽しそうなその一行は、ほとんどが３０歳以上の年輩の人だった。 「おい、少し休んでいかないか？」 中に入ってグレープフルーツやお菓子の提供を受けた。
アメリカ フレンドリーに誘ってくれたサイクリストグループ。 
アメリカ サイクリストの皆さんと記念撮影。  「今日はどこまで行くんだい」 「ザイアンまではちょっと厳しいですから５０マイルほど走ったらどこかに泊まろうと思います。」 「そっか、じゃあ、また明日ザイアン公園内のどこかで会えるかもね。」 「ええ。」 彼らにお礼を言って別れた。 期待したザイアン国立公園は、緑の低木と赤茶の岩と白色とのコントラストが美しかった。ブライスキャニオンに比べれば今一つだが、それでも公園を駆け巡っては写真を撮って歩いた。
アメリカ いよいよザイアン国立公園にと入って行く。 
アメリカ ザイアン 国立公園。 
アメリカ ザイアン国立公園。  公園内にはトンネルがたくさんあり、その都度係員はわざわざ私と飛脚号をバンに乗せて運んでくれたのだった。
アメリカ ザイアン国立公園。  国立公園内にこんな専属の係官がいてしっかりと管理運営してくれているというのは嬉しい限りだった。
アメリカ ザイアン国立公園。  １９９２年７月１７日、いよいよクライマックスのグランドキャニオンを目指した。ジャコブレイクから長い上りに下り。ヒーヒー言いながら走ってやっと駐車場に着いた。
アメリカ ここからは待望のグランドキャニオン。  たくさんの観光客に混じって、私もビューポイントに向かう。 「いやー。うわーっ。」 そんな声しか出なかった。テレビでもすごいなあ、とは感じていたが、やはり実物は吸いこまれそうで、２０分くらいその場にいたのだが、とても見足りなかった。景色を見て、深呼吸して、シャッターを切っては唸り、 「うんうん。来れて良かった、見れてよかった。」 と頷いていた。
アメリカ 本当に雄大な眺めがそこに。 
アメリカ 実際のグランドキャニオンの風景は本当にでかかった。 
アメリカ 谷底をのぞくと吸い込まれそうだった。  キャンプ場もあり、当然、ここに泊まることにした。 私がテントを張っていると、若そうな１人のサイクリストがやってきた。彼の名はナイジェル。イギリスからやってきた１９歳の若者だ。以前からアメリカを旅してみたくてやって来たのだという。そんな彼の自転車はスポークが所々折れ、ひどいもので、車輪がリムに擦っている。そればかりかキャリアのネジまで飛んでいる。 「これで走ってきたの？」 「ああ、そうだよ」 ブレーキがかかったも同然の状況で、これくらいのスポーク修理なら私にもできると思い、直してやった。 そうこうしているところにもう１人のスイス人、ピザと言う名の風変わりなサイクリストも加わり、３人でキャンプすることになった。たき火を囲みながら、 「ホームシックにはかからないのか。いつもの旅の１日の行動は？飯は何を食うんだ？」 などの話で盛り上がった。 良かったのは、隣の高校生のグループがたくさんの料理を差し入れてくれたことだ。 「これはいいなあ、食料だ、食料だー。」 と、ますます３人で盛り上がってしまった。
アメリカ 左からナイジェル（イギリス）、私、ピザ（スイス）。 
アメリカ グランドキャニオンのキャンプ場で。  翌日、私はケープロイヤルというビューポイントに向かった。往復で９０ｋｍあるが、荷物を付けていないので、らくちんこの上なしだ。一方のナイジェルはちょっとトレールを歩きに行くと言って出発していった。
アメリカ ケープロイヤルというビューポイントからの眺め。  この、９０ｋｍをかけて見に行ったケープロイヤルは絶景だった。しかし、私の不注意でこのときに大切な腕時計を落としてしまった。会社を退職したときに先輩や仲間からもらった大切な腕時計。９０ｋｍの道を探しても見つかるわけもなく、仕方なく諦める。２カ国目にして早くも大切な品を無くしてしまった。ショック。 グランドキャニオンに２泊した私は、ナイジェルと共にジャコブレイクまでの道を戻ることになった。
アメリカ ナイジェルと共にしばらく走ることになった。 
アメリカ 英国人ナイジェル。 １人より２人。辛い坂道も２人なら半減といったところか。やはり会話もあって楽しい走行となった。ジャコブレイクではナイジェルと再びキャンプ。２人で薪を集めて火を囲んだ。 「大地はオレのベッド、星空は大きなオレの屋根だ。」 ２人で寝袋にくるまってキャンプはいいものだと語り合ってしまった。 翌朝、ナイジェルと固く握手をして別れ、私は南下すべくフラッグスタッフ方面へと向かうことにした。
アメリカ コロラド川を越えてフラッグスタッフへ。  この頃、私が使っていたタイヤはすでにボロボロになっていた。アラスカを出発して前後輪とも２本目のタイヤに変えていたのだが、予想よりはるかに早い消耗でびっくり。何とかせねばと考えていたのだが、タイヤの減りは早かった。 アラスカから走っていた１本目は６０００ｋｍも保ったのに、２本目はその半分も持たなかった。予備タイヤのない状態で、なんとかフラッグスタフまではもってくれるだろうと思っていたが、やはり無理だった。穴ぼこのタイヤにチューブを巻いたり、テーピングのようなものを巻いたりと、四苦八苦したが、そんなもので２００ｋｍ先の町までは着けるはずもなく、２０ｋｍ程走ると、 「パン！」 と威勢のいい音と共にチューブは使えなくなってしまった。
アメリカ アラスカで８０００キロも保ったタイヤ。しかしあの頃の路面は雪。タイヤの磨耗は恐ろしく早かった。  「さあ、どうしよう。」 この炎天下。気温４０度近くの中で、少し歩いた。そして小さな集落に着いた。白人とは違ったインディアン風の人々が多い。日陰もあるので、ここで私は道沿いで拾ったトラックのバーストしたチューブをはさみで切ってそれをタイヤ全体に巻きつけて走ってみようと考えた。ここまでくると意地でもフラッグスタッフまでは、このタイヤで走ってやろうという気持ちになった。そこに地元のインディアンがやって来て、 「何やっているんだ？お腹減っていないか？」 と、私を家に呼んでくれ、冷たいミルクと肉にパンをくれた。そのうまさは忘れられない。
アメリカ 小さな集落で子供たちも私の様子を見にやって来た。  グルグル巻きのへんてこタイヤとインディアンミルクのおかげで、２００ｋｍ先のフラッグスタッフに無事到着することができた。フラッグスタッフに着いた私は、３万円相当の自転車部品を購入した。タイヤは、町中の自転車屋を探し回り、やっと自転車の飛脚号にフィットする台湾製の物を見つけることができた。ここで５本購入。他にもチェーンやギアやブレーキシューなども買った。メキシコでは購入できないだろうと想定して、メキシコの大使館宛で予備パーツを送らせてもらうことにした。出費は嵩んだが、またこれで何万ｋｍか前方に道が開けたようで、私の心には安心感が生まれていた。
アメリカ パーツ総点検。メキシコ走行にも備えなければならない。 
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