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第７０話 ２４カ国目 ペルー 「陽気で親切なペルー人と出会って」  セビチェを振舞ってくれたホセさんファミリー。 小さな商店を営んでいる。
アラスカ出発１９９２／４／１〜ペルー１９９３／９ ペルー出国までの走行距離 約２７７８４ｋｍ 
南米走行１９９３／３／１〜１９９４／６／２７ 走行距離 約２１６９７ｋｍ  ↓
ペルー走行 １９９３／４／２２〜１９９３／９／４ 走行距離 約３０４３ｋｍ（全南米走行距離の１４％）  |
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１９９３年４月２２日。無事２４カ国目のペルーに入国。イミグレーションでは３ヶ月の滞在許可をもらい、難無く入国スタンプを押してもらった。
ペルー ペルーとエクアドルの国境で。  ドルキャッシュをペルーの通貨「ソル」に両替して、早速ペルーの大地を走り出すことにした。
ペルー ペルー通貨「ソル」  国境をそのまま進むと軍の検問があった。ここでなぜか名前などを書かされる。何日か前にスイス人の自転車野郎が通過したと言うので、名簿をよくよく見てみると、エクアドルで出会ったギィさんだった。 「あ、やっぱりギィさんだ。先に入っていたんだ。」 それほど日数は経っていない。このまま走ればどこかで再会できるかもしれない。もっとも、彼の方が早ければ会うことはないかもしれないが。ギィさんに会えることで何か希望のようなものが私の胸中に湧いて出ていた。 ペルー入国にはしゃぎ、ギィさん情報を知って喜んだのも束の間、ペルー国境過ぎからとんでもない道が始まった。エクアドルのダートや泥道も大変だったが、ペルーの道はそれに輪をかけたよう。ダートを南に走っていると、道はそのまま前方にある川に向かって一直線。橋はかかっていない。しょうがないので、靴を脱いで自転車を担いで進んだ。 「やれやれ。」 と思い、そのまま走っていると、再び川。でもやっぱり橋はかかっていない。今度の川は流れも早く大きめ。偶然居合わせた子供たちはロバに乗って楽に渡っていたようだが、私は自転車の荷物を全部ばらして荷物を持って４往復。この先何回も川を渡らなければいけないのかと思うとうんざりしてしまう。
ペルー 彼らはロバと一緒に川渡り。私はここを荷物担いで４往復。  子供たちに橋は無いの？と聞くと、 「作っても流されちゃうんだ。」 と言った。車やバスなどは、豪快に川の中に突き進んでいく。１ｍ程の深さの水の中を進んで行く様は豪快。でもあれでは車も早く傷んでしまいそうだ。 初日、私はスーヨと言う集落に着いた。ここで４ソル（約２００円）という安宿を見つけ投宿。普通の民家のようで、「ほのぼの宿」と言った感じ。部屋に荷物を運び、ペルー全土の地図を眺めながらこれからの走行を考えた。 「果たして本当にこの国を縦断できるのだろうか。」 不安にさせられるほどペルーは大きい。国土は日本の約３倍。広大なこの国には砂漠もあれば５０００ｍ級のアンデスも、熱帯アマゾンも存在している。アンデスに砂漠。この標高差を考え始めるとどうも気が重くなってしまう。きっとハードな走行になるのだろう。 しかしながら、改めて地図を見てみれば、ペルーという国には豊かな自然あり、土地あり、文化遺産ありと、非常に恵まれた豊かな国であることには間違いはなさそうだ。とりあえず私はペルー入国をビールで乾杯した。 翌朝、部屋の外でお湯だけ沸かそうとストーブを出していると、宿の主人とおばさんが、 「お湯、良かったら、これ使ったら？」 と言ってくれたので、好意に甘え、沸かしてあったお湯を頂き、インスタントコーヒーを飲んだ。地図を眺めながらコーヒーを飲んでいると、今度はパンケーキの差し入れ。こんな小さな親切をペルー入国初っ端から受けると、この国の印象がとても良くなってしまう。
ペルー スーヨでパンケーキを出してくれたファミリー。  スーヨからタンボグランデ目指し、再びペダルを踏む。エクアドルのような、アンデスの山地からはかなり下ったために、パンアメリカンハイウェーもなだらかな道にと変ってきた。周囲は緑のジャングル。アップダウンは緩やかで、川には相変わらず橋はなく、道は走りやすい固まったダート。マウンテンバイクならこんな道は楽しいだろうなあ。などと考えながら南へ向かっていた。
ペルー 小さな川が次々に目の前に現れる。 
ペルー 走りやすいダート。昔私が雑誌で見たような道が目の前に伸びていた。  しばらく道を走ると、またも検問。入国してまだ２日目だと言うのに、ポリスチェックはもう５回目。その都度一々パスポートを見せては、言って良しの合図を受ける。これから先、やはりこんな調子でチェックが度々あるならば大変だろうと思いながら先へ進む。
ペルー ポリスチェックポイント。テロも多いせいか、チェックも頻繁。  ラスロモスまで走るとようやくアスファルトがお目見えした。 「やれやれ。」 途中寄った商店で少し休憩、地元民に道情報を聞いてみた。 「この先、道の具合はどんなですかね。」 すると、 「旧道はとてもすごいグチャグチャ道（という仕草をした）で自転車では大変。ピウラからは１号線よりも新道の方が走りやすいよ。」 とのこと。聞いて良かった。もし地図のみで進んでいたら、その「グチャグチャ道」を進んでいたことだろう。 彼らの言う通り、私は地図上の小さ目の道を走ることにした。ペルー人はどうも陽気な人が多いようで、同じスペイン語圏なのにエクアドル人とは接し方もだいぶ違う。私を見ると、まず彼らが口にするのがフジモリ大統領のこと。同じ東洋系の顔なので、 「フヒモリ、フヒモリ、スーアミーゴ！（フジモリ大統領はあんたの友達！）」 ってなことを言う。私も彼らに、 「実は私のおじさんなんだ！」 と、茶化してやる。この日はタンボグランデで一泊。
ペルー 地元民の道情報は世界中どこでも大切なのだ。「フヒモリ、フヒモリ」と、明るかった地元民。  朝方のタンボグランデの街中は活気付いていた。露天なども通りに出ており、３輪自転車などが、「パフパフ」とラッパクラクションを鳴らしながら、パンなどを売り歩いていた。街の活気を私も分けてもらったような感じで元気が出てきた。 目の前を行商のおじさんが通った。パンを売っているようなので、いくらか気いてみると１個５円。それならと６個買う。商店でジュースを買い、そのパンにかじりついて飯とした。
ペルー タンボグランデの街は活気付いていた。  しばらく走ると、今度は山のようにパパイヤを積んだトラックが通過。 「パパイヤどうだ？」 と聞いてくるので、 「あ、どうも。」 ただでくれた。そのパパイヤも半端でなく大きい。１７ｃｍほどの直径で、長さは約２５ｃｍ位もあるのだから、丸々食べるとパパイヤ１個だけでお腹が膨れてしまう。パンとジュースとパパイヤで、この日は朝から満腹状態。 タンボグランデからスジャーナヘ向かう。スジャーナの街では昼食に２人前。日中は３０度を越える暑さで、体力も消耗しているので、毎度ながらの大食い快進撃が始まってしまう。 食料補給も無事終わり、さあ出発するか、と思った頃に３０ｃｍ立方の発砲スチロール箱を抱えた少年２人が私の近くにやってきた。中に入っているのはアイスキャンディー。食後のデザートにどうだと言わんばかりで売りこんできた。何とも商売熱心な彼らの年齢は、察するところ１０歳、小学校３、４年生くらいだろうか。暑い中を飛びまわる少年の売り込みの熱意に負けて２個購入。 「１個５円で１日１００個売っても５００円の売り上げか・・・。」 仕入れ値だってあるだろうし、半分の儲けだとしても２５０円。暑い中１日飛び回って２５０円。私の父が豆腐売りの行商をして下駄スケートを買ったと言う昔話を思い出した。こういうハングリーな子供たちが大人になったら、きっと強い人間になるのだろう。迫力を持った子供たちに、私も渇を入れられる思いがした。 スジャーナの街は汚かった。今まで見てきた国のどの町よりもゴミゴミしている。でも、人が一生懸命生きている姿をたくさん見れた気がした。道路の分離帯の上では、鏡を広げて青空散髪している姿なども見受けられた。 気温３５度。午後になると気温はどんどん上がっていった。標高が下がり、エクアドルの時のようなハードな坂の心配は無くなった。しかし海抜も１００ｍほどの赤道付近と言うとやはり暑い。坂は無いが暑いのもまた叶わない。 ようやく大きめの町ピウラに着いたのは、午後４時過ぎ。ホテルに入り疲れを癒した。インフレの激しい国なので、街に着くたびにドルキャッシュをソルに両替。この日もピウラで両替。わずか数日しか経っていないのにやはりソルの価値は下がっていた。 ピウラを後に約２００ｋｍ南のチクラヨを目指す。地図を見るといかにも退屈そうで何もない道がずっと続いている。ちょっと道の情報を聞いておこうかと、商店に寄った。 「チクラヨまでの道なんですが・・・。」 すると、 「レストランも店もない、デシエルト（砂漠）だから、自転車で行くなら水や食料は持っていった方がいいだろうね。」 そう丁寧に教えてくれた。こうして小さな砂漠の中の道を越えて行くことになった。 ５ケのパンと５リットルの水、缶詰３ケで約２００ｋｍ弱の砂漠の中のアスファルト道を走り抜けて行くことにした。以前に聞いた通り、新道と旧道が分かれており、その分岐を右に曲がらなければならない。しかし標識もなかったので知らぬ間に通りすぎて旧道に入り込んでしまっていた。スタンドで聞いてみると、 「ああ、その分岐ならもう通り過ぎていますね。」 しょうがないので再び戻ってその分岐を探し、人に聞いてやっと正式なルートに辿りついた。それでもまだ自信がなかったので、小さな商店に入って確認した。 「こんにちは。この道はピウラに続く道ですか？」 「ああ、そうだが、どっから着たのかね。」 「日本ですが・・。」 「リマに行くのか？」 「ええ。」 「気を付けるんだぞ。」 そう言うと、店主は、 「セビチェ食べたことあるか？」 「セビチェ、何ですか、それ？」 昨日のレストランで、確かそんな発音のメニューがあったような気がする。しばらくして奥さんがお皿に盛られたセビチェとやらを持ってきてくれた。ぱっと見るとアジのたたきのようにも見える。食べてみるとしめ鯖のようだ。玉ねぎとレモン汁をかけて食べるらしい。生の魚を食べるのも久々だったせいか、とてもおいしく頂いた。あとになって思えばあのときペルーではコレラが流行っていたのだった。何ともなかったのでとりあえずは良かったが・・・。
ペルー 「セビチェ」を振舞ってくれたホセルイス氏と奥さん。 すっかりご機嫌になってチクラヨに向かった。途中に料金所もあったので安心して進んだ。しかしどうも辺りの様子が寂しいので、もう一度途中で見つけたスタンドに聞いてみた。 「チクラヨはこっちの道で？」 「いいや、これは違うよ。」 とあっさり。 「ったく、どうなってんだ？まともな標識はないのか？」 ブツブツ独り言を言いながら、また戻って今度は料金所のおじさんに聞いてみる。するとようやくそれらしい１本道を教えてくれた。料金所のおじさんなら間違いないだろう。今度は本物のような雰囲気。これで一安心。チクラヨに着けそうだ。
ペルー チクラヨに向けてはこんな半砂漠の道が続いている。 
ペルー 砂漠の中でも人々は暮らしている。のどかな放牧風景は私の心を和ませてくれた。  それにしても主要道のパンアメリカンハイウェーでこの始末。これからクスコやプーノを目指すのにこんな調子で大丈夫だろうか。山奥に行ったらきっと標識のない道なんてザラだろう。持っている地図も縮小が大雑把なので不安はなくもない。地理的な情報収集は早めに得なければ・・・。 ペルーは強盗等の話も聞いており、治安を少しばかり疑っていたので、この日はハイウェーからは見えない木の影にテントを張って過ごした。
ペルー 人の目につかない木の陰でテントを張って寝た。右側にパンアメリカンハイウェーが通っている。  家を出発して１年と調度１ヶ月。この日の朝食は「マカロニご飯たまねぎにんじん塩入コンソメ味煮込みおじや」（？）自転車野郎は朝からこんなものを食べるようになっていた。 殺風景な景観がペルーらしく、走りがいがあった。
ペルー 殺風景な土地。ペルー北部の砂漠地帯。私の知人はこの近辺でピストル強盗に遭った。  半砂漠の中のアスファルトを走っていると、前方から小さく自転車のようなバイクのような物が近づいて来る。ゆっくりでフラフラしているので、自転車だと確信。もしかしたら日本人のサイクリストか？ サイクリストの姿も次第に大きくなり私に近づいてきた。そして彼の姿を見てビックリ。６０歳は確実に過ぎているであろう老人。フランス人サイクリストだった。 「ブエノスタルデス！（こんにちは）」 世界一周とも言える彼の走行ルートはアジア、オセアニア、南米チリからアンデスを北上、そしてここペルーにやってきたという。私はすっかり敬服しながら情報を聞き入った。 「チリからアルゼンチンはアンデスを５、６回は横断したよ。」 との言葉にビックリ。フランスの老人サイクリストなどとはとてもじゃないが呼べない。グレイトの一言だ。 パタゴニアの風事情、ボリビアの道路事情の悪さ、ペルー山間部、クスコの治安の悪さなどを色々と話してくれた。 「クスコ行きの列車の中ではフロントバックをそっくりそのまま盗まれたよ。」 そう言われてみれば彼のフロントバックはなくなっている。 「あのバックの中には１番大切な品々が入っていたんだ。現金にパスポートにカメラ。そっくりそのままやられてしまったよ。」 ツーリストの多くがとにかくクスコは危ないと言っていたが、やはり本当なのだろう。 私も出きる限りの情報を彼に伝えた。メキシコもコロンビアも本当に良かった。でもメキシコでは盗難にも遭った、と伝えた。 何分間話していたのか分からない。すっかり息投合して砂漠の中で彼と情報交換に盛り上がった。それにしてもあの年でアンデスを横断、それも５、６回とは・・・。タフガイだ。
ペルー ペルー北部の砂漠、ピウラを過ぎて出会ったフランス人サイクリスト。クスコで貴重品の入ったフロントバックをそっくり盗まれてしまったと言った。  やはりペルーはあなどれないな。私もいつ彼のように盗難に遭うか分からない。急に恐ろしくなった。 この日は砂漠を抜けきることができず、砂漠の中で寝場所探しに苦労した。人に見られたら襲われるかもしれない。人目につかぬようにテントを張って寝るのが最善だ。しかし、こうした砂漠地帯では何にもない。砂丘の向こう側に行けば良いのだろうけど、そこまでするのも大変だ。もしかして、と思って考えついた場所は道路下の小さなコンクリートトンネル。これは人目にも付かずに絶好のねぐら。ここでこの日はテントを張って安心して眠りにつくことができた。
ペルー 道路下のコンクリートトンネル。ここなら人目につくこともなく、安心して快眠できそう。 
ペルー コンクリートトンネルから見た美しい？夕焼け。  昼は暑いが夜は乾燥しているせいか気温も下がり、寝袋を引っ張り出して、調度良い気温の中で眠れた。典型的な砂漠気候だ。昼も夜も暑かったら最悪。でも夜に冷え込んでくれるのは砂漠走行での唯一の救い。 昨日はフランス人サイクリストに出会った。そして、この日もまたグリンゴ、いや、欧州人に出会った。 前方から妙な頑丈そうなトラックがやってきたので、顔をしかめて前方を眺めていると、向こうもトラックのスピードを緩めた。手を振り、お互い旅人だと確信した後、それぞれの乗り物から降りて握手を交わし情報交換。こんな旅をしているのはきっとドイツ人に違いないと思ったら、やっぱりそうだった。夫婦でこんな車で南米を２年も旅するとは、いったい何者なのだ。けしからん。 戦車のようなトラックは、南米仕様のキャンピングカーとでも言えば良いのか、パンクなどとは無縁の固いタイヤを積んでおり、まさに無敵のキャンピングカーと言った感じ。砂漠や塩湖を横断するときにはこのタイヤに履きかえるらしい。用意周到この上なしだ。 彼らとはクスコの治安の話、エクアドルの通貨のレートなどの情報、チリはサイクリストばかりだ、と言った話をした。砂漠でのこうした出会いはとにかく嬉しくてとても励みになる。 「私以外にも、こんな風にバカをやっている人間は世界にたくさんいるのだ」 と。
ペルー ドイツ人夫妻の「２年間南米をグルリグルグルトラック周遊の旅。」こんなゴッツイタイヤでいったいどこを走るの？  ピウラから続いた砂漠も終わりに近づき、モロッペと言う街に着いた。 「街かあ・・・。」 缶詰とパンなどのヒモジイ飯が続いていたので、ここのレストランに入ってアロスコンポヨ（チキン入り焼き飯）を頼んだ。レストランには年齢不祥の女性３人と子供がおり、彼女たちは私に色々と質問をしてきた。いつものように、どこから来たの？と質問は始まり、 「え、そんなに長く？どうして自転車なの？家が恋しくないの？」 私は、 「家族の写真もあるし、電話だって世界中からかけられる。手紙も大使館で受け取れるし・・・。」 「日本の写真？持っているの？見せて見せて。」 というので家族の写真を見せてあげる。彼女たちはじっくりと写真を見て、嬉しそうに何かつぶやいていた。それにしてもペルーに入ってからは人々が一段とフレンドリーになったような気がする。人懐っこく皆感じがいい。
ペルー 家族の写真を「見せて、見せて」とせがんできたモロッペのレストランの女性。とても人懐っこい。  モロッペを過ぎてチクラヨ近くにやって来たとき、１台の車が停まった。何かと思ったが、いつものデドンデビエンネ攻撃（どこから来ましたか？）の後、握手を求めてきた。そしてシルエラというサクランボのような実を私のフロントバックに山と積め込んでくれた。パパイヤにシルエラに、ペルーはフルーツで溢れているようだ。ペルーではとにかく嬉しい親切が続いている。コロンビアにしてもそうだが、こう言う国になぜテロや強盗が多いのか・・・。不思議だ。ペルーに入国して１週間。ようやくチクラヨの街に到着した。
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